カカイルワンライ「大晦日」

 大晦日、仕事納めが三十一日とかあり得ないと愚痴る仲間に、新年から早番じゃないだけいいだろう、となだめながら酒を飲み、居酒屋を出たのが年が明ける少し前。里が稼働していない日がないのは当たり前だが、まあ、やっぱり正月くらいはゆっくりしたいよなあ、と思いながら、酔いが回った足でアパートに向かう。
 近くのコンビニにがある道に差し掛かった時、そのコンビニから出てきた人影にイルカは思わず目を留めた。
 銀色の髪の上忍、はたけカカシはついさっき自分が飲んでいた居酒屋で見かけていて、なんでこんなところにいるんだと思うが、帰るタイミングがたまたま同じくらいで、買い物があったからここにいるだろうし、その通り手には小さなビニール袋を提げている。
 頭を下げれば、カカシも会釈を返し歩く方向が一緒なのか、少し離れた距離を並んで歩く。
 少し前を歩くカカシへ視線を向ければその髪は月夜に照らされ、夜にカカシを見かけることは少ないが、夜の色が似合うなあ、と思っていれば、ふとカカシがこっちへ顔を向けた。
「イルカ先生も今日は仕事だったんですね」
 普段からあまり会話を振られる事がない。話すとすればありきたりな内容ばかりで。しかしその台詞からさっきの居酒屋でカカシがこっちの存在に気がついていたんだろう、イルカは、ええ、と頷いた。
「だから忘年会ってわけじゃないですが、ちょっと呑んでました」
 カカシさんも今日はアスマ上忍と任務で?
 聞けば、まあそんなところです、とカカシから言葉が返ってくる。
 どんな内容でも仕事は仕事だが。同じ大晦日に仕事と云えど内勤と高ランクの任務ではその差は大きい。イルカは素直に、お疲れ様です、と頭を下げた。
 カカシと歩きながら、そこまで沈黙が苦ではないが、気を使わないわけにはいかない。あの店安くて美味いですよね、と会話を続ければ、まあねえ、と特に会話に乗り気ではないような口調で、カカシが間延びした返事をしながら、でもさあ、とそんな言葉を繋げた。
「なんで笑ったの?」
 青みかがったカカシの目が自分へ向けられる。
 不意に聞かれた内容に、目を丸くしながらも、
 バレたか。
 イルカは内心舌打ちしたくなった。
 居酒屋で飲んでいたとき、カカシが他の上忍といたテーブルはたまたま隣で。ただでさえ狭い店で意識しなくとも会話が耳に入る。だから、カカシが甘いものや脂っこいものが苦手なんだと、盗み聞きするつもりもなかったが、聞こえたのだから仕方がない。
 ただ、分かりやすく笑ったつもりはもちろんなかったし、馬鹿にしたつもりは毛頭ない。何でと聞かれてイルカはどう説明すべきか悩むも理由は一つで。しかも誤魔化せる相手ではない。
 観念してイルカは口を開いた。
「意外だったんです」
 その言葉にカカシは少しだけ驚いた顔を見せた。意外?と聞かれイルカは頷く。
「ほらカカシさんは俺たち世代にとったらすげー忍びで、完璧な人だって思ってたんで。人間味らしいって言ったら変なんですが、嫌いな食べ物とかもあるんだ、って思ったら、そーいう一面を知れたらなんか嬉しくて」
 つい笑っちまいました。
 鼻頭を掻き笑いながら答えるイルカを、カカシはじっと見つめていた。
 気を悪くさせるつもりはなかったが、失言だったかとカカシの顔を窺えば、特に気分を害した顔はしていない。それに安堵した時、カカシは、俺も、と口にするから。え?と聞き返そうとする前にカカシが続けた。
「俺も、それ聞いてあなたが見たまんまのクソ真面目な先生なんじゃないって分かって安心しました」
 にこりと笑う。
 そして、一回言葉を切り、じゃあさ、とコンビニで買った袋を軽く上げた。
「ビール買ったんで先生の家で飲み直そうか」
 言い終わると、イルカの返事も聞かず、カカシは歩き出す。
 何で俺んちで?飲み直すって、何で?
 急な展開に頭がついていけず、頭にハテナしか浮かばない。戸惑うイルカにカカシが肩越しにこっちを見る。
「早く行こ?」
 急かされ、イルカは反射的に、はい、と返事をしながらもカカシへ足を向けながら、浮かぶ台詞は一つ。

 ーーあれ、俺なんか間違ったか?

 除夜の鐘の音を聞きながら、イルカはカカシの背中を追った。

<終>
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