カカイルワンライ「よそ見しないで」
里長になってからは座って溜まりに溜まった書類をこなすばかりの仕事が増えたけれど。たまに別の仕事かと思っていても里外からの客や要人をもてなす為だったり、要はろくな仕事がないと言ったら、それがあなたの仕事なんですよ、とイルカは笑った。
そりゃそうなんだけどねえ。
ぼんやりとイルカの言葉に今更ながら心の中で返しながらカカシは要人と共に里の中を歩く。
暫く見ない間に変わった里の景観を眺める要人にシズネが丁寧に説明を加える。
概ね戦後の処理は終えているものの後回しになっている場所はまだ手付かずで、里が稼働することが最優先だったから仕方ないと言えば仕方ないが、とても復興を終えたとは言えない。
ただ、時間をかけて外を歩くことは久しぶりで、カカシは道の脇にある大木を見上げた。
つい少し前は桜が咲いていたはずなのに、気がつけば桜は散り、枝々に生えた若い緑色の葉が太陽の光を浴びている。早いなあ、と素直に思った時、
「ここは何を作るんですか?」
不意に尋ねられ顔を向ければ、そこには要人の娘がカカシの横に立っていた。平和になった今、こうして観光も兼ねて家族を同行させることが増えている。
カカシは聞かれたことに、ああ、と相槌をうちながら、視線を前に戻した。
「演習場ですよ」
答えれば鸚鵡返しにされ、カカシは再び口を開く。
「アカデミーの生徒が授業の一環としてここで練習をするんです」
数ヶ月前までは荒れ果てていたがようやくここにも手が入り整地された場所をカカシは見つめる。
答えのその延長でアカデミーに関しての質問をされ、それに応答しながら、目を止めたのはそこに見知った相手がいたからだった。
イルカもたまたま教員仲間と演習場の場所を確認しにきたのだろうか。存在に気がつくものの距離はあるから目で追いながらも要人の娘と会話を続ける。
「楽しみですね」
言われてニッコリ微笑み返し、ふと視線を上げ。
カカシは思わず目を少しだけ見開きそうになった。
よそ見してんじゃねえよ
目を向けた時、イルカだけがこっちを向いていて。そして、ぼそりとだがイルカは確かにそう口にした。怪訝そうに。
多少距離が離れていても自分のように覆面をしていなければ尚更だ。直後、ふいと顔を背けてしまったイルカにそれ以上のことは分からなかったが。
ただ、その独り言に近い台詞に内心驚き、そしてゆっくりを込み上げてきたのは笑いだった。
イルカと晴れて恋人になったのはつい最近だ。それまではいい飲み友達として、知り合いとして距離を保ってきたが。そのままだったらきっと関係はこのままだと分かっていたから。戦争も終わり火影に就任する直前に自分から胸の内を明かし、半ば強引に頷かせた。
謂わば今は正に幸せの絶頂だ。
なのに、あの言葉。
(なにそれ)
思わず心で呟く。
最近、ことあるごとに顔を合わせる様々な女性たちが自分に好意を持つことが、多々あるのは分かっていた。分かっていたが気が付かないふりをしていたし、イルカが言うようにこれは仕事で。だから淡々と接待していたのに。
それに、この前だって、接待も仕事のうちだって言ったくせに。
あんな台詞。
意外すぎて、驚いたのと同時に可笑しくて。喉の奥に幸せなものがたまっている。それを押し留めるように、カカシは一人目を伏せた。小さく笑いをこぼす。
自分の恋人はなんて可愛いんだろうか。
既に背を向け歩き出したイルカは手の届かない距離にいて、今すぐに声をかけたいが仕事中だからそれは出来なくて。
「どうかしましたか?」
静かに笑いをこぼしたカカシに、要人の娘が不思議そうに問いかけるが、いいえ、とだけ答える。
カカシは小さくなった愛しい人の背中を見つめた。
そりゃそうなんだけどねえ。
ぼんやりとイルカの言葉に今更ながら心の中で返しながらカカシは要人と共に里の中を歩く。
暫く見ない間に変わった里の景観を眺める要人にシズネが丁寧に説明を加える。
概ね戦後の処理は終えているものの後回しになっている場所はまだ手付かずで、里が稼働することが最優先だったから仕方ないと言えば仕方ないが、とても復興を終えたとは言えない。
ただ、時間をかけて外を歩くことは久しぶりで、カカシは道の脇にある大木を見上げた。
つい少し前は桜が咲いていたはずなのに、気がつけば桜は散り、枝々に生えた若い緑色の葉が太陽の光を浴びている。早いなあ、と素直に思った時、
「ここは何を作るんですか?」
不意に尋ねられ顔を向ければ、そこには要人の娘がカカシの横に立っていた。平和になった今、こうして観光も兼ねて家族を同行させることが増えている。
カカシは聞かれたことに、ああ、と相槌をうちながら、視線を前に戻した。
「演習場ですよ」
答えれば鸚鵡返しにされ、カカシは再び口を開く。
「アカデミーの生徒が授業の一環としてここで練習をするんです」
数ヶ月前までは荒れ果てていたがようやくここにも手が入り整地された場所をカカシは見つめる。
答えのその延長でアカデミーに関しての質問をされ、それに応答しながら、目を止めたのはそこに見知った相手がいたからだった。
イルカもたまたま教員仲間と演習場の場所を確認しにきたのだろうか。存在に気がつくものの距離はあるから目で追いながらも要人の娘と会話を続ける。
「楽しみですね」
言われてニッコリ微笑み返し、ふと視線を上げ。
カカシは思わず目を少しだけ見開きそうになった。
よそ見してんじゃねえよ
目を向けた時、イルカだけがこっちを向いていて。そして、ぼそりとだがイルカは確かにそう口にした。怪訝そうに。
多少距離が離れていても自分のように覆面をしていなければ尚更だ。直後、ふいと顔を背けてしまったイルカにそれ以上のことは分からなかったが。
ただ、その独り言に近い台詞に内心驚き、そしてゆっくりを込み上げてきたのは笑いだった。
イルカと晴れて恋人になったのはつい最近だ。それまではいい飲み友達として、知り合いとして距離を保ってきたが。そのままだったらきっと関係はこのままだと分かっていたから。戦争も終わり火影に就任する直前に自分から胸の内を明かし、半ば強引に頷かせた。
謂わば今は正に幸せの絶頂だ。
なのに、あの言葉。
(なにそれ)
思わず心で呟く。
最近、ことあるごとに顔を合わせる様々な女性たちが自分に好意を持つことが、多々あるのは分かっていた。分かっていたが気が付かないふりをしていたし、イルカが言うようにこれは仕事で。だから淡々と接待していたのに。
それに、この前だって、接待も仕事のうちだって言ったくせに。
あんな台詞。
意外すぎて、驚いたのと同時に可笑しくて。喉の奥に幸せなものがたまっている。それを押し留めるように、カカシは一人目を伏せた。小さく笑いをこぼす。
自分の恋人はなんて可愛いんだろうか。
既に背を向け歩き出したイルカは手の届かない距離にいて、今すぐに声をかけたいが仕事中だからそれは出来なくて。
「どうかしましたか?」
静かに笑いをこぼしたカカシに、要人の娘が不思議そうに問いかけるが、いいえ、とだけ答える。
カカシは小さくなった愛しい人の背中を見つめた。
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