湯気に埋もれる
腹減ったな。
仕事が終わり商店街へ足を向けながら。自炊の為に食材を買おうかと思っていたが、目に入った店の暖簾に自然に足がそっちへと向かう。
腹が減っていれば自分の意思なんてしょせんそんなものだ。暖簾をくぐり店主に挨拶をしながら広くはない店内を見渡して。それなりに混んでいるとは思ったが、空いている一番右隅の席の隣に見えたのは猫背な背中と銀色の髪で、一瞬躊躇った。
誰とでもそれなりに仲良く話せるとは思っているが、中忍選抜試験の後からどうも苦手なのは確かで。暖簾をくぐったもののどうしようかと迷いが生じる。だから、また今度にしようと思ったのに。
「ここ空いてるよ」
再び店から去ろうとしたイルカに声がかかる。自分の判断の一瞬の迷いに後悔するが、声をかけられてはどうにもならない。そして、すっかりラーメンの胃袋になっているのは事実で。
じゃあ、と笑顔を作ったイルカはカカシが座っている右隣の一番隅の席に座った。
あれだけ戸惑っていたのに、一度座ってしまえば、気まずさは消えないが、単純なもので、ラーメンの匂いが空腹を刺激して正直どうでもよくなってくる。
店主に注文を告げ、置かれたグラスの水を飲むイルカの横で、カカシもまた注文したラーメンを待っているんだろう、いつもの小冊子を組んでいる足の上に器用に広げて視線をそれに落としている。
後ろから見て、いつも以上に猫背に見えたのはその為か。
横目でカカシを見ながら、何を読もうが本人の勝手だが。しかしよく飽きもせずに毎日読めるもんだと内心呆れながらも感心するイルカに、
「先生も味噌ラーメン派なんだね」
不意に隣ですカカシが喋り、驚くが、先生と呼称付けするからにはたぶんではなく、それはきっと自分のことで。隣に居ようとも話しかけられるなんて思ってなかったから、イルカは戸惑うがそれを水と一緒に喉に流し込み、また笑顔を作る。
ええ、まあ、と返せば、やっぱり夏が終わると味噌が食べたくなるよね、とまた隣から返事があるが、顔を向けたらカカシの視線は小冊子に落とされたままだった。
上忍なんて元々変わり者の集まりで、カカシに関してはこう言う人なんだと認識はあるが。目を見て話すタイプの自分としては会話をしているはずなのになんとも味気ない。
まあ、自分みたいにやたら突っかかってくるような中忍を相手にしたくないのは分かる。
注文したばかりのラーメンへ意思を切り替え、待ち侘びるようにイルカは店内へ視線を向けようとした時、青みがかった目がイルカに向いた。会話する時さえこっちに向かなかったのに、何だろうと思う間にカカシの手が伸びてその指がイルカの顎にかかり、正面へ向いていた顔を触れた指がカカシの方へ向かせる。
「その傷、どーしたの?」
カカシの行動があまりにも不意過ぎて、気を取られたが。カカシの口から出た台詞に、止まりかけた思考が再び動く。えっと、とイルカは口を開いた。
「昨日酔っ払いにからまれちまって。まあ、良くある事だし、大した事ないですが」
嘘を言っても仕方がない。
たまたま、運悪く、悪酔いした酔っ払いに同じく酔った友人が絡まれ、その間に入った自分が何故か殴られた。
ただ忍びではない酔っ払いを本気で相手になんか出来るはずもない。ただ、忍びであろうが上忍でも然りで。これが中忍である故の辛い立場であり現状だ。
しかし、言った通り。よくある事だ。
カカシは。少しだけ痕が残るイルカの右頬をじっと見つめながら、ふーん、と呟き、やがて指顎からを離した。
相槌通り、カカシからしたらどうでもいい話でしかない。興味が削がれたのだろう、カカシは視線をまた小冊子に落とし、それにホッとした時、
「酷いことするね」
ボソリと口にしたカカシの言葉に、そんな事言うとは思えなくて。内心驚く間も無く、
綺麗な顔なのに。
追加されたカカシの台詞に耳を疑う。
ん?
あれ、今、綺麗とか言った?
聞き返したくとも本当に聞き間違えてたら自分がヤバいやつに決定だし、しかし自分は耳がいい。ただ、隣に座っているカカシの視線は既に小冊子で。
もしかして。空腹のあまり幻聴が聞こえるようになってしまったのか。
いや、そんなはずないだろう、と勇気を出して聞こうとした時、カカシの前に味噌ラーメンが置かれる。そして同じく自分の方にも置かれ。カカシは気にする事なく小冊子を閉じて割り箸を手に取った。
「食べないの?」
それをただ目で追っていれば、カカシにそう言われ、いや、そうじゃねえだろ、と突っ込みたくなるが明らかにタイミングを逃していて。
仕方がないから、言われるままにイルカもまた割り箸を手に取り割る。
まあ……、いいか……?
納得はしていないが、困惑はやがてラーメンの湯気に埋もれる。
いただきます、と口にした後、イルカはカカシの隣で味噌ラーメンを啜った。
仕事が終わり商店街へ足を向けながら。自炊の為に食材を買おうかと思っていたが、目に入った店の暖簾に自然に足がそっちへと向かう。
腹が減っていれば自分の意思なんてしょせんそんなものだ。暖簾をくぐり店主に挨拶をしながら広くはない店内を見渡して。それなりに混んでいるとは思ったが、空いている一番右隅の席の隣に見えたのは猫背な背中と銀色の髪で、一瞬躊躇った。
誰とでもそれなりに仲良く話せるとは思っているが、中忍選抜試験の後からどうも苦手なのは確かで。暖簾をくぐったもののどうしようかと迷いが生じる。だから、また今度にしようと思ったのに。
「ここ空いてるよ」
再び店から去ろうとしたイルカに声がかかる。自分の判断の一瞬の迷いに後悔するが、声をかけられてはどうにもならない。そして、すっかりラーメンの胃袋になっているのは事実で。
じゃあ、と笑顔を作ったイルカはカカシが座っている右隣の一番隅の席に座った。
あれだけ戸惑っていたのに、一度座ってしまえば、気まずさは消えないが、単純なもので、ラーメンの匂いが空腹を刺激して正直どうでもよくなってくる。
店主に注文を告げ、置かれたグラスの水を飲むイルカの横で、カカシもまた注文したラーメンを待っているんだろう、いつもの小冊子を組んでいる足の上に器用に広げて視線をそれに落としている。
後ろから見て、いつも以上に猫背に見えたのはその為か。
横目でカカシを見ながら、何を読もうが本人の勝手だが。しかしよく飽きもせずに毎日読めるもんだと内心呆れながらも感心するイルカに、
「先生も味噌ラーメン派なんだね」
不意に隣ですカカシが喋り、驚くが、先生と呼称付けするからにはたぶんではなく、それはきっと自分のことで。隣に居ようとも話しかけられるなんて思ってなかったから、イルカは戸惑うがそれを水と一緒に喉に流し込み、また笑顔を作る。
ええ、まあ、と返せば、やっぱり夏が終わると味噌が食べたくなるよね、とまた隣から返事があるが、顔を向けたらカカシの視線は小冊子に落とされたままだった。
上忍なんて元々変わり者の集まりで、カカシに関してはこう言う人なんだと認識はあるが。目を見て話すタイプの自分としては会話をしているはずなのになんとも味気ない。
まあ、自分みたいにやたら突っかかってくるような中忍を相手にしたくないのは分かる。
注文したばかりのラーメンへ意思を切り替え、待ち侘びるようにイルカは店内へ視線を向けようとした時、青みがかった目がイルカに向いた。会話する時さえこっちに向かなかったのに、何だろうと思う間にカカシの手が伸びてその指がイルカの顎にかかり、正面へ向いていた顔を触れた指がカカシの方へ向かせる。
「その傷、どーしたの?」
カカシの行動があまりにも不意過ぎて、気を取られたが。カカシの口から出た台詞に、止まりかけた思考が再び動く。えっと、とイルカは口を開いた。
「昨日酔っ払いにからまれちまって。まあ、良くある事だし、大した事ないですが」
嘘を言っても仕方がない。
たまたま、運悪く、悪酔いした酔っ払いに同じく酔った友人が絡まれ、その間に入った自分が何故か殴られた。
ただ忍びではない酔っ払いを本気で相手になんか出来るはずもない。ただ、忍びであろうが上忍でも然りで。これが中忍である故の辛い立場であり現状だ。
しかし、言った通り。よくある事だ。
カカシは。少しだけ痕が残るイルカの右頬をじっと見つめながら、ふーん、と呟き、やがて指顎からを離した。
相槌通り、カカシからしたらどうでもいい話でしかない。興味が削がれたのだろう、カカシは視線をまた小冊子に落とし、それにホッとした時、
「酷いことするね」
ボソリと口にしたカカシの言葉に、そんな事言うとは思えなくて。内心驚く間も無く、
綺麗な顔なのに。
追加されたカカシの台詞に耳を疑う。
ん?
あれ、今、綺麗とか言った?
聞き返したくとも本当に聞き間違えてたら自分がヤバいやつに決定だし、しかし自分は耳がいい。ただ、隣に座っているカカシの視線は既に小冊子で。
もしかして。空腹のあまり幻聴が聞こえるようになってしまったのか。
いや、そんなはずないだろう、と勇気を出して聞こうとした時、カカシの前に味噌ラーメンが置かれる。そして同じく自分の方にも置かれ。カカシは気にする事なく小冊子を閉じて割り箸を手に取った。
「食べないの?」
それをただ目で追っていれば、カカシにそう言われ、いや、そうじゃねえだろ、と突っ込みたくなるが明らかにタイミングを逃していて。
仕方がないから、言われるままにイルカもまた割り箸を手に取り割る。
まあ……、いいか……?
納得はしていないが、困惑はやがてラーメンの湯気に埋もれる。
いただきます、と口にした後、イルカはカカシの隣で味噌ラーメンを啜った。
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