カカイルワンライ「俺の事好きなんでしょ?」

 俺の事好きなんでしょ?
 そうカカシが聞いてきたのは、紅が何気なく口にした言葉が発端だった。
 居酒屋でたまたま顔を合わせたのがきっかけで、そこから時々カカシに夕飯に誘われるようになった。気が合うとは思っていても、相手は上忍だ。自分から声をかけるような事はなかったが。誘われれば頷いたのは、一緒にいて楽しかったから。
 それをちょこちょこ見かけていたんだろう。
 上忍待機室で、あんた達二人は仲良いもんね、と会話の延長で冗談めかしたような台詞を紅が口にしたが、紅でなくとも、中忍が上忍からどんな話題でもからかわれたりするのはいつものことだ。さほど気にする事なく、そうですかね、と笑って答えた。
 そこから仕事場に戻って、書類を届けるべくまた建物の外に出た時、カカシが通りから歩いてくる。その進む方向から、カカシさんも火影様のところに?と聞けば、うん、とニコリと微笑んだ。
 薄い雲が浮かぶ青空に、今日は比較的暖かいですよね、と何でもない会話を口にしたイルカに、さっきさ、とカカシも口を開く。だから、言葉を止めてカカシへ視線を向ければ、
「そうですかね、なんて先生言ったけど、ホントは俺の事好きなんでしょ?」
 微笑みながら聞いてくるカカシは、丸でさっきの紅のようで。
 だから。
 その冗談に合わせるように、ああ、と頷き、カカシを見る。
「そうだったら、どうします?」
 覗き込むようにして言った途端、カカシが一瞬驚いたような顔をしたのもつかの間。にゅっと伸びた手がイルカの腕を掴み、驚いた。
 うわ、と驚くままに声が出たイルカを、建物と建物の間の細い路地に引っ張り込む。
「カカシさん、急にどうし、」
 急にどうしたのか。何があったのか。聞こうとしても、その開いた口を塞がれて、イルカは目を剥いた。
 反射的に逃げようとすれば、片方の手が顎を固定し、もう片方の手はしっかりとイルカの手首を掴む。そのまま壁に押しつけら角度を変え荒々しく口づけされた。
 カカシが口布を下げた事さえ気が付かなかった。触れているのがカカシの唇なんだと分かっているのに信じられなくて。それでも、驚きのまま開いた口にカカシの舌がぬるりと入り込む。口内を荒らすように蠢くそれが縮こまったイルカの舌を捕まえる。ぎくりと身体が固くなるが、それをただ受け入れる事しか出来なかった。
 カカシの腕を掴んだ手は、拒む以前にアンダーウェアをぎゅうと、握りしめるだけで精一杯で。舌を唾液と共に絡められ、吸われ、ようやく口を離された時は、呆然としていた。
 目の前に、視界に映るカカシは、じっと熱を帯びた目でこっちを見つめていて。
 その時、通りで誰かの話し声が聞こえる。カカシは、長い指で下げていた口布を上げ、その整った口元を隠した。
「続きは後でね」
 まだぽかんとしたまま、動かないイルカにカカシはそう告げると、路地裏から出ていく。
 背中は壁に押しつけられたままの格好で。カカシが出ていってしばらくした後、イルカはずるずるとその背中を落とすように地面にしゃがみ込む。
 というか、悔しいが、動けそうになくて。
 そう、カカシに口づけけられただけで腰を抜かしている事実に。
 首元まで真っ赤にしながら、次カカシに会った時、どんな顔して会えばいいのか。
 心臓はばくばく高鳴ったままで。色々処理しきれなくて。そして去り際のカカシの台詞が頭から離れない。
(・・・・・・どうしよう)
 ため息を吐きながら、イルカは顔を伏せた。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。