あなたがくれたもの

カカシは困惑していた。

ある日のこと
いきなり「よろしかったらこれ、どうぞ。」とアイマスクを手渡されたからだ。

「これで眩しい光の下、問題なく眠れます。」
「え?は?えっと…???」
「おっと授業が始まっちまう!では!」
「え?あ、あのっ!イルカ先…」

そう、アイマスクをくれたのはカカシの部下達の恩師
忍者アカデミーの“うみのイルカ ”

「なんでアイマスク…。なんで俺に?」

彼とは、さほど会話もした事がなく
任務後の報告の為、子供達を伴ない向かう受付で顔を合わす程度。
「アイマスク…か。」指で摘んだアイマスクをブラブラさせて
俺には片目しか用が無いんだけどねぇと取り敢えず尻のポーチに畳んで入れた。

そして また翌日 たまたま待機所に居た時。
イルカが上忍達に「次回の五影会談のお知らせ」というプリントを配りにやって来たのだが
配り終わった帰り際にカカシに近寄り何かを差し出した。

「カカシさん、よろしかったらこれお使いください。」

そう言って出したのは

「……えーと…これってアレかな。鉛筆が短くなったら付けるやつ。」
「はい!俺のですが、一応新品です。」
「はあ…。」

カカシは受け取った銀色の補助軸を指で挟んで見つめながら

「えーと…なぜ俺に…」

そこまで言いかけた時、入口にイルカの同僚らしき男が駆けつけ
「あ!いたいた!イルカ、三代目がお呼びだ!」と大声でイルカを呼んだ。

「おう!今すぐ行く!」

そう返事をすると「では!」と、鉛筆の補助軸を手にしたカカシをそのままに
イルカは颯爽と待機所から出て行ってしまった。

『昨日といい今日といい… なんだ?』

彼は何故自分に訳のわからない贈り物を寄越すのか?
え?え?気があるって訳じゃないよね?
でも気があるならあるなりに、もっと気の利いた物を寄越すでしょ?

ますます困惑するカカシは眉間にシワを寄せながら
ただただ補助軸を見つめるばかりだった。

『ま、いいか。』

そうしてそれもポーチの中へポイと入れた。

そんなある日
待機室で少し席を外した間の事。
部屋へ戻るなりアスマから或る物を渡された。
それは小さな缶コーヒー程の大きさの竹製の水筒。

「何これ。」
「さっきイルカがお前に渡してくれって置いて行ったんだ。」
「イルカ…先生が?」
「その辺で会わなかったか?」
「ああ。…ちょっと行ってくる。」

行き違いになったらしいが、イルカは多分アカデミー方向へ 向かったはず。
カカシは急いで彼の後を追った。

『この前から理由(わけ)のわからない物ばかり俺に渡す…。何故だ?』

誕生日でも無ければ、それこそ自分に気がある訳でもなさそうで
カカシは戸惑うばかりだった。

『居た!』

イルカは尻尾のような髪を揺らしながらアカデミーの方向へ歩いていた。

「イルカ先生!」
「! あ、カカシさん。」

立ち止まり振り向く彼は、にこやかな顔を見せる

「あの、これ…」
「あ、アスマさんから受け取りましたか。」
「これ、いったい…」
「ちょっと水を汲んで飲む時に良いでしょう?」
「は?」
「竹製だから水も美味しく飲めま…」
「ねえ、あんた俺にどうして欲しいの?」
「え?別に見返りなんか…」
「じゃあなんで最近いろいろ物をくれるの?」
「それは貴方がナルト達の…」

イルカがそこまで言った時

「イルカ!頼みが有る。すぐに儂と来てくれ。」

いつの間にやら少し離れた所に三代目が立っていた。

「はい!」

イルカはカカシの方に顔を向けると「あの子達をよろしくお願いします。」と頭を下げ
急いで三代目の方へと駆けて行ってしまった。

『“貴方がナルト達の”?』

ナルト達の師だから?
お世話になってます的な?
それにしては今まで渡された物の意味がよく分からない。
普通は菓子折りの一つとか、銘酒の一本とか贈るものではないだろうか?

『貰うつもりも無いけどね。』

今までイルカがくれたもの。
アイマスク、鉛筆の補助軸。 そしてこれ、水筒だ。

教師は戦忍に比べると、遥かに報酬(給料)が少ないと聞く。
だからって、こんな雑貨を渡すとは。
イルカらしいと言えばイルカらしいが
カカシは思わず鼻で笑い、その竹の水筒を手に待機所へ戻って行った。


***



「カカシせんせー!少し休もうってばよ!」

川の中に立つナルトが、休憩を要求する。
かれこれ一時間近く素手で川魚を捕獲しようとしているから飽きたのだろう。
今日の修行は素手で川の魚を捕る、と言った…いわゆるレクリエーションのようなもの。
日頃 草むしりや迷い猫探しなどの任務に文句ばかり言う奴らに
ほんの息抜きとして与えた時間…もとい修行だ。

「もう昼だな。よし、飯にするか。お前ら焚き火の用意をして捕った魚を焼いてちょーだい。」

子ども達が作業を行っているあいだ
俺は本日の修行の成果
すなわち誰が何匹魚を捕らえたかを手帳にメモすることにした。

『鉛筆、鉛筆…。』

尻のポーチから鉛筆を取り出した時、何かがポロリと落ちた。

『あ、…補助軸。』

イルカ先生からの補助軸。
すぐに足元から拾い上げる。
ポーチに入れたまま忘れていたのだ。

『…あれ?いいかも。』

右手に拾った補助軸と、手帳にメモするために出した左手に持ったチビた鉛筆。
その五センチ程の鉛筆に補助軸を付けた時、サクラがバケツを手にやって来た。

「先生、私が八匹 サスケ君が十八匹、ナルトが六匹です!」
「ん。りょーかい。」

皆の捕獲量をメモする。
うん。補助軸いいかも。

「あ!先生の鉛筆長くなってるわね。補助軸かぁ。」
「うん、いいでしょ?」

ウフフと笑いながらサクラはサスケのもとへと駆けていった。
子供達は自力で火を熾すのに必死だったり(火遁は禁止)魚に細枝を縦に通して焼く準備をしたりと
ギャーギャー騒ぎながらも、やけに楽しそうに見えたので
この“修行”は正解だったと、俺の顔にも自然と笑みが浮かぶ。

「せんせー焼けたってばよ!」
「ああ、今行く。」

子供達は其々に持ってきた握り飯や水筒を手元に出して待っていた。

あ… 水筒。 持ってきたんだった。

缶コーヒー程の大きさのそれは、尻のポーチにギュッと入っていて
それを取り出し川で水を汲み、皆の側へと行く。

「あれ?カカシ先生ってば水筒持ってたんだ?」
「まあね。」
「いつも川から直接飲んでたくせにさーあ?」
「ははは。」

ナルトに言われてみると、そうだった。
俺が水筒なんて持った来た事がなかった。

「サスケ君が捕まえた鮎、美味しいわねぇ~。」
「サクラちゃんサクラちゃん、俺の捕った魚はぁ~?」
「何よ煩いわねぇ、何なのよこの小さい魚はっ!ナルトの全部小さいじゃないっ!」
「俺んとこにはコレしか居なかったんだってばよ~。」

サクラ、小魚を捕まえるほうが難しいと思うぞ?
そう思いながらも口には出さなかったが、サスケも同じ事を思っていたらしく
目を細めてナルトを見ていた。

昼食も終わり、もう少し休もうという事で
俺は木の幹に寄りかかり、昼寝を決める事にする。
今日は日差しが強いのか、木漏れ日がチラチラと目に眩しい。

 アイマスク

俺の頭の中に、ふと浮かぶ。
ああ、アイマスクが有ったな。
ポーチから変に折れて入っていたアイマスクを取り出し
片目だけ必要なのだが、それを着用してみた。 なかなかいい。

『…考えてみたら額当てを全部下げたら、それでアイマスクになるよね?』

くすりと笑ったその時
サスケが近づく気配がした。見えなくても近付くチャクラの感じからわかる。

「なに?サスケ。」

目を閉じたまま問うと
見えないのになぜ自分だとわかるのか?と言う思いからか
少し二人の間の空気がゆらめく。

「あんた、わざとアイツに小魚ばかり泳いでいる所に立たせたのか?」

あーあ。サスケくん。 やっかんでるのかな?

「偶然だよ。俺は贔屓なんてしないさ、馬鹿らしい。」
「…ふん。」

納得してくれたかな?

「忍びがアイマスクなんてするんじゃねーよ。」
「悪かったね。たまたま持ってたもんで。」
「さっきの…水筒。」
「ん?」
「あれは俺が言ったから持ってきたのか?」
「ん?お前が?」
「なんだ、もう忘れたのか。前に川で水飲んでいた時に水筒くらい持ってこいよと助言したじゃないか。」

助言 ね。 はは… と笑おうとした。
笑おうとしたが、俺は或る事に気づく。

水筒は確かにサスケに言われたんだ。
それと鉛筆の補助軸。
あれは確か前にナルトが「カカシ先生、物持ちいいなぁ。でも書きづらくなーい?」と言われた事があり…
このアイマスクは、いつぞや今日と同じ様な天候の時にサクラが
「先生そんな所に寝て眩しくないの?」と声をかけてくれて…

「サスケ、お前俺が水筒持ってない事…誰かに言った?」

するとサスケは思い出したかのように

「…ああ… イルカ先生に会った時…。」

任務の様子を聞かれた時に、こんな感じでやっていると話し
俺の事も話題に載せたそうだ。

その後、何気にサクラにも聞くと
「イルカ先生にカカシ先生は眩しい場所でも平気で寝てる。」と話していて
ナルトも「カカシ先生はケチなのかチビた鉛筆使ってるんだってばよ!」と
ラーメンを御馳走になりながら笑い飛ばしていたそうだ。




アカデミーが終る頃 俺は校門の外でイルカ先生を待っていた。
間もなく、俺が待っているなんて知る由もないイルカ先生が出て来る。

「あ。」
「どーも。お疲れ様。」
「カカシさん… お疲れ様です。どなたかお待ちですか?」
「先生、今日はもう帰るだけ?」
「ええ。」
「じゃあさ、少し俺に付き合ってよ。」

俺は口元で右手の親指と人差指を使い、盃を傾ける仕草をしてみせた。
彼は少し驚いたようだが、パアッと輝くような笑顔を見せて
「喜んで!」と答えてくれたんだ。
不覚にも、その笑顔に胸がギュッと鷲掴みにされた気もするが。
兎にも角にも、貴方にはいろいろと聞きたい事もあるし
俺にしては珍しく、他人に対して興味を抱くなんて
自分自身戸惑いを隠せないでいるんだ。

彼とは仲良くやれそうだ… そんな予感が
不思議と幸福感をも齎(モタラ)せてくれていた。








猫だるまの鈴さんより相互記念のお礼SS第二弾をいただきました!!><今回のお題「戸惑う」だったんですが、読みながら癒されまくりました。。七班が絡むお話、大好きなんです!イルカ先生ってば。可愛すぎる。。この続きがどうなるのか、気になってしまうっ。鈴さんのほんわかしたお話でまた幸せになりました。ありがとうございます!宝物~^^

2016.1.26
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