知りたくて知りたくない事④

「見てて、イルカ先生」

目を細めたカカシは口元には笑みを浮かべている。
そんな事言われてもーー。
呆然としたまま腰が砕けたように座り込んでいるイルカを前に、カカシは下着ごとずり下げたまま、自分の陰茎を擦り上げ、立ったままイルカを見下ろしていた。
猛々しく反り立つものはイルカを圧倒していた。
動揺を露にしたイルカの瞳は潤みながらも揺れていた。その目を視界に捉えながらカカシは微笑んだ。
「あー、いいね。その目」
口角を上げるとその屹立した陰茎を更に扱き上げ始める。
顔を見ている限りは楽しげなカカシの表情。
これは夢なんだろうか。もはや夢でなければおかしい。そうだ、こんな事があるはずがない。そこまで、今イルカの目にしている状況は受け入れ難いものだった。
イルカの目は完全にカカシの下半身に釘付けになっていた。
先走りで少しの滑りが加わり、カカシの息が少しだけ上がったのが分かった。
「ねえ、…先生教えて?」
「………え?」
扱きを続けるカカシに問いかけられ、未だ呆然とその行為を見つめていたイルカは、カカシの顔へ視線を向けた。
「恋ってどんな感じだと思う?」
黒い瞳をパチクリとさせて、イルカは少しだけ眉を顰めた。
「え、…恋?」
「うん、恋」
そう言って、カカシはイルカの目から視線は外さない。自分を見ながらゆるゆると手を動かしている。
「恋ってさ、…感情だから説明が難しいのは分かるよ。それに、男相手なんて初めてだから、これが恋か判断出来ない」
何を言おうとしているのか。目にしている光景だけでイルカの思考はほぼ停止せざるを得ない状態にあり、更にその相手から会話を持ちかけられても、意味なんて考えられなかった。
はあ、と熱い息を吐き出して。カカシはボンヤリとした目になっている。その視界からは決して自分を外す事はない。
「…アンタを見てると不思議な感じがする」
カカシは不意に目を閉じ、切なげに眉を寄せた。
「お腹とか…喉とか耳の中も感じる。男相手にここまで勃つんだよ。でも、…それはアンタも同じだもんね」
微かに息を絶え絶えにカカシは話す。
薄く開いた唇を閉じて、カカシが唾を飲み込んだのが分かった。
イルカの心臓がバクバクとうるさいくらいに跳ね、耳の奥まで響いている。イルカの目はカカシの顔から下へ、カカシの大きな掌に包まれている先を見ていた。
どうしよう。
何を言っているのか分からない。
でも目が離せない。
乾いた唇を舐めればカカシの吐息が耳に入る。
「もっと舌、見せてよ」
アンタの口、すっげヤラシイ。
微かに笑を含めてカカシは頬を緩ませた。カカシの誘う様な声にビリビリと身体が反応する。イルカは慌てて口を閉じ、
「カカシさん、や、…止めてください」
それに拒否するようにカカシに言えば、また緩く微笑んだ。
「何言ってるの?…も、ね、…イキそうなんだからさ」
ねえ、そんな事より答えて。
「これってさ。つまり恋だよね?イルカ先生にしか感じないから。…絶対に…恋だ」
うら若き乙女が言うような台詞を、カカシはうわ言のように、確信的に。そして官能的に。しこりながら熱っぽさを増した声をして言った。
それは暗示のように。イルカには頭にカカシの声が響いた。
「恋…」
おうむ返しのように呟けば、カカシは眉を寄せた。短い呻きと共に、ビュッと精液が飛び出し、見上げたままのイルカの顎から服へ白濁が飛び散った。
「ぁっ…」
イルカからそんな声が漏れた。思わず目を伏せ、それを受け、カカシが達したのを知る。
そこからまたカカシを見る事が出来なかった。
嫌とか嫌じゃないとかそんなんじゃなくて。ましてや恋とか恋じゃないとかでもなくて。
カカシがしゃがみ込み、イルカの頬を指で摩り、その指は顎にかかる。飛び散ったものを拭い、長い指がくいと上を向かせた。
「ぁ、…」
目の前には、息が上がったカカシが端正な素顔を見せながら薄く微笑む。
「お互いにいったことだし、これで心置きなくセックス出来るね」
「は?」
「はじゃないよ。やろうよ。アンタももうそのつもりでしょ」
ゆるとイルカの熱を掴まれ、思わず及び腰になった。
「あっ…やっ」
その熱はまた明らかに擡げていた。自分の抜く様を見て、イルカの身体が反応を示していたのをカカシは知っていた。
「嫌なはずないでしょ」
「それは…」
言い淀むとカカシは厭らしい表情を見せた。またそれがなんとも目が離せない。
「俺の名前を呼んで、何想像してたの?やる方?やられる方?」
言われて頬が一気に熱を持った。目際も熱く、こみ上げるのが何なのか。ただ、それに耐えるように目に力を入れた。
顔が近づき息を吹き込むように耳元で囁いた。

「俺としたいんでしょ?」

したくない。
と言えばそれは嘘だ。

不思議なほど余裕な顔で自信ありげにカカシはイルカに迫る。それは何故か嬉々としているようにも見えた。
こんな形でカカシとしていいのか。頭の中にある冷静な部分が自分を問い詰める。
だが、嫌ではないと。分かってしまっていた。自慰を手助けされ、目の前であんな痴態をみせられても、嫌じゃなかった。
それがカカシの言う恋かは別として。

イルカがどんな結論を出したか知っているかのように、カカシは唇をゆっくりと合わせてきた。優しく何度もついばみ唇を舐める。声を漏らす自分が丸で女のようで。目を閉じたイルカは眉を寄せる。開いた口を割り入った舌はイルカの口内を味わうように蠢いた。
漏れる声は丸で強請っているようだと、イルカ自身恥ずかしくなった。
甘いキスは自然に目に涙が浮かぶ。
自然な流れでゆっくりと押し倒され背中が布団についた。関心するくらいカカシのリードが上手いのは経験からくるものだろう。尚止まない唇への愛撫は羞恥すら忘れさせる。
程なくして唇が離れ、カカシの手がイルカの髪紐を解いた。黒い髪がほどかれ、滅多に人前で晒す事がない姿にイルカに戸惑いの表情が現れると、カカシは小さく笑った。
「そんな顔もするんだね。もっと色んな顔見せて」
頬に赤さを増して泣きそうにも見えるイルカの目元にキスを落とす。迫る言葉とは裏腹に優しい仕草をされ、イルカは堪らず腕をカカシの首にまわしキスを強請った。
空気に流されている訳じゃない。実際カカシにこうされて身体が反応していると言うことは、そうなりたいと自分でも望んでいる。頭の隅でいつもこうなりたいと、思っていた。
そっか。カカシが好きだったんだ。
胸を手や口で刺激を与えられ、既に服を脱がされ立ち上がる自分の陰茎からは先走りが滴る。膨らみもなく筋肉質な身体を見ても尚カカシは萎える事なく興奮を露にしていた。既に反り立っているカカシの陰茎はさっき見た時よりも大きく見え、時折自分に触れる度興奮を増した。
カカシは途中からは夢中にイルカの身体を貪っているようにも見える。それがまたイルカの興奮をも掻き立てた。
自分よりも鍛え上げられた白い肌に浮かび上がるカカシの身体に、どうしようもなく胸が高鳴る。
カカシに恋だと言われてから、暗示か魔法のようにイルカを支配していた。
「先生、潤滑油みたいの持ってる?」
イルカの陰茎を手で掴み動かして、カカシは口を開いた。余裕がないようにも感じる。
言われて、そうか。男同志には必要になる物があるんだと気がついた。
頭を回すが、経験がないからか、代わりになる物自体思い浮かばない。
「潤滑油…」
呟けばカカシの手が離れ、床に落ちている自分のポーチを探り出した。
「痛い思いさせてセックスが嫌なもんだと思わせたくないからね」
これでいっか。
取り出した手には携帯用のワセリンが握られていた。
片手で器用に蓋を開け中身を出す。
「指入れるよ?」
こくんと頷いたイルカに再び覆いかぶさるようにカカシが乗り、首元に愛撫をしながらイルカの後口にワセリンを塗った指を当て、周りを指の腹で撫でる。熱いそこはすぐにぬるぬると滑りが良くなった。そこにゆっくりと指を沈めていく。余りの圧迫感に筋肉が引き攣った。
指は押し広げるように動いている。
息が荒くなるイルカの髪を優しく撫でた。
「ゆっくり息して」
言われるままに息を落ち着かせる。指が2本に増えたのがわかった。さっきまで性急に見えたカカシはただひたすらにゆっくりと慣らす。先ほどカカシが言った台詞の裏付け通りなんだろうな。
動いていた指が前立腺を擦り、イルカの身体がビクビクと跳ねた。脳が感じた事のない快楽だと、はっきり認識できず、だが、それは確かな感触だった。
「ぁっ…あっ!」
また同じ場所を擦られイルカは声を上げた。カカシが嬉しそうに口元を緩ませる。
「感じてる…気持ちいいんだね」
指を出し入れさせ指を更に増やされる。それは腹部を圧迫し、イルカの目に涙が浮かんだ。
「………っ」
「大丈夫。気持ちいい事に集中して」
辛抱強く、優しく促すカカシの行為にイルカの胸が熱くなる。あの自分がいつも目で追っていたカカシの指が、今自分の中をを掻き回している。そう思っただけで、ゾクゾクとした痺れが背中を走った。また中を刺激され、声が漏れる。イルカの先走りがカカシの腹を汚していた。
「も、いいよね」
ずるりと抜いて、直ぐにカカシの熱を当てがわれる。ゆっくりと、確実に、カカシが腰を推し進めた。イルカはその大きさに目を見開いていた。
「きつ……」
思わず漏らしたカカシに、薄っすら目を開ければ、目を閉じ、眉を切なげに寄せたカカシが目に入った。それはふと目が開き、優しい微笑みを浮かべた。
「入ったよ」
口付けされ、腰を揺すられ、ずっずっと動く度に、圧迫感よりも快感が上回るのが分かった。
ゆっくり慣らされたからか、痛みも感じない。
多少息を上げながらカカシは揺すり上げる。
声は止まらなかった。
先走りで濡れた陰茎を擦りあげられ、直ぐにイルカは達した。
「カカシさん、…好きです」
ようやく確信した行為の意味を口にすればカカシは満悦した笑みを浮かべた。
「知ってる」
そこからカカシは腰を揺さぶり、打ちつけた。身体を屈められれば更に繋がりは深くなり、その快感に、カカシの首に腕を回ししがみついていた。
イルカが再び達し白濁を撒き散らした時、カカシもようやくイルカの最奥で弾け熱を吐き出した。



意識を手放していたイルカが目覚めたのは人知れず暖かい何かを感じたから。
ゆっくり目を開ければ自分を抱き締めながら眠りに落ちているカカシの顔が目に入り、一気に眠気が吹き飛んだ。
丸くした目で、まじまじとカカシを見つめる。ぶわっと忘れられるはずがない昨日の経緯と行為が蘇り一気に耳まで真っ赤になった。
イルカの起きた気配を感じとったカカシが目を開け、朝日の眩しさに顔を顰めながらイルカに擦りついた。
「まだ眠いよ…」
どうすべきでもないのに、動揺を隠さないイルカを、目を開けもう一度見て、可愛いと思った。カカシは笑う。
「ねー先生、俺はね、今まで理解出来なかった詩や歌の意味が分かるよ。最高に気分がいい。イルカ先生だって、このハッピーエンド悪くないでしょ」
「う…あ…、はい」
「幸せだなー」
カカシの本当に満足している顔は、幸せだと物語っていた。



任務が終わり北の森に入った時は日が暮れ暗くなっていた。
「テンゾ」
名前を呼ばれ、気がつけなかった気配に驚き、勢いよく振り返ると、闇を背に銀色の髪が目に入った。
自分が感知出来なかった気配は久しぶりで、相手がカカシだと分かり、内心胸を撫で下ろした。
顔を見せたのは一ヶ月ぶりだ。あの相談を持ちかけていて以来。
読めない顔をしている。安易に聞けばいいとは思うが、何故か切り出せなかった。
一頻り読取らせたカカシはテンゾウに近づいた。
「あれねー気のせいだった」
青い目がジッとテンゾウを捉える。
「だからさ、忘れて」
「……はい」
それだけ。カカシはにこやかな顔を見せ、風の様に消え去った。
「…気のせいね」
テンゾウは闇の中でため息をついた。
青い目が輝きを灯しているのを見逃してはいなかった。それに、カカシの性格を自分は重々承知している。
そこから推測されたカカシの選択した答えに、再び息を吐き出して。
また相談されるよりはマシかと、テンゾウは気持ちを切り替え、黒い目を夜空へ向け、身体を飛ばした。

<終>




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