目を閉じれば⑤

口付けが頬に落ちてきた。伏せた目に、額に、鼻に、そして唇に。唇が触れているだけなのにゾワゾワし堪らず息を吐き出していた。
「イルカ先生は初めて…だよね?」
耳朶を甘く噛まれ、身を捩らせた時に囁かれた。ガチガチに緊張し火照った顔を見れば分かるだろうと、言われた言葉に眉を顰めた。
「は…初めてですよ!」
「怒んないでよ、分かってても聞きたくなっちゃうんですよ。だって…ほら、そしたら俺があの時先っぽだけ挿れてから誰も入れてないって事でしょ?」
「先っぽって…っ」
更に眉を寄せ火照る頬にキスをされた。
「それだけですっごく興奮する」
ベストのジッパーを下ろして手が上衣の裾から入り込む。長い指がスルスルと肌を擦る。その動きは動いてるだけなのに、自分の肌を楽しんでいるのが伝わり、思わず乾いた唇を舐めた。そこに唇が合わさる。
「んっ……っ…んっ」
舌が入り込み鼻から甘い息が漏れる。キスがどうしようもなく気持ち良い。
カカシの指先が突起に触れてビクと身体が揺れた。とろとろになってきた口内から舌を抜いて唇が離れる。指が硬くなる突起をぐにぐにと擦りながら、カカシはイルカを見た。カカシの目が自分を見てるだけなのに、それが酷く淫蕩な表情に感じる。熱い顔が更に熱くなり、母音の声を漏らしながら顔を横に向けた。カカシはその首筋に顔を埋める。
「あの時とおんなじ。ここが気持ち良いんだ」
上衣を捲し上げてもう片方の突起を舌が舐め上げる。舌で転がして、吸い上げられ、イルカの声が更に大きくなった。
ヌルヌルと滑りを増した場所を舐めては歯で噛む。腰にくる甘い痺れともどかしさにイルカの左脚がシーツを擦った。
イルカの上衣を脱がしてカカシも自分の上衣を脱いで床に落とす。鍛え上げられた身体に思わず息が漏れた。たくさんの怪我を負ってきた筈の白い肌に傷さえ余りない。そんなイルカを見てカカシは目を細めた。下半身に熱が集まる。高揚するのが分かった。覆い被さり首元を舐め吸い上げられる。ゾクゾクするのが止まらない。高鳴る心臓がカカシにバレてしまうのが恥ずかしくなるが、合わさる肌が気持ち良い。
「大丈夫だよ。イルカ先生が俺を欲しがってるの、分かってるから」
何かを察したのか、更に赤くなるイルカを見てカカシが小さく笑った。
「オヤジくさい!」
言えば可笑しそうに笑いを零して、責める目に唇を落とされ、再び口を塞ぐ。愛おしむように啄ばまれた。カカシの手が頭を撫でる。ゆっくりとイルカの髪紐を解いた。

時間をかけて慣らされ、指で擦られた前立腺の刺激に、イルカの陰茎が先走りを零す。指を増やされぐしゅと動かすたびに漏れる水音が聴覚を犯していく。以前の記憶はただ、怖さが支配していたはずなのに。
「指が気持ちいい」
挿れたい。熱っぽく言われ、その声に背中が震えた。カカシを見ると切なげに眉を寄せている。ぬるぬると指が刺激を加えながら動くたびに気持ちよさが身体中を痺れとなり伝わる。
「ぁ…っん……っ」
出した事のない自分の喘ぐ声は、抑えようとしてもせり出てくる。良い場所を指で擦られ、強い刺激に張り詰めた自分の陰茎を掴もうとしたら、カカシの手が止めた。
「だーめ」
一回抜いてあげたいけど、初めてなんだから一緒に気持ちよくなろうよ。と3本に増やされた指が腹部を圧迫した。執拗と思われる指は流石にキツイ。ただ、それがカカシのものを入れる為だと思っただけで、変に胸が高鳴った。
「もういいよね。挿れるよ」
引き抜かれた指の代わりに、熱く猛ったカカシの陰茎が入っていく。
「うぁ、…」
眉間に皺をよせたイルカの頬に唇を落として。大丈夫、息を吐いてとカカシが優しく囁いた。その声が酷く落ち着く。素直にゆっくりと息を吐けば、カカシが腰を押し込むと簡単に根元まで飲み込んだ。
動かすよ、とカカシが言い、ゆっくりと引き抜かれ再び挿れられる感触は脳を刺激した。気持ち良い。
こんな快楽自分は知らない。カカシを中で感じて。それが胸を締め付けた。堪らず声が漏れる。数回揺すられ陰茎を一緒に扱かれただけで、イルカは達していた。
きつ、でも気持ちいいとカカシは揺すり続ける。果てたはずなのに、カカシのその動きで再びイルカの声が漏れ始める。
「カカシ…せんせ、…っ」
「カカシって呼んで」
揺すりあげられ背中が震える。
「カカシ…っ」
名前で呼べば10年前が朧げに浮かび上がる。彷彿とさせる記憶の中で、同じ様に抱き合っていてもただ一つ違うのは、俺がカカシを求めているという事。快楽とカカシのどちらも。
「イルカ」
名前に応じる様に、カカシに唇を合わせて深く舌を交わらせた。
ああ、やばい。好きだ。カカシが好きだ。身体を合わせて思うなんて。浅ましく淫靡なことか。だがそれが人を愛する表現の一つなのだ。
目を閉じれば。自分の予覚は確信へと変わっていた。


繋がっていた身体がようやく離れた頃、既に疲れ果て眠くなっていた。二人で潜り込んでいる布団もシーツも身体も汚れていた。明日になったらカビカビに違いない。
それに。
「……もう閉まってるよな…」
呟かれた言葉にカカシが反応した。
「…何ですか閉まってるって」
「あぁ…ラーメンです」
「ラーメン?」
眠そうな目で、不思議そうな顔を見せた。
「本当は今日カカシ先生とラーメン食いに行きたかったんです」
「…はあ」
悔しそうな声を出すイルカにぼんやりとしながらもカカシは相槌をうった。
「ラーメンなら明日行けばいいでしょ」
「そうですけど…」
「けど?」
その後は続かなかった。この関係がうまくいったら、2人でラーメン食べに行くって勝手に決めていただけで。まさか自分から誘ってこんな形になるなんて思っていなくて。
なんて言えるわけがない。
「俺、カカシ先生とラーメン食いに行くのが夢だったんです」
「…夢って、ラーメン食べに行くのが?」
「カカシが帰ってきたらラーメン一緒に食いに行く!って…あん時からずっと思ってたんですよね。……だから明日一緒に行きましょう」
苦笑しながら話していると、カカシがむくりと起き上がった
部屋から消えたかと思うとタオルを持って帰ってくる。
「カカシ先生?」
イルカの疑問を他所に、上半身を起こしたイルカの布団を捲りタオルで身体を拭き始め驚いた。
「なに、どうしたんですか」
「イルカ先生の言ってる店って一楽でしょ?」
「……はい」
「閉店まであと一時間あるから、行こう」
「はあ?!」
その言葉に目を剥いた。無理。無理だ。だって痛い。身体が。使った場所が。
「無理っ、無理です!今度でいいですからっ」
「いいの。チャクラ使って楽にしてあげるから」
え、それってアリなのか。いや、それでも。
「でも、やっぱり無理ですよ」
「先生のそんな言葉聞いて寝てられない。叶えてあげたい」
叶えてあげたい。なんて。
抵抗していた身体の力を緩める。目を細めて微笑むカカシと目が合った。
「無理させないから。行こ?」
言われて。言い出した負い目も感じ、カカシの押しに流されるようにイルカは眉を寄せながらも頷いた。


「おやじさん、特製ラーメン2つ。卵つけてね」
イルカと連れ立って店に入ったカカシは注文して並んでカウンターの席に座った。平日なのと時間帯もあってか、俺たち以外誰もいない。内心ホッとした。椅子に座ってもそこまで痛みが響かないのはカカシのチャクラのおかげか。近くまでカカシに背負われて来たことは秘密だ。
「あ、あと餃子とビールも。2つづつね」
「そんなにいいですよ。何時だと思ってるんですか」
ご機嫌な顔で追加をするカカシに驚いた。夕飯を食べてはいないが、深夜を回っている。
「だって今日は俺たちの大切な記念日でしょ。だからいいんですよ」
頬を緩ませながら喋るカカシにちょっと、と小声で制するが何処吹く風。
「はい、乾杯」
ビールを渡されカチンと合わせられる。
ラーメンが目の前に置かれ、そこから美味いうちにとお互いに無言で食べた。目が合えばカカシはニコリと笑う。変に恥ずかしくて、笑い返すが自分はきっと変な顔になってるだろう。
でも美味い。ビールもラーメンも。
こうしてカカシと一緒に並んで食べて。
再び目が合った時、焼きたての餃子が置かれ、また目で笑い合いながらそのあどけない表情に少年だったカカシを感じた。
「カカシ先生」
「ん?」
「また、来ましょうね」
言えばカカシは嬉しそうに微笑み頷いた。

ここから一緒に歩いていこう。
手を繋いで。
そして一緒に歳を重ねよう。
ずっと。
ずっと。
その幸せをイルカは心から嬉しいと想った。









いつか渡した指輪をお互いに見せ将来の話をするのはそう遠くはないお話。



<終>


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