カカイルワンライ「セカンドキス」

 午後、イルカは木々が立ち並ぶアカデミーの裏庭で遅めの休憩を取っていた。遅めの昼休憩がある日は基本弁当を作っていて。今日も昨日の夕飯のおかずをメインに入れた、とても色鮮やかとは言えない弁当を広げ、大きめのおにぎりを口にする。コロッケに箸を向けた時、
「弁当?」
 背後で声が聞こえ、イルカは体をびくりとさせた。
 その声で誰かは直ぐに分かったものの、振り返り、顔を見て。胸をなで下ろしながらもその相変わらずの気配のなさに、責めるような目をカカシへ向けた。
「驚かさないでください」
 イルカがそう口にするが、本人は全くそのつもりもなかったんだろうが、眉を下げたカカシは、ごめんね、と口にしながらイルカの横に腰を下ろした。そこから弁当へ目を向ける。
「先生料理するって言ってたもんね」
 感心を含んだ声に、イルカは恥ずかしそうに、ええ、まあ、と笑顔を浮かべた。確かにそうは言ったし間違ってもないが、得意と言えるほど腕はなく。見ての通り炒めたキャベツやピーマン以外は茶色いものばかりが弁当箱を占め、おにぎりも男の手で握っているからでかくて、とても誉めてもらえるような弁当ではない。
「ほとんどが夕飯の残りなんです」
 色気がない弁当で、と言えば、カカシは首を振った。
「そんな事ないよ。すごく美味そう」
 にっこり笑って言うから。イルカはそれを真に受けるべきか迷いながらも、ありがとうございます、と微笑みを返せば、カカシも笑顔を見せた。
「で、カカシさんは昼何食べたんですか?」
 箸を弁当に伸ばしながら言えば、隣で胡座を掻きながら、俺?と聞き返した。
「今日はね、土筆屋の弁当」
 土筆屋と言えば、同じ弁当と名が付くとは言え、老舗の料亭の里お墨付きの弁当で。イルカはそれに驚く。当たり前だが自分の弁当なんかとは天と地だ。比べることさえ可笑しい。流石上忍と言わずにはいられない。
「俺もそんな弁当食べてみたいですよ」
 素直に口を尖らせながら言えば、カカシは、何で?と笑った。
「確かに値段に見合った内容だけど、俺は先生の作った弁当の方がいいな」
 今度俺にも作って?
 面と向かって微笑みながら言われ。イルカの頬が赤く染まった。恥ずかしさに弁当へ目を落とす。まあ確かにつきあい始めて間もないとは言え、恋人同士なのは確かで。イルカは恥ずかしさに野菜炒めをもぐもぐと食べながらも、こんなんでよければ、と返事をした。
 しかしカカシは変わっている。
 こんな自分を好きだと言うし。それに俺だったら自分の弁当なんかより絶対土筆屋の弁当を選ぶ。普段買えないし、食べられないような海老や牛肉やら、高級食材がふんだんに使われているし何より絶対美味い。まあ、きっとカカシさんぐらいにもなると食べ飽きてたりするんだろうが。
 まあでも、安くても肉やのコロッケは何より自分の好物だ。
 コロッケを食べながら、冷めてはいてもやっぱりおいしい、と実感し幸せを感じた時、ふとかげり、目を上げると隣に座っていたカカシとの距離が縮まっていた。イルカは思わず箸を持っていた手で、駄目です、と弁当を押さえる。
「コロッケはすみません、とっておきなんです。卵焼きならいいですけど」
 それとも野菜炒めにしますか?
 言った後に流石に子供っぽかったかと思うが、本音だから仕方がない。カカシを見ると、少しだけ困った顔をするから。イルカは不思議そうに僅かに首を傾げた。
 そのカカシの困った顔を見たのは今日は二回目だった。午前中、報告所で一人業務をしていたら、カカシが顔を見せた。書類整理していた手を止め、カカシの報告書を受け取り一つ一つの項目を確認をしていて。カカシが屈みこっちに近づく気配を感じたから、どこかにミスでもあったんだと思い、イルカは直ぐに、記入漏れですね、どうぞ、とカカシに先にペンを向けた。そこから顔を上げれば、同じように困った顔をしていて。大丈夫、と微笑むだけで。
 カカシはその時も、今もそんな顔をするのに、何も言わない。
 もしかして、俺なんか困らせてる?
 そう思うも心当たりなんかあるはずもない。それか、自分が選んだ言葉が不味かったのか。心当たりを自分なりに探るがいまいち分からない。ただ、カカシが遠慮しているのは分かる。まだ恋人になって日が浅いからなのか。
 あ、それか、もしかしておにぎりだったのか。
「おにぎり、食べますか?」
 中身はこんぶです。
 そう口にしながらおにぎりを差し出せば、おにぎりではなく、手を掴まれイルカは目を丸くした。
 何でおにぎりだけではなく、手も一緒に掴むのか。驚くイルカにカカシがぐっと顔を近づける。真剣だが、じっとこっちを見つめる目はおにぎりを食べたいと物語っているようにはとても見えない。意味が分からず見つめ返しかなくて、あの、とイルカが言い掛けた時、そうじゃくて、とカカシがその言葉を遮る。
「ちゅーしたいの」
 迫るカカシに、その真剣な表情に。そして疎い自分でも分かるその台詞は頭を混乱させた。男同士とは言えカカシの告白に自分が頷いたのは、当然、好きだからだ。二十台半ばも過ぎで恋人同士だったら何をするかなんて知らないわけがない。分かった上で頷いた。しかし自分は過去キスすらろくにしたとこがなくて。
 そこで、報告所や、ついさっきのカカシの行動の意味をここで、ようやく知る。情けなさが沸き上がるが、それでも、唐突すぎて頭が追いつかなくて顔を赤くするだけで固まイルカに、
「キス、しよ?」
 もう一度、カカシが強請るように口にする。
 動揺しながらも、キスはいいけど、でも、木々で視界が遮られていてもアカデミーの裏だし、いや、今はきっと授業中で誰も見ていないのか、とか、と思考がぐるぐる回り答えられずにいると、カカシが口布を下げた。ゆっくりと顔が近づき、カカシの唇が自分の唇とゆっくりと重なる。

 人生二度目のキスはコロッケの味がしたと告げたら、可笑しそうに、嬉しそうに、カカシは笑った。
  
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