カカイルワンライ「お忍びデート」
わずかに開いたカーテンから覗く太陽の光に深い睡眠から覚醒したイルカは、もぞりと身体を動かす。同時に感じる自分のものではない温もりと寝息。そして、忘れるわけがない、昨日までのはっきりとした記憶に、とうとうやっちまったんだなあ、とイルカは実感しながら、うっすら開けた目に映るカカシを見つめた。
ナルトが下忍になった時に知り合い、上忍と中忍の関係ではあったが、そこからなんだかんだで一緒に飲んだり飯を食べたりする関係を続けていた。友人と言っていいのか分からない、この関係を繋いでいてくれたものは、最初からナルト達に他ならないと分かっていたから。カカシが上忍師をお役ごめんになった時から、徐々に自分から距離を取った。自分は自分でいつもの業務に加えて五代目からの雑用も増え、カカシは昼夜関係のない単独任務。これでいいんだと思っていた時、夜遅くにカカシが自分の家を訪れた。
カカシは明らかに酔っていた。任務で嫌なことでもあったのか、それとも自来也と共に里を出たナルトの事か、サスケの事か。理由はいくらでも想像出来たから、普段そこまで酔わないカカシに自分なんかが責める事なんて出来るわけがない。
部屋に入れてコップに入れた水をカカシに渡し、話につき合うつもりで自分もカカシの前に座った。そこから大して話もしてない内に押し倒された。自分が人恋しかったのは確かだった。それが理由だといったらなんともお粗末なものかもしれないが。でも、だからと言って相手が誰でもいいわけではなかった。カカシが自分に覆い被さってきた時、感じものは嫌悪でも何でもない。安堵だった。唇を重ねながら、カカシも寂しかったんだと、それが分かったら、胸が苦しくなって。そして自分を選んでくれた事が嬉しかった。理由はそれだけで十分だった。だから、許した。
もちろんカカシの与えられた快楽に痛みも伴ったが、後悔はない。ただ、酔っていた勢いで、一晩だけの関係を求めてきたのかもしれないと、今更ながらに不安になる自分に、目を開けたカカシは、おはよう、と幸せそうに微笑むと、イルカを優しく抱きしめた。
俺たちってそういう事でいいんだよね?
部屋を出る時、服を着込んだカカシが念を押すように、こっちを向いてそう口にしたから、少しだけ驚いた。その台詞が、曖昧だなあ、と突っ込みたくもなるが。色んなものをすっ飛ばしてしまった事を後悔しているんだと、明らかにそんな顔をしているから。
「まあ、順番は違いますが」
と肯定するが、それは今更だ。苦笑いを浮かべるイルカに、カカシも苦笑しながら眉を下げる。
「俺、二日間里にいないけど、帰ったら一緒に飯でもどう?」
了承を求められイルカが頷くと、カカシは安心した顔で部屋を出ていった。
それが二日前。
イルカは病院にいた。執務室へ顔を出した時に、ついでにと(どういうついでかは全く分からないが)綱手に頼まれた書類や本を持ってサクラがいる病棟へ足を向ける。
イルカの顔を見てサクラはいつもの笑顔を浮かべるから、それに内心安堵する。状況が状況だから、仕方がないと分かっているが、塞ぎ込んだ顔を目にする事があった。だけど当たり前だがそれを見せようとはしないのはサクラらしい。
廊下の一番奥にある窓際で。そこにあるソファに座りながら、医学書を熱心に読みふけっていたサクラは、イルカの顔を見て立ち上がる。
綱手に頼まれたものを手渡せば、その本を見てサクラはうんざりしたような顔を浮かべた。
「師匠の宿題がイルカ先生に比べたらあまりにも多くて」
どうした?と聞く前にサクラは素直に白状して、盛大なため息を吐き出すから、思わず笑ってしまっていた。ひどい、とサクラがこっちを見るから、いや、だってな、と取り繕うようにイルカは口を開く。
「サクラのそんな顔初めて見たから」
言いながらイルカは後頭部を掻き、でもそれだけお前に期待してるって事だろう。そう結べば、不満そうな顔をしながらも、サクラは頷いた。分かってます、と肩を竦める。
「やるべき事をやるまでですよね」
不満そうにしながらも、やけにすっきりとした顔で言うから。自分があれこれ言う事も、心配する事もないと感じる。今サクラの能力を一番分かってるのはきっと綱手だ。何年も生徒の成長を見守ってきても、この寂しさに慣れる事はない。内心苦笑いを浮かべた時、廊下に姿を見せた人影にイルカは顔を上げた。
それは二日ぶりに見たカカシの姿だった。
あ、先生、とサクラも反応を見せる。
カカシはいつものように、手をポケットに入れながら歩いてくる。
今日約束を忘れていたわけではないが、カカシの顔を見ば嫌でも二日前の事を思い出すから、それを顔に出さないよう努める。何年も前からカカシとは顔を合わせば話す仲だった。だから何もおかしいことはない。そう心の中で呟きながら、イルカもカカシに頭を下げれば、カカシもいつもと同じ様に会釈を返した。
「どうしたんですか、カカシ先生」
ストレートに聞くサクラに、カカシは、いやね、と後頭部を掻きながら口を開く。
「今回任務で同行してた中忍が怪我を負ったから、それの付き添い」
「カカシ先生は怪我は?」
イルカが聞く前にサクラが聞き、カカシは首を横に振った。その通り、服が汚れてはいるがどこも怪我はない。
無茶をした風でもないカカシに納得したのか、サクラは、そう、と軽く頷く。すっかり医療忍者の顔になった事に内心感慨深くなりながらも、
「無事で良かったです」
イルカもまたそう言えば、カカシはこっちを見た。にこりと微笑み、うん、と頷く。
それじゃ、俺もう行くから、と言いながら、そうだ、とイルカに目を向ける。それだけの事なのに、ドキリとした。
「次の任務の調整でお願いしたい事あるんだけど、報告済ませたら後で受付に寄ってもいい?」
火影が綱手になってから、自分が戦忍の任務を綱手から直接頼まれる事が多くなっていた。要は人手が足らないのが主な理由だが。
「分かりました」
頷きそう返せば、カカシはポケットから手を出してイルカの肩をぽんと叩く。
「じゃあまた後でね」
言うとカカシは背中を見せ、廊下を歩き階段を降りていく。
自分もそろそろ戻ろうとサクラへ顔を向けた瞬間、
「イルカ先生」
サクラに腕を掴まれる。腕を掴まれる事よりもその力に驚き、どうした?、と言う間もなく、
「今の、何ですか」
続けて真顔で聞かれ、イルカは首を傾げた。
今の、とはどの事だ。
「今のって、何がだ?」
「カカシ先生です」
きょとんとするイルカに、カカシの名前を出され、ドキッとした。急速にそこから心臓が動き出す。今の会話におかしなところはなかったはずだ。あんな風に話すのも、昔からで。ナルト達の前で世間話だってしたはずなのに。何を急に言い出すのか。今だってカカシは任務の調整の件で話ただけで、聞き返さなければいけないのに、それが億劫になる。でもそれをまたおかしいと思われたくない。イルカは動揺を顔に出さないようにサクラを見る。
「カカシ先生がどうかしたのか」
「肩を触ったじゃないですか」
即答され、イルカは頷くしかなかった。ナルトを介して出会ってから、何年ものつき合いの中でそんな事はきっとあったに違いないと、記憶をたぐり寄せながらも、そうだな、と答えると、大きな目がイルカを覗き込む。
「今まで、カカシ先生はあんな事しなかった」
はっきりとサクラは口にする。その鋭さに、それが間違っていないんだと、悟る。仲良くはあったが、カカシが自分から人前で触れてきた事は確かになかったのかもしれない。そう、なかった。
二日前に関係がガラリと変わり、カカシが無意識であろうした事が嬉しくもあるが、サクラが気が付くほど匂わせてしまったのは事実で。
ただ、今日も約束していて。デートと言うにはほど遠いが。忍ぶべきなのは明らかで。とにかく、これからどうすべきかカカシさんと話す必要あるなあ、と思えば、可笑しいですよね?と真剣に聞いてくるサクラの純真な眼差しは昔と変わらず可愛い。しかし、とぼければとぼけるほど笑う頬が痛い。
たった一つの仕草に気が付き、見抜くサクラの鋭さに舌を巻く。こんな事でさえ成長を感じる自分におかしくもなるが、正解、と言うことも出来ず、イルカはただ、苦笑いを浮かべた。
ナルトが下忍になった時に知り合い、上忍と中忍の関係ではあったが、そこからなんだかんだで一緒に飲んだり飯を食べたりする関係を続けていた。友人と言っていいのか分からない、この関係を繋いでいてくれたものは、最初からナルト達に他ならないと分かっていたから。カカシが上忍師をお役ごめんになった時から、徐々に自分から距離を取った。自分は自分でいつもの業務に加えて五代目からの雑用も増え、カカシは昼夜関係のない単独任務。これでいいんだと思っていた時、夜遅くにカカシが自分の家を訪れた。
カカシは明らかに酔っていた。任務で嫌なことでもあったのか、それとも自来也と共に里を出たナルトの事か、サスケの事か。理由はいくらでも想像出来たから、普段そこまで酔わないカカシに自分なんかが責める事なんて出来るわけがない。
部屋に入れてコップに入れた水をカカシに渡し、話につき合うつもりで自分もカカシの前に座った。そこから大して話もしてない内に押し倒された。自分が人恋しかったのは確かだった。それが理由だといったらなんともお粗末なものかもしれないが。でも、だからと言って相手が誰でもいいわけではなかった。カカシが自分に覆い被さってきた時、感じものは嫌悪でも何でもない。安堵だった。唇を重ねながら、カカシも寂しかったんだと、それが分かったら、胸が苦しくなって。そして自分を選んでくれた事が嬉しかった。理由はそれだけで十分だった。だから、許した。
もちろんカカシの与えられた快楽に痛みも伴ったが、後悔はない。ただ、酔っていた勢いで、一晩だけの関係を求めてきたのかもしれないと、今更ながらに不安になる自分に、目を開けたカカシは、おはよう、と幸せそうに微笑むと、イルカを優しく抱きしめた。
俺たちってそういう事でいいんだよね?
部屋を出る時、服を着込んだカカシが念を押すように、こっちを向いてそう口にしたから、少しだけ驚いた。その台詞が、曖昧だなあ、と突っ込みたくもなるが。色んなものをすっ飛ばしてしまった事を後悔しているんだと、明らかにそんな顔をしているから。
「まあ、順番は違いますが」
と肯定するが、それは今更だ。苦笑いを浮かべるイルカに、カカシも苦笑しながら眉を下げる。
「俺、二日間里にいないけど、帰ったら一緒に飯でもどう?」
了承を求められイルカが頷くと、カカシは安心した顔で部屋を出ていった。
それが二日前。
イルカは病院にいた。執務室へ顔を出した時に、ついでにと(どういうついでかは全く分からないが)綱手に頼まれた書類や本を持ってサクラがいる病棟へ足を向ける。
イルカの顔を見てサクラはいつもの笑顔を浮かべるから、それに内心安堵する。状況が状況だから、仕方がないと分かっているが、塞ぎ込んだ顔を目にする事があった。だけど当たり前だがそれを見せようとはしないのはサクラらしい。
廊下の一番奥にある窓際で。そこにあるソファに座りながら、医学書を熱心に読みふけっていたサクラは、イルカの顔を見て立ち上がる。
綱手に頼まれたものを手渡せば、その本を見てサクラはうんざりしたような顔を浮かべた。
「師匠の宿題がイルカ先生に比べたらあまりにも多くて」
どうした?と聞く前にサクラは素直に白状して、盛大なため息を吐き出すから、思わず笑ってしまっていた。ひどい、とサクラがこっちを見るから、いや、だってな、と取り繕うようにイルカは口を開く。
「サクラのそんな顔初めて見たから」
言いながらイルカは後頭部を掻き、でもそれだけお前に期待してるって事だろう。そう結べば、不満そうな顔をしながらも、サクラは頷いた。分かってます、と肩を竦める。
「やるべき事をやるまでですよね」
不満そうにしながらも、やけにすっきりとした顔で言うから。自分があれこれ言う事も、心配する事もないと感じる。今サクラの能力を一番分かってるのはきっと綱手だ。何年も生徒の成長を見守ってきても、この寂しさに慣れる事はない。内心苦笑いを浮かべた時、廊下に姿を見せた人影にイルカは顔を上げた。
それは二日ぶりに見たカカシの姿だった。
あ、先生、とサクラも反応を見せる。
カカシはいつものように、手をポケットに入れながら歩いてくる。
今日約束を忘れていたわけではないが、カカシの顔を見ば嫌でも二日前の事を思い出すから、それを顔に出さないよう努める。何年も前からカカシとは顔を合わせば話す仲だった。だから何もおかしいことはない。そう心の中で呟きながら、イルカもカカシに頭を下げれば、カカシもいつもと同じ様に会釈を返した。
「どうしたんですか、カカシ先生」
ストレートに聞くサクラに、カカシは、いやね、と後頭部を掻きながら口を開く。
「今回任務で同行してた中忍が怪我を負ったから、それの付き添い」
「カカシ先生は怪我は?」
イルカが聞く前にサクラが聞き、カカシは首を横に振った。その通り、服が汚れてはいるがどこも怪我はない。
無茶をした風でもないカカシに納得したのか、サクラは、そう、と軽く頷く。すっかり医療忍者の顔になった事に内心感慨深くなりながらも、
「無事で良かったです」
イルカもまたそう言えば、カカシはこっちを見た。にこりと微笑み、うん、と頷く。
それじゃ、俺もう行くから、と言いながら、そうだ、とイルカに目を向ける。それだけの事なのに、ドキリとした。
「次の任務の調整でお願いしたい事あるんだけど、報告済ませたら後で受付に寄ってもいい?」
火影が綱手になってから、自分が戦忍の任務を綱手から直接頼まれる事が多くなっていた。要は人手が足らないのが主な理由だが。
「分かりました」
頷きそう返せば、カカシはポケットから手を出してイルカの肩をぽんと叩く。
「じゃあまた後でね」
言うとカカシは背中を見せ、廊下を歩き階段を降りていく。
自分もそろそろ戻ろうとサクラへ顔を向けた瞬間、
「イルカ先生」
サクラに腕を掴まれる。腕を掴まれる事よりもその力に驚き、どうした?、と言う間もなく、
「今の、何ですか」
続けて真顔で聞かれ、イルカは首を傾げた。
今の、とはどの事だ。
「今のって、何がだ?」
「カカシ先生です」
きょとんとするイルカに、カカシの名前を出され、ドキッとした。急速にそこから心臓が動き出す。今の会話におかしなところはなかったはずだ。あんな風に話すのも、昔からで。ナルト達の前で世間話だってしたはずなのに。何を急に言い出すのか。今だってカカシは任務の調整の件で話ただけで、聞き返さなければいけないのに、それが億劫になる。でもそれをまたおかしいと思われたくない。イルカは動揺を顔に出さないようにサクラを見る。
「カカシ先生がどうかしたのか」
「肩を触ったじゃないですか」
即答され、イルカは頷くしかなかった。ナルトを介して出会ってから、何年ものつき合いの中でそんな事はきっとあったに違いないと、記憶をたぐり寄せながらも、そうだな、と答えると、大きな目がイルカを覗き込む。
「今まで、カカシ先生はあんな事しなかった」
はっきりとサクラは口にする。その鋭さに、それが間違っていないんだと、悟る。仲良くはあったが、カカシが自分から人前で触れてきた事は確かになかったのかもしれない。そう、なかった。
二日前に関係がガラリと変わり、カカシが無意識であろうした事が嬉しくもあるが、サクラが気が付くほど匂わせてしまったのは事実で。
ただ、今日も約束していて。デートと言うにはほど遠いが。忍ぶべきなのは明らかで。とにかく、これからどうすべきかカカシさんと話す必要あるなあ、と思えば、可笑しいですよね?と真剣に聞いてくるサクラの純真な眼差しは昔と変わらず可愛い。しかし、とぼければとぼけるほど笑う頬が痛い。
たった一つの仕草に気が付き、見抜くサクラの鋭さに舌を巻く。こんな事でさえ成長を感じる自分におかしくもなるが、正解、と言うことも出来ず、イルカはただ、苦笑いを浮かべた。
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