嫉妬 追記

「あれ?」
 玄関の扉を開けて顔を覗かせれば、そこにはカカシしかおらず。ナルトは拍子抜けしながら、玄関の扉を閉めた。
「誰もいねーじゃん」
 家の主である紅はおろか、集まっているはずのメンバーはカカシ以外はどこにもいない。俺早すぎた?と聞けば、居間で胡座を掻き座っていたカカシが、何言ってんの、と笑った。
「お前が遅すぎるんだよ」
 そう返され、それにはちゃんと自覚があるから。ナルトは苦笑いを浮かべる。
「じゃあみんなは?」
「サクラ達は食べ物や飲み物の買い出しで、後は紅の買い物につき合ってるよ」
 部屋を見渡しながら聞けば、カカシがそう答える。確かに思い切り遅刻してきたのは自分だが。買い物って何だよ、と不満そうな顔をすれば、それを悟ったカカシが口を開いた。
「ほら、オムツとか、ミルクとか?何か色々買いたい物あったみたいで。ついて行った奴は荷物持ち」
 ま、直ぐ帰ってくるんじゃない?
 そう言われて。待つしかないのは分かるから。ナルトは仕方なしにカカシの前に腰を下ろした。
 ミライの顔を見に行こうと言い出したのはサクラだった。どうせならみんなで行こうと勝手に話が纏まり、それに勿論頷いた。遅刻したのは、忘れていたわけでも何でもなく。前日の任務がたまたま長引き、疲れて起きれなかっただけで。だから不可抗力なわけで、仕方がない。
 それに、自分自身特に気にしないようにしていたが。カカシにイルカへの気持ちを聞かされてから、何となく蟠りのようなものが自分の胸の中で支えていた。周りからそういう事に疎すぎると言われてはいたが。この前も、たまたまカカシとイルカが二人で歩いている姿を目にして、楽しそうに笑う二人が、表情が。そういう空気を纏っている事に今更ながらに気がついた。改めて他の奴らに聞こうとも思わないが、周りもきっと何となく既にその二人の関係に気がついているんだろう。それに加え、誰も知らなかったはずなのに。カカシが自分の初恋がイルカだということさえ知っていたと思うと、ダダ漏れだったんだと思うしかなく。すごく自分が間抜けに思えた。
 だとしても。
 そう、初恋がイルカ先生だったとしても。今はヒナタを想っていて。
 気持ちの切り替えは早い方だ。単純だと言われても、自分はそれで構わない。
 あーあ、とナルトは声を出してごろんと床に横になった。なんだかんだで皆が揃って顔を合わせることなくて、それなりに楽しみにしていたから。つまんねーの、と素直に呟けば、カカシはまた苦笑した。
「何か飲む?」
 って言っても確か麦茶しかないみたいだけど。
 ここの家主でもないカカシが気を遣ってか、腰を上げたから、ナルトは、いーってば、と少し大きな声で返した時、突然奥から大きな声が聞こえ、驚いた。思わずがばりと床から起きあがる。
 その声はどんどん大きくなり、何なんだと動揺するナルトにカカシは特に驚きもせず、はいはい、と言いながら奥の部屋に入っていく。
 その鳴き声から察しはしたものの、奥の部屋からカカシが小さな赤ちゃんを抱きながら現れた時には、やっぱり驚くしかなかった。だって、居るなんて思っていなかった。
「ミライが気持ちよく寝てたからさ、俺をお守りにしてみんな出かけちゃったんだよね」
 眉を下げながらカカシが経緯を話すが。今は
それはどうでも良かった。それよりも。カカシの腕の中にいるそれは、真っ赤な顔をして泣き叫び、一向に泣きやむ様子がない。その小さな口から出してるとは思えないくらいに全力で大きな声で泣いてる。鳴き声がけたたましくてたまらなくて。それだけでナルトは圧倒されていた。
「ど、どうすんだってばよ」
 泣きやませる事が第一だと分かるが。一人おろおろとそう口にするナルトを前に、カカシは物怖じすることなく、泣いているミライを布団の上に下ろすと、手際よくオムツを変えていく。
 オムツを変え終えたカカシは、これでいいかな、と呟き、もう一度ミライを抱き抱える。さっきまでのサイレンの様に泣いていたのが嘘のように、ミライは泣いていなかった。
 何も出来なかったナルトは、そのカカシの一連の行動を呆然と眺めながら。とにかく泣きやんだ事にほっとする。カカシは、すっかり落ち着いているミライを抱き抱えながら、優しくあやしていた。体を揺らしているカカシの姿を見つめていれば、その視線に気がついたのか、ふとこっちを向く。
「抱っこしてみる?」
 言われて、反射的に、いや!とぶんぶん首を横に振るとカカシはまた眉を下げて笑った。
 だって、また泣き出したら困るし、絶対に泣かないなんて事はあるわけがないし、そもそもどう抱っこしたらいいのか分からない。しかも、すごく小さくて。落としたくないしまた直ぐ泣き出すんじゃないかとびくびくするナルトを余所に、カカシは抱き抱えているミライへ目を落とす。小さな背中を優しくぽんぽんと叩いているから。その姿をじっと見つめた。
「先生ってさ」
 思わずぽつりと出た言葉にカカシが、ん?とこっちを向く。
「そういうの得意とか、知らなかった」
 素直にそう口にすれば、カカシは、ああ、と視線をまたミライに戻しながら、小さく笑う。
「どうだろうな。別に得意じゃないし、俺には子供はいないけど。昔はこういう任務がしょっちゅうあったのよ」
 ほら、戦争とか。色々ある中で孤児も増えたからね。
 何気なく話す、事実だろうその言葉に。自分の幼少期の頃が思い浮かび、そしてつい少し前に戦争を体験した自分からは、どう言葉を紡いだらいいのか分からず。そっか、と返した。
 ミライは、あやすカカシの顔を見上げ、無垢な笑みを浮かべ、笑う。その笑い顔を見て、カカシもつられるように目を細めると、優しく微笑んだ。
 口布はしているものの、写輪眼はなくなり、額宛で顔を隠す事はしていないその横顔は、昔から見てきた顔で。見慣れているはずなのに。
 見つめる先のカカシは。涼しげな目元に、通っている鼻筋は綺麗で。透けるような白い肌に、そして伏せている銀色の睫は長い。ずっと見たいと思っていた素顔は、顔のラインからして、何故か容易く想像出来た。
 火影であり、自分の元上忍師であり、尊敬する忍びだと、今も変わらずそう思っているが。それよりも。今更だが、顔がいい。すごく整っている。
「どーかした?」
 気がつけば、カカシがこっちを見ていた。引くくらいに整った顔で、不思議そうな顔を向けている。いや、とナルトは首を振りながらも、
「・・・・・・イルカ先生って面食いだったんだなあって」
 ぼそりと言うナルトに、カカシが驚きに目を丸くするが、腑に落ちたんだから仕方がない。平然としているナルトに、お前、何言ってんの?と、白い肌を赤くして、カカシは困った顔を見せる。
「それ、先生の前で言わないでね」
 泣き叫ぶ赤子には全く物おじさえしなかったのに。火影らしからぬ情けない顔を見せるから。
 ナルトは、可笑しそうに声を立てて笑った。 
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。