俺じゃダメですか? 追記
昼休み、頼まれた書類を持って建物を出たところで、目に入った人影にイルカは足を止めた。
声をかけようか躊躇ったのは、カカシが上忍仲間と話をしているからで、当たり前だがそれを遮る訳にはいかない。仕方ないからまたにしようと歩き出したところで、話し終わったのかその上忍とは別れて歩き出したから。イルカはその背中を追った。
「カカシさん」
名前を呼ぶとカカシは足を止め振り返る。お疲れさまです、と頭を下げるイルカに、ポケットに手を入れたまま体をこっちへ向けた。
どうしたの?とカカシに聞かれ、大した用じゃないんですけど、とイルカは眉を下げ、また口を開く。
「この前はありがとうございました」
礼を口にしたイルカに、カカシは一瞬不思議そうにするから。たしかにあれからカカシと顔を合わせる事がなく、少し間が空いてしまったのは確かで。先日の居酒屋で、と言えば、思い出したのか、ああ、と呟く。
「みっともない姿を見せてしまって、すみませんでした」
「何言ってんの。みっともなくないし、気にしないで」
深々と頭を下げればそう言われ、おずおずと顔を上げると、少しだけ眉を下げたカカシがこっちを見ていた。
そう言われても。
そこまで親しくもないのに、酔っていたとはいえ、愚痴を聞かせてしまったのは事実で。カカシは任務帰りで疲れていたはずなのに、放って帰ってしまっても良かったのに、嫌な顔一つもせずに聞いてくれた上に、慣れない酒で寝てしまった自分を起こしてくれて。
帰りがけ、送っていこうか?と心配そうにそう言われた時は、申し訳なくて頭をぶんぶん振り、大丈夫です、と口にした自分のでかい声が深夜の道に響きわたった。
そこまで人柄を知る事もなかったけど。どこまでも紳士なカカシに感銘すると同時に、自分への情けなさが募る。それを切り替えるようにイルカは短く息を吐き出した。そしてカカシへ視線を向ける。
「今度一緒に食事でもどうでしょうか?」
唐突な台詞だったんだろう。カカシは驚きに目を丸くしたのが分かった。慌ててイルカは、えっと、と言葉を繋ぐ。
「この前は不味い酒にさせてしまったので、お礼に夕食を、と思って。酒も肴も上手い居酒屋知っているので」
説明してみるも、カカシの反応が薄い。誘ったのは自分の誠意で、まずいことを口にしたつもりはなかったが。
「・・・・・・カカシさんお忙しいと思うので、時間が合えばなんですが」
心配そうな顔で様子を窺いながらも最後にそう付け加えると、そこでようやくカカシが反応を示した。ああ、うん、と呟くような声を出し、青みがかった目をこっちに向けながら、ポケットに入れていた手を取り出す。ガシガシと銀色の髪を掻いた。
「・・・・・・いいの?」
こっちから誘ったのに。そう聞かれ、それがどんな意図を含んでいるのか分からない。イルカはそれに戸惑いながらも、はい、と笑顔を浮かべ頷けば、カカシはその目を軽く伏せるように下へ向け、そこからまたこっちへ視線を戻した。
「分かった」
その言葉にイルカはまだ笑顔を見せる。
「じゃあ、また都合が良さそうな日、教えてください」
そう告げると頭を下げ、イルカは書類を届けるべく、その場を後にした。
書類を届けたイルカはそのまま職員室に戻り、そして自分の席に座る。午後の授業の準備をしながら、ふと思い出すのはカカシの事だった。
居酒屋の時といい、さっき挨拶した時といい、カカシの対応は紳士的で心地よく感じたが、食事を誘った時の、あの何とも言えない空気はなんだったのだろうか。
イルカは子供たちの声が響く裏庭へ視線を向ける。
決して嫌な雰囲気でもなかったが、妙な間は存在していて。お礼と言えど、中忍が上忍を誘った事が悪かったのか。図々しいと思われたのか。自分がナルト繋がりだから、断ろうにも断れなかった?
そこまで思って、イルカは、違う、と内心首を振った。
カカシはそういう人間じゃない。中忍試験の時もそう感じたが、たぶん相手が火影だろうと、相手が間違っていると思えば口にするだろうし、しっかり自分の意見と通す。だから、誘い程度の事で、断りたかったならはっきりと断るだろう。
視線を向ける裏庭には、子供たちが楽しそうな声をあげながら走り回っている。その中で、女の子が一人でベンチに座っている男の子に駆け寄った。女の子が手を差し出す。その表情や仕草から、遊びに誘っているのは明白で。戸惑う顔を見せる男の子に思わず目を細めたのは、どちらも自分の担当している子供で、誘ってきた女の子を、その男の子がずっと片思いしていると知っていたから。
嬉しいのに、それを顔に出すまいとしているのか、男の子はぐっと口を結んで。そして恥ずかしいのを誤魔化すように、俯いた後、ぼさぼさの茶色の髪をがしがと掻く。
そこまで見て、イルカはわずかに息を呑んでいた。
そして混乱する。
いや、違う。
それはおかしい。
違うに決まっている。
そう思っているのに、カカシのついさっき見た、驚いた顔や、少しだけ俯いたり、銀色の髪を掻く姿が浮かんで。伏せていた目を上げ、こっちを見つめ返すカカシを思い出した瞬間、顔が熱くなった。
(だーーーー!何考えてんだ俺は・・・・・・っ)
「イルカ何してんの?」
急に机に顔を突っ伏したイルカに、近くの同僚から声がかかるが。顔を上げれるわけもなく。
「・・・・・・放っておいてくれ」
弱々しくそう返すしか出来なかった。
声をかけようか躊躇ったのは、カカシが上忍仲間と話をしているからで、当たり前だがそれを遮る訳にはいかない。仕方ないからまたにしようと歩き出したところで、話し終わったのかその上忍とは別れて歩き出したから。イルカはその背中を追った。
「カカシさん」
名前を呼ぶとカカシは足を止め振り返る。お疲れさまです、と頭を下げるイルカに、ポケットに手を入れたまま体をこっちへ向けた。
どうしたの?とカカシに聞かれ、大した用じゃないんですけど、とイルカは眉を下げ、また口を開く。
「この前はありがとうございました」
礼を口にしたイルカに、カカシは一瞬不思議そうにするから。たしかにあれからカカシと顔を合わせる事がなく、少し間が空いてしまったのは確かで。先日の居酒屋で、と言えば、思い出したのか、ああ、と呟く。
「みっともない姿を見せてしまって、すみませんでした」
「何言ってんの。みっともなくないし、気にしないで」
深々と頭を下げればそう言われ、おずおずと顔を上げると、少しだけ眉を下げたカカシがこっちを見ていた。
そう言われても。
そこまで親しくもないのに、酔っていたとはいえ、愚痴を聞かせてしまったのは事実で。カカシは任務帰りで疲れていたはずなのに、放って帰ってしまっても良かったのに、嫌な顔一つもせずに聞いてくれた上に、慣れない酒で寝てしまった自分を起こしてくれて。
帰りがけ、送っていこうか?と心配そうにそう言われた時は、申し訳なくて頭をぶんぶん振り、大丈夫です、と口にした自分のでかい声が深夜の道に響きわたった。
そこまで人柄を知る事もなかったけど。どこまでも紳士なカカシに感銘すると同時に、自分への情けなさが募る。それを切り替えるようにイルカは短く息を吐き出した。そしてカカシへ視線を向ける。
「今度一緒に食事でもどうでしょうか?」
唐突な台詞だったんだろう。カカシは驚きに目を丸くしたのが分かった。慌ててイルカは、えっと、と言葉を繋ぐ。
「この前は不味い酒にさせてしまったので、お礼に夕食を、と思って。酒も肴も上手い居酒屋知っているので」
説明してみるも、カカシの反応が薄い。誘ったのは自分の誠意で、まずいことを口にしたつもりはなかったが。
「・・・・・・カカシさんお忙しいと思うので、時間が合えばなんですが」
心配そうな顔で様子を窺いながらも最後にそう付け加えると、そこでようやくカカシが反応を示した。ああ、うん、と呟くような声を出し、青みがかった目をこっちに向けながら、ポケットに入れていた手を取り出す。ガシガシと銀色の髪を掻いた。
「・・・・・・いいの?」
こっちから誘ったのに。そう聞かれ、それがどんな意図を含んでいるのか分からない。イルカはそれに戸惑いながらも、はい、と笑顔を浮かべ頷けば、カカシはその目を軽く伏せるように下へ向け、そこからまたこっちへ視線を戻した。
「分かった」
その言葉にイルカはまだ笑顔を見せる。
「じゃあ、また都合が良さそうな日、教えてください」
そう告げると頭を下げ、イルカは書類を届けるべく、その場を後にした。
書類を届けたイルカはそのまま職員室に戻り、そして自分の席に座る。午後の授業の準備をしながら、ふと思い出すのはカカシの事だった。
居酒屋の時といい、さっき挨拶した時といい、カカシの対応は紳士的で心地よく感じたが、食事を誘った時の、あの何とも言えない空気はなんだったのだろうか。
イルカは子供たちの声が響く裏庭へ視線を向ける。
決して嫌な雰囲気でもなかったが、妙な間は存在していて。お礼と言えど、中忍が上忍を誘った事が悪かったのか。図々しいと思われたのか。自分がナルト繋がりだから、断ろうにも断れなかった?
そこまで思って、イルカは、違う、と内心首を振った。
カカシはそういう人間じゃない。中忍試験の時もそう感じたが、たぶん相手が火影だろうと、相手が間違っていると思えば口にするだろうし、しっかり自分の意見と通す。だから、誘い程度の事で、断りたかったならはっきりと断るだろう。
視線を向ける裏庭には、子供たちが楽しそうな声をあげながら走り回っている。その中で、女の子が一人でベンチに座っている男の子に駆け寄った。女の子が手を差し出す。その表情や仕草から、遊びに誘っているのは明白で。戸惑う顔を見せる男の子に思わず目を細めたのは、どちらも自分の担当している子供で、誘ってきた女の子を、その男の子がずっと片思いしていると知っていたから。
嬉しいのに、それを顔に出すまいとしているのか、男の子はぐっと口を結んで。そして恥ずかしいのを誤魔化すように、俯いた後、ぼさぼさの茶色の髪をがしがと掻く。
そこまで見て、イルカはわずかに息を呑んでいた。
そして混乱する。
いや、違う。
それはおかしい。
違うに決まっている。
そう思っているのに、カカシのついさっき見た、驚いた顔や、少しだけ俯いたり、銀色の髪を掻く姿が浮かんで。伏せていた目を上げ、こっちを見つめ返すカカシを思い出した瞬間、顔が熱くなった。
(だーーーー!何考えてんだ俺は・・・・・・っ)
「イルカ何してんの?」
急に机に顔を突っ伏したイルカに、近くの同僚から声がかかるが。顔を上げれるわけもなく。
「・・・・・・放っておいてくれ」
弱々しくそう返すしか出来なかった。
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