カカイルワンライ「それじゃあ 追記」
受領印を押したイルカは目の前で頭を下げる。お疲れ様でした、から、次の方どうぞ、までの間はほとんどなく直接的ではないものの押し出されるようにその場からカカシは離れる。ただ用事は済んでいるし腹も減っているからここに残る理由はなく、カカシは混み合っている報告所を後にした。
分かることはただ一つ。あれから七班の任務帰りや、今のような受付や報告所、里内のどこで顔を合わせても今まで通りのような対応をしているように見えるが。貼り付けられた笑顔とは裏腹に視線が合うことはなく。要は、あからさまに避けられている。
彼自身何も変わってないかのような素振りを見せようとしているがこっちから見れば一目瞭然でわざとやっているようにしか思えない。
好戦的のようで、七班が任務で行う野犬狩りの追われる野犬のように、追い込まれていても牙を剥く野犬のようにも見える。
野犬じゃないけど手を差し出したら噛まれるのかもしれない。
それが分かっているのに、たまたま見かけたイルカの後を追った。
「ここって何の部屋?」
気配を消していたのは無意識だった。書類の束を抱えたイルカの少し後に部屋に入り、今まで入ったことのない埃臭い部屋を見渡しながらその背中に声をかけたら盛大に体がビクリと揺れた。勢いよく振り返り、こっちの顔を見て驚愕したような表情を見せる。
「どっ、なっ、んで、ここに、」
言葉を詰まらせるあたり全く気配に気がついていなかったらしい。
忍びらしからぬ反応はいかがなものかと思いながらもカカシはイルカの反応を観察する。
今まで避けてはいたが、ここまで警戒する表情を見せたのは初めてだ。
逃げようと算段を立てているかもしれないが、出入り口は一つで生憎その場所はイルカの正反対である自分の後ろで、近いのは窓だが天井近くにある小さな窓からは残念だが人が通れる大きさではない。
埃くさいのはびっしりと棚に並べてある書類のせいだと推測できた。目で見る限りここ最近のものからかなり古い書物まで。手入れは行き届いてはいないが整頓されて仕舞われている。
外はすっかり春の陽気で暖かく鳥の囀りさえ聞こえるが窓が小さいせいで太陽の光も入らない薄暗い部屋は残念なほどにそれを感じさせない。
その仕舞われたたくさんの書類の棚を背に、イルカは警戒心を顔に出したまま、じっとカカシを見つめていた。前述の通り、丸で迫られた野犬か野猫の様だ。その緊迫した空気を感じながら、さてどうしたものかとカカシはポケットから出した手で無造作に頭を掻いた。その動作にさえイルカは息を呑むように目を見張っている。
面白いな、と素直に思った。
そうさせたのは自分だが、あの時の頭突きもそうだったように、ここまで反応するなんて思ってなかったから。
「ねえ」
警戒するイルカを他所にカカシはゆったりとした口調で口を開けば自分の低い声が部屋に響く。
「間違ってないからキスさせて?」
そう、この前の言葉は選び方を間違った。それを伝えるためにもハッキリと告げた言葉にイルカはまたもや驚きに目を見開いた後、険しい目つきに変わる。
「何言ってんだ……あんたは」
怒り浸透にイルカの血色の良い肌が赤く染まる。それを証拠に握られた拳も震えていて、その声色も言い方も決して上官に向けるようなものではない。
だが、それは自分からしたら手応えでしかなく。イルカの黒い瞳の奥が不安で揺れるのを見たから戦意喪失かと思いきや、頭突きも殴ることもなかったが今にも殴りかかってきそうな顔はやはり好戦的で。それに心が満たされるのを感じる。
そうこなくっちゃ。
カカシは満足そうに覆面の下で口角を僅かに上げた。
分かることはただ一つ。あれから七班の任務帰りや、今のような受付や報告所、里内のどこで顔を合わせても今まで通りのような対応をしているように見えるが。貼り付けられた笑顔とは裏腹に視線が合うことはなく。要は、あからさまに避けられている。
彼自身何も変わってないかのような素振りを見せようとしているがこっちから見れば一目瞭然でわざとやっているようにしか思えない。
好戦的のようで、七班が任務で行う野犬狩りの追われる野犬のように、追い込まれていても牙を剥く野犬のようにも見える。
野犬じゃないけど手を差し出したら噛まれるのかもしれない。
それが分かっているのに、たまたま見かけたイルカの後を追った。
「ここって何の部屋?」
気配を消していたのは無意識だった。書類の束を抱えたイルカの少し後に部屋に入り、今まで入ったことのない埃臭い部屋を見渡しながらその背中に声をかけたら盛大に体がビクリと揺れた。勢いよく振り返り、こっちの顔を見て驚愕したような表情を見せる。
「どっ、なっ、んで、ここに、」
言葉を詰まらせるあたり全く気配に気がついていなかったらしい。
忍びらしからぬ反応はいかがなものかと思いながらもカカシはイルカの反応を観察する。
今まで避けてはいたが、ここまで警戒する表情を見せたのは初めてだ。
逃げようと算段を立てているかもしれないが、出入り口は一つで生憎その場所はイルカの正反対である自分の後ろで、近いのは窓だが天井近くにある小さな窓からは残念だが人が通れる大きさではない。
埃くさいのはびっしりと棚に並べてある書類のせいだと推測できた。目で見る限りここ最近のものからかなり古い書物まで。手入れは行き届いてはいないが整頓されて仕舞われている。
外はすっかり春の陽気で暖かく鳥の囀りさえ聞こえるが窓が小さいせいで太陽の光も入らない薄暗い部屋は残念なほどにそれを感じさせない。
その仕舞われたたくさんの書類の棚を背に、イルカは警戒心を顔に出したまま、じっとカカシを見つめていた。前述の通り、丸で迫られた野犬か野猫の様だ。その緊迫した空気を感じながら、さてどうしたものかとカカシはポケットから出した手で無造作に頭を掻いた。その動作にさえイルカは息を呑むように目を見張っている。
面白いな、と素直に思った。
そうさせたのは自分だが、あの時の頭突きもそうだったように、ここまで反応するなんて思ってなかったから。
「ねえ」
警戒するイルカを他所にカカシはゆったりとした口調で口を開けば自分の低い声が部屋に響く。
「間違ってないからキスさせて?」
そう、この前の言葉は選び方を間違った。それを伝えるためにもハッキリと告げた言葉にイルカはまたもや驚きに目を見開いた後、険しい目つきに変わる。
「何言ってんだ……あんたは」
怒り浸透にイルカの血色の良い肌が赤く染まる。それを証拠に握られた拳も震えていて、その声色も言い方も決して上官に向けるようなものではない。
だが、それは自分からしたら手応えでしかなく。イルカの黒い瞳の奥が不安で揺れるのを見たから戦意喪失かと思いきや、頭突きも殴ることもなかったが今にも殴りかかってきそうな顔はやはり好戦的で。それに心が満たされるのを感じる。
そうこなくっちゃ。
カカシは満足そうに覆面の下で口角を僅かに上げた。
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