約束

温かい光が差し込む窓辺から、子供たちが笑う声が聞こえた。
楽しげで、明るくて。まだ成長しきっていない甲高い声はどれも中性的で、夢と現の間をさ迷いながらその声を聞いていた。
だから。
ふと頬に触れた冷たい感触に瞳を開いた時、銀髪の彼が傍にいたから、ここは別のどこなのかと一瞬勘違いしそうになった。
破れたベスト、ボロボロになった装備。
いつもは太陽の光を浴びてキラキラ輝く髪は砂埃でくすんでしまっている。
任務帰りの彼のこんな姿を見るのは珍しくはないが、脳裏を掠める違和感に感じたままの言葉を口にした。

「・・・泣いてるんですか?」

眠っていたせいだろう。
自分の声があまりにも嗄れていたから少しだけ驚いて。
僅かに首を左右に振った彼が、俺に手を伸ばそうとして躊躇うのを見咎める。
額当てで覆われていない瞳は穏やかだけれど、その奥には何かに怯えたような色が見え隠れしていて、それが何故だか幼い子供のように思えた。
臆病な彼の手にはやく触れてやりたい。
怠い身体を叱咤し、布団の中から腕を引っ張り出した。

「カカシさん」

白いカーテンで仕切られたベッドの脇に座ったまま、その様をじっと見つめていたカカシがいてもたってもいられないというように差し出した手を握りしめた。

「心配かけちゃいましたか」

ふふふと笑えば、かすかな憤りを含んだ溜息が聞こえた。

「受付で事故のことを聞いて・・・」

吃驚しました、と。
正直に話す姿に思わず笑みが溢れる。
猛獣使いと讃えられるイルカだが、カカシがこんな風に素直に気持ちを吐露してくれるまで、いったいどれぐらいの月日を費やしただろうか。

「アカデミーでは珍しい事じゃありませんよ」

まだ成長過程にある子供たちだ。
チャクラの制御もままならず暴走させてしまうのは良くある話で、教師はそれを注意深く観察しながらも万が一の事態に備えている。
今回はたまたま暴走したチャクラが思っていたよりも大きかっただけの話なのだが。
演習場に大穴空いちまったからなぁ・・・。
これはもしや監督不行き届きで減俸かなと、自らの薄い財布を思い浮かべたら少し泣けた。

「生徒を庇ったそうですね」
「ははっ、お恥ずかしい」

身を挺して生徒を庇うのは教師の務めだが、術を跳ね返すには時間が足りなかった。
直撃は免れたものの爆風に跳ね飛ばされて・・その後は残念ながら覚えていない。

「まったくアンタって人は」

呆れた物言いの中にも僅かな怒りを感じるけれど、それには気づかぬフリをする。
おそらくカカシも言ってもしかたがないことだとわかっているから口にしないのだ。

「お疲れのところ心配かけてすみません」
「・・・・・」
「この通りピンピンしてるので、家に戻って休んでくだ――」

皆まで言わせず、立ち上がったカカシがベッドの上に伸し掛かってきた。
そのまま何かを確かめるように包帯でぐるぐる巻きにされた頭部や、厳重に手当されたガーゼの上を指先で触れる。

「・・いて・・っ・・」

引きずられて火傷のようになった裂傷に触れられて小さな悲鳴をあげた。
慌てたカカシが手を引こうとするのを捕まえて問題ないと首を振れば、一瞬ためらった後に口布が引き下げられる。
落ちてきたキスは触れるだけの優しいもので。
その優しさが冷血だなどと後ろ指を指されるカカシの内面を映し出しているようで切なくなる。
だから。

「大丈夫。俺は結構頑丈ですから」

大事な人を次々と失い、誰かを求める事に臆病になった男の背を掌でそっと撫ぜて、言い聞かせるのだ。

「死んだりしませんよ」

あなたを残して。という言葉は、再び重なってきた唇に塞がれた。

「・・ん」

いつもと立場が逆転したみたいだ。労られてると思うとなんだか少しこそばゆくて、まるで大型の動物のように擦り寄ってくる身体を抱きしめる。そのままその首にギュッとしがみついた。



その一連の行為のいったい何が彼の劣情に火をつけたのだろう。
最初のキスは何だったのかと思うほどに激しく唇を貪られて、薄いカーテン一枚で仕切られたベッドの上、気づけば下半身は既に剥ぎ取られてしまっている。
勿論ここは愛しのマイホームでもなくアカデミーの保健室。
今更説明するまでもないが、イルカの職場である。

「・・――カカ、・・さんッ!!」

息継ぎの合間、非難めいた声を上げる唇は瞬く間に忍び込んできたカカシの舌に絡め取られる。
子供たちのはしゃぐ声が遠くで響く中、唾液が絡んだ水音がやけに淫らに聞こえて恥ずかしくて仕方ない。
離れようとしないカカシの髪を強引に引っ張って引き剥がすと、不満気に眉が寄せられた。

「こんの、・・バカッ・・! ここがどこだと・・ん、ンン――・・・ッ!!」

イルカの抵抗などカカシにしてみれば些細なもので、あっさり封じ込められて後はまたキス地獄だ。

「まっ、て・・、カカシさ・・っ!」

カカシが任務帰りというところがまた悪かった。
傷薬に使われるクリームで後ろを嫌というほど解されて、飲み込まされた指を浅ましく締め付けている。

「・・あっ・・ひど、い・・! おれ、怪我してるのにぃ・・っ」
「頑丈だって自分で言ったじゃない」
「それ、とこれとは――・・アァッ・・!」

抵抗を諦めて逃げようと身体を捩れば、挿入した指で弱い部分をこれでもかと刺激する。どうしようもない快楽と鈍痛が交互に押し寄せてきて、堪らずビクビクと身体を波打たせた。シーツを握りしめて、押さえても押さえきれない嬌声が絶え間なく唇から漏れる。

「――・・あぁ、・・・んッ!」
「あんまり大きな声を出すと外に聞こえちゃうよ」

楽しげな声。何もかもアンタのせいじゃねぇかと背後の男を睨みつけても、それがカカシを喜ばせるだけだと思うと悔しくて仕方ない。

「あー・・色っぽいねぇ」
「・・なに、いって・・っ!」
「ほら、ここもピンクでトロトロになって」
「ヒッ――・・・や、やぁ・・」

性交を真似て指が出し入れされると、熱で溶けたクリームがぐちゅぐちゅと淫らな音をたてるのに、羞恥で消えてしまいたくなった。

「何が嫌だっての、アンタだってこんなにしてんのに」
「ウ、ン――・・・いやぁ・・!」

ピンっと屹立したモノを指先で弾かれて、きちんと整えられた爪で裏筋を辿られる。
会陰を刺激されて堪らなくなったところを抱えられ、カカシに背後から抱かれる形で座らされた。
もしカーテンが開けば、下半身を曝け出した姿を誰かの目に晒してしまう。

「―――や・・・」
「だーめ」
「カカッさ・・やぁっ・・!!」

前へ逃げようとした身体を背後から抱きしめられて、敏感な胸の突起をキツく摘まれる。この格好をどうにかしなければと思うのに、それだけでだらしない声をあげながらカカシの腕の中に凭れかかってしまった。
早鐘を打つ鼓動が、快感か緊張なのかもはや判別できない。

「あぁっ・・」
「興奮してるの? せんせ」

誂う響きに泣けてくる。
碌な抵抗もできず、神聖な職場でこんな目にあっているというのに、カカシに触れられていると思うだけで感じてしまう自分の身体が疎ましい。
だけど。
ここまで来ては後に引けないことも知ってるのだ。
震える指で自らを慰めようと手を伸ばせば、いけない子だと両腕ごと抱きしめられて拘束される。

「やだ・・カカシさん・・っ!」

背後に感じる熱い屹立に、もじもじと腰をゆらめかせた。
張り詰めた前からは、ポタポタと堪え切れずに先走りの雫が糸をひく。それなのに、カカシはイルカを拘束したまま項や内耳を愛撫するばかりで決定的なものは与えてくれない。
カカシだって昂ぶっているのに、どうして。

「・・カカシさ・・もうっ・・おねが・・っ・・」
「・・・・」
「・・ねがっ・・!――・・ねぇっ!!」
「・・・仕方ないねぇ」

涙まじりの懇願は、背後で含み笑う声と共に聞き届けられた。
屹立した昂ぶりを大きな掌で握りこまれ、容赦なく擦られる。濡れた先端を指先で抉られ、目から火花がでるかと思うほどの快楽に声をあげた。

「あっ、アァァ・・―――――!!」

腰から駆け上がってくる疼痛に、噴き出した白濁はカカシの手を濡らし、パタパタと真新しいシーツを恥ずかしいシミで汚してく。
それを快楽に潤んだ瞳で捉えながら、イルカは背後のカカシへと身体を預けた。

「・・・・はぁ・・・んっ・・」

横たえられて弛緩した身体の中に、スブズブと肉を割り潜り込んでくる熱を感じる。
最奥まで飲み込み、ぎりぎりまで引き出されてまた奥へ。
眉を寄せ、歯を食いしばるカカシの表情に再び熱を持った身体の中心がずくんと重くなる。

「・・ん・・・・」
「凄く締まる・・。離したくないって感じ・・?」
「・・・う、ん・・ッ・・」
「・・可愛い」

近づいてきた白皙の美貌が蕩けそうに甘い笑みを浮かべた。
唇を開いて彼の舌を受け入れて、律動と同じ動きで上も下も愛される。
弱いところを突かれるたびにトロトロと溢れるもので互いの腹を汚しながら、カカシの背中に爪をたてた。

「ん・・あ、・・・そこ・・っ」
「キモチイイ?」
「・・ん」
「オレも」

穏やかな突き上げは、怪我をしている俺の身体を気遣っているから。
だけど的確にイイ場所を擦られて、押し寄せてくる悦楽に頭が真っ白になっていく。
トロトロに蕩かされて聞くに堪えない甘い喘ぎ声を漏らしながらも、もっと、もっとと強い快楽を望んでしまう。

「あ、あぁぁ・・・」
「・・ハッ・、食いちぎられそう」

長い喘ぎ声とともに咥え込んだものを締め付けて射精を促せば、力強い腕に抱き寄せられた。
先ほどの優しい動きとは反対に、めちゃくちゃに腰を打ち付けられる。

「カカッさ・・っ!! ・・気持ち、いい・・イ――・・・」
「――・・・・・ッ!」

ビクビクと体内で跳ねるもので、カカシが達したのを感じた。
身体の上で、鍛え上げられた肉体が歓喜に震えて喘ぐ。
愛おしむように頬を擦り寄せられて、触れ合わせた唇はただ暖かかった。



*****



「ごめんね」
「しりません」

汚れたシーツを回収しながら冷たい一瞥を投げつけた。

「本当にゴメンっ!! 先生の無事な姿を確認したら、どうしても我慢できなくて」
「・・俺、怪我人なのに」

もちろんカカシの非道っぷりを糾弾するのも忘れない。
だって包帯ぐるぐる巻きだぞ! そんな相手に盛るかよ?

「ごめんなさいっ!!」
「・・しかもほ、保健室とか・・」
「それはそれで先生だって燃えたでしょ」
「うるさいっ!!」

背徳的で! なんてニンマリ笑う上忍に汚れたシーツを投げつける。
ついでにグスンと嘘泣きまで披露した。

「イルカせんせ・・っ!!」
「・・・・・」
「・・・泣かないでよ・・」
「・・・・・・」
「・・・スミマセン。悪ふざけが過ぎました・・」
「待てコラ」

しょげかえって俺から離れようとする身体を引き止めた。

「少しは俺の気持ちがわかりましたか?」
「え―――?」

毎回チャクラ切れで運ばれる恋人に痛烈な嫌味。
だけどそれだけ必死で戦ってきた人を責めるつもりなんてない。
死線を潜り抜けてきた戻ってきたカカシが、ぬくもりが欲しいというなら身体を投げ出してでも与えてやりたいと思うのだ。

つまり、いろいろいろいろ言いたいことは山ほどあるが。

「・・・同じ心配させないでくださいね」

目をそらさなかったのは、ちゃんと答えが欲しかったから。

「・・・・・!」

一瞬だけ驚いたように瞳を見開いたカカシが、まだ甘く怠いままの身体を力いっぱい抱きしめる。
耳元で小さく告げられた約束は、それから何度か破られそうになったものの今も有効だ。


<終>


とまこさんお祝いSSありがとうございます!!お忙しい中自分のリクに応えていただき、もうもう嬉しくて!嬉しくて!ありがとうございますー。:゚(。ノω\。)゚・。
私のリクは、祭りで盛り上がっていましたナスイルに続く感じで、(ストーリーではなく)2人が保健室でエッチしちゃう!と言う、リクをお願いしてしまったんですー。だってとまこさんのナスイルがすっごく好きだったから!!朝から興奮しながら作品拝読して、これこれ!とにやにやで読み切りました!こんなカカシが大好きなんです!
イルカ先生の怪我に不安を心に持ちながらも、我儘を通してしまう子供っぽさが好き!それに最後の言葉にやられました。上手いなぁ、と思いました。イルカ先生の手の内にいるカカシ先生ww可愛いww
素敵な作品がまた自分の宝物になって、こんな幸せな事はないのです。とまこさんありがとうございます!これからも仲良くしてやってください><そして色々教えてくださいー!

2016.6.27
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