襲い受け
どうしてこうなったのか。カカシは確かに動揺していた。
顔見知りだと言うだけで、自分には珍しいが、イルカに関しては良識がある相手だと思い込んでいた。だってそうだ。ナルト達にとったら元恩師であり、新しい師である自分にどんなにいい先生だったか、事あるごとに聞かされていて。ナルトはともかくあのサスケでさえ先生と呼ぶ。そして見たまんま、教師と呼べるに相応しい人格だった。
中忍試験の事もあり嫌煙されてるのかもしれないと思ってはいたが、会えば挨拶はもちろん声をかけられる事がほとんどで。まあ、嫌われてるよりはいいかなあ、とのほほんと考えていた。だってそうだろう。自分に異性だろうが同性だろうが憧れや尊敬を抱いている忍び少なくないから。イルカもそのうちの一人に過ぎないと思っていた。
たまたま顔を合わせた居酒屋で、イルカは一人で飲んでいた。良かったら隣どうぞと言われて、元々カウンター席しか空いてなかったから、カカシは言われるままにイルカの隣に腰を下ろした。
最初緊張しているような感じだったが、一緒に飲み始めてから酒のせいなのか、イルカはよく喋った。自分はグラスを傾けながら相槌を打つばかりだったが、苦じゃなかったし、酔ってはいたが愚痴るわけでもなく節度を持ちながらも面白おかしく話をするイルカは、好感を持てた。
たった数時間一緒に飲んだだけだったのに、店を出る頃には自分の中で誰にでも向けている距離感や警戒心は薄くなっていた。自分もほどよく酒が入って気分も良かったのも手伝って、家で飲み直しませんか?そう誘われた時は一瞬どうしようか考えたものの、ここからすぐ近くなんで、と言われ、明日は休みなのもあったから。いいよ、と頷いていた。
あの時、何で断らなかったんだろうと今更ながらに後悔が頭を過ぎるが今思い直しても断る選択肢はなかったからどうにもならない。
とにかく、今は。
目の前で起こっている事をどうにかしなくてはいけない。
動揺を顔に出さないように努めながらも、カカシはイルカに視線を合わせた。
好きなんです、と言われ。社交辞令の延長と受け取っていたから、そりゃどーも、と軽く返したら、手を握られどうしたのかと顔を向けて。そこで今どんな状況になっているのか気がついた。
ついさっき自分に告白をしたイルカは真剣な表情をしている。酔ったはずみで口にした冗談だとこっちは思いたい。だから、えっとね、とカカシは口を開いた。
「気持ちは嬉しいけど、俺男だよ?」
「分かってます」
確認するように口にすれば、イルカから直ぐに返される。自分の手を握るイルカの手に力が入ったのが分かった。誰かに手を握られる事がそうない。それだけで戸惑う。
ついさっきまで会話も弾んでいたのが嘘のように空気が張り詰めていた。そう、少し前までは楽しく話をしていたのに。
忙しくて仕事が恋人みたいなものです。
苦笑いを浮かべて言うイルカにカカシは、それはないでしょ、と笑って返した。
背格好も見た目も悪くないし、温和で子供好きでおおらかで。イルカは女性受けが悪いわけがない。だから。
先生は十分魅力的ですよ。
謙遜するイルカを励ましたくて言った。
ちょっとでも笑ってくれればそれで良かったのに。ふと真顔になったイルカに、どうしたの、と問いかけようとしたら。
「じゃあ、カカシさんの恋人にしてくれますか?」
そう返ってきた言葉に、まさかそっちにいくとは夢にも思ってなかったから、その冗談にカカシは笑った。何言ってるの、と一笑したら、あっさり告白され。
好意を寄せられることはよくあり、それを受け流す事なんて容易いのに。イルカの緊張が伝わってきてカカシも緊迫感を感じざるを得ない。
イルカの性的指向は知らないけどノーマルとばかり思っていた。いやしかし、それを上官である自分に打ち明けるとか。色んな考えがぐるぐる頭で回る。冗談じゃなきゃ困るのにどう捉えても冗談ではない。黙ってしまったカカシに、あの、と強めの口調でイルカが口を開けたから、なに?とそれにはカカシは反応する。
「触っても、いいですか?」
触るとは何か。
もう疑問符しか浮かばない。だって、既にイルカに手を握られているだろうと思えば、隣にいるイルカが、もう片方の手を伸ばす。股間に触れた。
目が釘付けになっていた。ナルトの専売特許であるはずなのに、さっきから意外性を連発しているのはイルカで。流石に動揺が顔に出してしまっていた。
「イルカ先生ちょっと、ちょっと待って、」
手で遮ろうとすれば手を掴んでいたイルカの手がそれを止める。
「何でですか」
「何でですかって、俺ノーマルなのよ。だから、」
「俺もです」
「いや、だったら、」
「気持ち悪いですか?」
気持ち悪いかと聞かれたら、カカシは直ぐに答える事ができなかった。同じ男であるイルカから好きだと言われても、手を握られても。そしてあろうことかあり得ない場所にまで手を伸ばされているにも関わらず、驚き戸惑いはあるのに気持ち悪いという表現は見当たらない。気持ち悪いと言ったらやめてくれるんだろうが、イルカが傷つくと思ったら何故か口には出来なかった。
「俺、多分勃たないよ?」
気持ち悪いとは言えない代わりに出たのがそれだった。男の子相手にしたことすらない。
「構いません」
覚悟を感じる口調で言うイルカは、諦めるどころか、否定されていないと判断したのか、ぎこちなくもう一度ズボン越しに股間に触れたから、カカシはぎくりとした。触る事を許したつもりはないけど、ズボンの上から触れるイルカの真剣な表情に見入っていた。
積極的な割ににぎこちなくて。それに萎えるとばかり思っているのに、逆にイルカのその拙い指の動きに、その感触に背中がぞわりとした。
勃つはずがないと思っていたのに、自分の意識とは別に硬さを持ち始めている。それにカカシは焦った。
「ね、もういいでしょ?」
腰を引いたカカシにイルカが膨らみ始めたそれをやんわりと掴むように触れ、思わず、うわ、と声が出た。
抵抗するカカシに、イルカの腿に置く手に力が入る。その力強さに中忍に覚えるはずのない危機感を感じた。
そしてイルカは耳を貸すどころか、そこから履いているズボンは支給服で領を得ているか、さっさと前を寛げる。自分の身に起きている事なのに信じられなくて。しかもそれをやっているのはあの、イルカだ。
いつも顔を合わすたびに礼儀正しく挨拶をして、受付では笑顔で迎えてくれる。真面目で純情そうで、教師として在るべき姿を見てきた。
ナルトや子供たちの頭を撫でる、その手がカカシの下着を引き下ろした。
勃っている。
口に出さなくとも反応してしまっていることは間違いがなく。抵抗してもいい側なのに、勃っているのは事実で引っ込みがつかない。言い訳もない。そして恥ずかしくないはずがない。勘弁してくれと、カカシは手で軽く顔を覆った。こんなのはきっと直ぐに治る。それが無理だったらトイレを借りればいい。そう開き直ってイルカへ顔を向ける。
「あの、先生……もう、いいでしょ」
言い終わるのと同時にイルカが陰茎に躊躇いなく触れ顔を近づけるから、反射的にイルカの肩を押さえていた。
「ちょ、先生!?」
こんな事をしたら、顔を合わすのだって苦痛になる。それが分からないはずないのに。後先考えずにする事に理解の範囲を超える。イルカは何も言わない。代わりに屈みながら口を開いた。
当たり前だが力は自分の方が上で拒むことは出来たのに。食い入るようにイルカが咥えるのを見ていた。
生暖かい感触に包まれて軽く息を呑む。ぞわりと甘い痺れが背中に走った。腰が震える。さっき布越しに触れた時のように、決して上手いわけじゃないのに。目が離せない。イルカが咥えたまま頭を上下させる。その度に唾液が絡まり、じゅ、じゅ、と水音が部屋に響いた。
視覚と聴覚とイルカが起こす感覚に、相手が男だからと分かっているのに、感じないどころか、腰が震えるくらい気持ちいい。気がついたら口の中がカラカラで、カカシは生唾を嚥下した。
イルカの口内で硬く屹立し質量が増し、苦しくなったのか、イルカが唇から離せば、赤く充血した陰茎がぬるんと口から飛び出た。
「先生……、もう、やめよ?」
情けない声が自分から出る。懇願に近い。だって、もう吐き出したくて堪らない。でも、出来ない。床にぺたりと座り、見上げるようにこっちに目を向けたイルカは、答えなかった。代わりに、目線をカカシに向けながら、股間に顔を近づける。口から出た舌か陰茎の側面を舐めた。思わず息を詰める。
こんな事を自らするなんて信じられない、と言うか信じたくない。
誰にでもこんなことをしてるのかと、そう聞きたかくなったが縋るようなイルカの目を見たら、言えなかった。
ちゅう、と薄い側面を何回も吸い、柔らかな唇の感触に思わず眉根が寄る。ゆっくりと動いた唇が先端だけを舐めて、吸う。快楽に流されそうで、熱っぽい息を吐き出すも、どうにもならない。一生懸命に、ゆっくりと咥えながら上下に扱かれる。
好きなんです。
真っ白になりそうな頭に、言葉少なく発したイルカの言葉が浮かぶ。好きだから、こう言う事をするとか、それはあまりにも短絡的だ。流されている自分にも問題があると分かっている。
でも今思うに、最初から、イルカはそう言う気持ちで自分を誘っていた。しかし自分はそれに気が付かずのこのこついていった。
全く疑いもしなかった。その事実は衝撃しかなく、そして可笑しい。情けなさに笑いたくもなる。
でも、これが終わったら。何もなかったように振る舞うつもりなのか。だとしから、自分の印象とは違い随分としたたかだと言わざるを得ない。
でも、違う。たぶん、この人は二度と顔を合わせない。それが分かったら。
勝手だな。
何故かそう思った。
そうだ、先生は勝手だ。
イルカの勝手な覚悟に、過去そんな女はいくらでも見てきたのに。納得出来なかった。
そして、絶頂が近い。
「イルカ先生」
眉間に皺を寄せながら肩に手を置きしっかりと名前を呼べば、唇を離しイルカがこっちを向く。
喉が圧迫されていたのか、僅かに黒目が潤んでいる、その目をカカシはじっと見つめた。
薄い唇をゆっくりと開く。
「どうせだったら、あんたの中で出させて」
え、とぽかんとした顔で聞き返すイルカのズボンに手をかける。そこで何を言ったのか理解したのか、イルカの目に動揺が浮かんだのが分かった。
「ちょ、待って、」
「やですよ」
ここまでしておいてその顔はないだろう。カカシはイルカの言葉を却下すると、ズボンを引き下げる。尤もな言葉に一回ぐっと唇を結んだが、イルカは困惑した顔をしながら、でも、と口にする。不安そうな顔をされ、カカシは眉根を寄せた。
この期に及んでそんな顔をするのは狡い。今更だ。自分だって男相手に欲情して、こんな気持ちになるなるとは思ってもみなかったのに。すっかりその気になっている。押さえる手を退かして下着をずり下げれば、露わになったイルカのものが緩く勃ち上がっている。男の勃起した陰茎なんて見たくもないし気色悪いだけのはずなのに。目が離せない。カカシは唾を上下させた。
「なんだ、先生も勃ってんじゃない」
「っ、見ないでください」
恥ずかしさに弱々しくもそう口にするから、カカシは視線を上げる。イルカの黒い目がカカシを映した。
「それ、どの口で言ってるの?」
苦笑を含んだ声で言えばイルカはまた明らかに動揺した。手のひらで陰茎をやんわり掴むと、イルカが息を飲む。引き腰になるイルカに構わずゆっくりと上下させた。もう片方の手で上着の中に手を滑り込ませる。脇腹をなでればイルカが身を堅くした。ぎゅうと目を瞑り、体を強ばらせたまま顔を剃らすから、そのむき出しになったイルカの首筋に顔を埋めた。匂いを嗅げばイルカの匂いで肺がいっぱいになる。舌で薄い皮膚を舐めればイルカが声を漏らした。
イルカが首を竦めるからカカシはその首筋に歯を立てる。脇腹を撫でていた手を上に這わせるが、狭い。カカシはイルカのベストのジッパーを下ろし、動きやすくなった手で胸の突起を指で潰すように擦り上げた。
「・・・・・ひゃ・・・・・・」
小さく声を上げて背中を反らす。
「カカシさん、もう駄目、やめて、」
「もう黙って」
未だそんな言葉を口にする、その言葉を聞きたくなくて、イルカを床に押し倒すと、カカシは口布を下げる。唇を奪った。
硬くなった胸の突起を摘んで擦る。その手を動かしながらも濡れた舌で唇をなぞり、再び塞いだ。腕を突っぱねるようにしていたのに、口内を舌で荒らし、縮こまったイルカの舌を難なく捕まえ、全体を絡ませれば、力が緩みイルカが苦しそうに鼻から息を漏らす、その頬を優しく指で撫でた。口付けを繰り返せば唇の合間から唾液がこぼれ、それをまたカカシは指で拭い、口を離す。とろんとした黒い目を見つめながら、カカシは先ほど指で拭ったところを舐めた。口づけや愛撫で勃ち上がった陰茎の先端からは雫が溢れ出ている。まだその気になっていないのか、目を見ても分からない。上気した頬は赤くしっとしとした唇を少しだけ開け、こっちを見上げている。それでも、濡れた先端強請るように震えていて、はカカシは迷うことなくそれを口に含んだ。
「ぁあっ」
背中を反らす。こんな事をするなんて、自分でも夢にも思わなかった。でも、こんなに気持ちが昂ぶるのは久しぶりで。歯を立てないように、吸い上げながらも上下に口で扱くと、イルカが堪らず気持ちよさそうに嬌声を上げた。
自分らしくなく夢中だった。イルカの手ががカカシの頭に触れ、髪を掴む。だめ、と声を漏らすが、それを無視して震える内股を撫でながら唇で扱くとイルカは果てた。何度も甘い声を上げながら腰を軽く振り何度もカカシの口内に吐き出す。達したのが自分の口の中だろうが、カカシの胸の中に満足感が広がっていた。
「すみませっ、」
「何で?」
謝られて、カカシは自分の手のひらに口からイルカの精液を出しながら、逆に問いかける。案の定、赤く火照った顔のまま黙るから、やれやれとカカシは覆い被さるとイルカの脚を広げる。再奥に濡れた指を潜り込ませた。
「あっ、ちょ、まっ」
秘部に触れれば、イルカはまた背中を反らした。それでもじっくり広げるようにすれば、指の滑りを借りて入り込んでいく。指一本でさえきついと感じるその狭さに、イルカはじっと息を詰めて体を強ばらせていた。
「息、吐いて」
見かねて耳元で囁けば、その意味が分かっているがどうする事も出来ないのか。カカシはイルカの口を再び吸った。さっきよりも優しく口づけ、意識を分散させる。一番奥まで指を突き立てた。そこから粘膜を擦るとイルカがびくりと体を震わせた。その過敏な壁を何度も擦るとカカシから口を離したイルカが指の動きに合わせて腰が震わせる。知識しかないが、イルカが感じているのが分かった。刺激に耐える顔に思わず舌なめずりをする。イルカの呼吸に合わせて指を増やし何度も指で攻めれば、その度に切なそうに声を上げ腕を背中に回した腕に力を入れる。カカシの呼吸も荒くなっていった。
(・・・・・・もう、いいよね)
なるべくイルカに苦痛を追わせたくない。それでも正直、自分も限界で。心の中で呟き指を引き抜くと脚を広げさせる。狭間を割って屹立し昂ぶっている自分のものをあてがうとそこからゆっくりと押し進めた。途端、イルカの眉根が寄る。
「あっ、待ってっ、」
声を震わすイルカに、カカシは息を吐き出すように苦笑いした。
「もうやるって決めたんだから。先生もいい加減腹括ってよ」
「でも、ぁあっ、・・・・・・っ」
一気に根本まで入り込めば、イルカは声を上げた。
「きつ、・・・・・・」
眉根を寄せながらイルカを見れば、ただ苦しそうに短く息を吐き出すばかりで。潤んだ黒い目からとうとう涙が零れ落ちる。カカシはそこで動きを止めた。
泣くとは思わなかった。
困惑するが、それでも自分はくわえ込んだ場所が腰を溶かすように熱くて、揺すり上げたくて堪らない。衝動を抑えながら、涙を浮かべ額に汗を滲ませているイルカを見つめた。
「先生、・・・・・・もしかして、初めて、なの?」
ここまでしておいて聞くのもおかしいとは思ったが。ノーマルだと聞いたものの、こんな大胆に誘ったのだから、そんなはずはないと思っていたから。
頷くイルカに、潤む黒い目をじっと見つめ返す。イルカにとってはどこまで予想していたのだろうか。拙い指の動きや決意の含んだ目に、自分はただ流されていただけだが。ここまできて自分にようやく動揺が浮かぶ。
流されたのは事実だ。でも、頷くイルカを見たら胸がざわついた。
事実、頭が沸騰しそうで、自分勝手に激しく突き上げてしまいたい衝動に駆られている。いや、そもそもこんな状況で何かを判断するなんて。間違っているのかもしれないけど。
腕で顔を囲むようにして、カカシは、あのね、とイルカを見下ろす。
「先生が思い描いてるような一夜限りの関係になんてさせないから」
だから、動いても、いい?
自分でも切羽詰まっている声だと思った。それでも許可が欲しくて、出来るだけ優しく聞けば、イルカの目が驚きに丸くなる。戸惑いながらも軽く頷くイルカに、カカシは微笑むと、答えを待たずしてゆっくりと律動を始めた。
翌日、夜が白み始めた頃、腕の中にいたイルカがもそりと体を動かす。そこからゆっくりと、腕を退かしてベッドから出た直後にイルカの手首をカカシが掴んだ。まだ寝ていると思っていたのか、不意に掴まれぎくりとするイルカにカカシは目を開けイルカを見る。
「自分の家なのにまさか逃げようってわけじゃないよね?」
意地悪くそう口にすれば、思い切りバツが悪そうな顔をしたイルカがそこにいた。予想はしていたが、そのイルカの苦々しい顔にカカシはため息を吐き出すものの、その手は離したくない。カカシはイルカを見つめ返した。
「一夜限りの関係にしないって言ったでしょ?」
忘れたとは言わせない。なのにイルカが困った顔をするから、カカシはため息を吐き出した。
「あのさ、あんたがどんな覚悟で俺を誘ったのか知らないけど、その場の空気に流されたからって、最後までしちゃうほど俺は貞操観念低くないのよ」
言って、カカシはイルカの腕を離すと、むくりと上半身を起こす。
自分の中では答えは出ているのに、そこまで口にしても、イルカはまだ黙ったままだから、カカシは寝起きのぼさぼさの髪を掻いた。イルカへ視線を戻す。
「だから、これでいいじゃない」
カカシの言葉に、イルカは何かを言い掛けてその口をぐうっと結んだ。心のどこかで葛藤しているのだろう。眉根を寄せる表情に、頑固だなあ、とカカシは内心苦笑いを浮かべながらも両手を広げれば、突っ立っていたイルカは、一瞬驚いた顔をして見つめるが、やがてのっそりと動き、そしてカカシの腕の内に入り込む。
「・・・・・・よろしくお願いします」
観念したイルカの耳は赤い。きっと顔も真っ赤だ。心から可愛いと感じる。同時に広がる安堵感に。そして逃がすつもりはないと、カカシはぎゅっとイルカを抱き込む腕に力を入れた。
顔見知りだと言うだけで、自分には珍しいが、イルカに関しては良識がある相手だと思い込んでいた。だってそうだ。ナルト達にとったら元恩師であり、新しい師である自分にどんなにいい先生だったか、事あるごとに聞かされていて。ナルトはともかくあのサスケでさえ先生と呼ぶ。そして見たまんま、教師と呼べるに相応しい人格だった。
中忍試験の事もあり嫌煙されてるのかもしれないと思ってはいたが、会えば挨拶はもちろん声をかけられる事がほとんどで。まあ、嫌われてるよりはいいかなあ、とのほほんと考えていた。だってそうだろう。自分に異性だろうが同性だろうが憧れや尊敬を抱いている忍び少なくないから。イルカもそのうちの一人に過ぎないと思っていた。
たまたま顔を合わせた居酒屋で、イルカは一人で飲んでいた。良かったら隣どうぞと言われて、元々カウンター席しか空いてなかったから、カカシは言われるままにイルカの隣に腰を下ろした。
最初緊張しているような感じだったが、一緒に飲み始めてから酒のせいなのか、イルカはよく喋った。自分はグラスを傾けながら相槌を打つばかりだったが、苦じゃなかったし、酔ってはいたが愚痴るわけでもなく節度を持ちながらも面白おかしく話をするイルカは、好感を持てた。
たった数時間一緒に飲んだだけだったのに、店を出る頃には自分の中で誰にでも向けている距離感や警戒心は薄くなっていた。自分もほどよく酒が入って気分も良かったのも手伝って、家で飲み直しませんか?そう誘われた時は一瞬どうしようか考えたものの、ここからすぐ近くなんで、と言われ、明日は休みなのもあったから。いいよ、と頷いていた。
あの時、何で断らなかったんだろうと今更ながらに後悔が頭を過ぎるが今思い直しても断る選択肢はなかったからどうにもならない。
とにかく、今は。
目の前で起こっている事をどうにかしなくてはいけない。
動揺を顔に出さないように努めながらも、カカシはイルカに視線を合わせた。
好きなんです、と言われ。社交辞令の延長と受け取っていたから、そりゃどーも、と軽く返したら、手を握られどうしたのかと顔を向けて。そこで今どんな状況になっているのか気がついた。
ついさっき自分に告白をしたイルカは真剣な表情をしている。酔ったはずみで口にした冗談だとこっちは思いたい。だから、えっとね、とカカシは口を開いた。
「気持ちは嬉しいけど、俺男だよ?」
「分かってます」
確認するように口にすれば、イルカから直ぐに返される。自分の手を握るイルカの手に力が入ったのが分かった。誰かに手を握られる事がそうない。それだけで戸惑う。
ついさっきまで会話も弾んでいたのが嘘のように空気が張り詰めていた。そう、少し前までは楽しく話をしていたのに。
忙しくて仕事が恋人みたいなものです。
苦笑いを浮かべて言うイルカにカカシは、それはないでしょ、と笑って返した。
背格好も見た目も悪くないし、温和で子供好きでおおらかで。イルカは女性受けが悪いわけがない。だから。
先生は十分魅力的ですよ。
謙遜するイルカを励ましたくて言った。
ちょっとでも笑ってくれればそれで良かったのに。ふと真顔になったイルカに、どうしたの、と問いかけようとしたら。
「じゃあ、カカシさんの恋人にしてくれますか?」
そう返ってきた言葉に、まさかそっちにいくとは夢にも思ってなかったから、その冗談にカカシは笑った。何言ってるの、と一笑したら、あっさり告白され。
好意を寄せられることはよくあり、それを受け流す事なんて容易いのに。イルカの緊張が伝わってきてカカシも緊迫感を感じざるを得ない。
イルカの性的指向は知らないけどノーマルとばかり思っていた。いやしかし、それを上官である自分に打ち明けるとか。色んな考えがぐるぐる頭で回る。冗談じゃなきゃ困るのにどう捉えても冗談ではない。黙ってしまったカカシに、あの、と強めの口調でイルカが口を開けたから、なに?とそれにはカカシは反応する。
「触っても、いいですか?」
触るとは何か。
もう疑問符しか浮かばない。だって、既にイルカに手を握られているだろうと思えば、隣にいるイルカが、もう片方の手を伸ばす。股間に触れた。
目が釘付けになっていた。ナルトの専売特許であるはずなのに、さっきから意外性を連発しているのはイルカで。流石に動揺が顔に出してしまっていた。
「イルカ先生ちょっと、ちょっと待って、」
手で遮ろうとすれば手を掴んでいたイルカの手がそれを止める。
「何でですか」
「何でですかって、俺ノーマルなのよ。だから、」
「俺もです」
「いや、だったら、」
「気持ち悪いですか?」
気持ち悪いかと聞かれたら、カカシは直ぐに答える事ができなかった。同じ男であるイルカから好きだと言われても、手を握られても。そしてあろうことかあり得ない場所にまで手を伸ばされているにも関わらず、驚き戸惑いはあるのに気持ち悪いという表現は見当たらない。気持ち悪いと言ったらやめてくれるんだろうが、イルカが傷つくと思ったら何故か口には出来なかった。
「俺、多分勃たないよ?」
気持ち悪いとは言えない代わりに出たのがそれだった。男の子相手にしたことすらない。
「構いません」
覚悟を感じる口調で言うイルカは、諦めるどころか、否定されていないと判断したのか、ぎこちなくもう一度ズボン越しに股間に触れたから、カカシはぎくりとした。触る事を許したつもりはないけど、ズボンの上から触れるイルカの真剣な表情に見入っていた。
積極的な割ににぎこちなくて。それに萎えるとばかり思っているのに、逆にイルカのその拙い指の動きに、その感触に背中がぞわりとした。
勃つはずがないと思っていたのに、自分の意識とは別に硬さを持ち始めている。それにカカシは焦った。
「ね、もういいでしょ?」
腰を引いたカカシにイルカが膨らみ始めたそれをやんわりと掴むように触れ、思わず、うわ、と声が出た。
抵抗するカカシに、イルカの腿に置く手に力が入る。その力強さに中忍に覚えるはずのない危機感を感じた。
そしてイルカは耳を貸すどころか、そこから履いているズボンは支給服で領を得ているか、さっさと前を寛げる。自分の身に起きている事なのに信じられなくて。しかもそれをやっているのはあの、イルカだ。
いつも顔を合わすたびに礼儀正しく挨拶をして、受付では笑顔で迎えてくれる。真面目で純情そうで、教師として在るべき姿を見てきた。
ナルトや子供たちの頭を撫でる、その手がカカシの下着を引き下ろした。
勃っている。
口に出さなくとも反応してしまっていることは間違いがなく。抵抗してもいい側なのに、勃っているのは事実で引っ込みがつかない。言い訳もない。そして恥ずかしくないはずがない。勘弁してくれと、カカシは手で軽く顔を覆った。こんなのはきっと直ぐに治る。それが無理だったらトイレを借りればいい。そう開き直ってイルカへ顔を向ける。
「あの、先生……もう、いいでしょ」
言い終わるのと同時にイルカが陰茎に躊躇いなく触れ顔を近づけるから、反射的にイルカの肩を押さえていた。
「ちょ、先生!?」
こんな事をしたら、顔を合わすのだって苦痛になる。それが分からないはずないのに。後先考えずにする事に理解の範囲を超える。イルカは何も言わない。代わりに屈みながら口を開いた。
当たり前だが力は自分の方が上で拒むことは出来たのに。食い入るようにイルカが咥えるのを見ていた。
生暖かい感触に包まれて軽く息を呑む。ぞわりと甘い痺れが背中に走った。腰が震える。さっき布越しに触れた時のように、決して上手いわけじゃないのに。目が離せない。イルカが咥えたまま頭を上下させる。その度に唾液が絡まり、じゅ、じゅ、と水音が部屋に響いた。
視覚と聴覚とイルカが起こす感覚に、相手が男だからと分かっているのに、感じないどころか、腰が震えるくらい気持ちいい。気がついたら口の中がカラカラで、カカシは生唾を嚥下した。
イルカの口内で硬く屹立し質量が増し、苦しくなったのか、イルカが唇から離せば、赤く充血した陰茎がぬるんと口から飛び出た。
「先生……、もう、やめよ?」
情けない声が自分から出る。懇願に近い。だって、もう吐き出したくて堪らない。でも、出来ない。床にぺたりと座り、見上げるようにこっちに目を向けたイルカは、答えなかった。代わりに、目線をカカシに向けながら、股間に顔を近づける。口から出た舌か陰茎の側面を舐めた。思わず息を詰める。
こんな事を自らするなんて信じられない、と言うか信じたくない。
誰にでもこんなことをしてるのかと、そう聞きたかくなったが縋るようなイルカの目を見たら、言えなかった。
ちゅう、と薄い側面を何回も吸い、柔らかな唇の感触に思わず眉根が寄る。ゆっくりと動いた唇が先端だけを舐めて、吸う。快楽に流されそうで、熱っぽい息を吐き出すも、どうにもならない。一生懸命に、ゆっくりと咥えながら上下に扱かれる。
好きなんです。
真っ白になりそうな頭に、言葉少なく発したイルカの言葉が浮かぶ。好きだから、こう言う事をするとか、それはあまりにも短絡的だ。流されている自分にも問題があると分かっている。
でも今思うに、最初から、イルカはそう言う気持ちで自分を誘っていた。しかし自分はそれに気が付かずのこのこついていった。
全く疑いもしなかった。その事実は衝撃しかなく、そして可笑しい。情けなさに笑いたくもなる。
でも、これが終わったら。何もなかったように振る舞うつもりなのか。だとしから、自分の印象とは違い随分としたたかだと言わざるを得ない。
でも、違う。たぶん、この人は二度と顔を合わせない。それが分かったら。
勝手だな。
何故かそう思った。
そうだ、先生は勝手だ。
イルカの勝手な覚悟に、過去そんな女はいくらでも見てきたのに。納得出来なかった。
そして、絶頂が近い。
「イルカ先生」
眉間に皺を寄せながら肩に手を置きしっかりと名前を呼べば、唇を離しイルカがこっちを向く。
喉が圧迫されていたのか、僅かに黒目が潤んでいる、その目をカカシはじっと見つめた。
薄い唇をゆっくりと開く。
「どうせだったら、あんたの中で出させて」
え、とぽかんとした顔で聞き返すイルカのズボンに手をかける。そこで何を言ったのか理解したのか、イルカの目に動揺が浮かんだのが分かった。
「ちょ、待って、」
「やですよ」
ここまでしておいてその顔はないだろう。カカシはイルカの言葉を却下すると、ズボンを引き下げる。尤もな言葉に一回ぐっと唇を結んだが、イルカは困惑した顔をしながら、でも、と口にする。不安そうな顔をされ、カカシは眉根を寄せた。
この期に及んでそんな顔をするのは狡い。今更だ。自分だって男相手に欲情して、こんな気持ちになるなるとは思ってもみなかったのに。すっかりその気になっている。押さえる手を退かして下着をずり下げれば、露わになったイルカのものが緩く勃ち上がっている。男の勃起した陰茎なんて見たくもないし気色悪いだけのはずなのに。目が離せない。カカシは唾を上下させた。
「なんだ、先生も勃ってんじゃない」
「っ、見ないでください」
恥ずかしさに弱々しくもそう口にするから、カカシは視線を上げる。イルカの黒い目がカカシを映した。
「それ、どの口で言ってるの?」
苦笑を含んだ声で言えばイルカはまた明らかに動揺した。手のひらで陰茎をやんわり掴むと、イルカが息を飲む。引き腰になるイルカに構わずゆっくりと上下させた。もう片方の手で上着の中に手を滑り込ませる。脇腹をなでればイルカが身を堅くした。ぎゅうと目を瞑り、体を強ばらせたまま顔を剃らすから、そのむき出しになったイルカの首筋に顔を埋めた。匂いを嗅げばイルカの匂いで肺がいっぱいになる。舌で薄い皮膚を舐めればイルカが声を漏らした。
イルカが首を竦めるからカカシはその首筋に歯を立てる。脇腹を撫でていた手を上に這わせるが、狭い。カカシはイルカのベストのジッパーを下ろし、動きやすくなった手で胸の突起を指で潰すように擦り上げた。
「・・・・・ひゃ・・・・・・」
小さく声を上げて背中を反らす。
「カカシさん、もう駄目、やめて、」
「もう黙って」
未だそんな言葉を口にする、その言葉を聞きたくなくて、イルカを床に押し倒すと、カカシは口布を下げる。唇を奪った。
硬くなった胸の突起を摘んで擦る。その手を動かしながらも濡れた舌で唇をなぞり、再び塞いだ。腕を突っぱねるようにしていたのに、口内を舌で荒らし、縮こまったイルカの舌を難なく捕まえ、全体を絡ませれば、力が緩みイルカが苦しそうに鼻から息を漏らす、その頬を優しく指で撫でた。口付けを繰り返せば唇の合間から唾液がこぼれ、それをまたカカシは指で拭い、口を離す。とろんとした黒い目を見つめながら、カカシは先ほど指で拭ったところを舐めた。口づけや愛撫で勃ち上がった陰茎の先端からは雫が溢れ出ている。まだその気になっていないのか、目を見ても分からない。上気した頬は赤くしっとしとした唇を少しだけ開け、こっちを見上げている。それでも、濡れた先端強請るように震えていて、はカカシは迷うことなくそれを口に含んだ。
「ぁあっ」
背中を反らす。こんな事をするなんて、自分でも夢にも思わなかった。でも、こんなに気持ちが昂ぶるのは久しぶりで。歯を立てないように、吸い上げながらも上下に口で扱くと、イルカが堪らず気持ちよさそうに嬌声を上げた。
自分らしくなく夢中だった。イルカの手ががカカシの頭に触れ、髪を掴む。だめ、と声を漏らすが、それを無視して震える内股を撫でながら唇で扱くとイルカは果てた。何度も甘い声を上げながら腰を軽く振り何度もカカシの口内に吐き出す。達したのが自分の口の中だろうが、カカシの胸の中に満足感が広がっていた。
「すみませっ、」
「何で?」
謝られて、カカシは自分の手のひらに口からイルカの精液を出しながら、逆に問いかける。案の定、赤く火照った顔のまま黙るから、やれやれとカカシは覆い被さるとイルカの脚を広げる。再奥に濡れた指を潜り込ませた。
「あっ、ちょ、まっ」
秘部に触れれば、イルカはまた背中を反らした。それでもじっくり広げるようにすれば、指の滑りを借りて入り込んでいく。指一本でさえきついと感じるその狭さに、イルカはじっと息を詰めて体を強ばらせていた。
「息、吐いて」
見かねて耳元で囁けば、その意味が分かっているがどうする事も出来ないのか。カカシはイルカの口を再び吸った。さっきよりも優しく口づけ、意識を分散させる。一番奥まで指を突き立てた。そこから粘膜を擦るとイルカがびくりと体を震わせた。その過敏な壁を何度も擦るとカカシから口を離したイルカが指の動きに合わせて腰が震わせる。知識しかないが、イルカが感じているのが分かった。刺激に耐える顔に思わず舌なめずりをする。イルカの呼吸に合わせて指を増やし何度も指で攻めれば、その度に切なそうに声を上げ腕を背中に回した腕に力を入れる。カカシの呼吸も荒くなっていった。
(・・・・・・もう、いいよね)
なるべくイルカに苦痛を追わせたくない。それでも正直、自分も限界で。心の中で呟き指を引き抜くと脚を広げさせる。狭間を割って屹立し昂ぶっている自分のものをあてがうとそこからゆっくりと押し進めた。途端、イルカの眉根が寄る。
「あっ、待ってっ、」
声を震わすイルカに、カカシは息を吐き出すように苦笑いした。
「もうやるって決めたんだから。先生もいい加減腹括ってよ」
「でも、ぁあっ、・・・・・・っ」
一気に根本まで入り込めば、イルカは声を上げた。
「きつ、・・・・・・」
眉根を寄せながらイルカを見れば、ただ苦しそうに短く息を吐き出すばかりで。潤んだ黒い目からとうとう涙が零れ落ちる。カカシはそこで動きを止めた。
泣くとは思わなかった。
困惑するが、それでも自分はくわえ込んだ場所が腰を溶かすように熱くて、揺すり上げたくて堪らない。衝動を抑えながら、涙を浮かべ額に汗を滲ませているイルカを見つめた。
「先生、・・・・・・もしかして、初めて、なの?」
ここまでしておいて聞くのもおかしいとは思ったが。ノーマルだと聞いたものの、こんな大胆に誘ったのだから、そんなはずはないと思っていたから。
頷くイルカに、潤む黒い目をじっと見つめ返す。イルカにとってはどこまで予想していたのだろうか。拙い指の動きや決意の含んだ目に、自分はただ流されていただけだが。ここまできて自分にようやく動揺が浮かぶ。
流されたのは事実だ。でも、頷くイルカを見たら胸がざわついた。
事実、頭が沸騰しそうで、自分勝手に激しく突き上げてしまいたい衝動に駆られている。いや、そもそもこんな状況で何かを判断するなんて。間違っているのかもしれないけど。
腕で顔を囲むようにして、カカシは、あのね、とイルカを見下ろす。
「先生が思い描いてるような一夜限りの関係になんてさせないから」
だから、動いても、いい?
自分でも切羽詰まっている声だと思った。それでも許可が欲しくて、出来るだけ優しく聞けば、イルカの目が驚きに丸くなる。戸惑いながらも軽く頷くイルカに、カカシは微笑むと、答えを待たずしてゆっくりと律動を始めた。
翌日、夜が白み始めた頃、腕の中にいたイルカがもそりと体を動かす。そこからゆっくりと、腕を退かしてベッドから出た直後にイルカの手首をカカシが掴んだ。まだ寝ていると思っていたのか、不意に掴まれぎくりとするイルカにカカシは目を開けイルカを見る。
「自分の家なのにまさか逃げようってわけじゃないよね?」
意地悪くそう口にすれば、思い切りバツが悪そうな顔をしたイルカがそこにいた。予想はしていたが、そのイルカの苦々しい顔にカカシはため息を吐き出すものの、その手は離したくない。カカシはイルカを見つめ返した。
「一夜限りの関係にしないって言ったでしょ?」
忘れたとは言わせない。なのにイルカが困った顔をするから、カカシはため息を吐き出した。
「あのさ、あんたがどんな覚悟で俺を誘ったのか知らないけど、その場の空気に流されたからって、最後までしちゃうほど俺は貞操観念低くないのよ」
言って、カカシはイルカの腕を離すと、むくりと上半身を起こす。
自分の中では答えは出ているのに、そこまで口にしても、イルカはまだ黙ったままだから、カカシは寝起きのぼさぼさの髪を掻いた。イルカへ視線を戻す。
「だから、これでいいじゃない」
カカシの言葉に、イルカは何かを言い掛けてその口をぐうっと結んだ。心のどこかで葛藤しているのだろう。眉根を寄せる表情に、頑固だなあ、とカカシは内心苦笑いを浮かべながらも両手を広げれば、突っ立っていたイルカは、一瞬驚いた顔をして見つめるが、やがてのっそりと動き、そしてカカシの腕の内に入り込む。
「・・・・・・よろしくお願いします」
観念したイルカの耳は赤い。きっと顔も真っ赤だ。心から可愛いと感じる。同時に広がる安堵感に。そして逃がすつもりはないと、カカシはぎゅっとイルカを抱き込む腕に力を入れた。
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