剥がれる③前編
「イルカ、それ俺がやっとくから上がれよ」
黙々と作業をしていた時に声をかけられイルカは顔を上げた。
時計は確かに定時を過ぎてはいるが今日は特に予定もない。
「いや、まだきりがいいところまではやりたいし、」
言い終わらないうちに同僚が、いいから、と自分の作業途中の書類を手に取る。
やり終えるまでは少なくとも二時間はかかる仕事を、じゃあお願いします、と簡単に押し付ける気はない。イルカはムッとした。
「やるからいい」
「腹、痛いんだろ？」
直ぐに返される言葉は図星で、うっ、と言葉を飲んだ。情けない事に、生理痛だった。
「で、薬忘れたんだろ」
黙っていればさらに追加され、イルカは口を結んだ。
まあ、その通りで、耐えきれずに医務室で薬をもらったが、いつもの薬と違うからか、全く効かない。痛くなる一方で、それを必死で我慢していたのだが、それが顔に思い切り出てしまっていたのか。
そう、実際眉間に皺が寄るくらい痛い。
「今度ラーメン奢りな」
それでも返答に困ると性格を読まれてかそう口にされ、イルカは渋々頷いた。
また今日は遅くまで残業するつもりだったのに、まだ日も暮れていない時間にアカデミーを出て、ハッキリ言えばラッキーなはずだが、ちっとも嬉しくない。憂鬱になりため息が漏れる。
女で生まれた事に不満はないけれど、男だったら良かったと思うの事も少なくはない。
この生理痛も然り、薬でなんとかなるとは言え、毎月悩まされるのも事実だ。
薬を忘れた自分か悪いし、人に頼りたくない性分なのも自覚がある。こんな事で無自覚に機嫌が悪くなるのもどうかと思うし。
まあ、同僚には有り難いとは思うけど。
少し先にあるアカデミーの校庭からは、掃除当番だったんだろう、子供たちの楽しそうな声が聞こえ、イルカは顔を上げアカデミーがある建物へ視線を向けた。
教員の仕事も机の上に残っているのは確かで、いっそのことアカデミーに今から行ってその仕事を片付けてしまおうか。
「イルカ先生？」
顔を上げるとカカシが立っていた。
(あ、……)
胸が高鳴り、自分の中で普通でいようとしても、僅かでも反応してしまうのが、嫌になるが、無理だった。
だが、カカシが少し不思議そうに、そして驚いた顔をしているのは、今週は残業があるからあまり時間がとれないと今日伝えたばかりだからだ。それを思い出す間にもカカシはイルカに歩み寄る。
「どうしたの？」
仕事、忙しいんじゃないの？
真っ直ぐに聞かれ、嘘はついていないのにイルカは気まずそうに苦笑いを浮かべた。
「いや、残業の予定だったんですけど、」
「けど？」
なんて言えばいいのか、説明しにくいのは確かで、しかし嘘はつけない。
「お腹が痛くて……同僚が代わってくれて、」
そこまで言えば、案の定カカシの目が心配する眼差しに変わり、慌てて笑顔を作った。
「あの、ただの生理痛なので、大丈夫です」
だからそんな大した事ではないと、カカシに伝えたかっただけなのに、カカシの表情がふと変わった。
「……同僚って？」
低い声で問われ、答えようとすれば、あの隣にいた中忍？と、続けて聞かれる。
あの、とは朝カカシが受付に来た時にいた同僚を指しているのは分かった。イルカは頷く。
「自分は大丈夫って言ったんですけど、顔に出ちゃったんですかね」
はは、と笑うイルカにカカシは笑わなかった。いつも穏やかに話を聞いてくれるはずなのに。不思議そうにするイルカを前に、カカシは、不機嫌そうにふーん、とだけ小さく呟いた。それ以上何も言わない。
どうしようと思えば、カカシの手がイルカの背中に優しく触れた。
「送るから、帰ろ？」
過去の経験で誰かに送られた事はない。イルカは戸惑いながらも、頷き促されるまま一緒に歩き出した。
家までの距離はそう遠くはない。
しかし、いつもなら何かしら話すカカシは何も言わず、イルカは少し困惑する。カカシとの沈黙は苦ではない、戸惑うのはいつもと違い空気が重く感じるからだ。
だって、明らかに、さっきの会話からカカシはおかしい。イルカはチラと横を見てカカシを窺い見るが、左側からは表情は読み取れない。
カカシとの関係はまだ短いが、知り合ってからで考えればそこそこ長く、今までこんな表情すら見たことがなかった。
仕事には厳しいのはナルト達から聞いて知ってはいるが、自分のそんな都合で仕事を仲間に任せた事が、カカシにとっては納得出来ないのだろうか。
ただ、今回の生理痛は酷くて、でもそれをカカシにこれ以上説明しても言い訳にしかならない。そもそもカカシがこんなに不機嫌になる事だろうか。
家まであと少しのところで、耐えきれず黙り込むカカシに、イルカは口を開いた。
「カカシさん、……怒ってるんですか？」
聞くと、青みかがった目がイルカに向けられる。
「見ればわかるでしょ」
怒っていないと、そう返ってくるとばかり思っていたから。不機嫌そうに言われて、イルカはわずかに目を丸くした。足を止めると、カカシもまた足を止めた。
生理痛は病気ではないと、昔上官から言われた事があったが、酷く嫌な気持ちになった事を覚えている。まさかカカシもそうなのか。勝手にショックを覚える。
「……生理痛は家の薬を飲めば治りますから」
小さく返すと、カカシが外しかけた視線をイルカに戻した。
「もしかして、俺がそれを理由に怒ってるとでも思ってるの？」
呆れ混じりの声が返される。
「先生が嫌がらなきゃここからでも抱えて帰るよ」
でも、と言う間に続けられた言葉に、イルカの顔がかあ、と赤くなった。カカシに変わらず真面目な眼差しを向けられ、嫌ですよ、と言えないまま、イルカはぐっと唇を結び地面に目を落とす。
はあ、とカカシのため息が聞こえ、それがあまりに重々しく感じイルカは顔を上げた。カカシと目が合う。
「……朝体調悪そうなの心配して俺が聞いた時、先生大丈夫って言ったじゃない。なんでもないって。なのにあの同僚には素直になるんだ」
言われて、朝の記憶が蘇る。
朝、受付に来たカカシに任務を受けた紙を渡した。自分の説明を受けながら任務表に目を通していたカカシの目がイルカへ移る。
先生、具合でも悪いの？
不意に聞かれて驚いた。まだ朝の時点でそこまで痛みは酷くなく、顔にも出てなかったからだ。ただ、好調というわけでもないが、それはいつもの事だ。だから、笑顔を浮かべ特に何もないですよ、と答えた。
だから、カカシに会った朝の時点では問題はなかったから。タイミングの問題だ。
ーー嫉妬？
ここまで思い出して気がつき、むず痒くなるも空気がそうさせなかった。同僚に甘えたのは事実で。複雑な心境にイルカは眉を寄せカカシを見つめ返す。
「同僚に……甘えたかもしれないですが、それは痛みが酷くなったからで、タイミングの問題です」
嘘はない。ハッキリと言えば、黒い瞳をカカシはじっと見つめ、そして小さく息を吐き出しながらポケットに入れていた手を出した。銀色の髪を掻く。
「……じゃあ、もう一つ聞いていい？」
さっきより静かにカカシは聞く。慣れなくて嫌な空気だ。イルカが頷くとカカシは口を開いた。
「今週ずっと忙しいから会えないって、週明けに会いましょうって、言ったじゃない。それ先生がそういう日だからだよね？」
その質問にイルカはわずかに動揺したのは、その通りだったから。
だって、カカシと関係を始まったのも身体が最初で、それに男友達が多いから、彼女とのあれそれも聞くし、そんな男の心境もなんとなく感じて、何となく、会わない方がいいと、思った。でも、それはきっとカカシが、ーー。
「俺と先生って付き合ってるんだよね？」
予想していなかった言葉を向けられ、イルカは目を丸くしていた。
カカシの青い目がそんなイルカを映す。そんな理由じゃない、違う、とさっきの様に否定したいのに、出来ない。カカシは、イルカを見つめ、ゆっくりと息を吐き出した。
「帰るね」
背中を見せられイルカは俯いていた顔を上げた。
「あの、カカシさん、」
「薬飲んで、ちゃんと休んで」
でも、と言えば、分かった？とカカシに念を押され、イルカは頷くしかなかった。
イルカが頷いたのを確認したカカシはもう一度背中を見せるとそのまま立ち去った。
カカシの姿が見えなくなってから、イルカはそこからようやく自分のアパートへ向かった。
ついさっきまであんなにお腹が痛かったはずなのに、いや、痛いけど、どうでもよくなっていた。薬を飲み、カカシに言われた通り、帰ってそのままの格好だがベットに身体を沈めた。
見慣れた自分の部屋をぼんやりと眺めながら、イルカは小さく息を吐く。
俺と先生って付き合ってるんだよね？
カカシが口にした言葉と、あの眼差しを思い出しただけで、冷たいナイフを突き立てられた感覚がした。
胸が痛み、イルカは目を伏せる。
なのに、自分をカカシが心配してくれた事は嬉しくて。相対する感情が混ざり、よく分からなくなりイルカは眉根を寄せた。
カカシが帰ると行った時、まだ一緒にいたいと思った。どうする訳でもなく、ただ、側にいて欲しいと思った。
この一週間は会わないと言ったのは自分なのに。
付き合っている。
その判断は人によって様々だが、カカシに聞かれたら、答えれなかった。
逆に付き合ってるのに、と、肯定から入る台詞だったらどんなにいいか。そこまで考えて、自分の勝手な思考回路が嫌になる。ため息を吐き出しながら、イルカは布団の上で寝返りを打った。天井を見つめる。
そう、勝手だ。
そうだと認めるのが、何故か怖かった。
カカシからもっと決定的なものを無意識に求めていた。
なのに、あんな突き放した言い方、ーー。
イルカは虚ろな眼差しで瞬きをした。
目に映るのは、何にも女っ気のない部屋と、同じように女っ気のない自分。
こんな自分が何を根拠に自信をもって肯定出来るのか。
もしかしたら、これで終わってしまうのだろうか。
突然始まり、突然終わる。いや、突然だと思っているのは自分が恋愛なんてものに縁がなさ過ぎて、分からないからで。そして分からないまま相手を傷つけて、自分もまた傷ついて。ーーなんて情け無いんだろう。
不意に目頭が熱くなり、泣きたくなっている、その事実が嫌で、そんなんじゃない、と言い聞かせるように、カカシが恋しいのは気のせいだと、イルカは布団に顔を埋めた。
NEXT→
またしても！ありむらさんからSSの「剥がれる③前編」のワンシーンのイメージイラストをいただきました！
カカシ先生の表情がたまらないです(；ω；)本当に嬉しい、、
こちらから飛べます→★
黙々と作業をしていた時に声をかけられイルカは顔を上げた。
時計は確かに定時を過ぎてはいるが今日は特に予定もない。
「いや、まだきりがいいところまではやりたいし、」
言い終わらないうちに同僚が、いいから、と自分の作業途中の書類を手に取る。
やり終えるまでは少なくとも二時間はかかる仕事を、じゃあお願いします、と簡単に押し付ける気はない。イルカはムッとした。
「やるからいい」
「腹、痛いんだろ？」
直ぐに返される言葉は図星で、うっ、と言葉を飲んだ。情けない事に、生理痛だった。
「で、薬忘れたんだろ」
黙っていればさらに追加され、イルカは口を結んだ。
まあ、その通りで、耐えきれずに医務室で薬をもらったが、いつもの薬と違うからか、全く効かない。痛くなる一方で、それを必死で我慢していたのだが、それが顔に思い切り出てしまっていたのか。
そう、実際眉間に皺が寄るくらい痛い。
「今度ラーメン奢りな」
それでも返答に困ると性格を読まれてかそう口にされ、イルカは渋々頷いた。
また今日は遅くまで残業するつもりだったのに、まだ日も暮れていない時間にアカデミーを出て、ハッキリ言えばラッキーなはずだが、ちっとも嬉しくない。憂鬱になりため息が漏れる。
女で生まれた事に不満はないけれど、男だったら良かったと思うの事も少なくはない。
この生理痛も然り、薬でなんとかなるとは言え、毎月悩まされるのも事実だ。
薬を忘れた自分か悪いし、人に頼りたくない性分なのも自覚がある。こんな事で無自覚に機嫌が悪くなるのもどうかと思うし。
まあ、同僚には有り難いとは思うけど。
少し先にあるアカデミーの校庭からは、掃除当番だったんだろう、子供たちの楽しそうな声が聞こえ、イルカは顔を上げアカデミーがある建物へ視線を向けた。
教員の仕事も机の上に残っているのは確かで、いっそのことアカデミーに今から行ってその仕事を片付けてしまおうか。
「イルカ先生？」
顔を上げるとカカシが立っていた。
(あ、……)
胸が高鳴り、自分の中で普通でいようとしても、僅かでも反応してしまうのが、嫌になるが、無理だった。
だが、カカシが少し不思議そうに、そして驚いた顔をしているのは、今週は残業があるからあまり時間がとれないと今日伝えたばかりだからだ。それを思い出す間にもカカシはイルカに歩み寄る。
「どうしたの？」
仕事、忙しいんじゃないの？
真っ直ぐに聞かれ、嘘はついていないのにイルカは気まずそうに苦笑いを浮かべた。
「いや、残業の予定だったんですけど、」
「けど？」
なんて言えばいいのか、説明しにくいのは確かで、しかし嘘はつけない。
「お腹が痛くて……同僚が代わってくれて、」
そこまで言えば、案の定カカシの目が心配する眼差しに変わり、慌てて笑顔を作った。
「あの、ただの生理痛なので、大丈夫です」
だからそんな大した事ではないと、カカシに伝えたかっただけなのに、カカシの表情がふと変わった。
「……同僚って？」
低い声で問われ、答えようとすれば、あの隣にいた中忍？と、続けて聞かれる。
あの、とは朝カカシが受付に来た時にいた同僚を指しているのは分かった。イルカは頷く。
「自分は大丈夫って言ったんですけど、顔に出ちゃったんですかね」
はは、と笑うイルカにカカシは笑わなかった。いつも穏やかに話を聞いてくれるはずなのに。不思議そうにするイルカを前に、カカシは、不機嫌そうにふーん、とだけ小さく呟いた。それ以上何も言わない。
どうしようと思えば、カカシの手がイルカの背中に優しく触れた。
「送るから、帰ろ？」
過去の経験で誰かに送られた事はない。イルカは戸惑いながらも、頷き促されるまま一緒に歩き出した。
家までの距離はそう遠くはない。
しかし、いつもなら何かしら話すカカシは何も言わず、イルカは少し困惑する。カカシとの沈黙は苦ではない、戸惑うのはいつもと違い空気が重く感じるからだ。
だって、明らかに、さっきの会話からカカシはおかしい。イルカはチラと横を見てカカシを窺い見るが、左側からは表情は読み取れない。
カカシとの関係はまだ短いが、知り合ってからで考えればそこそこ長く、今までこんな表情すら見たことがなかった。
仕事には厳しいのはナルト達から聞いて知ってはいるが、自分のそんな都合で仕事を仲間に任せた事が、カカシにとっては納得出来ないのだろうか。
ただ、今回の生理痛は酷くて、でもそれをカカシにこれ以上説明しても言い訳にしかならない。そもそもカカシがこんなに不機嫌になる事だろうか。
家まであと少しのところで、耐えきれず黙り込むカカシに、イルカは口を開いた。
「カカシさん、……怒ってるんですか？」
聞くと、青みかがった目がイルカに向けられる。
「見ればわかるでしょ」
怒っていないと、そう返ってくるとばかり思っていたから。不機嫌そうに言われて、イルカはわずかに目を丸くした。足を止めると、カカシもまた足を止めた。
生理痛は病気ではないと、昔上官から言われた事があったが、酷く嫌な気持ちになった事を覚えている。まさかカカシもそうなのか。勝手にショックを覚える。
「……生理痛は家の薬を飲めば治りますから」
小さく返すと、カカシが外しかけた視線をイルカに戻した。
「もしかして、俺がそれを理由に怒ってるとでも思ってるの？」
呆れ混じりの声が返される。
「先生が嫌がらなきゃここからでも抱えて帰るよ」
でも、と言う間に続けられた言葉に、イルカの顔がかあ、と赤くなった。カカシに変わらず真面目な眼差しを向けられ、嫌ですよ、と言えないまま、イルカはぐっと唇を結び地面に目を落とす。
はあ、とカカシのため息が聞こえ、それがあまりに重々しく感じイルカは顔を上げた。カカシと目が合う。
「……朝体調悪そうなの心配して俺が聞いた時、先生大丈夫って言ったじゃない。なんでもないって。なのにあの同僚には素直になるんだ」
言われて、朝の記憶が蘇る。
朝、受付に来たカカシに任務を受けた紙を渡した。自分の説明を受けながら任務表に目を通していたカカシの目がイルカへ移る。
先生、具合でも悪いの？
不意に聞かれて驚いた。まだ朝の時点でそこまで痛みは酷くなく、顔にも出てなかったからだ。ただ、好調というわけでもないが、それはいつもの事だ。だから、笑顔を浮かべ特に何もないですよ、と答えた。
だから、カカシに会った朝の時点では問題はなかったから。タイミングの問題だ。
ーー嫉妬？
ここまで思い出して気がつき、むず痒くなるも空気がそうさせなかった。同僚に甘えたのは事実で。複雑な心境にイルカは眉を寄せカカシを見つめ返す。
「同僚に……甘えたかもしれないですが、それは痛みが酷くなったからで、タイミングの問題です」
嘘はない。ハッキリと言えば、黒い瞳をカカシはじっと見つめ、そして小さく息を吐き出しながらポケットに入れていた手を出した。銀色の髪を掻く。
「……じゃあ、もう一つ聞いていい？」
さっきより静かにカカシは聞く。慣れなくて嫌な空気だ。イルカが頷くとカカシは口を開いた。
「今週ずっと忙しいから会えないって、週明けに会いましょうって、言ったじゃない。それ先生がそういう日だからだよね？」
その質問にイルカはわずかに動揺したのは、その通りだったから。
だって、カカシと関係を始まったのも身体が最初で、それに男友達が多いから、彼女とのあれそれも聞くし、そんな男の心境もなんとなく感じて、何となく、会わない方がいいと、思った。でも、それはきっとカカシが、ーー。
「俺と先生って付き合ってるんだよね？」
予想していなかった言葉を向けられ、イルカは目を丸くしていた。
カカシの青い目がそんなイルカを映す。そんな理由じゃない、違う、とさっきの様に否定したいのに、出来ない。カカシは、イルカを見つめ、ゆっくりと息を吐き出した。
「帰るね」
背中を見せられイルカは俯いていた顔を上げた。
「あの、カカシさん、」
「薬飲んで、ちゃんと休んで」
でも、と言えば、分かった？とカカシに念を押され、イルカは頷くしかなかった。
イルカが頷いたのを確認したカカシはもう一度背中を見せるとそのまま立ち去った。
カカシの姿が見えなくなってから、イルカはそこからようやく自分のアパートへ向かった。
ついさっきまであんなにお腹が痛かったはずなのに、いや、痛いけど、どうでもよくなっていた。薬を飲み、カカシに言われた通り、帰ってそのままの格好だがベットに身体を沈めた。
見慣れた自分の部屋をぼんやりと眺めながら、イルカは小さく息を吐く。
俺と先生って付き合ってるんだよね？
カカシが口にした言葉と、あの眼差しを思い出しただけで、冷たいナイフを突き立てられた感覚がした。
胸が痛み、イルカは目を伏せる。
なのに、自分をカカシが心配してくれた事は嬉しくて。相対する感情が混ざり、よく分からなくなりイルカは眉根を寄せた。
カカシが帰ると行った時、まだ一緒にいたいと思った。どうする訳でもなく、ただ、側にいて欲しいと思った。
この一週間は会わないと言ったのは自分なのに。
付き合っている。
その判断は人によって様々だが、カカシに聞かれたら、答えれなかった。
逆に付き合ってるのに、と、肯定から入る台詞だったらどんなにいいか。そこまで考えて、自分の勝手な思考回路が嫌になる。ため息を吐き出しながら、イルカは布団の上で寝返りを打った。天井を見つめる。
そう、勝手だ。
そうだと認めるのが、何故か怖かった。
カカシからもっと決定的なものを無意識に求めていた。
なのに、あんな突き放した言い方、ーー。
イルカは虚ろな眼差しで瞬きをした。
目に映るのは、何にも女っ気のない部屋と、同じように女っ気のない自分。
こんな自分が何を根拠に自信をもって肯定出来るのか。
もしかしたら、これで終わってしまうのだろうか。
突然始まり、突然終わる。いや、突然だと思っているのは自分が恋愛なんてものに縁がなさ過ぎて、分からないからで。そして分からないまま相手を傷つけて、自分もまた傷ついて。ーーなんて情け無いんだろう。
不意に目頭が熱くなり、泣きたくなっている、その事実が嫌で、そんなんじゃない、と言い聞かせるように、カカシが恋しいのは気のせいだと、イルカは布団に顔を埋めた。
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カカシ先生の表情がたまらないです(；ω；)本当に嬉しい、、
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