年下の男①
何でこんな事になったんだろうか。
そう思ったイルカの視界には、自分の見慣れた部屋でもない。
白い天井が映っていた。
「足、もっと広げて」
低い声を発した男がイルカの太股を掴むと、ぐいと足を開かせる。
他人に普段晒さない箇所を、無防備に晒すのはいつだって戸惑いが出る。
自然に力を入れていたイルカの足は、その力強い腕によって、容赦なく広げられる形になった。
何度されても慣れる事がない。
心音が嫌なくらい高鳴り、嫌だと身体が叫ぶ。
ズボンをを脱がされて股間を丸出しにされたその箇所は、悔しいが、しっかり反応を示してしまっている。勃ち上がり先を濡らしている自分が忌々しい。
なのに。嫌だと思っても、悔しいくらいに身体が反応を示す。
この男にだけは。
色違いの目がイルカを見下ろしていた。見られたくない箇所も。この男に見られている。そう思っただけで恥ずかしくなる気持ちにイルカは眉根を寄せた。そこから組み敷かれたまま睨むイルカに、銀色の髪の男ーーはたけカカシは、怯む訳でもなく口角を上げた。
イルカと同じ様に勃ち上がった自分のものに片手を添え、薄い粘膜にぴたりと添えた。
「.......っ、」
それだけで、イルカの喉が引き攣る。
押し広げ、じょじょに飲み込むその様をカカシが見ているのも分かる。
恥ずかしさに、イルカはぎゅっと目を閉じた。
が、そこから一気に奥まで押し入れられる。
「....はっ、あぁ....!」
閉じていたイルカの目が否応なしに開いた。
涙の膜が薄っすら張られたその黒く潤んだ目が、苦しそうに震える。
それを確認したカカシが小さく笑いをこぼし。そこからゆっくりと動き始めた。
よく慣らされたそこは、カカシの大きい陰茎をしっかりと飲み込み、ぐちゅぐちゅと擦る度に水音を出す。
「ん、...あ、...ぁっ」
声を出したくないのに。
カカシに揺らされる度に、思いとは別に。勝手に声が漏れる。
(くそ...っ、...くそ...)
浅い呼吸を繰り返しながらそう思っても。もう恥ずかしいと思える感覚はない。
リズムよくカカシが腰を動かすのにあわせるように呼吸をする。イルカの目から涙がこぼれた。
どうする事も出来ない。
脳が、身体がカカシによって犯され、痛みより快楽が上回っている事実。
内側で脈動するカカシの肉に内側を擦られ、身体が震えた。
重く突き上げられ、また、声が大きく漏れる。
「....や、...あ...あっ」
カカシは息を乱しながらかがみ込み、イルカの乱れた黒い髪に鼻を寄せ、匂いを吸い込むように息を吸った。
耳の下の薄い皮膚に唇を押しつけられる。カカシの熱い呼吸を肌で感じ、それだけで背中に甘い痺れが走った。
そこからイルカの喘ぐ声を塞ぐように唇を奪う。荒々しく舌を割り込ませながら、律動を繰り返す。
カカシが屈む事によって、より一層奥に進入したカカシの陰茎に、声にならない声を漏らした。
鼻で必死に息をしていたイルカから唇を離すと、舌に絡まった唾液が糸を引く。
乱れたイルカの表情を見て、カカシはぶるりと腰を震わせた。
欲情の波に身を任せるように、カカシは激しく、強く突き上げた。
「...ああ...ぁっ...ぁ...っ」
苦しげな声を上げるイルカを、何度も揺さぶり、イルカの赤く充血した性器を手で包む。
柔らかい部分を指で刺激され、
「あ、...っ、だ、め...」
口にしても適う事はない。イルカは身体をびくびくと震わせカカシの手の中で果てる。
そこからカカシがイルカの腰を掴み直し、強く打ち付けるように腰を動かした。
イったばかりの身体に与えられる刺激に、もう声を抑えることは出来ない。
突き上げられる度にイルカは嬌声を上げる。
「.....っ」
乱れた呼吸のカカシが息を詰めぎゅ、と身体をイルカを拘束する手に力を入れる。
そこから腰を強く引きつけられた。
再奥まで突き入れると同時に吐精する。その熱い感覚に、イルカの背がぞくりとし、思わずカカシの背に回していた手に力を入れた。
首もとにかかるカカシの息が熱い。
涙でぼやけたままのイルカの視界に映る銀色の髪を、ぼんやりと眺めていると、耳たぶをカカシが噛み。満足気な息を吐き出したのが聞こえた。
ベットでぼんやりとした意識のままのイルカの元に、ペットボトルを持ったカカシが現れる。
「水」
ペットボトルをイルカに差し出され、カカシに言われるも。
身体が直ぐに動かない。
反応を示さないイルカの脇に、腰を下ろすと、蓋を開けてそのままカカシはペットボトルの中の水をごくごくと飲んだ。
水を飲む度に動くカカシの喉仏を眺めていると、その視線に気が付いたのか。カカシはイルカを横目で見る。ペットボトルから口を離すと、無造作にイルカにそのペットボトルをまた差し出した。
今度は何も言わない。
イルカは重い身体をゆっくりと起こして、差し出されたペットボトルを受け取る。
そのまま口にした。
冷たい水が、身体に染み込んでいく。
その冷たさが、汗をかいた身体には気持ちがいい。
飲みたいままに喉を潤していると、カカシの視線に気が付く。
飲むのをやめて顔を向けると、カカシがじっとイルカを見ていた。
が、顔を向けるのと同時に視線を外される。
「飲みますか?」
イルカが聞くと、カカシは首を横に振った。
「いい」
カカシは立ち上がる。
自分より色が白く、自分より細身なのに、完璧に鍛え上げられた理想とも言えるようなカカシの身体を、イルカは見つめた。
その左肩には暗部の印と言える入れ墨が見える。
床に脱ぎ捨てられた服を手に取ったカカシが、イルカへ顔を向けた。
思わずイルカは、その入れ墨からベットへ視線を外していた。
「寝てく?」
聞かれた言葉に、イルカは、え?と聞き返して顔をカカシに戻した。
「寝てく?帰る?」
言葉を追加して、再び言われたイルカは、考えるようにまたベットに目を落とし、明日がどんなスケジュールだったか、機能していなかった頭に思い浮かべる。
もう遅い時間に変わりないが。明日は朝一から授業が入っている。
「今日は...帰ります」
告げれば、
「そ」
短い言葉をイルカに言うと、カカシはイルカに背を向けた。
そのままシャワールームへと姿を消し、その通り、間もなくシャワーを浴びる音が聞こえ始める。
その音をベットの上で聞きながら。イルカは息をゆっくり吐き出した。
自分がシャワーを浴びている間に帰れと言っているのだろう。
怠い身体を動かしベットから立ち上がると、カカシによって床に捨てられるように落とされた自分の服を拾い、着込んでいく。
この部屋は忍び専用の宿泊施設。宿泊施設と言えば聞こえがいいが。言わばラブホテルのようなもので。カカシがイルカを連れ込むの時は、いつもこの施設だった。
怠い身体に自分の服を身につけると、イルカは一人その部屋を出た。
部屋を出る際に、入り口の壁に貼ってあった鏡に映った自分を見たら、あまりにも酷い顔色で。情けない気持ちになった。
こんな顔、あのカカシはしたことがない。というか、セックスする時は多少表情は変化するが、それ以外ではそこまで表情の変化はない。
いつも同じ顔。
何を考えているのか、分からない。
元々、いや、最初から口数少ないあの男はずっとこんな調子だ。
カカシに初めて会ったのは夜。
雨上がりの深夜。自分とカカシは出会った。
思い出したくもない。ーー最悪な出会い。
その日は里で祭りがあった。
自分は珍しく非番で。同じように非番だった同僚と祭りを見るべく浴衣を着て神社に足を運んだ。
が、そこで出店を出している商店街の手伝いをする事になり、同僚と手伝い、片づけまでしたら祭りがとっくに終わってしまっていた。
そこから同僚と酒を買い込んで、同僚の部屋で酒を飲み。
部屋を出たのが深夜。
泊まっていけと言われたが。明日が休みであるわけがない。
冗談混じりに、そんな格好だから女に間違われて襲われないように気をつけろよ、なんて言われてイルカは笑って返した。
だから。祭りが終わって静まりかえった人気のない神社の裏手で押し倒されたとき。女に間違われたのかと思った。
「やめろ、俺は男だ...っ」
自分を拘束すべく掴んでいる腕は想像以上に強い力で、びくともしない。
腕を震わせながら言った言葉に返ってきたのは。
「知ってる」
素っ気ない口調だった。
絶句し顔を青くしたイルカを見下ろした男は、暗闇でよく見えなかった。しかし、月が雲から覗き、月夜に男が照らされた時、イルカは息を呑んだ。
髪は、月の明かりで銀色に輝き。白い肌が浮かび上がる。が、その半分が血で染まっていた。
同じ忍びで、怪我をしてると、すごい力で押し倒している相手に何故かそう判断してしまっていた。
「血が、怪我は、」
そう思わず口にしたイルカを見下ろす男の口は覆面で覆われていて見えない。でも、思いもしなかったのだろう、その言葉に微かに目を開いたかと思ったら。そこからその色違いの目が薄っすら笑ったのが分かった。
「敵の血」
そう口にした男の冷えた色の目が弓なりに、嬉しそうに微笑み。
そこからは、最悪だった。
来ていた浴衣を乱暴にむしり取るように肌を晒され、今まで使った事のない場所に、相手の欲望を捻り込まされ。
抵抗しても、馬鹿力で簡単に片手で押さえ込まれた。
神社の裏手にある草むらで、獣のように激しく突き上げられ、何度も奥に吐精され。
最後にはだけたイルカの腹や胸に白濁を放った。
放心状態で、ぼんやりした目で荒い呼吸を繰り返すイルカを見下ろした男もまた、荒い息をしながら。
「綺麗......」
イルカを見つめ、そう呟いた。
それからだ。
忘れようと思っていたのに。
あの男はまた自分の前に姿を現した。
怯えるイルカを前に、真っ昼間から堂々と宿泊施設に連れて行き、また同じように嫌がるのを構わず、イルカを力でねじ伏せ、欲望で満たした。
何でこんな事をするのか。
カカシと名乗られ、聞いた事がない名前だと思ったが。
それが写輪眼のカカシだと気が付いた時は動揺した。自分の記憶が正しければ、里を誇る忍びで。確か年下だ。
そんな男に乱暴されたことに、改めてショックを覚える。
しかし当たり前だが上忍である故にカカシは自分の上官で。逆らえないのは分かっていた。
でも。
自分じゃなくとも、と何度も思い、そう言っても。
カカシの言葉はいつも決まっていて。
無理、とその一言で簡単にイルカの意見は切り捨てられた。
男が多いこの世界、同性相手に性欲処理をする事は昔からよくあった。
上に逆らう事は出来ない。
それは自分でも分かっていた。
でも。
一体これはいつまで続くのか。
いつか終わりが必ずくると思った矢先、カカシは姿を見せなくなった。
それに安堵したのもつかの間。
ただ単に一ヶ月の長い任務で里を出ていただけの話だった。
そこからご無沙汰だったと言わんばかりに、嫌がるイルカに構うことなく、連日カカシにあの施設に連れて行かれた。
寝不足のせいか頭が痛い。イルカは頭痛に眉間を指で押さえた。
体力に自信があったイルカだが。ほとんど睡眠を取っていない身体でそのまま仕事に向かっていた。
(....暗部って絶倫かよ....)
自分で考えておきながら馬鹿らしいと一人笑いを零す。
暗部が絶倫ではない。あの男がそうなのだ。
しかも自分に対する執着心がすごい。
一見、感情を見せず飄々としてクールで。外見もいいからモテる対象になるのだろう。
一回女と歩いてるのを見たことがある。
その瞬間、これで終わったのだと喜んだのだが。その日もカカシはイルカを求めに会いにきた。
(なんなんだ...一体...)
思い出したイルカは、息を吐き出していた。
でも。
ペンを持ったまま、カカシの事を考えたイルカは複雑な表情を浮かべる。
身体を繋ぐだけの関係とは言え、顔を合わせる回数が多くなればなるほど、相手と過ごす時間が増えると言うことで。
「ーーおい、」
声がかかり思考が中断されたイルカは顔を上げた。
同僚がイルカの机の脇に立っている。
「顔色、悪いぞ」
心配そうな眼差しで言われ、
「そうか?ちょっと寝不足だからかな」
笑うイルカに、同僚は眉を寄せた。少しイルカに顔を近づける。
「...ちょっといいか」
神妙な顔をする同僚に、イルカは腕を掴まれ、職員室から廊下へ連れ出される。
「なんだよ」
「お前昨日の夜どこにいた」
廊下の隅で声を低く問われ、内心ドキリとした。顔に出さないよう努めれば、
「お前、暗部の情人になったって噂、本当か?」
続けて問われ、顔が引き攣りそうになった。そこからイルカは笑う事を選択する。
「なんだそれ」
「そう言う噂なんだよ。まさかとは思ってるけど、お前、最近疲れてるじゃねえか」
心配そうな目を向けられ、イルカは考える。嘘をつくのは苦手だから、こんな時、どんな顔をしたらいいのか。
間を空けたイルカに、同僚は眉を寄せ見つめる。
「....ただの残業続きの寝不足だって」
イルカは笑って同僚の肩を叩いた。それでも、同僚はイルカのその表情をじっと見つめる。
「大丈夫だから。お前が考えてるような事はない」
はっきり言うと、そこで要約同僚の顔が安堵に緩んだ。
「そうか」
「ああ、悪いな。心配してもらって」
「...何かあった時は言えよ」
「ああ」
同僚の背中を見送りながら、胸が痛くなった。
同僚が心配する理由も分かる。
もし自分が立場が逆だったら。同じように心配し聞いただろうし。
何より、その噂が本当なら。
ーー上に報告しなければいけない義務があるからだ。
昔は問題なかったが。現在は、階級を盾にして無理矢理情人にする事は、刑罰に値する。
イルカはゆっくり息を吐き出しながら、目を覆うように手を顔に添えた。
頭痛がする額をゆっくりと撫でる。
そんなの。最初から知っていた。
そうーー知っていた。
虚ろな眼差しの奥に、カカシを思い浮かべ。
イルカは唇を噛んだ。
そこから、何もなかったかのように職員室へ戻った。
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そう思ったイルカの視界には、自分の見慣れた部屋でもない。
白い天井が映っていた。
「足、もっと広げて」
低い声を発した男がイルカの太股を掴むと、ぐいと足を開かせる。
他人に普段晒さない箇所を、無防備に晒すのはいつだって戸惑いが出る。
自然に力を入れていたイルカの足は、その力強い腕によって、容赦なく広げられる形になった。
何度されても慣れる事がない。
心音が嫌なくらい高鳴り、嫌だと身体が叫ぶ。
ズボンをを脱がされて股間を丸出しにされたその箇所は、悔しいが、しっかり反応を示してしまっている。勃ち上がり先を濡らしている自分が忌々しい。
なのに。嫌だと思っても、悔しいくらいに身体が反応を示す。
この男にだけは。
色違いの目がイルカを見下ろしていた。見られたくない箇所も。この男に見られている。そう思っただけで恥ずかしくなる気持ちにイルカは眉根を寄せた。そこから組み敷かれたまま睨むイルカに、銀色の髪の男ーーはたけカカシは、怯む訳でもなく口角を上げた。
イルカと同じ様に勃ち上がった自分のものに片手を添え、薄い粘膜にぴたりと添えた。
「.......っ、」
それだけで、イルカの喉が引き攣る。
押し広げ、じょじょに飲み込むその様をカカシが見ているのも分かる。
恥ずかしさに、イルカはぎゅっと目を閉じた。
が、そこから一気に奥まで押し入れられる。
「....はっ、あぁ....!」
閉じていたイルカの目が否応なしに開いた。
涙の膜が薄っすら張られたその黒く潤んだ目が、苦しそうに震える。
それを確認したカカシが小さく笑いをこぼし。そこからゆっくりと動き始めた。
よく慣らされたそこは、カカシの大きい陰茎をしっかりと飲み込み、ぐちゅぐちゅと擦る度に水音を出す。
「ん、...あ、...ぁっ」
声を出したくないのに。
カカシに揺らされる度に、思いとは別に。勝手に声が漏れる。
(くそ...っ、...くそ...)
浅い呼吸を繰り返しながらそう思っても。もう恥ずかしいと思える感覚はない。
リズムよくカカシが腰を動かすのにあわせるように呼吸をする。イルカの目から涙がこぼれた。
どうする事も出来ない。
脳が、身体がカカシによって犯され、痛みより快楽が上回っている事実。
内側で脈動するカカシの肉に内側を擦られ、身体が震えた。
重く突き上げられ、また、声が大きく漏れる。
「....や、...あ...あっ」
カカシは息を乱しながらかがみ込み、イルカの乱れた黒い髪に鼻を寄せ、匂いを吸い込むように息を吸った。
耳の下の薄い皮膚に唇を押しつけられる。カカシの熱い呼吸を肌で感じ、それだけで背中に甘い痺れが走った。
そこからイルカの喘ぐ声を塞ぐように唇を奪う。荒々しく舌を割り込ませながら、律動を繰り返す。
カカシが屈む事によって、より一層奥に進入したカカシの陰茎に、声にならない声を漏らした。
鼻で必死に息をしていたイルカから唇を離すと、舌に絡まった唾液が糸を引く。
乱れたイルカの表情を見て、カカシはぶるりと腰を震わせた。
欲情の波に身を任せるように、カカシは激しく、強く突き上げた。
「...ああ...ぁっ...ぁ...っ」
苦しげな声を上げるイルカを、何度も揺さぶり、イルカの赤く充血した性器を手で包む。
柔らかい部分を指で刺激され、
「あ、...っ、だ、め...」
口にしても適う事はない。イルカは身体をびくびくと震わせカカシの手の中で果てる。
そこからカカシがイルカの腰を掴み直し、強く打ち付けるように腰を動かした。
イったばかりの身体に与えられる刺激に、もう声を抑えることは出来ない。
突き上げられる度にイルカは嬌声を上げる。
「.....っ」
乱れた呼吸のカカシが息を詰めぎゅ、と身体をイルカを拘束する手に力を入れる。
そこから腰を強く引きつけられた。
再奥まで突き入れると同時に吐精する。その熱い感覚に、イルカの背がぞくりとし、思わずカカシの背に回していた手に力を入れた。
首もとにかかるカカシの息が熱い。
涙でぼやけたままのイルカの視界に映る銀色の髪を、ぼんやりと眺めていると、耳たぶをカカシが噛み。満足気な息を吐き出したのが聞こえた。
ベットでぼんやりとした意識のままのイルカの元に、ペットボトルを持ったカカシが現れる。
「水」
ペットボトルをイルカに差し出され、カカシに言われるも。
身体が直ぐに動かない。
反応を示さないイルカの脇に、腰を下ろすと、蓋を開けてそのままカカシはペットボトルの中の水をごくごくと飲んだ。
水を飲む度に動くカカシの喉仏を眺めていると、その視線に気が付いたのか。カカシはイルカを横目で見る。ペットボトルから口を離すと、無造作にイルカにそのペットボトルをまた差し出した。
今度は何も言わない。
イルカは重い身体をゆっくりと起こして、差し出されたペットボトルを受け取る。
そのまま口にした。
冷たい水が、身体に染み込んでいく。
その冷たさが、汗をかいた身体には気持ちがいい。
飲みたいままに喉を潤していると、カカシの視線に気が付く。
飲むのをやめて顔を向けると、カカシがじっとイルカを見ていた。
が、顔を向けるのと同時に視線を外される。
「飲みますか?」
イルカが聞くと、カカシは首を横に振った。
「いい」
カカシは立ち上がる。
自分より色が白く、自分より細身なのに、完璧に鍛え上げられた理想とも言えるようなカカシの身体を、イルカは見つめた。
その左肩には暗部の印と言える入れ墨が見える。
床に脱ぎ捨てられた服を手に取ったカカシが、イルカへ顔を向けた。
思わずイルカは、その入れ墨からベットへ視線を外していた。
「寝てく?」
聞かれた言葉に、イルカは、え?と聞き返して顔をカカシに戻した。
「寝てく?帰る?」
言葉を追加して、再び言われたイルカは、考えるようにまたベットに目を落とし、明日がどんなスケジュールだったか、機能していなかった頭に思い浮かべる。
もう遅い時間に変わりないが。明日は朝一から授業が入っている。
「今日は...帰ります」
告げれば、
「そ」
短い言葉をイルカに言うと、カカシはイルカに背を向けた。
そのままシャワールームへと姿を消し、その通り、間もなくシャワーを浴びる音が聞こえ始める。
その音をベットの上で聞きながら。イルカは息をゆっくり吐き出した。
自分がシャワーを浴びている間に帰れと言っているのだろう。
怠い身体を動かしベットから立ち上がると、カカシによって床に捨てられるように落とされた自分の服を拾い、着込んでいく。
この部屋は忍び専用の宿泊施設。宿泊施設と言えば聞こえがいいが。言わばラブホテルのようなもので。カカシがイルカを連れ込むの時は、いつもこの施設だった。
怠い身体に自分の服を身につけると、イルカは一人その部屋を出た。
部屋を出る際に、入り口の壁に貼ってあった鏡に映った自分を見たら、あまりにも酷い顔色で。情けない気持ちになった。
こんな顔、あのカカシはしたことがない。というか、セックスする時は多少表情は変化するが、それ以外ではそこまで表情の変化はない。
いつも同じ顔。
何を考えているのか、分からない。
元々、いや、最初から口数少ないあの男はずっとこんな調子だ。
カカシに初めて会ったのは夜。
雨上がりの深夜。自分とカカシは出会った。
思い出したくもない。ーー最悪な出会い。
その日は里で祭りがあった。
自分は珍しく非番で。同じように非番だった同僚と祭りを見るべく浴衣を着て神社に足を運んだ。
が、そこで出店を出している商店街の手伝いをする事になり、同僚と手伝い、片づけまでしたら祭りがとっくに終わってしまっていた。
そこから同僚と酒を買い込んで、同僚の部屋で酒を飲み。
部屋を出たのが深夜。
泊まっていけと言われたが。明日が休みであるわけがない。
冗談混じりに、そんな格好だから女に間違われて襲われないように気をつけろよ、なんて言われてイルカは笑って返した。
だから。祭りが終わって静まりかえった人気のない神社の裏手で押し倒されたとき。女に間違われたのかと思った。
「やめろ、俺は男だ...っ」
自分を拘束すべく掴んでいる腕は想像以上に強い力で、びくともしない。
腕を震わせながら言った言葉に返ってきたのは。
「知ってる」
素っ気ない口調だった。
絶句し顔を青くしたイルカを見下ろした男は、暗闇でよく見えなかった。しかし、月が雲から覗き、月夜に男が照らされた時、イルカは息を呑んだ。
髪は、月の明かりで銀色に輝き。白い肌が浮かび上がる。が、その半分が血で染まっていた。
同じ忍びで、怪我をしてると、すごい力で押し倒している相手に何故かそう判断してしまっていた。
「血が、怪我は、」
そう思わず口にしたイルカを見下ろす男の口は覆面で覆われていて見えない。でも、思いもしなかったのだろう、その言葉に微かに目を開いたかと思ったら。そこからその色違いの目が薄っすら笑ったのが分かった。
「敵の血」
そう口にした男の冷えた色の目が弓なりに、嬉しそうに微笑み。
そこからは、最悪だった。
来ていた浴衣を乱暴にむしり取るように肌を晒され、今まで使った事のない場所に、相手の欲望を捻り込まされ。
抵抗しても、馬鹿力で簡単に片手で押さえ込まれた。
神社の裏手にある草むらで、獣のように激しく突き上げられ、何度も奥に吐精され。
最後にはだけたイルカの腹や胸に白濁を放った。
放心状態で、ぼんやりした目で荒い呼吸を繰り返すイルカを見下ろした男もまた、荒い息をしながら。
「綺麗......」
イルカを見つめ、そう呟いた。
それからだ。
忘れようと思っていたのに。
あの男はまた自分の前に姿を現した。
怯えるイルカを前に、真っ昼間から堂々と宿泊施設に連れて行き、また同じように嫌がるのを構わず、イルカを力でねじ伏せ、欲望で満たした。
何でこんな事をするのか。
カカシと名乗られ、聞いた事がない名前だと思ったが。
それが写輪眼のカカシだと気が付いた時は動揺した。自分の記憶が正しければ、里を誇る忍びで。確か年下だ。
そんな男に乱暴されたことに、改めてショックを覚える。
しかし当たり前だが上忍である故にカカシは自分の上官で。逆らえないのは分かっていた。
でも。
自分じゃなくとも、と何度も思い、そう言っても。
カカシの言葉はいつも決まっていて。
無理、とその一言で簡単にイルカの意見は切り捨てられた。
男が多いこの世界、同性相手に性欲処理をする事は昔からよくあった。
上に逆らう事は出来ない。
それは自分でも分かっていた。
でも。
一体これはいつまで続くのか。
いつか終わりが必ずくると思った矢先、カカシは姿を見せなくなった。
それに安堵したのもつかの間。
ただ単に一ヶ月の長い任務で里を出ていただけの話だった。
そこからご無沙汰だったと言わんばかりに、嫌がるイルカに構うことなく、連日カカシにあの施設に連れて行かれた。
寝不足のせいか頭が痛い。イルカは頭痛に眉間を指で押さえた。
体力に自信があったイルカだが。ほとんど睡眠を取っていない身体でそのまま仕事に向かっていた。
(....暗部って絶倫かよ....)
自分で考えておきながら馬鹿らしいと一人笑いを零す。
暗部が絶倫ではない。あの男がそうなのだ。
しかも自分に対する執着心がすごい。
一見、感情を見せず飄々としてクールで。外見もいいからモテる対象になるのだろう。
一回女と歩いてるのを見たことがある。
その瞬間、これで終わったのだと喜んだのだが。その日もカカシはイルカを求めに会いにきた。
(なんなんだ...一体...)
思い出したイルカは、息を吐き出していた。
でも。
ペンを持ったまま、カカシの事を考えたイルカは複雑な表情を浮かべる。
身体を繋ぐだけの関係とは言え、顔を合わせる回数が多くなればなるほど、相手と過ごす時間が増えると言うことで。
「ーーおい、」
声がかかり思考が中断されたイルカは顔を上げた。
同僚がイルカの机の脇に立っている。
「顔色、悪いぞ」
心配そうな眼差しで言われ、
「そうか?ちょっと寝不足だからかな」
笑うイルカに、同僚は眉を寄せた。少しイルカに顔を近づける。
「...ちょっといいか」
神妙な顔をする同僚に、イルカは腕を掴まれ、職員室から廊下へ連れ出される。
「なんだよ」
「お前昨日の夜どこにいた」
廊下の隅で声を低く問われ、内心ドキリとした。顔に出さないよう努めれば、
「お前、暗部の情人になったって噂、本当か?」
続けて問われ、顔が引き攣りそうになった。そこからイルカは笑う事を選択する。
「なんだそれ」
「そう言う噂なんだよ。まさかとは思ってるけど、お前、最近疲れてるじゃねえか」
心配そうな目を向けられ、イルカは考える。嘘をつくのは苦手だから、こんな時、どんな顔をしたらいいのか。
間を空けたイルカに、同僚は眉を寄せ見つめる。
「....ただの残業続きの寝不足だって」
イルカは笑って同僚の肩を叩いた。それでも、同僚はイルカのその表情をじっと見つめる。
「大丈夫だから。お前が考えてるような事はない」
はっきり言うと、そこで要約同僚の顔が安堵に緩んだ。
「そうか」
「ああ、悪いな。心配してもらって」
「...何かあった時は言えよ」
「ああ」
同僚の背中を見送りながら、胸が痛くなった。
同僚が心配する理由も分かる。
もし自分が立場が逆だったら。同じように心配し聞いただろうし。
何より、その噂が本当なら。
ーー上に報告しなければいけない義務があるからだ。
昔は問題なかったが。現在は、階級を盾にして無理矢理情人にする事は、刑罰に値する。
イルカはゆっくり息を吐き出しながら、目を覆うように手を顔に添えた。
頭痛がする額をゆっくりと撫でる。
そんなの。最初から知っていた。
そうーー知っていた。
虚ろな眼差しの奥に、カカシを思い浮かべ。
イルカは唇を噛んだ。
そこから、何もなかったかのように職員室へ戻った。
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