カカイルワンライ「ナルト」

 執務室で夜の任務の説明を受けたカカシは建物を出る。
 のんびり歩きながら少し早いけど昼飯にしようかと思った時にふと感じた気配に足を止め、どうしようか迷ったが。カカシは顔を向けた方へ歩き出した。
「よ」
 短い挨拶に河原の草原に仰向けになって寝転がっていたナルトが目線を上げた。立ったまま見下ろすカカシに青い目を向けたものの、大した反応はない。代わりに、なんだカカシ先生かよ、と愛想ない声が返ってきてカカシは小さく笑った。
 なんだはないでしょ、と苦笑するカカシにナルトからの返事はない。腕を枕代わりにしたまま、目は再び青空に向けられる。その青く澄んだ瞳にかつての師が頭に過ぎりながも、見つめる先のナルトがいつもより口数がするないのは気のせいではない。ただ、多感な歳に片足を突っ込んでいようとサクラに比べたらまだまだ単純だ。そこに気に留めるわけでもなく、そーいやさ、とがカカシが口を開いた時、ナルトが勢いよくガバリと起き上がった。
「昨日の、もう一回特訓してくれってば」
 その勢いにカカシは少しだけ目を丸くする。そして昨日のとは、何でもない、手裏剣の特訓だ。手裏剣はアカデミーの必須科目だが、動いている相手に投げる為には先を読めなければならないし、焦れば焦るほどただ闇雲に投げるだけになる。そして躊躇いがあれば尚更で。
 昨日も確かに悔しがってはいたが、せっかくの休みだろうに。サスケと差が縮まらなかったのがよほど悔しかったのか。
 ナルトの元気のなさの理由を知るものの、ただ自分は休みではなく任務を控えているし暇でもないが。しょうがないねえ、とため息混じりに言いながら、カカシは丸くした目を緩ませる。
「じゃ、少しだけやってみよっか」
 言えば、ナルトが立ち上がる。やる気に満ちた顔で頷いた。

「取り敢えず今日はここまでね」
 言えばナルトがあからさまに不満そうな顔を見せたが、当初終わらせる時間よりも長引いているし、ナルトの集中力が切れてきているのは明白で。現に地面に仰向けで倒れているのはチャクラを消耗したからだ。
「急に何でも出来るわけないのは分かってるでしょ」
 そう口にしながらカカシは足元に落ちている手裏剣を数枚拾うとそれを持ちナルトに歩み寄る。
「今日教えたやり方を一人で繰り返してみたら?」
 見下ろしながら言うカカシに、ナルトは悔しいからなのか返事をしない。持ち前の根性は何処かへ行ってしまったのか、はたまたそれは見当違いだったのか。見つめる先でナルトはむくりと起き上がる。
「今日俺誕生日なんだってばよ」
 ナルトの台詞と不意に話題が飛んだ事に内心驚くが、カカシは軽く頷いた。
「知ってるよ。サクラが前言ってたから」
 言いながら拾った手裏剣をナルトに差し出す。
 「なに、お前もしかして俺にラーメン奢れとか言うんじゃないよね」
 いつもは見かけたからといって特訓なんて言わないくせに、それが目的だったのかと。呆れ混じりに言うカカシに、自分から話を振ったくせに、肯定せずにただ、目をこっちに向ける。
「イルカ先生がいいってば」
 カカシは僅かに目を丸くした。
 ラーメンを奢られるならイルカ先生が良いと言っている訳ではないその言葉に。その意味を悟り。そしてカカシは。ふーん、と心で呟きながら口布の下で口端を上げる。
(知ってたか)
 隠している訳でもなかったが、勘づかれるとも思ってなかった。だがまあ、バレたもんは仕方がない。
 ナルトにしては目敏いのは、相手がイルカだからなのは明白だが。
 純粋でいて残酷な要求に短く息を吐き出し、そしてナルトを見つめ返す。
「無理に決まってるでしょ」
 ニコリと微笑むカカシに、ナルトが明らかにムッとした。
 丸で強請ったオモチャを買ってもらえない子供のように不満なそうな顔をするナルトに構わず、手裏剣を手渡す。
「奪れるものなら奪ってみな」
 正直、譲るつもりはない。
 淡い感情を内に秘めた青い目を見つめながら。カカシはにっこりと微笑んだ。

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