そんな顔

「先生、これ?」
 生徒に声をかけられ、イルカは振り返る。屈んでその生徒が手に持つ野草へ視線を向けた。
「そうだ、よく分かったな」
 微笑んで頭を撫でるイルカに、生徒は嬉しそうに笑顔を浮かべると、また別の場所へと駆けていく。その後ろ見つめながらイルカは屈んでいた体を戻した。
 午前中に授業で教えた薬草にもなる野草を、復習を兼ねてアカデミーの近くにある野原で探してもらっているが。当たり前だが授業の時間だろうが、外に出た開放感からか目的を忘れて遊びに夢中になる生徒もいるわけで。それを注意すれば、見つかったと言わんばかりにこっちを見るも、自分の視界に入らない場所へ走り出す生徒に嘆息した時、先生、と声をかけられ顔を向ける。目にしたのは、カカシが歩いてくる姿だった。
「もしかして、授業?」
 歩み寄り、野原にいる子供たちに目を向けたカカシに聞かれ、イルカは頷く。
「薬草を自分で見つける授業なんですが、見ての通りで」
 参りましたよ。
 苦笑いを浮かべるイルカに、カカシは、へえと相づちを打つ。そこから、楽しそうに野原を駆け回っている子供たちへもう一度視線を向け、そっか、と改めて可笑しそうに目を細めた。
「カカシさんは、」
「うん、任務終わったから後は待機」
 カカシの任務が予定通りに終わった事に内心安堵するイルカに、ねえ、と続けて言われ、外しかけた視線を戻す。
「今日仕事終わったら先生の家言ってもいい?」
 聞かれて一瞬きょとんとすれば、残業あるなら遠慮するけど、と言われ、イルカは直ぐに笑顔を浮かべた。大丈夫です、と頷く。
「良かった」
 イルカの言葉に同じように笑顔を浮かべたカカシは、ポケットから手を出し軽く上げると、じゃあ行くね、と歩いてきた道を再び歩き出す。
 会釈をしてその後ろ姿を見つめながら、律儀だなあ、と感心するのは。つき合う前からそうだったけど、女遊びが激しいとか、同じ相手とは寝ないとか。そんな噂ばかり耳にしていたからだろうか。話すようになって、親しくなり、恋人になった今も、イメージと違い過ぎてそのギャップにドキッとさせられる。
 それに、カカシは何も言わないしそんな事を思ってないのかもしれないけど、付き合い出してから家に来てもいいと聞かれると、今夜抱いていい?と聞かれてるようで。
 いや、昼間っから何言ってんだ俺は。
 熱くなる頬に、イルカは一人自分の頬を擦ると、よしっ、と切り替えるように声を出し生徒たちへ体を向ける。今日夕飯何を作ろうか、冷蔵庫の中を思い出しつつメニューを考えながら、子供たちへ視線を戻した。


 イルカと別れて歩きながら、カカシはイルカが授業に戻った事を背中で感じながら、そこで、ふう、と小さく息を吐く。
 イルカに家に招かれたりしてるのは、つき合う前からよくある事で、恋人になったからと言って根本的な関係性は変わっていないし、ただ、下心がないわけじゃないけど。
 ただ、先生が。
 今日抱かれるんだと、そんな顔をするから。
 ──正直、それが堪らなくなる。
 家に言っていいかと聞いたとき、一瞬驚いた顔をした後に見せたイルカの表情を思い出しながら。
 誰かに気づかれるわけでもないが、カカシ赤くなった顔を隠すように銀色の睫毛を伏せた。
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