カカイルワンライ「誤解」
先輩の機嫌が悪い。
そういう時は基本近づかなければ良いだけで、ただ、そうしたいのは山々だがナルトの事を相談したかったし、報告もしたい。会話をしても、そ、とか、ふうん、とか、聞いているようないないような短い返事しかしないから、こっちはその先を続けられない。いつから機嫌が悪いのか知らないが、朝見かけた時から既に不機嫌だと、ヤマトは気がついていた。
というのは、ナルトも上忍仲間も特に気がついていなく、注視しなければ分からないくらいで。しかし不機嫌なのには違いない。
カカシと久しぶりに顔を合わせた時。上忍師となったカカシを見た時、ずいぶんと変わったと感じた。もちろん部下になった下忍が主に影響しているんだろうと思っていたが。昔から相手が火影だろうが不満を隠さず渋面を作る男で、今もそれは変わらないが。上手く言い表せないが、何かが違う。
視線の先のカカシは木の下に寝そべり、いつもの小冊子に目を落としている。端から見れば昼飯後にのほほんと休憩している姿そのものだが。ここに着いてから一言も発しない空気は、同じ場所にいる自分として辛い。
いや、辛くはない。こんな事が辛いとも微塵に感じないが気まずくないと言えば、それは嘘だ。気まずいよりも、面倒くさい、の方が正しいのか。
ヤマトは視線を外して小さく嘆息しながら顔を上げれば、木々の葉の隙間から青い空が見える。集合時間にはまだ早く、当たり前だがナルトがここに来る気配もない。
愚痴くらい言えばいいだろう、と内心そんな事を思うが。多少変わったからと言って自分に愚痴をこぼす事はない。それは、昔からだ。
ナルトの特訓は、多少予想外なところがあるが予定通りで、順調と言える範囲で。じゃあなんだろうと思考を巡らせる。
その、大切そうに毎日持ち歩いている、小冊子の新刊が手に入らなかったとか、そんな話題だったら興醒めだと思った自分に、ヤマトは、何言ってるんだ、と自分自身に呆れ軽く首を振った時だった。
不意に感じた気配に、ナルトかと思い顔を向ければ、そこに目に入ったのはすごい勢いで歩いてくるうみのイルカの姿だった。
名前も顔も知っているのは、ナルトのアカデミーの元担任で、受付にもよくいるからだ。いつも明るく礼儀正しく、見た目通りの真人間で裏表がなさそうで、いや、なさ過ぎて。口には出さなかったが、とても忍びには見えなかった。でもきっと、それは自分自身自覚しているんだろう。なんて勝手に思ったりしたのは最近。
そのイルカが、書類の束を片手にずんずんとカカシに向かって歩み寄っている。あの書類をカカシに渡す為なのか。しかしなんでこの場所知ってるんだ?と思うヤマトの視線の先で、イルカはカカシの前で足を止めた。カカシは、気配に気が付いていただろうが、イルカが目の前に来て、そこでようやく小冊子から目を上げる。イルカの表情は、明らかにいつもと違っていた。
「昨日、出て行った理由はなんですか」
いかにも怒ってます。そんな顔をしていたイルカは、その通り、憤りを含んだ声だった。
「腹が痛かったんですか」
黙ったままのカカシに、イルカが続けてそう口にする。
「・・・・・・いや」
「じゃあ吐き気とか、どこか具合でも悪かったんですか」
「別に」
丸で子供のようなに、不貞腐れた顔を見せたカカシはふいと顔を背け、イルカの顔が険しくなるのが、ヤマトから見ていて分かった。
じゃあ何でですか、と食い下がるイルカに、カカシは持っていた小冊子を膝に置く。
「別に理由なんて、」
「理由がないなら飯を残すなっ」
一際大きな声がイルカから出て、カカシの目が僅かに開かれる。
「どんな料理だってそれなりに、時間や手間がかかってるんだ。何を作ろうか考えて、買い物して一から作って、」
そこでイルカは一回言葉を切り、そして口を開く。
「出て行くなら残さず食べてから出て行けっ」
ピシャリと言ったイルカがそのままくるりと体の向きを変え、そこでこっちの存在に気が付いた。黒い目がまん丸に見開かれる。
木立にカカシが一人で昼休憩を取っていると思ったんだろうが。木の陰になってこっちの存在に気が付かなかったイルカは、一瞬狼狽える顔を見せる。
「誤解です」
喧嘩だ。
イルカが口を開くと同時に浮かんだのは、はっきりと分かった、カカシの不機嫌の理由だった。
しかも痴話喧嘩だ。
二人がそういう関係だったとか、あまりに予想外で動揺するが、それを顔に出すほど馬鹿じゃない。というか、向こうの方が何倍も動揺していて、こっちは全く悪くはないが、何故か申し訳なく感じるから。ヤマトは軽く会釈するだけを選んだ。
それを見たイルカは、気まずそうに眉根を寄せながらも頭を下げると、カカシには顔も向けず、来た道を戻るように早足で歩き出す。
カカシは、座り込んでいた場所からのそりと立ち上がった。
「誤解じゃないから」
今いた中の誰よりも動揺していない顔をしたカカシは、そうさらりと否定してイルカの後を追う。
二人の姿が見えなくなった後、何もしていないのに。どっと疲れが出た気分になり、ゆっくり息を吐き出す。
「・・・・・・分かってますよ」
ヤマトは、既にいないカカシに返すように、しかし、自分に言い聞かせるように、一人で呟いた。
そういう時は基本近づかなければ良いだけで、ただ、そうしたいのは山々だがナルトの事を相談したかったし、報告もしたい。会話をしても、そ、とか、ふうん、とか、聞いているようないないような短い返事しかしないから、こっちはその先を続けられない。いつから機嫌が悪いのか知らないが、朝見かけた時から既に不機嫌だと、ヤマトは気がついていた。
というのは、ナルトも上忍仲間も特に気がついていなく、注視しなければ分からないくらいで。しかし不機嫌なのには違いない。
カカシと久しぶりに顔を合わせた時。上忍師となったカカシを見た時、ずいぶんと変わったと感じた。もちろん部下になった下忍が主に影響しているんだろうと思っていたが。昔から相手が火影だろうが不満を隠さず渋面を作る男で、今もそれは変わらないが。上手く言い表せないが、何かが違う。
視線の先のカカシは木の下に寝そべり、いつもの小冊子に目を落としている。端から見れば昼飯後にのほほんと休憩している姿そのものだが。ここに着いてから一言も発しない空気は、同じ場所にいる自分として辛い。
いや、辛くはない。こんな事が辛いとも微塵に感じないが気まずくないと言えば、それは嘘だ。気まずいよりも、面倒くさい、の方が正しいのか。
ヤマトは視線を外して小さく嘆息しながら顔を上げれば、木々の葉の隙間から青い空が見える。集合時間にはまだ早く、当たり前だがナルトがここに来る気配もない。
愚痴くらい言えばいいだろう、と内心そんな事を思うが。多少変わったからと言って自分に愚痴をこぼす事はない。それは、昔からだ。
ナルトの特訓は、多少予想外なところがあるが予定通りで、順調と言える範囲で。じゃあなんだろうと思考を巡らせる。
その、大切そうに毎日持ち歩いている、小冊子の新刊が手に入らなかったとか、そんな話題だったら興醒めだと思った自分に、ヤマトは、何言ってるんだ、と自分自身に呆れ軽く首を振った時だった。
不意に感じた気配に、ナルトかと思い顔を向ければ、そこに目に入ったのはすごい勢いで歩いてくるうみのイルカの姿だった。
名前も顔も知っているのは、ナルトのアカデミーの元担任で、受付にもよくいるからだ。いつも明るく礼儀正しく、見た目通りの真人間で裏表がなさそうで、いや、なさ過ぎて。口には出さなかったが、とても忍びには見えなかった。でもきっと、それは自分自身自覚しているんだろう。なんて勝手に思ったりしたのは最近。
そのイルカが、書類の束を片手にずんずんとカカシに向かって歩み寄っている。あの書類をカカシに渡す為なのか。しかしなんでこの場所知ってるんだ?と思うヤマトの視線の先で、イルカはカカシの前で足を止めた。カカシは、気配に気が付いていただろうが、イルカが目の前に来て、そこでようやく小冊子から目を上げる。イルカの表情は、明らかにいつもと違っていた。
「昨日、出て行った理由はなんですか」
いかにも怒ってます。そんな顔をしていたイルカは、その通り、憤りを含んだ声だった。
「腹が痛かったんですか」
黙ったままのカカシに、イルカが続けてそう口にする。
「・・・・・・いや」
「じゃあ吐き気とか、どこか具合でも悪かったんですか」
「別に」
丸で子供のようなに、不貞腐れた顔を見せたカカシはふいと顔を背け、イルカの顔が険しくなるのが、ヤマトから見ていて分かった。
じゃあ何でですか、と食い下がるイルカに、カカシは持っていた小冊子を膝に置く。
「別に理由なんて、」
「理由がないなら飯を残すなっ」
一際大きな声がイルカから出て、カカシの目が僅かに開かれる。
「どんな料理だってそれなりに、時間や手間がかかってるんだ。何を作ろうか考えて、買い物して一から作って、」
そこでイルカは一回言葉を切り、そして口を開く。
「出て行くなら残さず食べてから出て行けっ」
ピシャリと言ったイルカがそのままくるりと体の向きを変え、そこでこっちの存在に気が付いた。黒い目がまん丸に見開かれる。
木立にカカシが一人で昼休憩を取っていると思ったんだろうが。木の陰になってこっちの存在に気が付かなかったイルカは、一瞬狼狽える顔を見せる。
「誤解です」
喧嘩だ。
イルカが口を開くと同時に浮かんだのは、はっきりと分かった、カカシの不機嫌の理由だった。
しかも痴話喧嘩だ。
二人がそういう関係だったとか、あまりに予想外で動揺するが、それを顔に出すほど馬鹿じゃない。というか、向こうの方が何倍も動揺していて、こっちは全く悪くはないが、何故か申し訳なく感じるから。ヤマトは軽く会釈するだけを選んだ。
それを見たイルカは、気まずそうに眉根を寄せながらも頭を下げると、カカシには顔も向けず、来た道を戻るように早足で歩き出す。
カカシは、座り込んでいた場所からのそりと立ち上がった。
「誤解じゃないから」
今いた中の誰よりも動揺していない顔をしたカカシは、そうさらりと否定してイルカの後を追う。
二人の姿が見えなくなった後、何もしていないのに。どっと疲れが出た気分になり、ゆっくり息を吐き出す。
「・・・・・・分かってますよ」
ヤマトは、既にいないカカシに返すように、しかし、自分に言い聞かせるように、一人で呟いた。
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