カカイルワンライ「お正月」

「カカシさん……、カカシさん」
 何度目かになるイルカの呼びかけに、カカシが目を開ける。コタツのテーブルに突っ伏していた顔をむくりと上げた。
 当たり前に、目の前には呼びかけていたイルカの姿があり、カカシは軽く目を擦りながらその顔を見る。
「……俺、寝ちゃってた?」
 その言葉にイルカはため息を吐き出しながらも苦笑いを浮かべる。はい、と返事をした。

 日付が変わる頃にイルカのアパートにカカシが上がり込み、コタツで2人でビールを飲み、日頃追われていた仕事の疲れから、気がついたらうたた寝をしていた。
 ふと見れば、カカシも同じようにコタツのテーブルに頬をつけ静かに寝息を立てていて。任務で疲れていたんだろうなあ、と思いながらその寝顔を眺めるも、挨拶程度しか会話しない相手が、こうして自分の部屋で寝ているのは違和感しかないのに。勝手に上がり込んできたカカシもカカシだが、部屋に上げた自分も自分だ。
 なにやってんだろうなあ、俺。
 寝ぼけた頭でカカシを眺めながらそう思うも、過去、今まで仕事に追われて年末年始をろくに家で過ごしてないのも事実だった。
 こんな風に仕事場ではなく自宅で、誰かと正月を迎える事なんてあっただろうか。思い出そうとするも、両親が健在だった頃を除いては、うろ覚えだが、数えるほどしかない。
 イルカは縦肘をつきながら伏せられたカカシの寝顔を、見つめる。
 いつも受け付けや報告所でありきたりな会話しかしていないが、里の忍びとして分かっているつもりでも、想像も出来ない過酷な任務をこなし、里を守っている。
 伏せられた銀色の睫毛や綺麗な顔からは想像も出来ないと言ったら失礼だが、自分が名前から想像していた顔とは程遠いのは本当だった。
(だからって不思議な人には変わらないけど)
 心の中で独りごちる。
 家主は自分で、だから起こしてもいいんだろうが。
 戸惑うイルカに構わず勝手に上がり込むような行為はさて置き、任務で疲れているカカシを無碍に起こすつもりはない。仕方ないとイルカはため息を吐きながら立ち上がる。羽織っていた半纏をカカシの肩にかけると、イルカは一人飲み散らかったままの缶ビールを片付け始めた。

「やっぱりさみーっ」
 外に出たイルカは、ベストの代わりに半纏を羽織った格好で身体を震わせれば、カカシがこっちを見た。
「だったら家に居ればいいじゃない」
 カカシの言葉にイルカは苦笑いを浮かべる。
「そうですが、せっかくなんで近くの神社に初詣に行こうかなと」
 このまま布団入ったらそのまま寝正月になりそうなんで。まあ、いつもの事ですけど。
 笑いながらそう付け加えれば、同調しているのかいないのか分からない口調で、そーなの、とカカシから声が返った。分からないのに、カカシが笑っている気がしてイルカは視線を横に向けるが、口布の上からは何も分からない。

 並んで歩きながら、白み始めた東の空を仰ぐ。昨夜からまた気温がぐっと下がったのか、冷えた空気に眠気が消え頭の中が徐々に冴えてくる感覚があるがまだ眠い。イルカは欠伸をした。白い息が吐き出される。
 そこから視線をカカシに向けた。
 視界に映るカカシはいつも通りで、ついさっきまで自分の部屋で酒を飲みコタツでうたた寝していたとは思えない。
 話した内容もナルトのことで、自分もまた酒が入ったからか、アカデミーの事や自分の仕事の事を話した。カカシにはきっと興味ないはずなのに、時折相槌を打ちながら聞いていた。
「……なんか、」
 カカシの普段通りの横顔を眺めていたら、ついそんな言葉が口から出て、独り言のような呟きに反応したカカシが目をこっちに向けるから、イルカは続けた。
「何で正月早々一緒に歩いてるんですかねーって」
 冗談まじりの口調で呟けば、カカシはその眠そうな目をこっちに向けたまま。どんな返しも予想してなかったのに。カカシは目元を緩ませる。
「何でだろーね」
 その言葉にイルカが僅に目を丸くした時、カカシが視線を外す。
「じゃあね」
 そう口したカカシはあっさり姿を見て消し。誰もいなくなった場所で一人、イルカは瞬きをした。
(……何でって、あなたが俺んちで飲むような方向に持ってったからで、ていうか、何であんな顔、した?)
 カカシの見たことがない表情が、何でもないはずなのに脳裏から離れなくて。
 イルカは動揺しながら熱くなる頬にわずかに眉を寄せた。

<終>
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