純粋カメレオン③

胡座をかいていたカカシの身体が動いた。
金縛りにあったようにイルカは瞬き一つ出来ず、自分にゆっくりと近づくカカシの綺麗な顔から目が離せなかった。
カカシに触れられる。
そう思っただけで、明らかな前触れがある行動に、今まで以上に身体中がカカシを欲していた。
部屋は空調で涼しく、肌も冷んやりとしているのに、その内は熱に疼き、少しの摩擦でさえ燃え上がりそうに熱い。
重なった唇は冷たいはずなのに、漏れる吐息の熱さに眩暈がした。
ふいに唇が離れ、イルカが目を開くと碧色の瞳と間近で目が合った。
「…いいの?ね、本当にいいんだよね」
承諾を得る言葉だが、揺れる瞳は懇願に近いものを感じる。
唇が触れ合う距離で囁かれ、焦らされているような気持ちに陥り、イルカは気早に頷いた。
唇を舐める仕草をされ、そこから深く唇が合わさった。背中に甘い痺れが走る。
いつもは唇を重ねるだけのキスだけで終わっていた。
全く別物と言い切れる濃厚なキスに卒倒に近いものを感じる。
カカシの舌が生き物の様に口内に侵入し荒らす。
今までのキスは何だったんだろう。身体の芯まで溶かされそうな行為に溺れ始めている。
キスだけでイルカの欲情は完全に煽られていた。
自分が発した言葉の如く、この先イルカの身体はドロドロに溶けてしまうだろう。
カカシに触れられ、この先に待ち構える行為が頭を掠めただけで狂喜に近いものがイルカを支配した。
微かに耳に入る店の店員の声。
注文をしていないが、いつ人が顔を覗いてもおかしくない空間。
自分の欲情と淫らな雰囲気に呑まれていたが、冷静さが刺すように戻ってくる。
「……っん……ふっ……っ」
此処では嫌だと告げようにもカカシの舌が絡みつき息も絶え絶えになる。頭を動かそうとしたが、後頭部を抑えているカカシの掌に固定され動かない。
カカシが不意に唇を浮かせた。
「どうしたの?やっぱり嫌?」
口元にかかる熱っぽい吐息に身を捩りながら、小さく頭を振った。
その顔は妄がましくカカシは眉を寄せてイルカの脇腹を摩るように触れた。
「そうじゃなくて…っ、ここじゃ…」
「うん?じゃどこでする?」
半分以上は聞き流しているかもしれない。カカシはそう言いながらも唇を項に移して軽く吸い上げる。
「何処って、…家とか」
カカシがイルカの台詞に唇の端を上げ、肩に手を置く。
「…分かった」
聞こえていた、と安堵した時視界の隅にカカシの手が印を結ぶのが見えた。どっちの家に、とかここの会計は、とか頭によぎった時には部屋から2人の姿は舞い上がる葉と共に消えていた。

寝台は大人の男2人の重みに、きしむ音をたてた。
日の落ちた真っ暗な部屋にすぐ目は慣れないが、背中から伝わるシーツの感触や匂いからカカシの家だと認識した。
イルカの部屋にあるような生活臭は、カカシの部屋からは殆どない。
自分が犬になっていた時にも感じていたものだった。
付き合い始めてからは、カカシの部屋に招かれる事はあまりなかった。泊まる事もなかったのはカカシなりの我慢だったのだと今更ながらにボンヤリ考えた。
その我慢の箍が外れたからなのか。
兎も角今までの不安は吹っ切れたと言わんばかりに、口付けをしながらベストが脱がされていく。
手荒な動きが焦っているように感じた。乱暴な素振りがいつものカカシからは想像が出来ない。が、逆に興奮を掻き立てられる。
アンダーウェアはイルカ自身が手伝わない限り脱がしにくい。鎖骨辺りまで捲し上げていたが、そこでもどかしくなったのかそれ以上脱がすことを止め、ハアハアと息をしながら胸の突起を口に含んだ。
「あっ!……んっ」
舌で転がされた先の刺激に予想以上に快楽を感じ、口から甘い声が溢れた。
カカシの手はイルカの下半身に及び、思わず反射的にカカシの手を掴んでいた。
性急になるカカシの動きは荒々しく予想より早い。イルカの考えるボーダーラインに差し掛かり、拒むつもりはないが羞恥が入り混じっていた。
「ちょっ、ま…っ」
「ごめんね、無理」
唇を浮かせて短く呟く。よく聞き取れないままもう片方の突起を甘噛みされ、身体がびくりと跳ねた。
今まで見たことのないカカシだった。発情した獣だ。
鍛え上げた自制心はどこに行ってしまったのか。
イルカの抵抗心の理由を知ってか知らずか、ズボンを力任せに一気に引き下ろす。
「あっ、…やっ」
イルカの抵抗した指が下着に引っかかる。
トランクスが途中で止まり、繁みを覗かせたまま中途半端に止まった。
意味のない安堵に囚われたのも束の間。カカシは下着に手をかけると、勢いに任せて裸に剥いた。
服が擦れる音と共に布の裂ける音が耳に入る。
や、破かれた…!
乱暴になると危惧していたのを聞いたからか、多少の動揺を覚えたがイルカは抵抗をせず息を詰めた。カカシは裂かれた下着を構う事なく放り投げ、露わになったイルカのまだ柔らかさが残るモノをカカシが凝視する。カカシの喉仏が上下するのがイルカからも見てとれた。自分を見て欲情を煽している。
それと共に堪らない恥ずかしさが湧き上がる。
不意にカカシが目を上げ、欲火が灯った瞳と一瞬目があった。
目で語るとはこの事か。
カカシの目が薄っすらと微笑みを浮かべる。幸せだと言わんばかりに。
そして妖艶で艶めかしい。ぞわりと痺れが背骨を走った。
繁みに手を置き根元から立ち上げるとカカシはイルカの熱を口に含んだ。
熱い。
「………んっ」
指先や肌がイルカよりも冷たいカカシだけに、口内の熱さに息を詰めた。
愛おしむ様に根元から舐め上げる。
「イルカの可愛い。食べちゃいたいくらい」
「そんな…っ」
可愛い訳がない。どこをどう見ても雄の象徴だ。
カカシは先端の柔らかい部分を舌でペロペロと舐め咥えて吸い上げる。
カカシによって施させる行為に快楽が身体を支配する。
既にイルカの熱は形をしっかりと誇示し先端から透明な汁がとろりと溢れていた。それすらもカカシは全て口に含む。
身を任せていれば直ぐに波が押し寄せる。
「カカシさっ…もう…っ」
離れて、とカカシの頭を押すが動く様子もなく、逆に手で擦りあげられ耐えられない波に息を短く吐いた。
「はっ…本当にっ、駄目…!」
イルカが身体を震わせた時、喉奥まで咥え込まれ白濁はカカシによって飲み込まれた。嚥下し終わるとゆっくりと口から離す。
カカシは唾液とイルカの体液とで濡れた唇を舐め上げる。
ここから始まる長い夜を示しているかの様だった。
落ち着きを取り戻したカカシは、ぎこちないイルカを優しくリードし、満足するまでイルカを抱いた。





お互いに悩んでいた事が嘘の様に解消された。
居酒屋で見せた虚ろげな表情で、嫌われたくないと不安を口にしたカカシは、思い出しただけで今も胸が震える。
それに応えるように俺も拙い言葉で紡いだからこそ、カカシが隠していた心を明かしてくれた。
全ては相手を大切に想った証。
ーーだけど。



「あの時のイルカ先生、天使だと思った」
うっとりとして顔を綻ばせる。
イルカを抱いた後は、必ずカカシは夢物語を子どもに聞かせるかのように、思い出しては口にした。
「…もうその話は…」
言いかけた時にスルリと腰から尻を撫でられてイルカは腰を引いた。
「カカシさん。明日は早朝から任務ですよね。体力は残しておかないと」
「体力は十分過ぎるほど有り余ってます。ドロドロに溶けあいたいって言ったのはイルカ先生でしょ?今日はまだ一回しかしてないじゃない。後一回だけいい?」
イルカはカカシに聞こえない様に、ゆっくりと盛大に溜息をついた。
まただ。
固く目を瞑る。
だって知らなかった。
知らなかったんだ。
底無しの性欲の持ち主だったなんて。
あの恥じらいから見せた初々しさは何だったのか。
カカシとこうなる事に全く後悔はない。
しかし、自分の選んだ言葉に後悔しない日はない。
今も少し遠慮気味な誘い方は変わらないが、やんわりと断りを入れてもカカシには通用しない。子どもが母親の言いつけを忘れないかの如く。カカシはイルカの言った台詞を繰り返す。
「だからちゃんと溶け合わなきゃ。ね?」
ね、じゃないだろ。
相手は淡白なんだといい加減察して欲しい。
明日は体術の授業がある。
出来ないとキッパリと断るんだ。
「カカシさん」
「なあに?」
真っ直ぐな瞳に続く言葉が口の中で留まる。
それじゃ駄目だと、自分を叱咤した。
「あの!明日俺は」
「うん」
「体術の…授業…で」
純真でイルカが受け入れてくれると信じて止まない目。言葉に勢いが無くなっていく。最後まで言い終わる前に分かりました、とカカシが微笑んだ。
「じゃあ優しくする。ゆっくり時間かけてしてあげる」
分かってない。
時間をかけて前戯や後戯をされる程腰砕けになる。
「それは…逆に…」
困る。
と言えたらどんなにいいだろう。
「イルカ先生は寝てていいから」
カカシの長い指が先程まで熱を受け止めていた箇所に触れ、しっとりとしたのを確かめるように指を埋めていく。
簡単に根元まで入れられ、指が2本に増える。
イルカは切な気に眉をひそめた。
いつか言える日が来るだろうか。
簡単にカカシの手に溺れる身体は既にカカシを欲し始めている。
いつか。
そう、いつか。
薄い唇が落ちてくる。
「溶けあおうね、先生」
低い声が頭に響く。
ーーーーいつか。
その思いも、当てたれた熱によってすぐに溶けて消えた。

<終>

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