木から落ちる

 久しぶりに太陽が輝いている。
 まだ水溜りがあちらこちらに残る道を歩いたカカシは、せっかくだからと食休みに木の下に腰を下ろす。
 小冊子を区切りがいいところまで読んだカカシは芝生の上にゴロリと寝転び、その読んでいた本を開いたまま自分の顔に伏せた。買ったばかりは墨や紙の匂いがしていたが、擦り切れるほど読んだそれは、ほとんど匂わない。
 元々木の下にいるのだから木陰になっていて太陽の光が直接当たってはいないが、木漏れ日は伏せた本の下で目を閉じていても感じる。
 時折吹く風の気持ちよさに眠気を感じた時、遠くに聞こえていた騒がしい声が近づいているのが分かり、カカシは薄く目を開けた。
 時間的にアカデミーの昼休みは終わっているはずだが、色々な理由でズレることもあるのか。今から移動するのは面倒だけど、こんな状況で気持ちよく寝る事は不可能だ。
 やれやれとカカシは本を手に持ちむくりと身体を起こす。後ろの林では鬼ごっこをしているのか何人もの子供がその中で駆け回っている。
 待機所でも行くか。
 そう思い腰を上げようとしたその瞬間。
 カカシが座っていた近くの大木が揺れ子供が滑り降り、続いてドスン、と大きな音と共に目の前に降り立ったのは、イルカだった。
 憶測だが、悪さをした生徒を追いかけて、同じように木から降りてきたに過ぎないが。
 まさか、イルカが降りてくるなんて思わなくて。
 ポカンとしたカカシに、イルカもカカシの存在に気がつく。木々の間を抜けて追いかけていたんだろう、イルカの髪や服には木の葉が何枚もくっていている、その姿で、
「どうも」
 と照れたような顔をして苦笑いを浮かべて。そこから走り出した生徒へ顔を向ける。表情が変わった。
「待てこらっ!」
 イルカの怒鳴り声が辺りに響き渡る。
 子供達やイルカや走り去った後、ついさっきの喧騒が嘘のように静かになって。
 カカシはただしばらく唖然としていた。
 数秒後、じわじわと湧き上がるものに、堪えきれずにカカシは一人、笑うように息を吐き出す。
 たぶん、俺、すごい顔してた。
 だって、イルカが目の前に落ちてくるなんて誰が思おうか。
 参ったなあ、とカカシは銀色の髪を掻く。そこから、誰が見ているわけでもないのに、その表情を隠すように、雲が高くなった秋の空をカカシは仰いだ。
 
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