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カカイルワンライ「なんでもない」
これ運んでくださいよ、と風呂上がりのカカシを呼び止めれば、はーい、と素直に返事をする。皿に盛られた菜の花を見るカカシに、嫌いでしたか?と聞くと首を振った。いやね、と口を開く。
「食べられるとは知ってたけどちゃんと料理して食べるものなんだなあって」
しみじみと話すカカシの言わんとしてる事が分かって、イルカは菜箸を持ちながら笑いをこぼした。
菜の花は食べられる野草として知られている。
カカシと知り合い一緒に食事をするようになってから食に関する知識が乏しい事を知った。口数が少ないカカシから得られる情報は少ないが、こうして会話をしている時にふとしたタイミングでこぼす内容は明らかだ。
興味がないからじゃない。昔暗部だったと噂では聞いた事があったが、付き合いだして肌を重ねるようになってそれは明らかになった。そして、アカデミーに在籍していた期間もほぼないに等しい当たり、幼い頃から戦場にいたはずで。
戦時中や過酷な任務下では携帯している兵糧丸が主で料理した物を食べれることなんてないだろう。アカデミー教師である自分より豊富な知識を持っているのはその為だ。
カカシもまた深く語ろうとしないし自分もまた深く聞くこともない。
「春を告げるちゃんとした食材なんですよ」
背中を向けたカカシにそんな言葉を投げかけると、確かにねえ、と今更ながらに納得したような返事をする。
料理をしながらちゃぶ台の前で寛いで缶ビールを飲むカカシにイルカはそっと視線を向けた。
自分を優しい人だとカカシは言う。
手伝えとも言わずごろごろしているカカシに冷えたビールや好きな手料理をちゃぶ台に並べるからなのか。大して好きでもなかった料理をそれなりに勉強して作ってるところなのか。
それか同性であるにも関わらず受け入れてくれたことに対してなのか。
たぶんどれもそうなんだろうが。
ただ俺は。
誰よりも無垢なこの人を独り占めしたいからなんだというのをカカシは知らない。
だから。そんな綺麗事でもなんでもない。
初めて会った時、涼しい目元に飄々とした態度は生意気だと思ったけどこういう人は女に困らないんだろうなと思った。エロい小冊子だって読んでるくせに俺を食事に誘うだけなのにすごい緊張した顔して。納豆にキムチ入れたら美味いんだってそんなの誰だって知ってる事に感動したり。大した事ない手料理を褒めちぎってくれる。
缶ビールを飲んでテレビを見ていたカカシがふとこっちを見た。
どうかした?と不思議そうな顔で聞かれてイルカは首を振る。
「なんでもないです」
少しだけ青みがかった目が何かを感じ取ろうとするが、誤魔化す言葉と笑顔を浮かべたイルカにそれ以上の追求はしない。
グリルを開けたら、カカシの好きな焼き魚の匂いが部屋いっぱいに広がる。
「あー、幸せ」
心底幸せだと言わんばかりのカカシの口調に、こんな幸せでいいのかと問いたくなるのに可笑しくて、イルカもまたつられるように声を上げて笑った。
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