痛み
行ってくるね。
昼休み、外で一人でベンチに座って買ってきた弁当を食べている自分の前に不意に現れてそう口にしたカカシに、それが任務ででかけるのだと知り、イルカは、反射的に、はい、と答えた。その後、口の中の唐揚げを飲み込んでから、気をつけて、と付け加える。
うん、と答え、背を向けるカカシの後ろ姿を見つめていれば、その足が止まり、再びイルカへ振り返る。
「どうかした?」
眠そうな目を向けられ、そう問われ。箸を持ったままイルカは、少しだけ目を丸くした。
「・・・・・・何がですか」
当たり前の言葉を口にしたはずなのに。カカシはイルカの返答に銀色の髪を掻きながら、えー、だって、と口を開く。
「そんな顔してたじゃない」
この人が鋭いと思ったのは今に始まった事ではない。
そうですかね、と口を濁すのは、今言うべきタイミングではないからだと思うのに、カカシは答えを待つようにじっとこっちを見るから。参ったなあ、と思いながらイルカは持ったままの箸を弁当の上に置いた。
「ただの自己嫌悪ですよ」
「自己嫌悪って?」
手短に済まそうと思っても向こうはそう思っていないのか、更に聞いてくるから誤魔化してもいいとは思ったが、バレた時は後々面倒くさい。イルカは諦めてその口を開く。
「あなたが任務に行って、帰ってきてその顔を見た時、俺はきっと、良かったって、そう思うからです」
カカシが僅かに面食らった顔をするが、構わずイルカは続けた。
「あなたが他国で敵を殺して、例えその相手にその人を愛する家族がいたとしても。それでも俺はあなたの無事な姿を見たら、嬉しいんですよ」
時々そういうのが嫌になるんです。
イルカが口を閉じてから、カカシは短く笑った。
「何の話かと思ったら」
「でしょうね」
不貞腐れたような顔をするイルカに、カカシは笑いを零すから、だってそうでしょう、と口を尖らせた。
「子供たちに人の命の大切さを教えて、身を守るためと言いながらも相手を攻撃する術を俺は教えてる。それって要はそういう事なのに」
やべえ。
そう思ったのは、そんなつもりもなかったのに。泣きそうになったからだ。これって自分の不甲斐なさを晒しただけで、でも、心にあったものを言葉にしただけなのに。こういう時、自分という人間は教師に向いてないんだと嫌と言うほど実感する。
大切な人が出来ると言うのはこういう事なんだと。
分かっていたのに。
口に出す事じゃなかったと後悔しかけた時、
「それでいーんじゃないの?」
事もなげな様子でカカシは言った。
「俺はさ、相手を消す事を躊躇わないし先生みたいに自己嫌悪もしないけど。あんたのような考えの人間も里には必要だってのは分かるよ」
ぶっきらぼうだけど、カカシらしい慰め方だと思えば。後さ、とカカシは口を開く。
そーいうのは今度家で言ってくれる?
不意に話が飛んだと、は?と聞き返せば、
「だってここじゃあんたをベットに連れ込めない」
少しの間の後、かあ、とイルカの顔が赤く染まった。思わず持っていた箸を投げつけそうになる。それを堪えながら、何馬鹿な事言ってんですか、と言い返せば、カカシは眉を下げて嬉しそうに笑った。
昼休み、外で一人でベンチに座って買ってきた弁当を食べている自分の前に不意に現れてそう口にしたカカシに、それが任務ででかけるのだと知り、イルカは、反射的に、はい、と答えた。その後、口の中の唐揚げを飲み込んでから、気をつけて、と付け加える。
うん、と答え、背を向けるカカシの後ろ姿を見つめていれば、その足が止まり、再びイルカへ振り返る。
「どうかした?」
眠そうな目を向けられ、そう問われ。箸を持ったままイルカは、少しだけ目を丸くした。
「・・・・・・何がですか」
当たり前の言葉を口にしたはずなのに。カカシはイルカの返答に銀色の髪を掻きながら、えー、だって、と口を開く。
「そんな顔してたじゃない」
この人が鋭いと思ったのは今に始まった事ではない。
そうですかね、と口を濁すのは、今言うべきタイミングではないからだと思うのに、カカシは答えを待つようにじっとこっちを見るから。参ったなあ、と思いながらイルカは持ったままの箸を弁当の上に置いた。
「ただの自己嫌悪ですよ」
「自己嫌悪って?」
手短に済まそうと思っても向こうはそう思っていないのか、更に聞いてくるから誤魔化してもいいとは思ったが、バレた時は後々面倒くさい。イルカは諦めてその口を開く。
「あなたが任務に行って、帰ってきてその顔を見た時、俺はきっと、良かったって、そう思うからです」
カカシが僅かに面食らった顔をするが、構わずイルカは続けた。
「あなたが他国で敵を殺して、例えその相手にその人を愛する家族がいたとしても。それでも俺はあなたの無事な姿を見たら、嬉しいんですよ」
時々そういうのが嫌になるんです。
イルカが口を閉じてから、カカシは短く笑った。
「何の話かと思ったら」
「でしょうね」
不貞腐れたような顔をするイルカに、カカシは笑いを零すから、だってそうでしょう、と口を尖らせた。
「子供たちに人の命の大切さを教えて、身を守るためと言いながらも相手を攻撃する術を俺は教えてる。それって要はそういう事なのに」
やべえ。
そう思ったのは、そんなつもりもなかったのに。泣きそうになったからだ。これって自分の不甲斐なさを晒しただけで、でも、心にあったものを言葉にしただけなのに。こういう時、自分という人間は教師に向いてないんだと嫌と言うほど実感する。
大切な人が出来ると言うのはこういう事なんだと。
分かっていたのに。
口に出す事じゃなかったと後悔しかけた時、
「それでいーんじゃないの?」
事もなげな様子でカカシは言った。
「俺はさ、相手を消す事を躊躇わないし先生みたいに自己嫌悪もしないけど。あんたのような考えの人間も里には必要だってのは分かるよ」
ぶっきらぼうだけど、カカシらしい慰め方だと思えば。後さ、とカカシは口を開く。
そーいうのは今度家で言ってくれる?
不意に話が飛んだと、は?と聞き返せば、
「だってここじゃあんたをベットに連れ込めない」
少しの間の後、かあ、とイルカの顔が赤く染まった。思わず持っていた箸を投げつけそうになる。それを堪えながら、何馬鹿な事言ってんですか、と言い返せば、カカシは眉を下げて嬉しそうに笑った。
スポンサードリンク