特技ってやつ。

私の周りは個性を持つ人間で溢れている。
元々忍なんてのを稼業にする辺り、変わりもんの集まりなんだろうけど。
なんて紅に言ったら、あんたも相当だと言われた。友人に即答され鼻白む私に、アンコねえ、とため息混じりに言われ、甘いものが好きでご飯とケーキを同時進行で食べれるのは、変わり者意外何者でもないでじゃない。追加された言葉に、それは特技だと言い返した。
紅は態とらしく肩を竦める。あんたの部下がやってるのが特技って言うのよ。
その台詞はぴんとこなくて、私は目をパチクリさせた。


その日の午後、休憩所のテーブルに両腕を伏せるようにして、その腕に顎を乗せたまま部下に視線を送る。
少し離れた席で同僚や上忍に混じり、イワシもまた雑談していた。贔屓するつもりなんて毛頭ないけど、自分の中で結構気に入っているイワシの手には、いつもの缶コーヒー。
ぼんやり目で映す私の前で、イワシは目の前に座っている上忍の、手元に置かれた煙草を指差した。
「あ、それ煙草変えました?」
「ああ、そうそう。たまには変えてもいいかなって思ってな」
吸ってみるか?聞かれてイワシは興味深い眼差しを上忍に向ける。
「いいっすか?」
促されるままに煙草を吸い、素直な言葉を口にするイワシに雑談が盛り上がった。

休憩間近にイワシに声をかけてきたのは、中忍のくノ一。渡す書類があるから後で受付に寄ってくれる?と口にしたくノ一に、返事をしながら、あ、とイワシは何かに気がついた。
あれ、なんか雰囲気が変わった……?って、ああ、前髪切ったのか。
独りごちるみたいに納得するイワシに、くノ一は感心を含む笑顔を見せた。
ああ、成る程ねー。
姿勢未だ悪くテーブルに伏せるようにしながら、私はその光景を眺めがら心で呟いた。
試験管として、それ以前に忍として。対象の僅かな変化を常に感じるようにと指導したのが自分。見た目よりも生真面目で熱心に教えを受けるイワシは、指導する事を素直に吸収した。だから、先述の通り中忍と言えど優秀だ。
あれが特技だなんて紅が言う意味もピンとこなかったけど、言われた相手の反応を見ていたら何となく分かった気がした。
くノ一の嬉しそうな顔には、仲間としての表情以外はないはずだけど、嬉しそうなのには変わらない。
ただ、イワシからしたら媚びを売る気持ちなんて微塵もない、ただ観察したままを口にしてるのは、見てるだけでよく分かった。
紅曰く、もしかして自分を見てくれてるの?的な事を思わせてしまうような天然発言らしい。
それに対する私の感想は、ふーん。だった。
思い出したままに、ふーんの意味を含む私の視線に気がついたイワシは、いつもと変わらない人懐こい笑顔を向けきて、何でだろう。思わず視線を外してしまっていた。

翌日は雨続きのじめっとした天候が嘘のように晴天だった。
窓を開けると秋が深まる前の草木が香る空気が気持ちいい。深呼吸した後、さっさと支度に取り掛かるために洗面台に向かった。手櫛で髪を軽く梳かす。髪結いゴムを口に咥えた時、目を鏡の中でふと止め、片手で髪を纏めたまま、じっと自分の姿を見つめた。

スタスタと歩きながら待機所に向かう。歩く度に髪が揺れる。
いつもより髪が多少邪魔な気がするのは慣れてないからだ。
軽く髪に触れながら、待機所に向かう前に甘いものを調達しようかと思った時、横の道から聞こえてきたのは聞き覚えのある声だった。中忍の寮がある方向から歩いてきたイワシとイルカは楽しげに雑談しながら歩いている。
まだ朝だと言うのに、今日の昼飯はアカデミーの食堂の唐揚げ定食で決まりだな、なんて言う呑気な話題に半分呆れながらも、私は歩く速度を緩めた。当たり前にイワシの視界に入る。
たぶん、イワシの前で髪を下ろした事がないのだから、気がつかないはずがない。
きっと気の利いた言葉をかけてくる。
イワシに顔を向けながら、ドキドキがワクワクに変わる瞬間。

「ーーっ、がっ、」

聞こえたのは、想像もしていなかった変な声。
「……は?」
意表を突かれ思わず聞き返していた。だって、私が欲しかった言葉はそれじゃない。なのにそれ以上なにも発する事なく、イワシは目を泳がせながらくるりと背を向け、今まで歩いてきた方向とは逆の道へ歩き出した。
耳まで赤く染めながら。
目が点になる。
え?
なに、その饅頭を喉に詰まらせた様な声は。
気が利いた言葉は?
明らかに変えたのに。
変えたのに!
がっ、って。
がっ、って!!
欲しかったのはそんな言葉じゃなーーい!
イルカを残してイワシが姿を消した道に、アンコは心の奥底から叫ぶしかなかった。


<終>


まる◎さん誕生日おめでとうございますー^^
短くシンプルに書こう、と決めて一人意気込んで書いたらこんな感じになりました。。
まる◎さんの描くイワアンには程遠い!くそぅ。。
でも暖かいまる◎さんの感想が嬉しくて心に沁みました。。暖かい。。
そして、駄文ですが、受け取っていただきありがとうございました!
これからも応援しております!!

2018.9.25 nanairo
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