薄れる⑧

イルカの身体は柔らかいベットの上にあった。
今まで感じた事のない深い快眠を促すだろうスプリングのベット。自分の現状に驚きながらも脚を動かせば、シーツが肌と擦れる音がし、何ともその場を引き立たせているようだった。



黙って俯いたまま黙秘を続けるイルカに、もう待てないと、思ったのかは分からないが、カカシはイルカの腕を取り、顔を上げさせると、
「じゃあ身体に聞いちゃおっかな」
悪戯っぽい笑みを見せて言った。
嫌と言う前にはもう抱き上げられていた。女性の身体だからか、軽々抱き上げスタスタと寝室に入るとベットの上にイルカを乗せる。
カカシによって知りたくない心の中を読まれ、己も知ってしまった今、否定をする事は憚られた。
柔らかいベットの上に仰向けに寝かされたイルカに覆いかぶさるようにカカシは乗り、上からイルカを見下ろす。
カカシの重みでスプリングが微かに音を立てた。
「諦めた?」
ゆっくりとイルカの服のボタンに手をかけながら頬にキスを落としていく。
黒く潤んだ目がどうして困惑しているかなんて、知る由もないカカシは、微笑した。
「人を好きになるってこう言う感じなんだね。あんたの身体だけじゃない、心も自分のものにしたくて堪らない。セックスにそんな意味があるなんて知ってた?」
嬉しさを噛み締めるように、カカシはうっとりと呟いた。
「だから応えてくれて嬉しい」
それは違う。
カカシの言葉を聞いて眉をきゅっと寄せた。
確かに気持ちがカカシに向いていると、認めるが、カカシの気持ちを受け止めるかなんて、決めれない。
だから、やめてくれ。
そんな言葉、俺に言わないでくれ。
目をカカシから逸らし顔を横に向ける。覗かせる形になったイルカの首元にカカシは吸い寄せられるように顔を埋めた。
赤い舌が肌を舐め、ちゅっと音を立て吸う。心地いい愛撫に鼻から甘い声が漏れた。
時折きつく吸い上げ赤い痕を残す。ビクと身体が揺れるとカカシが笑った。
「可愛い……ね、初めて?俺があんたの初めて?」
「やっ、……っ」
かあと顔が赤くなる。そうなんだ、と言ってカカシはため息にも似た笑いを漏らした。
上衣を一気に肌蹴られ、下着さえ付けていない乳房が露わになった。外気に晒され肌がヒヤリと感じた。が、それは一瞬だった。
程よい大きさの胸をカカシが舌で舐めあげ、乳首をグリと刺激した。ぬるぬると何度も刺激を加えられ、直ぐに先端が固くなる。
「んっ……っ、んっ」
身体中に痺れが走り、イルカは必死で声を出すまいと口に手を当てた。
「可愛い…好き、大好き。ね、俺の事好きって言って?」
イルカの黒い瞳が大きくなりカカシを見た。喉から声が詰まったように出ない。微かに開いている赤い唇が震えた。
言えっこない。
カカシの瞳は真っ直ぐにイルカを見つめ、嬉しくて堪らないと、歓喜の色を帯びていた。
それはイルカを更に追い詰める。
「そうだ、名前。まだ聞いてないよね」
思い出したと、カカシは薄っすら微笑んだ。
「教えて?あんたの名前。名前を呼んでしたい」
絶対気持ちいいよね。
優しく微笑んだカカシを見たら堪らなくなった。
プツリと糸が切れたように。黒い瞳から涙が浮かび、溢れ、イルカのこめかみを伝った。
いくつも止めどなく流れ、隠すように両腕で覆う。
「ごめんなさい……」
絞り出した声は掠れていた。
もう限界だった。嘘に嘘を重ねるなんて。
とても出来ない。
気持ちが嘘じゃなくても、カカシを騙してる事には変わらない。
殴られてもいい。
殴られるだけじゃ済まないかもしれないけど、嘘を吐くよりはよっぽどマシだ。
意を決意して顔を覆った腕を取り払う。
「カカシさん…俺はうみのイルカです」
見下ろしたままのカカシに言えば、薄い唇を閉じ眉根を寄せた。
「……イルカ…?」
カカシはまだイルカに跨ったまま。何を言っているのかと、夢を見るかのような眼差しを向けていた。
だからそれを教えるかのように指で印を結び、ボン、と音と共に封が解ける。
男に戻ったイルカを見て、カカシは少し目を細め、目に映るイルカを確認する。イルカの肌に触れていたカカシの指がピクリと動いた。
誤魔化しようがない状況に、受け入れ難くても真実はこれしかない。
煮るなり焼くなり好きにすればいい。
きっと顔を見たくもないくらい俺を責め苛むだろう。
そんなつもりはなかったが、結果的にはそうなのだから。
カカシは放心したような、気抜けしたような表情をしたまま。やがて口を開いた。

「良かった……」

責められると覚悟し身構えていたイルカは、瞬きをした。
よかった?
あれ、それはどんな意味だ。
視界に入っているカカシの唇が、ほんのり笑みを含んだ。
「本当にイルカさんだ」
「…そ、そうです。カカシさん俺、」
「俺、イルカさんに恋したんだ」
「謝って済むようなことじゃないって分かってますが、」
「ホントに良かった」
「はい…、は、…え?」
ようやく何かがおかしいと気がつき、だが、まだよく分からない。
どうも会話が噛み合っていない気がする。きちんと話し合いたい。
「カカシさん、兎に角おりてください」
起き上がろうと両肘をつくイルカを見てもカカシは動こうとしない。
「何で?」
「何でって…これじゃちゃんと説明が出来ないですから」
「説明ってなに?俺はイルカさんが好きであんたも俺が好き。これ以上なにを説明するの」
カカシの言った事は最もだが。それは俺が女だった時の話だ。変化を解いた今、何も存在しないのに。カカシだって変化を解いた時点でそれは分かってる筈だ。なのに何を今更言い出すんだ。
そこまで思ってはたと思考が止まる。
あれ?カカシさん何て言った。
好き?
カカシさんが?
「…………嘘だ」
頭で合致した事に思わず漏らしていた。
「嘘なんか言ってなんになるの。俺はイルカさん、あんたが好きだよ。あ、そうか。そうだよね。知らなかったもんね」
そうだったね。カカシはおかしそうに笑いだした。
「女のあんたを好きになる前から、好きだったの」
「……誰をですか?」
カカシは大きく息を吐いた。
「だーかーらー、うみのイルカさん。あんただよ」
「はあ!?でもっ、俺、男ですよ?」
目を剥くイルカを見て更に笑う。可笑しそうに。
「だから何?あんた言ったじゃない。何がきっかけで好きになるかわからないって。俺はあんたに恋したの。前々から気になって仕方がなかった。だから正直女なんかに気持ちが揺らぐ自分が信じられなかった。でもさ、それイルカさんだったんだよ?」
分かる?カカシは恍惚としてイルカを見下ろした。
「あんたに二度、恋したんだ」
それって凄くない?イチャパラ超えてるよ。
「でもってあんたは俺を好きになった。だよね?」
そうだ。カカシは知らずに恋をしたが、俺は知って尚惹かれていた。笑顔を見た時から。
自分の言った言葉がまさかこんな形で返ってくるなんて。本当、何がきっかけで好きなるなんて分かった物じゃない。
だって、男だと分かっても好きだと言われ、嬉しくて仕方ないのは事実だ。
今更ながらに顔を赤らめるイルカに、カカシはまた微笑んだ。
跨ったままのカカシはイルカに顔を近づける。色違いの瞳を間近で交わらせ、
「大丈夫。めちゃめちゃに可愛がってあげるから」
熱い息が唇にかかる。涙の痕を拭うように頬を舌で舐めあげられた。






ここからR-18の内容を含みます






「カカシさっ…、もっ……、やめっ」
逃げるようにシーツの上で背中を見せれば、カカシは剥き出しになった尻をぎゅっと掴んだ。その奥は吐き出されたもので濡れ、誘い込むように収縮を見せた。そこにまた猛った陰茎で貫く。
「はぁっ…!」
初めてだって、知ってんのに。
「こうして、…あんたと繋がりたかった」
上がった息を吐きながらカカシが言った。まさに繋がっている場所をグリと動かした。ぐしゅぐしゅと濡れた音が結合部から漏れ、疼くような快感にイルカは緩んだ口から母音を漏らした。
いったばかりの身体は些細な刺激さえ敏感に感じ取っている。
こんな快楽、自分は知らない。未知なるものは無意識に怖さを感じるはずなのに、求めるように身体は震えた。
腰を掴み直し、ガンガンと最奥へ突き上げる。
「…飛びそうに気持ちいい…」
うわ言のように呟きながら腰を振り続ける。
「あ!あっん!!…っ、ぁっ!カカシ、っさん!」
もう無理だ、と泣きながら喘ぐ。
「…っ、好きだよっ、」
イルカさん。
名前を呼ばれ、好きだと言われ。こんな状況下でも、それは嬉しいと思えていた。
引き抜かれた陰茎を一気に奥へ突き上げる。内部で熱いほとばしりを感じながらイルカも白濁を放つ。
「カカシさん、…俺も……」
好きです。
さっきまで。
泣くほど罪の意識に苛まれていた気持ち。それが、ようやく薄れてくとイルカは感じながら、意識を手放した。



<終>



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