猫の気持ち

ああ良い天気だな。
空は青く広がり雲が遠くに浮かんでいるだけ。
風も気持ち良く、後ろ髪をふうわりと撫でて行く。
それだけでも小さな幸福感を得てるのに、今日の神様は俺だけにピンポイントで幸せを齎(もたら)せているのかと思う様な光景が目の前に。
木陰のベンチでイルカ先生が一人で弁当を食べているではないか。

「 あ。 」
「今頃お昼ですか?」

ふふふと笑って彼に近づいて行く。この笑みは自然と出たものだ。
彼を見ると顔が緩んで仕方がない俺だから。
きっとデレデレと締りのない顔になっている事と思われるので、口布していて良かった!と、つくづく思う。
そう。俺はイルカ先生が大好きなのだ。
恋人としてお付き合いしたいレベルで。

「今日は午前授業だったのですが、色々と後始末していたらこんな時間になって…。」

照れくさそうにハハハ!と笑う彼に、彼を好き過ぎる俺はドキドキしてしまう。
真剣に一人の人を好きになり、「恋をする」と言うのは こんな感じなのだと初めて味わう俺は
彼に会うたび、その「恋」という見えない何かに翻弄されている。

「で、職員室で食べずに、こんな外れの公園まで来て優雅に食事ですか。天気良いですものね。」
「はい!あ、握り飯ひとついかがですか?」
「え?」

彼は体をずらして二人がけベンチの片方に俺が座れるよう席を空けてくれた。

「三つも作って来ちゃったけど、食いきれないし良かったら…。」
「嬉しい。頂きます。」

嬉しいのは、彼の隣に寄り添う様に座れる事。
お誂え向きに本当に大人二人しか座れない小さなベンチに感謝しながら握り飯を貰う。

「具は鰹梅です。」
「鰹梅?」
「梅干しの解した実に鰹節をまぶして少し醤油を垂らしてあるだけですが!ははは!」
「うん!美味しいです!」

彼の手で握られた物だと思うと余計に美味い。

「これはいつか御馳走しなきゃなぁ。」
「えー?いつもカカシさんが支払いしてくれちゃってるのに!」

そうなのだ。彼のスケジュールをほぼ把握している俺は、都合の良さそうな晩に飲みに誘っては連れ歩いている。
しかし告白も出来ないでいるのが自分としても不甲斐ない。

「お腹いっぱいになったら眠くなりそうですねぇ。」
「ですねぇ。」

ふと、イルカ先生が俺の髪に手を伸ばした。
髪に小さな木の葉が付いていたのを、そっと指で取り除いてくれたのだ。

「カカシさんの髪って猫毛なんですね。綺麗な髪だし。」

俺の頭を凝視している彼の眼差しに胸が高鳴る。
そんなはずは無いのに。彼の気持ちも俺に向いているのでは?との錯覚に陥りそうになって…
なって… そうして我に返ると僅かな悲しみが湧いてきて胸が締め付けられる。
そんな都合の良い事など有るはずが無い。

「猫になったら先生の家に厄介になるかなぁ?美味しいご飯を頂けそうだし。」

そんな馬鹿な話を持ちだして自分の気持ちを掻き消そうと無理に笑った。

「猫になったら、ですか。ハハハ… カカシさんが猫ねぇ?」

肩が触れ合うくらいの隣で、クスクス笑うイルカ先生が愛し過ぎて
「そうですよー。ゴロゴロゴロ… 先生に甘えちゃいます。」と、これまた馬鹿みたいに彼の右肩に軽く頭を擦り寄せる。

「こんな綺麗な猫、俺には勿体無いですよ~。」
「ふふふ。」

いっその事、猫になって貴方の傍で暮らせたら…

「カカシさんはカカシさんのままが一番ですよ。猫になったら一緒に飲みにも行けなくなります!」
「 …… 」

わかりましたかー?銀色の猫ちゃん? そう言いながら、頭を寄せる俺の髪を優しく撫でてくれた。


先生 いつか俺の気持ちに気づいて。 そして受け止めて。

この俺の気持ち。 この銀色の猫の気持ちを。

<終>


鈴さんから!鈴さんからお祝いのSSいただきました!お題を聞かれ、色々考えたのですが、鈴さんは猫のイメージがあり、鈴さんの思い浮かべる猫のカカイル!とまたしても図々しくお願いしたのですが、こんな素敵な作品をいただきました!
読んでいるうちからカカシ先生の幸せな気持ちと恋する気持ちが伝わってきて、なんとも言えない嬉しい気持ちでいっぱいになりました。
イルカ先生の鰹梅のおにぎりが食べたい。。頭なでなでいてもらいたいし、カカシ先生の髪を触りたい!猫毛><
読み終わって、鈴さんに続きが読みたいです><と言ってしまったくらい、この先の2人を読みたくなりましたっ。日常の二人を書けるってすごい事だと思います。付き合ってもいないのに、甘い空気の二人が堪りません!
鈴さんありがとうございましたヾ(●´□`●)ノ宝物です♪
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。