肉まんを食べたその後に

 肉まんは二人で食べた。
 部屋で食べても良かったんだけど抱き合った後、離れたらなんだか照れ臭くて部屋の前で横に並んで座って、夜空を眺めながら食べた。肉まんがすっかり冷めている事とか夜風が冷たくてもう秋になってしまったこととか。他愛のない会話を二人で話しながら食べて。その後カカシを部屋に上げた。
 身体が冷えてしまっただろうから暖かいお茶を淹れてあげたかったからだ。
 お茶といっても安いお茶しかないし茶菓子なんてないからつまみの乾物でいいだろうと思いながら台所に向かおうとしたらカカシに腕を掴まれた。
 え?と聞き返す間も無くそこから勢いよく前を向かされて顔を合わせたかと思ったら、もう目の前にカカシの顔がきていて、唇に柔らかいものが触れた。
 ああ、キスしてる。
 俺カカシさんとキスしてるんだ。
 想像さえしていなかった、生々しいカカシとの口付けに頭の奥がじんとする。拙いながらもイルカは応えたくて素直に口を開きカカシの舌を招き入れた。
 こうなってしまう事を恐れてカカシを拒否したが。今はこうしていたい。
 キスされた事が嬉しくて。それだけで目に涙が浮かびそうになる。恥ずかしさはもちろんあったが、キスの合間に口から漏れる呼吸さえ愛おしい。
 掴まれた腕に体を強く押されて体勢を崩し、床に尻をつけば口付けされたまま今度は床に押し倒された。
 そこまできて、ようやく焦る。
 互いの気持ちを確かめ合うのはいい。
 でもちょっと、あれ?
 カカシの唇が離れ頬から首元に移り、薄い皮膚を舐めて吸われゾクゾクとしたものが背中を走った。その合間にカカシの手が上着の裾から入り込み、そこで確信する。
「ちょっ、ちょっと!」
 制止させたくて慌ててイルカは声を出した。
「ちょっと待ってください!えっと、あれ?あの、ちょっと、」
 上擦った声で聞いたイルカに、銀色の頭がむくりと上がる。
「え?」
 聞こえてなかったのか。いやだから、とイルカはまた口を開いた。
「だってついさっきこうなったばっかりだし、キスまでならいいんですが、ちょっと、まだ、急すぎで、……俺が下?」
 ここまでの展開は予想していなかった。キスだってびっくりしたけど嬉しかったからそれに応えたがあまりにも早すぎる。というか気持ちがついていけていない。
 説明しながらも胸がどうしようもないくらいに高鳴るのは顔を上げたカカシの目が既に熱っぽくて昂っているのが嫌でも伝わって。心臓の高鳴りが止まらない。
「嫌?」
 聞き返されてイルカは困ったように眉を寄せた。
「嫌じゃないです」
 嫌なはずがない。カカシに求められていることが信じられないけど嬉しい。
 嫌じゃないけど、と付け加える前にカカシが、良かった。と呟いた。理解を示したような返事をしたからホッとしたのに。
「上とか下とかどっちでもいいし、そんなことより俺は先生に触りたい。あなたの熱を感じたい」
 語尾を言い終わる前に再びカカシはイルカに覆い被さるから、再び目を白黒させた。するりとカカシの手が上着の裾から入り込んで、それだけで肌が引き攣るのに指は真っ直ぐに先端に触れるから、待ってくれと言いたいのにそれすら言えなくて、言葉を息と共に飲み込むしかなかった。
 聞いてねえ。
 何にも聞いてねえ。
 動揺しながらも体温がどんどん上昇する。身体が熱くて仕方がない。その肌をカカシは確かめるように触りながら上着を捲し上げまだ柔らかい先端を吸った。
「ぁあっ、」
 情けない声が自分から漏れた。羞恥に眉を顰める。 
 ちゅうちゅうとカカシが吸う音が耳に入り込む。そんなことされたことがない。強く吸われ、もう一方を摘み固い指の腹で潰すようにされ、知らない感覚に背中が震えた。
「それっ、やだ、……っ、」
 未知の感覚から逃れたくて腕を動かすが強い力で押さえつけられて動けない。止めてくれるどころか、嘘ばっかり、と言いながら視線をこっちに向けられ、こっちの反応を確認しているのが分かって更に頬が熱くなった。こんなこと初めてなのに、嫌だと口では言っているのにカカシに触れられるだけでされること全てに反応してしまう。まるでいつか見たアダルトビデオのワンシーンだ。こんな自分を見てほしくない。
 両腕で顔を隠して必死に声を抑えていたら、カカシに腕を掴まれた。ぎゅっと瞑っていた目をそっと開けるとカカシがこっちを覗き込んでいる。
「大丈夫、最後までしないよ」
「……へ?」
 涙目で聞き返すイルカにカカシはベストを脱ぎ自分の上着を脱ぎ捨てる。初めて見るカカシの逞しい身体に心臓がドキッとした。目を奪われる。
 だけど、しないのに何で服を脱いだのか。
 困惑したまま見つめるイルカの前で、カカシはベルトを外す。カチャカチャと金属音が部屋に響いた。
 不意にカカシの手が伸びイルカのズボンに触れた。そこはまだ触られていないのに既にしっかり反応していて、身体をビクッとさせる。
「これだけさせて?」
 やんわりと布の上から撫でられて、嫌でも張り詰めていくのが分かった。どうしようもなく硬くなってしまったそれをこのままにしたくないのは男ならだれだってそうだろう。これだけの意味が理解できていなく、理性と本能に揺れるがこの状況では選択に悩むまでもない。
 こくこくと頷くと、カカシがイルカのズボンに手をかけた。
 頭が沸騰するかと思った。
 剥き出しした陰茎をイルカの陰茎に重ね、手のひらで包むように動かされる。
 擦られる度に快楽が波のように押し寄せて腰が勝手に動く。カカシも夢中になって手を、腰を動かしていた。余裕は全くなかったが、微かに眉を寄せ目を伏せたままのカカシを見つめていれば、視線に気がついたのかこっちを見て、カカシが顔を近づける。口付けをされた。息遣いは荒いまま、唇を離した途端動きが早くなる。そこからあっという間に絶頂に達した。カカシの手の中で先に達したイルカの陰茎の先から白い液体が断続的に吐き出される。それを見届けた後、カカシはまたさらに重ねたまま陰茎を擦り、短く呻いたかと思うと同じように達した。
 そこでようやくカカシの手から解放される。
 息を整えたくてイルカは脱力した。床に身体を横たえると、カカシは部屋の隅にあったティッシュの箱を取り汚れた箇所を拭う。
 もう季節は秋ですっかり涼しくなったのに、どうしようもなく暑い。
 額には汗が滲んでいた。身体からも汗が吹き出している。
 カカシを見ると、うっすらと額に汗が滲んでいるのが見えた。普段から、真夏でも暑そうに見えず汗をかいているのを見た事がなかった。以前不思議に聞いたら、俺だって暑いよ、と返ってきたが半信半疑だったのを思い出す。
 なのに、こんなことで人間味を感じるなんて変な話だ。
 イルカはむくりと起き上がり、倦怠感を纏った目でぼんやりとしているカカシに手を伸ばす。
 額にあるカカシの汗に触れたら当たり前だが指先が濡れた。
「本当に濡れてる」
 思わず呟くとカカシが可笑しそうに首を傾げた。
「どういうこと?」
「いや、カカシさんも汗かくんだなって」
 イルカの言葉に胡座をかいたままカカシは笑う。
「そりゃ俺だって汗かくよ」
 すっかり余裕を取り戻したカカシは、イルカに近づいた。
 「汗かくこともっとしていいの?」
 聞かれてイルカは目を丸くした後、何言ってんですか、と顔を赤くした。
「あなたと違ってそんな体力俺にはもうありませんから」
 フイと顔を背けたらカカシが笑うから、それに釣られてイルカも一緒に笑う。
 今まで過ごしてきた何よりも穏やかな気持ちになった。 
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。