愚痴ったら口説かれる事もあるんです
執務室でパイプをふかしながら火影が報告書から目を上げる。
「報告はこれで以上か?」
並んで立っている三人の中から、真ん中にいるアンコへ火影が視線を向けていた。少し不思議に思いながらも、はい、と頷き返事をするとそこで火影がパイプを口から離した。
「ご苦労だったな」
かけられる労いの言葉にまたアンコも頭を軽く下げた。
建物を出てすぐ、アンコは振り返った。連れ立って建物から出てきたアスマとカカシを腰に手を当てて見つめる。
「何でカカシが返事しなかったの?」
不満を含んだ声と眼差しに、カカシが眠そうな目をアンコに向けた。
「何が」
毎度の事ながらぼけたカカシの口調。自然目つきが鋭くなっていた。
「今回リーダーはカカシじゃない。私が返事をする必要あった?」
そう、今回のスリーマンセルのリーダーはカカシだった。当たり前の疑問をカカシにぶつける。
「ああ」
意味を理解した、とカカシは小さく笑って頷いた。
「報告書読めばそうなって当然でしょ」
平然と答えるカカシにアンコはむっとする。
「何で」
「主体になった相手に聞いたまでだろ」
アスマが煙草に火をつけながら言った。顔を向けると煙を吐き出しながらアンコを見る。
「敵を全滅させたのほぼアンコだしな」
「そうしろって言ったのはカカシじゃない」
「敵の性質上、それが得策だったからね」
「不満なのか?」
カカシとアスマを交互に見つめ、そしてアスマに聞かれてアンコは口を一回閉じた。
「そうは言ってない」
「ならいいだろ。何にせよ俺は頼りがいがあって助かったよ」
戦闘シーンを思い出すかの様にアスマは煙草の煙に目を細めながら続け、
「まあ、ちょっと女らしさには欠けるけどな」
笑いながらそう言った。
何それ。何それ。何なのそれ!
誉め言葉だとその後付け加えられようが、納得出来るわけがない。
ずかずかと歩きながら商店街へ向かう。
確かに、どのくノ一に比べても自分はそこまで女と言う事に意識をしていないのかもしれない。それは昔からそうだ。何よりも強くなる事が第一で、周りの女の子が話すおしゃれとか女の子っぽいものにそこまで興味は持たなかった。どちらかと言うと男の子と外で走り回っていた方が楽しかったからだ。
自分がそうしたかったからそうしてきたのだから、後悔なんてあるわけがないし、気に留めなくたっていいのかもしれない。
でも。
アンコは商店街に差し掛かったとろこで、歩く足を緩めた。窓ガラスに映った自分の姿を横目で見つめる。
そこに映っているのは、幼い頃男の子と一緒に走り回っていた子供でもないし、ひたすら強さに執着した十代の頃でもない。
二十代半ばの女性だ。
着飾ってもないしメイクもほとんどしていない。髪だって無造作に留めているだけ。
これが嫌だってわけじゃなく、これでいいと思っているのに。
だとしたら何だろう。
考えるも、結局あの二人の台詞が問題だったとしか思えない。ニヤニヤした顔も思い出し、再び怒りがこみ上げる。
愚痴を聞いて欲しいのに、今日に限って紅は任務で里を出て明日までは帰ってこない。
ふと顔を上げて、そこにいた見知った顔にアンコは心の中で、あ、と声を出した。
少し先を歩いていたのはイワシだった。イルカと何やら話をしながら歩いている。
声をかけようと思ったけど、上げようとしたその手を下げたのは、話しているその姿が楽しそうだったから。雑談だと分かっていても、今日は割って入ってまで邪魔する気分にはなれなかった。
どこかの店で一人甘いものでもたくさん食べよう。くるりと背を向け、よく足を運ぶ店へ足を向けた時、
「アンコさん」
名前を呼ばれる。振り返るとイワシがこっちに向かって歩いていた。すぐに目の前まで来る。
アンコは何回か瞬きをした。
「イルカは?」
当たり前の事を聞くと、きょとんとした顔をした後直ぐにイワシは笑った。
「ああ、火影様のお使いで酒屋へ行くそうです」
滅多に手に入らない大吟醸が届いたらしいですよ。イルカが向かった酒屋を親指で指さして、で、とイワシは続けた。
「アンコさんも帰りですか?」
「うん、そう」
聞かれて、アンコは頷くと、早いですね、と自分の事ではないのにイワシは嬉しそうにまた笑った。
「じゃあ俺と一緒っすね」
当たり前の事を嬉しそうに言うから、アンコもついつられて小さく微笑む。なんだかそれだけで幸せそうだから、自分の愚痴なんて言いたくなくなる。アンコは密かに息を吐き出し、
「私はさ、今から甘い物を食べに行くから」
「そうですか」
「うん、じゃあね」
イワシに手を振り背中を見せ、ストレス発散に何をどのくらい食べようか頭に浮かべた時、
「あ、アンコさん」
また呼び止められる。イワシに振り返った。
結局、茶屋かケーキ屋さんか、どこかで甘い物をたらふく食べる予定だったのだが、アンコは居酒屋にいた。カウンターの隣にはイワシ。
俺もう上がりなんで夕飯行くんですけど、よかったら一緒にどうですか?
再び呼び止められた後言われた言葉に、もしかして私が言った事聞いてなかった?と思ったが、そんな事はイワシに限ってあるわけがない。それでも誘っていると知って、断る気分にはなれなかった。せっかくだから、とアンコは頷いた。
そして、何かあったんですか?とさりげなく聞いてきたイワシに、自分を誘った真意を知る。
顔に出して歩いていたつもりはなかったのに。そこまで顔に出ていたのかと少し情けなくなるが、イワシに感心もする。言おうか迷ったが、ここは居酒屋でしかも酒の席。まあいいか、と思ってアンコは冷えたビールを喉に流し込んだ。
「ふざけんじゃないわよ」
どん、と飲んでいたジョッキをカウンターのテーブルに置くと、そのジョッキの中のビールが揺れた。少しばかり大きくなった声は居酒屋の店内の雑踏にすぐに消える。隣に座っているイワシが困った様に苦笑した。
冗談だと分かっていても、毎度の事だと分かっていても、長いつき合いだろうと、無神経な言い方が今回は癇に障った。勿論火影には他意はなかったはずだが、あの火影さえもそう思っているかのように思えてきて。
ただ、目の前にいるイワシの純粋に少し自分を心配するかのような眼差しは、むしゃくしゃしていた気持ちが少し和らぐ。同時になんだか馬鹿らしくなった。
「大体さ、女らしさに欠けるって何なのよ。任務中にか弱い女を演じてろって事?」
苛立つアンコに、イワシが同じ様にビールを飲みながら苦笑いを浮かべた。
「深い意味はなかったんじゃないんですか?」
「あるわよ」
「冗談だと思いますが」
「分かってる」
アンコは軽く口を尖らす。
「冗談だって分かってるわよ。でも今日は癪に障ったの」
不愉快だ、と言った顔で盛大にため息を吐き出すとアンコは立て肘をついた。
「何が気に入らないってのよ。そこら辺の男より逞しいところ?熊を素手で倒したから?」
「アンコさん、・・・・・・熊を素手で倒したんですか?」
口が滑った。目線を向けるとイワシと目が合い、アンコは、あー、と口ごもりながら苦笑いを浮かべた。肩を竦める。
「森に入った時に急に出てきて襲いかかってきたから、仕方なかったのよ」
言い訳じみた自分の言葉が嫌になる。アンコはまたビールを喉に流し込んだ。
確かに熊を倒した。でもそれは自分のアスマでもなくカカシでもなく、自分の背後にいて襲いかかってきたのだ。
イワシは黙っている。酔って口から出たとは言えなんだか酷く恥ずかしい気分になり、言うんじゃなかったと後悔が浮かび上がる。酒を飲んで愚痴とかやっぱり自分には合わない。
「もうこんな話やめやめ」
アンコは話題を切り替えたくて立て肘を解くと、手を軽く振りビールジョッキを持つ。残りのビールを飲み干そうと口を付けた時、
「いいじゃないですか別に愚痴ったって」
言われてアンコは傾けていたジョッキを止めてイワシを見た。それに、とイワシは続ける。
「アンコさんはすっげえ格好良いですよ、勇敢で誰よりも強い」
それはたぶんイワシの本心だ。分かるから、恥ずかしい。複雑な気分にアンコは唇を閉じた。
「十分魅力だと思います」
「・・・・・・そうかなあ」
慰めてくれていると分かっていても、素直に受け取れる気分にはなれない。アンコはビールを傾けた。
「まあ・・・・・・確かに、紅からはもっと女らしくしたら、とか言われるし。だから私っていつまで経っても変わらないって言われるのかなあ」
アンコは変わらないね。周りの女友達からよく言われる事だった。良い意味で言ってるのは思っていたが、最近それを素直に受け取っていいのかと感じるようになってきていた。丸で自分だけ変わっていないようで。
その事実に組んだ足をぶらぶらとさせながら一人微笑んだ時、
「変わる必要なんてないですよ」
「え?」
アンコは立て肘を付いたまま、少し上目遣いに隣に座っているイワシを見た。
自嘲気味に言ったのは確かだけど、イワシの口調が強く感じて。笑って、そうですね、と言ってもいいはずなのに。
どうしたのかと、じっと見つめる先で、イワシはまた口を開いた。
「あなたの強さも勇敢さも俺には魅力的だし、俺は、アスマ上忍達よりもあなたが少し口が悪いところや頑固なところを十分知ってるつもりです。だから、そのままでいいんですよ」
イワシの黒い目がアンコへ向けられた。あまりにも真面目な表情に、アンコは取りあえず、笑ってみる。
「えーっと、・・・・・・酔ってる?」
「口説いてるんです」
間髪入れずにイワシにそう言われて、アンコは何度か瞬きをした。
(・・・・・・口説く?口説くって、イワシが?)
「・・・・・・誰を?」
「アンコさんに決まってるでしょう」
「・・・・・・え?」
聞き返すと、イワシは少し頬を赤くしながらため息混じりに黒い髪を掻いた。そこから固まったアンコを改めて見つめる。
「返事はまた今度でいいですから」
待ってます。そう口にしてポケットから財布を取り出すと多めのお金をテーブルに置いて、イワシは店を出て行く。その姿をぽかんとしながら見送り、
(え?え、・・・・・・え!?)
少し遅れてアンコの頬が紅潮した。さっき言ったイワシの台詞と、出て行く時に見えた赤く染まっていたイワシの耳を思い出し。さらに頬が熱くなった。
(待って、待って、どういう事!?)
心で叫ぶも。でも、何となく分かってしまっていて。アンコは真っ赤な顔でぐっと唇を結びながら一人頭を抱えるしかなかった。
<終>
こちらはニジュウエンのまる◎さんへの捧げものとして書かせていただきました^^イワアンです。
まるさんを少しでも元気にさせたくて書いたのですが、なんとこのお話のイラストをいただいてしまった!わー!嬉しい!私の脳内のイワアンはまるさんとえみるさんのイワアンで成り立っているのです。だから、妄想以上のアンコちゃんとイワシくんに悶えました。。アンコちゃんは超絶可愛いに決定。イワシくんはカカシ先生に次ぐ紳士だと思っています。中忍男子の中で一番紳士だ。。
まるさんから感想もたくさんたくさんいただき、本当に感謝。。励まそうと思って逆に励まされてしまった。。おかしいな。。まるさん天使です。。
でも。少しでも。まるさんが笑ってくれたので良かった。
またイワアン妄想してお話を書きたいです。
そしてまる◎さんが描いてくれたイワアンはこちら!!!! ※クリックで宝物のページへ飛びます。
拝むしかない。。素敵過ぎるイワアンです(;人;) まるさんありがとうございます!!
「報告はこれで以上か?」
並んで立っている三人の中から、真ん中にいるアンコへ火影が視線を向けていた。少し不思議に思いながらも、はい、と頷き返事をするとそこで火影がパイプを口から離した。
「ご苦労だったな」
かけられる労いの言葉にまたアンコも頭を軽く下げた。
建物を出てすぐ、アンコは振り返った。連れ立って建物から出てきたアスマとカカシを腰に手を当てて見つめる。
「何でカカシが返事しなかったの?」
不満を含んだ声と眼差しに、カカシが眠そうな目をアンコに向けた。
「何が」
毎度の事ながらぼけたカカシの口調。自然目つきが鋭くなっていた。
「今回リーダーはカカシじゃない。私が返事をする必要あった?」
そう、今回のスリーマンセルのリーダーはカカシだった。当たり前の疑問をカカシにぶつける。
「ああ」
意味を理解した、とカカシは小さく笑って頷いた。
「報告書読めばそうなって当然でしょ」
平然と答えるカカシにアンコはむっとする。
「何で」
「主体になった相手に聞いたまでだろ」
アスマが煙草に火をつけながら言った。顔を向けると煙を吐き出しながらアンコを見る。
「敵を全滅させたのほぼアンコだしな」
「そうしろって言ったのはカカシじゃない」
「敵の性質上、それが得策だったからね」
「不満なのか?」
カカシとアスマを交互に見つめ、そしてアスマに聞かれてアンコは口を一回閉じた。
「そうは言ってない」
「ならいいだろ。何にせよ俺は頼りがいがあって助かったよ」
戦闘シーンを思い出すかの様にアスマは煙草の煙に目を細めながら続け、
「まあ、ちょっと女らしさには欠けるけどな」
笑いながらそう言った。
何それ。何それ。何なのそれ!
誉め言葉だとその後付け加えられようが、納得出来るわけがない。
ずかずかと歩きながら商店街へ向かう。
確かに、どのくノ一に比べても自分はそこまで女と言う事に意識をしていないのかもしれない。それは昔からそうだ。何よりも強くなる事が第一で、周りの女の子が話すおしゃれとか女の子っぽいものにそこまで興味は持たなかった。どちらかと言うと男の子と外で走り回っていた方が楽しかったからだ。
自分がそうしたかったからそうしてきたのだから、後悔なんてあるわけがないし、気に留めなくたっていいのかもしれない。
でも。
アンコは商店街に差し掛かったとろこで、歩く足を緩めた。窓ガラスに映った自分の姿を横目で見つめる。
そこに映っているのは、幼い頃男の子と一緒に走り回っていた子供でもないし、ひたすら強さに執着した十代の頃でもない。
二十代半ばの女性だ。
着飾ってもないしメイクもほとんどしていない。髪だって無造作に留めているだけ。
これが嫌だってわけじゃなく、これでいいと思っているのに。
だとしたら何だろう。
考えるも、結局あの二人の台詞が問題だったとしか思えない。ニヤニヤした顔も思い出し、再び怒りがこみ上げる。
愚痴を聞いて欲しいのに、今日に限って紅は任務で里を出て明日までは帰ってこない。
ふと顔を上げて、そこにいた見知った顔にアンコは心の中で、あ、と声を出した。
少し先を歩いていたのはイワシだった。イルカと何やら話をしながら歩いている。
声をかけようと思ったけど、上げようとしたその手を下げたのは、話しているその姿が楽しそうだったから。雑談だと分かっていても、今日は割って入ってまで邪魔する気分にはなれなかった。
どこかの店で一人甘いものでもたくさん食べよう。くるりと背を向け、よく足を運ぶ店へ足を向けた時、
「アンコさん」
名前を呼ばれる。振り返るとイワシがこっちに向かって歩いていた。すぐに目の前まで来る。
アンコは何回か瞬きをした。
「イルカは?」
当たり前の事を聞くと、きょとんとした顔をした後直ぐにイワシは笑った。
「ああ、火影様のお使いで酒屋へ行くそうです」
滅多に手に入らない大吟醸が届いたらしいですよ。イルカが向かった酒屋を親指で指さして、で、とイワシは続けた。
「アンコさんも帰りですか?」
「うん、そう」
聞かれて、アンコは頷くと、早いですね、と自分の事ではないのにイワシは嬉しそうにまた笑った。
「じゃあ俺と一緒っすね」
当たり前の事を嬉しそうに言うから、アンコもついつられて小さく微笑む。なんだかそれだけで幸せそうだから、自分の愚痴なんて言いたくなくなる。アンコは密かに息を吐き出し、
「私はさ、今から甘い物を食べに行くから」
「そうですか」
「うん、じゃあね」
イワシに手を振り背中を見せ、ストレス発散に何をどのくらい食べようか頭に浮かべた時、
「あ、アンコさん」
また呼び止められる。イワシに振り返った。
結局、茶屋かケーキ屋さんか、どこかで甘い物をたらふく食べる予定だったのだが、アンコは居酒屋にいた。カウンターの隣にはイワシ。
俺もう上がりなんで夕飯行くんですけど、よかったら一緒にどうですか?
再び呼び止められた後言われた言葉に、もしかして私が言った事聞いてなかった?と思ったが、そんな事はイワシに限ってあるわけがない。それでも誘っていると知って、断る気分にはなれなかった。せっかくだから、とアンコは頷いた。
そして、何かあったんですか?とさりげなく聞いてきたイワシに、自分を誘った真意を知る。
顔に出して歩いていたつもりはなかったのに。そこまで顔に出ていたのかと少し情けなくなるが、イワシに感心もする。言おうか迷ったが、ここは居酒屋でしかも酒の席。まあいいか、と思ってアンコは冷えたビールを喉に流し込んだ。
「ふざけんじゃないわよ」
どん、と飲んでいたジョッキをカウンターのテーブルに置くと、そのジョッキの中のビールが揺れた。少しばかり大きくなった声は居酒屋の店内の雑踏にすぐに消える。隣に座っているイワシが困った様に苦笑した。
冗談だと分かっていても、毎度の事だと分かっていても、長いつき合いだろうと、無神経な言い方が今回は癇に障った。勿論火影には他意はなかったはずだが、あの火影さえもそう思っているかのように思えてきて。
ただ、目の前にいるイワシの純粋に少し自分を心配するかのような眼差しは、むしゃくしゃしていた気持ちが少し和らぐ。同時になんだか馬鹿らしくなった。
「大体さ、女らしさに欠けるって何なのよ。任務中にか弱い女を演じてろって事?」
苛立つアンコに、イワシが同じ様にビールを飲みながら苦笑いを浮かべた。
「深い意味はなかったんじゃないんですか?」
「あるわよ」
「冗談だと思いますが」
「分かってる」
アンコは軽く口を尖らす。
「冗談だって分かってるわよ。でも今日は癪に障ったの」
不愉快だ、と言った顔で盛大にため息を吐き出すとアンコは立て肘をついた。
「何が気に入らないってのよ。そこら辺の男より逞しいところ?熊を素手で倒したから?」
「アンコさん、・・・・・・熊を素手で倒したんですか?」
口が滑った。目線を向けるとイワシと目が合い、アンコは、あー、と口ごもりながら苦笑いを浮かべた。肩を竦める。
「森に入った時に急に出てきて襲いかかってきたから、仕方なかったのよ」
言い訳じみた自分の言葉が嫌になる。アンコはまたビールを喉に流し込んだ。
確かに熊を倒した。でもそれは自分のアスマでもなくカカシでもなく、自分の背後にいて襲いかかってきたのだ。
イワシは黙っている。酔って口から出たとは言えなんだか酷く恥ずかしい気分になり、言うんじゃなかったと後悔が浮かび上がる。酒を飲んで愚痴とかやっぱり自分には合わない。
「もうこんな話やめやめ」
アンコは話題を切り替えたくて立て肘を解くと、手を軽く振りビールジョッキを持つ。残りのビールを飲み干そうと口を付けた時、
「いいじゃないですか別に愚痴ったって」
言われてアンコは傾けていたジョッキを止めてイワシを見た。それに、とイワシは続ける。
「アンコさんはすっげえ格好良いですよ、勇敢で誰よりも強い」
それはたぶんイワシの本心だ。分かるから、恥ずかしい。複雑な気分にアンコは唇を閉じた。
「十分魅力だと思います」
「・・・・・・そうかなあ」
慰めてくれていると分かっていても、素直に受け取れる気分にはなれない。アンコはビールを傾けた。
「まあ・・・・・・確かに、紅からはもっと女らしくしたら、とか言われるし。だから私っていつまで経っても変わらないって言われるのかなあ」
アンコは変わらないね。周りの女友達からよく言われる事だった。良い意味で言ってるのは思っていたが、最近それを素直に受け取っていいのかと感じるようになってきていた。丸で自分だけ変わっていないようで。
その事実に組んだ足をぶらぶらとさせながら一人微笑んだ時、
「変わる必要なんてないですよ」
「え?」
アンコは立て肘を付いたまま、少し上目遣いに隣に座っているイワシを見た。
自嘲気味に言ったのは確かだけど、イワシの口調が強く感じて。笑って、そうですね、と言ってもいいはずなのに。
どうしたのかと、じっと見つめる先で、イワシはまた口を開いた。
「あなたの強さも勇敢さも俺には魅力的だし、俺は、アスマ上忍達よりもあなたが少し口が悪いところや頑固なところを十分知ってるつもりです。だから、そのままでいいんですよ」
イワシの黒い目がアンコへ向けられた。あまりにも真面目な表情に、アンコは取りあえず、笑ってみる。
「えーっと、・・・・・・酔ってる?」
「口説いてるんです」
間髪入れずにイワシにそう言われて、アンコは何度か瞬きをした。
(・・・・・・口説く?口説くって、イワシが?)
「・・・・・・誰を?」
「アンコさんに決まってるでしょう」
「・・・・・・え?」
聞き返すと、イワシは少し頬を赤くしながらため息混じりに黒い髪を掻いた。そこから固まったアンコを改めて見つめる。
「返事はまた今度でいいですから」
待ってます。そう口にしてポケットから財布を取り出すと多めのお金をテーブルに置いて、イワシは店を出て行く。その姿をぽかんとしながら見送り、
(え?え、・・・・・・え!?)
少し遅れてアンコの頬が紅潮した。さっき言ったイワシの台詞と、出て行く時に見えた赤く染まっていたイワシの耳を思い出し。さらに頬が熱くなった。
(待って、待って、どういう事!?)
心で叫ぶも。でも、何となく分かってしまっていて。アンコは真っ赤な顔でぐっと唇を結びながら一人頭を抱えるしかなかった。
<終>
こちらはニジュウエンのまる◎さんへの捧げものとして書かせていただきました^^イワアンです。
まるさんを少しでも元気にさせたくて書いたのですが、なんとこのお話のイラストをいただいてしまった!わー!嬉しい!私の脳内のイワアンはまるさんとえみるさんのイワアンで成り立っているのです。だから、妄想以上のアンコちゃんとイワシくんに悶えました。。アンコちゃんは超絶可愛いに決定。イワシくんはカカシ先生に次ぐ紳士だと思っています。中忍男子の中で一番紳士だ。。
まるさんから感想もたくさんたくさんいただき、本当に感謝。。励まそうと思って逆に励まされてしまった。。おかしいな。。まるさん天使です。。
でも。少しでも。まるさんが笑ってくれたので良かった。
またイワアン妄想してお話を書きたいです。
そしてまる◎さんが描いてくれたイワアンはこちら!!!! ※クリックで宝物のページへ飛びます。
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