カカイルワンライ「唇に触れる」
腕を掴まれたのは八百屋の店主に釣り銭を受け取った時だった。
掴んだ相手の顔を見て、久しぶりだなと言う前にナルトが、いいからこっち来てってば、といつにもなく強引に腕を引く。昔からこんな感じだと分かってはいるが、ナルトの見せる笑顔から感じるのは過去何度も見た何かを企んでいる顔で、それを見逃すはずもない。
商店街から引っ張り出される前にイルカは、ちょっと待て、と足に力を入れる。ナルトの足を止めた。
「えー、何だよ」
当たり前に不満そうな顔をするナルトにイルカはため息をつく。あのなあ、と呆れながらナルトを見た。
「俺は見ての通り買い物中なんだ、なんか用があるならここで言え」
イルカは買い物袋をぶら下げながら腕を組み、ナルトの顔を見る。
いくら久しぶりで顔を見て嬉しくなろうとも。昔から落とし穴やら待ち伏せお色気の術やら、両手では数えきれないくらいの悪戯を受けてきたのだ。分かっていながらみすみすかかるほど馬鹿じゃない。
はっきりと言えば、ナルトは、えー、とまたしても不満声を上げるから、イルカは胡乱な眼差しを向ける。
「どうせ木の葉丸と下らない事でも考えてるんじゃないのか?」
魂胆はお見通しだと、そんな目をすれば、分かりやすいくらいにギクリとするナルトに、イルカは腕を組んだまま嘆息した。
アカデミーを卒業してから、いや、卒業前から、他の生徒と同じくナルトの成長を感じてはいたが、こう言う面に関しては成長してない。悪戯ばかりしていた自分が強く言えたものではないが、自分は腐ってもアカデミーの教師だ。
そこまで思ったところで、早々にバレた事に苦笑いを浮かべ誤魔化すように金色の頭を掻くナルトに。悪戯だと分かっていても言い方を変えれば良かったと、多少後悔が混じるのは、自分の機嫌の悪さが入ってしまった自覚があるからで。イルカは咎めるような表情を解きながら、ゆっくり息を吐き出した。ナルト見つめる。
「でもまあ、行くだけなら行ってもいいけど、どうする?」
白けさせたから、とそれを理由にするわけではないが。それでもいいならと口にするイルカに、ナルトは反応するように嬉しそうに顔を上げた。
言ったことを撤回するには早すぎるのかもしれないが。ナルトに腕を引かれながら、連れてかれる先がカカシだと知った時は、さっさと帰ってしまうべきだったと後悔した。
何でカカシなんだとナルトを責めてもいいが、それは見当違いもいいとこで、ナルトは関係ない。しかも、その連れていかれる理由を聞けば聞くほどに自分の不機嫌さが増していくのを止められなく、それを顔に出さないように努めるのが精一杯だった。
あなたが好きです。
カカシからそう告げられたのはすこし前。当然、イルカは困惑し、そして断った。
嫌いだからでも同性だからでもない。カカシは自分の世代からしたら憧れで、だからこそ、断る理由はいくらでもあった。実際にビンゴブックにも載るほどの忍びでもあり、里を誇る忍びで。なのになんで俺なのか。
断ったのだから、それで終わればいいものを、どういうつもりなのか、カカシは諦めなかった。
教員や事務の女性でさえ目で追うくらいにモテるんだから、相手なんかいくらだって見つかるだろうに。一体何で諦めないのか。幾度となく誘われればこっちだって周りから揶揄されるわけで。それにうんざりしていた時にこれだ。
正直嫌味としか思えない。憤りに近いものを感じながら、イルカは手を引かれるままついていった。
お前の期待通りにはなりっこないぞ。
ナルトに事前にそう伝えた通り、連れてこられたイルカをカカシが見て、多少驚いた顔はしたが、ナルトが分かるほど表情が変わる事はなかった。
検討が外れた事にナルトはがっかりしながらも大人しく帰って行く。その姿を見送った後イルカはカカシを見た。
このまま口を利かずに帰っても良かったが。今更そんな気分にはなれない。向き合ったカカシに、それで?とイルカは口を開いた。
「どういうつもりですか」
冷えた言葉がイルカから出る。
しつこいとか、そんなんじゃなく。
何がしたいのか。
不信な目を向けるイルカにカカシは、悪びれる様子もなく、眉を下げた。
「ホントに連れてくるとか思わないじゃない」
緊張感のない笑みと、間延びしてる声は相変わらずだ。苛立ちのままに、俺だって暇じゃないんですよ、と言えば、カカシから、だよね、と直ぐに返る。イルカは、それに、とため息混じりに後頭部をかいた。
「俺が怖いってどういう事ですか」
真っ直ぐカカシを見つめる。
ナルトから、カカシにとって怖いものはなにかと聞いたら、イルカ先生と返ってきたと、そう聞いた時は馬鹿らしいと真底思った。そんな冗談、信じるナルトもナルトだが。言う方も言う方だ。
カカシからは直ぐに返事はない。馬鹿みたいに真面目でナルトの悪戯にもひっかかるぐらいだ。それを否定はしないが。ただ、ナルトとカカシじゃ話が違う。面白い話にしたかったのかもしれないが。
「生憎俺はまんじゅうでもなんでもないんで、」
呆れながらも言い捨てるように言いかけた時、
「怖いよ」
カカシにハッキリ言われて、イルカは言いかけた言葉を止めた。
少しだけ面食らうイルカに、不満そうな顔で、だって、とカカシは口を開く。
「あなたに嫌われるの、怖いもん」
そんな事を言われ、呆れるし直ぐにでも言い返したいのに。落ち込むカカシの顔を見たら、言葉が出てこなかった。
イルカは開きかけた口を結ぶ。眉根を寄せた。
そもそも。カカシの告白を断ったのは。
到底自分じゃ釣り合わない。
それが自分の出した答えだったのに。
だってそうだろう。俺だぜ?
イルカは髪が乱れるのを気にすることなく、またガシガシと頭を掻く。
諦めてくれれば、自分も諦めがついたのに。
どこまでも冗談にはしてくれない。それが、今回の件でよく分かった。
イルカはゆっくりと息を吐き出す。
うーん、と唸りながら、イルカは腕組みをし、そしてカカシを見る。
「じゃ、……付き合ってみますか」
OKしたからって、どうなるかなんて分からない。それでもよければ、と言う間にカカシに抱きつかれ、イルカは驚きのあまり、ギャッ、と声を上げた。
驚いて当たり前なのに。更に口布を下げて顔を近づけられ、触れそうになる唇にに。イルカは全力でカカシを突っぱねる。
どうしたの?と不思議そうに聞きながらも離れようとしないカカシに思わずイルカは睨んでいた。
「手が早いんだよ、アンタは!」
噂通りの手の早さに、承諾したことを後悔させないでくれと、顔を真っ赤にしながら責めれば、責めているのに、カカシは嬉しそうな顔をする。もちろん、と言いながら、見た事もないような顔で。ふにゃりと幸せそうに笑った。
掴んだ相手の顔を見て、久しぶりだなと言う前にナルトが、いいからこっち来てってば、といつにもなく強引に腕を引く。昔からこんな感じだと分かってはいるが、ナルトの見せる笑顔から感じるのは過去何度も見た何かを企んでいる顔で、それを見逃すはずもない。
商店街から引っ張り出される前にイルカは、ちょっと待て、と足に力を入れる。ナルトの足を止めた。
「えー、何だよ」
当たり前に不満そうな顔をするナルトにイルカはため息をつく。あのなあ、と呆れながらナルトを見た。
「俺は見ての通り買い物中なんだ、なんか用があるならここで言え」
イルカは買い物袋をぶら下げながら腕を組み、ナルトの顔を見る。
いくら久しぶりで顔を見て嬉しくなろうとも。昔から落とし穴やら待ち伏せお色気の術やら、両手では数えきれないくらいの悪戯を受けてきたのだ。分かっていながらみすみすかかるほど馬鹿じゃない。
はっきりと言えば、ナルトは、えー、とまたしても不満声を上げるから、イルカは胡乱な眼差しを向ける。
「どうせ木の葉丸と下らない事でも考えてるんじゃないのか?」
魂胆はお見通しだと、そんな目をすれば、分かりやすいくらいにギクリとするナルトに、イルカは腕を組んだまま嘆息した。
アカデミーを卒業してから、いや、卒業前から、他の生徒と同じくナルトの成長を感じてはいたが、こう言う面に関しては成長してない。悪戯ばかりしていた自分が強く言えたものではないが、自分は腐ってもアカデミーの教師だ。
そこまで思ったところで、早々にバレた事に苦笑いを浮かべ誤魔化すように金色の頭を掻くナルトに。悪戯だと分かっていても言い方を変えれば良かったと、多少後悔が混じるのは、自分の機嫌の悪さが入ってしまった自覚があるからで。イルカは咎めるような表情を解きながら、ゆっくり息を吐き出した。ナルト見つめる。
「でもまあ、行くだけなら行ってもいいけど、どうする?」
白けさせたから、とそれを理由にするわけではないが。それでもいいならと口にするイルカに、ナルトは反応するように嬉しそうに顔を上げた。
言ったことを撤回するには早すぎるのかもしれないが。ナルトに腕を引かれながら、連れてかれる先がカカシだと知った時は、さっさと帰ってしまうべきだったと後悔した。
何でカカシなんだとナルトを責めてもいいが、それは見当違いもいいとこで、ナルトは関係ない。しかも、その連れていかれる理由を聞けば聞くほどに自分の不機嫌さが増していくのを止められなく、それを顔に出さないように努めるのが精一杯だった。
あなたが好きです。
カカシからそう告げられたのはすこし前。当然、イルカは困惑し、そして断った。
嫌いだからでも同性だからでもない。カカシは自分の世代からしたら憧れで、だからこそ、断る理由はいくらでもあった。実際にビンゴブックにも載るほどの忍びでもあり、里を誇る忍びで。なのになんで俺なのか。
断ったのだから、それで終わればいいものを、どういうつもりなのか、カカシは諦めなかった。
教員や事務の女性でさえ目で追うくらいにモテるんだから、相手なんかいくらだって見つかるだろうに。一体何で諦めないのか。幾度となく誘われればこっちだって周りから揶揄されるわけで。それにうんざりしていた時にこれだ。
正直嫌味としか思えない。憤りに近いものを感じながら、イルカは手を引かれるままついていった。
お前の期待通りにはなりっこないぞ。
ナルトに事前にそう伝えた通り、連れてこられたイルカをカカシが見て、多少驚いた顔はしたが、ナルトが分かるほど表情が変わる事はなかった。
検討が外れた事にナルトはがっかりしながらも大人しく帰って行く。その姿を見送った後イルカはカカシを見た。
このまま口を利かずに帰っても良かったが。今更そんな気分にはなれない。向き合ったカカシに、それで?とイルカは口を開いた。
「どういうつもりですか」
冷えた言葉がイルカから出る。
しつこいとか、そんなんじゃなく。
何がしたいのか。
不信な目を向けるイルカにカカシは、悪びれる様子もなく、眉を下げた。
「ホントに連れてくるとか思わないじゃない」
緊張感のない笑みと、間延びしてる声は相変わらずだ。苛立ちのままに、俺だって暇じゃないんですよ、と言えば、カカシから、だよね、と直ぐに返る。イルカは、それに、とため息混じりに後頭部をかいた。
「俺が怖いってどういう事ですか」
真っ直ぐカカシを見つめる。
ナルトから、カカシにとって怖いものはなにかと聞いたら、イルカ先生と返ってきたと、そう聞いた時は馬鹿らしいと真底思った。そんな冗談、信じるナルトもナルトだが。言う方も言う方だ。
カカシからは直ぐに返事はない。馬鹿みたいに真面目でナルトの悪戯にもひっかかるぐらいだ。それを否定はしないが。ただ、ナルトとカカシじゃ話が違う。面白い話にしたかったのかもしれないが。
「生憎俺はまんじゅうでもなんでもないんで、」
呆れながらも言い捨てるように言いかけた時、
「怖いよ」
カカシにハッキリ言われて、イルカは言いかけた言葉を止めた。
少しだけ面食らうイルカに、不満そうな顔で、だって、とカカシは口を開く。
「あなたに嫌われるの、怖いもん」
そんな事を言われ、呆れるし直ぐにでも言い返したいのに。落ち込むカカシの顔を見たら、言葉が出てこなかった。
イルカは開きかけた口を結ぶ。眉根を寄せた。
そもそも。カカシの告白を断ったのは。
到底自分じゃ釣り合わない。
それが自分の出した答えだったのに。
だってそうだろう。俺だぜ?
イルカは髪が乱れるのを気にすることなく、またガシガシと頭を掻く。
諦めてくれれば、自分も諦めがついたのに。
どこまでも冗談にはしてくれない。それが、今回の件でよく分かった。
イルカはゆっくりと息を吐き出す。
うーん、と唸りながら、イルカは腕組みをし、そしてカカシを見る。
「じゃ、……付き合ってみますか」
OKしたからって、どうなるかなんて分からない。それでもよければ、と言う間にカカシに抱きつかれ、イルカは驚きのあまり、ギャッ、と声を上げた。
驚いて当たり前なのに。更に口布を下げて顔を近づけられ、触れそうになる唇にに。イルカは全力でカカシを突っぱねる。
どうしたの?と不思議そうに聞きながらも離れようとしないカカシに思わずイルカは睨んでいた。
「手が早いんだよ、アンタは!」
噂通りの手の早さに、承諾したことを後悔させないでくれと、顔を真っ赤にしながら責めれば、責めているのに、カカシは嬉しそうな顔をする。もちろん、と言いながら、見た事もないような顔で。ふにゃりと幸せそうに笑った。
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