日曜日⑧

(....暑い)
そこまで気温も上がっていない部屋なのに、イルカは呼吸を乱しながら顔をしかめた。
雨が降って湿度があるからだろうか。窓はもちろん締め切っている。
汗っかきだが、暑いのもあるし熱いのもあって。
閉じていた目を開けると、カカシの閉じた目が視界に入る。眉を潜め快楽に流されながら腰を振るカカシの口は、少しだけ開いている。
あの吐き出される息は、熱いんだろうか。
額に汗が浮かんでいる自分とは違って、呼吸は荒いがカカシの顔は涼しげに見えてしまう。
ふっとその目が開き、自分と目が合った瞬間、カカシは微笑んだ。男だって分かってんのに。その表情だけで胸が苦しくなる。恥ずかしくなるくらいに別の意味で心臓が高鳴る。
そのカカシが自分の唇を吸った。
受け入れるように開いた口に舌が入り込む。その舌は自分と同じように熱い。知らずそのキスに夢中になる。
愛を確かめ合う。
無知で、女性と身体の関係も持った事もない自分は、素直にロマンチストな意味に捉えがちで。
セックスが愛だとは、どうしても考えられないのに。
触れる指の優しさや、口づけをされると酷く心が満たされていくのを感じるから。
こんな愛もあるのだと、カカシから知った。
(俺、...この人が好きなんだ...)
じゃなかったら、男に足を開かない。こんな風に受け入れたり、しない。
「動くよ」
唇を浮かしてそう呟くと、カカシが激しく腰を突き上げた。
「....あぁっ...っ」
追い立てられ、イルカから声が大きく漏れる。それが嫌でイルカは唇を噛んだ。
「あー...ずっと聞いてたい...」
独り言のように呟いた。
激しさを抑える事なくカカシは身体を揺する。
それが自分の声だと分かって羞恥がイルカを煽った。声を殺そうにも内側を容赦なく擦られ、抑えたくても声が勝手に零れる。
「んっ、...あっ、..ぁっ、」
言い返したいのに、激しい動きに頭が真っ白になる。絶頂に達した時、中の締め付けにカカシも低く呻く。
ずるりと引き抜かれ、カカシもまたイルカの腹に吐き出した。
なま暖かい感触が腹に感じる。
ふ、ふ、と荒い呼吸を繰り返して、カカシは脱力した身体をイルカに重ねた。
密着した肌はしっとりとして、そこで初めてカカシも汗を掻いていたと気が付かされた。
「暑いです...」
イルカもまた呼吸を整えながら言うとカカシは、ん、と返事をしてごこりとイルカの横に身体を横たえた。
「俺も」
言われてイルカはカカシへ顔を向けた。
「カカシさんも暑いって事があるんですね」
ふっと笑いを零して、カカシもイルカを見る。
「何それ」
「だって年中あの格好なんですよね?」
「まあね」
「だから真夏だろうとそこまで暑くない人なんだと思ってました」
今度は、はは、と声を立ててカカシが笑う。
「いいねえ、それ。イルカらしい。でも暑いに決まってるでしょ。機械やロボットじゃないんだから。俺だって暑さ寒さ普通に感じますよ」
それを確かめたくてカカシの額を触れた。
自分までとはいかなくとも、汗を掻き、熱い。
「俺だってロボットまでとは思ってませんよ、別に」
言いながらその肌から銀色の髪に触れる。柔らかい。犬の毛みたいだ。
黒色の髪の自分からしたら、綺麗な色だと思う。
何度も撫でる、その手をカカシに掴まれ動きを止められた。反応してカカシの顔を見ると、唇を重ねられる。
ちゅ、ちゅ、と唇を吸われる。もっと、と強請りたくなった時に唇は離れ、身体も離し、枕元にあるテッシュを抜き取る。汚れているイルカの腹を拭いた。
その仕草一つ一つを目で追いながら。
「今日何が食べたいですか?」
聞くと、カカシは手を止め視線を上にずらす。
「あー、俺冷や奴が食べたいです」
ネギとか薬味いっぱいのせたの。と言ってにこっと微笑んだ。子供のような笑顔。
この人が普段余りにも顔を覆っているからだろうか。こうして素顔を晒しているカカシは表情が良く分かって、すごく好きだ。
今日は初めて休みが重なった。今日は一緒にここで過ごすのだろう。
再び布団に横になったカカシは自分の腕を枕にしながら窓を見上げた。その窓には風が吹く度に雨粒が叩きつけられる。
「雨、ひどくなってきちゃいましたねぇ」
のんきそうにカカシが呟いた。
せっかくの休日。洗濯も布団も干せない。限られた休日。それはすこしうんざりした気持ちになるのに。
それなのに。ねえ、とこっちを向くカカシはにっこりと、穏やかに微笑んでいる。イルカもまたその表情に微笑んでいた。

火影に呼び出されたのはその三日後の事だった。
授業が終わって職員室の自分の席に戻ろうとして名前を呼ばれる。主任である上司が手招きをする。
「はい」
出席簿だけ机に置くと、イルカはその教務主任の机まで行く。
「火影様がお呼びだ」
「はい」
素直に頷く。
「例の定期的なあれだ。授業スケジュールはこっちで変えておくから」
少し不機嫌そうなのは、それが少し面倒だからと言う事だろう。
話はそれだけだと、手のひらを振られ、イルカは頭を下げて執務室へ向かった。
例の定期的なあれ。
それで直ぐに見当が付く。
イルカはアカデミーの建物から出ると、すぐ側にある大きな木の前で足を止めた。見上げる木は緑が多い繁り、木漏れ日にイルカは目を細めた。
「もうそんな時期だっけ...」
同じ様に呼び出されたのは6ヶ月前。その時ここを通った時も同じようにこの木を見上げていた。その時のこの木は、葉も散り寒々しく枝だけで。
イルカは深く息を吸い込んだ。
暖かい空気に、緑の匂いが混じる。
今日は暑くなりそうだ。
イルカはそこから執務室へ足を向けた。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。