何気ない二人の会話「無駄」
「あ」
言われて顔を上げて。そこにイルカの姿があってカカシもまた驚いた。
週始めの、しかも深夜近い居酒屋で、任務帰りの忍びの姿はちらほらと見るが、イルカとここで会ったのは初めてだった。
見たところ残業していたのか。顔を合わせた流れでカウンターのカカシの隣の席に座ったイルカは、肩にかけていた鞄を足下に置く。
「もしかして、仕事?」
聞けば、ええ、まあ、と返ってきた。カウンター越しに来た店主に、ビールと焼き鳥のネギマとつくね二本ずつ。あと白飯もください。
その頼み方に驚くが、腹減っちまって、と眉を下げるイルカにこの時間まで飯を食ってなければそりゃそうか、と納得する。
「カカシさんは任務ですか」
渡されたおしぼりで手を拭きながら。こっちを向くイルカに、カカシも同じように頷けば、
「俺たち忍びは二十四時間三百六十五日、稼働しっぱなしですもんね」
あっけらかんとそう口にする。嫌味なのかそうではないのか。ただ、ありのままを口にしただろうイルカは、瓶ビールとグラスを店主から受け取り、手酌でグラスにビールを注ぐ。そのグラスをカカシへ向けた。
「お疲れ様です」
言われ、カカシも遅れて自分飲みかけのグラスをイルカへ向ける。カチンとグラスを軽く当てると、イルカは注いだビールを一気に喉に流し込んだ。飲み干した後、はあ、と大きく息を吐き出す。
疲れた、言わずともそんな顔をしているから。カカシは、黙って立て肘をついてイルカを見つめた。
「忙しいの?」
イルカの胃が収まった頃を見計らって、目の前にある湯豆腐に箸を伸ばしながら聞くと、白飯を食べていたイルカが手を止めて、そうですねえ、と視線を上に漂わせた。
「なんだかんだで、今アカデミーは一番忙しい時期なんで」
自分で聞いたものの、アカデミーの内情は全く分からない。実際イルカが授業を行っている意外になにをやってこんなに遅くなってしまったのかも。
聞いておいたくせに、説明されてもこまるなあ、なんて思いながら、そう、と答え。でもさ、とイルカへ顔を向けた。
「アカデミーでこんなに忙しいのに、受付や報告所まで兼任して、それ大変でしょ」
アカデミーで子供を追いかけていたはずのイルカが夜、受付にいる、そう口にしていたのは上忍師の仲間だった。どこまでアカデミー教員を使い廻してんだろうな。そう追加して言った言葉は、その時ピンとこなかったが。イルカを知るようになって、こんな時間に顔を合わせて、なるほどなあ、と今更ながらに納得する。
上忍だからと、戦忍だからと大きな顔をする人間がこの里にいないとも限らない。幼い事からそんな場所にいたから、嫌でも知っている。そういう人間をも相手にして、昼間は子供を相手にして。
大変だと言ったその言葉は、上辺だけでも、同情でもない。
愚痴ぐらい言ったっていいのに。
そう思うカカシを前に、イルカは、まあ、そうですねえ、とため息を吐き出しながら、視線を上に向け呟く。
「でも、人生に無駄な事なんて一つもないですから」
そして笑う。
カカシの目が僅かに丸くなった。
前向きと言えばいいのか、その笑顔から、浮かんだのは自分の金髪の部下だった。
自分は部下に対して、崖から子供を突き落とし、上ってくるまでの間を見守る、そんなやり方を繰り返している。
だからなのか。ナルトの、あの何度落とされても挫けないポジティブさはどこからきたのか、その根元が分かった気がして。
(・・・・・・なるほどねえ)
心で一人納得して呟く。
でももうちょっと給料上げて欲しいんですけどね、と言いながら茶碗のご飯を掻き込む。
そんなイルカを横目で見つめながら、胸を擽られる感覚に、カカシは密かに微笑んだ。
<終>
言われて顔を上げて。そこにイルカの姿があってカカシもまた驚いた。
週始めの、しかも深夜近い居酒屋で、任務帰りの忍びの姿はちらほらと見るが、イルカとここで会ったのは初めてだった。
見たところ残業していたのか。顔を合わせた流れでカウンターのカカシの隣の席に座ったイルカは、肩にかけていた鞄を足下に置く。
「もしかして、仕事?」
聞けば、ええ、まあ、と返ってきた。カウンター越しに来た店主に、ビールと焼き鳥のネギマとつくね二本ずつ。あと白飯もください。
その頼み方に驚くが、腹減っちまって、と眉を下げるイルカにこの時間まで飯を食ってなければそりゃそうか、と納得する。
「カカシさんは任務ですか」
渡されたおしぼりで手を拭きながら。こっちを向くイルカに、カカシも同じように頷けば、
「俺たち忍びは二十四時間三百六十五日、稼働しっぱなしですもんね」
あっけらかんとそう口にする。嫌味なのかそうではないのか。ただ、ありのままを口にしただろうイルカは、瓶ビールとグラスを店主から受け取り、手酌でグラスにビールを注ぐ。そのグラスをカカシへ向けた。
「お疲れ様です」
言われ、カカシも遅れて自分飲みかけのグラスをイルカへ向ける。カチンとグラスを軽く当てると、イルカは注いだビールを一気に喉に流し込んだ。飲み干した後、はあ、と大きく息を吐き出す。
疲れた、言わずともそんな顔をしているから。カカシは、黙って立て肘をついてイルカを見つめた。
「忙しいの?」
イルカの胃が収まった頃を見計らって、目の前にある湯豆腐に箸を伸ばしながら聞くと、白飯を食べていたイルカが手を止めて、そうですねえ、と視線を上に漂わせた。
「なんだかんだで、今アカデミーは一番忙しい時期なんで」
自分で聞いたものの、アカデミーの内情は全く分からない。実際イルカが授業を行っている意外になにをやってこんなに遅くなってしまったのかも。
聞いておいたくせに、説明されてもこまるなあ、なんて思いながら、そう、と答え。でもさ、とイルカへ顔を向けた。
「アカデミーでこんなに忙しいのに、受付や報告所まで兼任して、それ大変でしょ」
アカデミーで子供を追いかけていたはずのイルカが夜、受付にいる、そう口にしていたのは上忍師の仲間だった。どこまでアカデミー教員を使い廻してんだろうな。そう追加して言った言葉は、その時ピンとこなかったが。イルカを知るようになって、こんな時間に顔を合わせて、なるほどなあ、と今更ながらに納得する。
上忍だからと、戦忍だからと大きな顔をする人間がこの里にいないとも限らない。幼い事からそんな場所にいたから、嫌でも知っている。そういう人間をも相手にして、昼間は子供を相手にして。
大変だと言ったその言葉は、上辺だけでも、同情でもない。
愚痴ぐらい言ったっていいのに。
そう思うカカシを前に、イルカは、まあ、そうですねえ、とため息を吐き出しながら、視線を上に向け呟く。
「でも、人生に無駄な事なんて一つもないですから」
そして笑う。
カカシの目が僅かに丸くなった。
前向きと言えばいいのか、その笑顔から、浮かんだのは自分の金髪の部下だった。
自分は部下に対して、崖から子供を突き落とし、上ってくるまでの間を見守る、そんなやり方を繰り返している。
だからなのか。ナルトの、あの何度落とされても挫けないポジティブさはどこからきたのか、その根元が分かった気がして。
(・・・・・・なるほどねえ)
心で一人納得して呟く。
でももうちょっと給料上げて欲しいんですけどね、と言いながら茶碗のご飯を掻き込む。
そんなイルカを横目で見つめながら、胸を擽られる感覚に、カカシは密かに微笑んだ。
<終>
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