as know as S③

 待機所でソファに座りながら、いつもの小冊子を読むこともなく頭で腕を組み視線を宙に漂わせる。
 咥えている煙草から灰が自分の服に落ち、そこでようやく煙草が短くなっている事に気がついたカカシは、煙草を灰皿でもみ消した。二本目に火を付ける。
「珍しいな」
そこで声をかけられ視線を向けると、同じように煙草を咥えていたアスマがカカシを見ていた。
「何が?」
「煙草の本数」
 顎でテーブルに置かれた灰皿を指す。そこにはアスマより多いカカシの吸い殻があった。
 何かあったのかと問うアスマの視線に、反応を示す事なくカカシはまた視線を宙に漂わせる。変わりに、んー、と間延びした返事をした。
 咥えていた煙草を指に挟む。
「ちょっとさ、聞いていい?」
 ようやく口を開いたカカシに、アスマは、ああ、と短く返す。
「仮に気になってる女がいたとして、その相手が脈がないって分かったらさ・・・・・・どうする?」
 あまりに予想していたなかった質問の内容だったのか、アスマは右眉を上げて、拍子抜けしたとでも言いたげな顔をした。
「何だそりゃ。お前振られたの」
「違うよ。例えばの話。アスマだったらどうするって聞いてんの」
 すんなりと否定された事に話の面白味が欠けたのか、少し怠そうにカカシから視線を外した。煙草をゆっくりと吸う。
「・・・・・・まあ、相手によるけど普通は脈ないんだったら諦めるだろ」
「直ぐに?」
カカシの被せられた質問にアスマは眉を僅かに寄せた。
「俺はな。恋とかうんぬんとかは、ぶっちゃけ面倒だろ。そういうのは。他に女はいくらでもいるし、それにこの商売してると色々拘るのは尚更な」
 そこはカカシも頷く。寄ってくる中に恋愛の過程を求めてくる女がいたが、正直面倒くさかっただけだった。
「……もしかしてお前、面倒な女に言い寄られてんのか」
 カカシの真剣な表情に気がついたアスマは、煙草を灰皿に灰を落とすと口に咥え直す。カカシを見つめた。
 そうだと言いたいのに、この状況を何て言ったらいいのか。黙っていると、アスマがらしくないと言いたげな目でため息を吐き出し、人差し指で頬を掻いた。
「俺だったらはっきり言うけどな」
「何て?」
「迷惑だって」
煙草の煙をゆっくりと吐き出す。
「で、新しい女を探す」
 そんなもんじゃねえ?
 自分が考えていた通りの事を言われ、だよねえ、とカカシは同意して溜息を吐き出した。
 イルカのあの時の言葉は、あまりにも自分の考えとは相異なり、正直受け入れられなかった。だが、よくよく考えてみれば、アスマの言った通り、自分の物差しで計っても仕方がない。
 彼がどんな思いを自分に向けていたのかは知らないが、彼もまた直ぐには受け入れられないだけで、時間が経てばまたそれも変わってくるはずだ。
 スケアの姿でイルカと飲みに行ってから、もう一ヶ月経っていた。その間運が良いのか悪いのか、イルカとは顔を合わせていない。
 仕事に追われている事は想像がつく。それに加えイルカは自分が知る限り良識がある人間だ。人の基準はそれぞれあるが、いい加減自分の事は忘れてしまっているだろう。
 人に話して気持ちが軽くなったカカシは密かに安堵の息を吐き出すと、待機所から出る。その足で任務へ向かった。



 込み合う時間帯に受付所に入る。列の最後に並びながら、冷蔵庫の中を思い出しながら買い出しをするか、どこかで夕飯を済ますか。ぼんやり考えながら自分の順番になり。
「あ」
 そう口にしたのは、受付に座っていたイルカだった。
「どうも」
 報告書を差しだして先に挨拶をしたカカシに少し驚き、直ぐに笑顔を浮かべた。
「お久しぶりです」
「ん、そうね」
カカシの短い返事に僅かに黒い目を緩める。報告書へ視線を落とした。
 俯いているイルカをじっと眺めながらほっとしたのは。
 イルカがいつも通りだと言うこと。
 どんな形であれ、やはり時間が解決していくものなのだ。何故かイルカの悲しい表情を見ていると、自分は悪くないと分かっていても、罪悪感でいっぱいになった。
 イルカは手慣れた手つきで報告書を確認していく。机の周りにある書類へ目をやるともちろん隣の席の受付にも、書類は積まれているが、イルカの机の周りはきれいに積まれていた。彼の処理能力が高いのがこれだけで伺える。逆に言えば仕事が捗っているのは落ち込んではいないと言うことで。それに安堵した。
 それとは関係ないが、最近受付にイルカが姿を見せなくなったのは、アカデミーの仕事と綱手の雑用だけで手一杯だったからのはずだ。申し訳ないとシズネが零していたのを思い出す。それなのに、人手不足が原因だろうが。
 この人も忙しいだろうに。大変だね。
 と、イルカが顔を上げた。
「すみません。ここも書いていただけますか」
 記入漏れを指摘され、カカシが屈む。
「どれ?」
「あ、ここです」
「うん。じゃあちょっとペン貸して?」
 カカシの伸ばした指先に、ペンを持っていたイルカの指に僅かに触れた。屈んだ事で少し距離が近くなっている事も、受付ではよくある事だ。
 なのに。途端、イルカの顔がぶわと赤く染まった。
 驚きに目を見開いたカカシと、上目遣いでカカシを見上げたイルカの目線が間近で交わる。
 ぎこちない程にイルカが視線を外した。それを目で追いながら、
 え、何で?何で頬染めちゃってんの?
 ペンを持ったまま呆然としてイルカを見つめた。
 そんな対応されるなんて思ってもみなかった。
 だって、こんな事前もあったが。こんな風に、あからさまに。顔に出した事なんて一度だってなかったのに。
 気持ちが冷めているとばかり思っていたから、今イルカが目の前で熟れたトマトの様に顔を真っ赤にしてる事実が受け入れられなかった。
 記入漏れを書き終えたカカシは、ペンを机に置く。
「……これでいい?」
「あ、はいっ。お疲れさまでした」
 恥ずかしそうに笑顔を浮かべ頭を下げるイルカに報告書を渡し、受付を後にした。

 廊下を歩きながら、気がつけば眉を寄せていた。
 ーー前より悪化している。
 混乱する頭に、思わず眉間に皺が寄る。混乱しているが、分かることはただ一つ。
 イルカが失恋を思い切り拗らせているという事。
 向かうべき方向とは逆方向へ向かっている。明らかに。
 それにあの恥ずかしそうな顔。
 ふと脳裏に蘇るイルカのさっきの表情に、カカシは覆面の下で軽く唇を噛んだ。
 あんな顔、ーー初めて見た。
 いや、もしかして自分が気がついていなかっただけで、前から見せていたのか。
 自分の中でイルカは、いつも爽やかな笑顔を浮かべて。常に適度な距離を保ってくれた。写輪眼だからと媚びを売るやつはよくいたけれど、イルカはそれとは違い、だからか、隣にいるときは居心地が良かった。
 彼の見せる人懐こい笑顔も嫌いじゃなかった。いや、今も嫌いじゃないんだけど。
 カカシは、がしがしと頭を掻く。
 でもあれは違う。
 恥じらうような、そんな顔は。もっと先生が似合うような、別の相手に向けるべきなのに。
 お疲れ様でしたと、微笑むイルカの顔を思い出し、再び眉を寄せる。
 俺なんかに、嬉しそうな顔見せないでよーー頼むから。
 イルカが諦めてくれるきっかけが、何かあればいいのだが。
 建物から出たカカシはそこで足を止める。
 両手をポケットに入れたまま、顔を上げゆっくりと流れて行く雲をぼんやりと眺めた。



 きっかけがあればいいと思ってはいたが、だからと言ってアスマが言っていたように、イルカに面と向かってはっきりと言うつもりはなかった。
 が、その機会が思いがけずやってきた。
 
 遅い昼飯の後、演習場の裏の林にある木の枝で、寝そべりながら昼寝をしようとしていた。この時間帯はたまたま運良くだれもこの演習場にはきていない。聞こえるのは風の音と鳥の囀る声くらいだ。
 うとうととしかけた時、気配を感じた。
 だが誰だろうと構わない。気配に気付かれる事はないと分かっていたが、気配を薄く消したまま昼寝を続行しようとした。
 が、カカシが薄く目を開いたのは、その気配がイルカがと分かったからだ。見つめる先の演習場にイルカがいた。書類を持ちながらイルカと一緒に並んで歩いているのは若い中忍だろう女性教員。赤茶色の髪を横に流して一つに結んでいる。
 二人はカカシがいる近くまで歩いてきた。演習場の隅に並べられた、手裏剣の特訓で使う丸太を確認している。
 この授業で使う丸太も、全て授業の一環として生徒達が作るものだと、イルカは女性教員に説明していた。
 劣化部分が多く見られるその丸太をイルカは手で触れ、もうそろそろ作り替えないとな、と呟いた。
「結構な重労働ですね」
 女性教員の声に、イルカは顔を上げ微笑む。
「まあ確かに思った以上に大変ですよ。特に女の子はこんな事やりたくない、なんて言い出すんですけどね」
 困ったように笑うイルカに、女性教員が口に手を当て小さく微笑んだ。
「それ想像がつきます。最近の女子は言葉がキツいですから」
「でしょう?最近なにを言ってもおじさんぽいなんて返ってくるんで参りますよ。まあ確かにそんな歳って言ったら歳だからなあ」
 朗らかに笑い白い歯を見せる。
「そんな事ないです」
 いや、と否定しようとするイルカに、女性教員がイルカに一歩、歩み寄った。
「こんな言い方変かもしれないですが、私には・・・・・・イルカ先生は全然範囲内です」
 イルカは、はあ、と間の抜けた声を出し、何回か瞬きをした。
「あの」
 女性の発した声が緊張していると、直ぐに感じた。が、イルカは気付いていないのか、はい、と素直に女性教員に返す。
「もしおつき合いしている人がいないなら、私、立候補してもいいですか?」
 何だモテるんじゃない。
 木の上でカカシがぼんやりイルカを見つめながら思った。
 自分から見てもイルカは真面目で、性格は穏和。自分とは違い女性にも優しい。女性から牽かれる部分が十分にあるはず。
 きっと今までも女性から送られてきた秋波があったはずだ。でもそれに気付かないくらいに愚鈍なのは、さっきの対応で何となく分かった。
 が、今回はストレートな言葉だ。しかも相手はイルカより若く可愛らしい部類の女性。
 イルカの気持ちを切り替えるいい機会そのものに違いない。
 この告白を受ければ、もうイルカはあんな風に自分が女と一緒にいるのを見る度に悲しい顔をする事もなく、こんな自分に対して一喜一憂する事もない。
 気配を消してじっと見つめた先のイルカは。女性の告白に、驚き黒い目を大きくさせた。少し間を置き、そこから後頭部を掻く。
「お気持ちは嬉しいですが、すみません」
 え?
 聞き間違いかと思いたかった。
「恋人がいるんですか?」
女性教員の問いにイルカはゆっくり首を横に振る。
「私は友達からでも、」
「すみません」
弱々しくなる女性教員の言葉をイルカは遮る。頭を下げた。
「俺、好きな人いるんです」
 イルカの目の前の彼女と同じように、言葉が無かった。
 自分が幸せになれるかもしれない可能性があるこの機会をあっさりと断り、可能性だってないような相手を、まだ好きだと言うイルカに。呆れて言葉が出ない。
 イルカにはっきりと振られ、女性教員はその場を一人離れる。その後ろ姿を見送るイルカを、カカシはじっと見つめた。

「イルカ先生」
 居酒屋のカウンターで一人、ビールを飲んでいるイルカにカカシは声をかける。グラスを持ったまま振り返ったイルカがカカシを見て驚く。
「隣、いい?」
 返事を待たずしてカカシはイルカの隣に腰を下ろした。カウンター越しに店主へビールだけを頼む。
「先生は今日も残業?」
 手甲を取り外したカカシは、置かれたおしぼりで手を拭きながら訪ねると、イルカは少し間を空けた後、戸惑いながらも、はい、と答えた。
「綱手様の相手は大変でしょ」
 結構人使い荒いから。冗談混じりで笑うカカシに、イルカは困ったように小さく笑い、黒い目を緩めた。
「もう慣れました」
返された言葉に、カカシも小さく微笑む。
 注文したビールが置かれる。覆面を顎まで下げると冷えたビールを喉に流し込んだ。上唇に付いた泡を舌で舐める。
「カカシさんは今日は任務は、」
「うん、あったよ。さっき終わって帰ってきたところ」
 微笑みながら片肘をつき、イルカへ視線を流すように向けると、それだけで少しだけイルカの頬が赤く染まったのが分かった。たぶん今までもイルカはこんな風に自分を見ていたのかもしれない。ただ、それに気を留めていなかったが、今はそんな些細なイルカの反応に溜息が出そうになる。
 苛立ちを解消したくて、カカシは煙草をポーチから取り出した。いつもだったら、イルカと一緒に飲む時は煙草を吸わなかった。普段は誰といても吸いたい時に煙草を吸っていたが、イルカといる時吸わなかったのは、イルカ本人が煙草を吸わない事もあるし、きっとイルカは煙が苦手だろうと思っていたから。それに、吸いたいと思わなかったから。
 でも、今日は違った。
 吸って良い?と聞かずにカカシは煙草に火をつける。深く煙草を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
 煙がゆっくりと居酒屋の古い天井へ昇っていく。
「本当だったんですね」
「何が?」
 聞くと、イルカはグラスを持ちながらカカシを見つめる。
「最近煙草が多くなったって、アスマさんが」
「・・・・・・ああ」
 薄く笑う。それは事実だった。
「でも何か新鮮です」
 あまり俺の前で吸ったの見たことなかったから。
 そう口にする、カカシを見つめるイルカの黒い目は、少しだけ輝いて見える。
 少しでもいい、どこか呆れてくれてたらいい、と思っていたのに。煙草を吸うカカシを見つめるその視線が、明らかに呆れとはほど遠い。
 カカシはグラスを空けると銀色の頭を掻いた。その姿をイルカはじっと見つめる。
「聞いた時に仕事が忙しいからかと思ったんですが、それか、何かあったんですか?」
 目を向けると少しだけ心配そうな眼差しを向けられている事に気が付き、カカシは自分の視線を外した。空になったグラスを見つめる。
「何かねえ・・・・・・」
 呟くカカシに、イルカが、え?と聞き返した。ゆっくりとイルカへ視線を戻す。
「そう言えばさ、先生今日告白されたんでしょ?」
「え、」
「可愛い子だって聞きましたよ。いいなあ」
 突然振られた話題に、イルカは分かりやすいくらいに戸惑いながら薄く笑った。
「いや、そんな事・・・・・・でも、それ何で知ってるんですか?」
「ああ、噂を聞いたんです。ねえ、それより先生はその子とつき合うの?」
 話を止まらせないように続けると、イルカはそこで気まずそうに視線をテーブルへ落とした。
「いや・・・・・・それは・・・・・・」
 言葉を詰まらせるイルカをカカシはじっと見つめる。
「何だつき合わないんだ。だったらその子、俺がもらっていい?」
「・・・・・・え?」
イルカがゆっくりと顔を上げた。微笑むカカシを見つめるイルカの口が、少し開いたままになっている。
「可愛い系も俺好きなんですよ。恥じらうのが初々しいって言うの?先生がつき合わないんだから、いいよね」
 少し呆然とした様な。その顔は、少し前に女と歩いている時に見せたあの顔と同じだった。
「・・・・・・でも、」
「そろそろ他の女に乗り換えたかったし、それか先生紹介してくれる?」
見つめるカカシの視線を受け止めきれなくなったのか、呆然としながら視線を落とす。
「・・・・・・そんなの・・・・・・無理です」
「え?」
小さく独り言のように呟く声に聞き返すと、イルカは顔を上げた。無理に浮かべた笑顔を向け、立ち上がる。
「すみません・・・・・・ちょっと・・・・・・お先に、失礼します」
 代金をテーブルに置き席を立つ。店を出るイルカに、カカシは振り返らなかった。
 ゆっくりと煙草をふかし、煙を吐きながら、ぼんやりとその煙を見つめた。
 きっとこれで分かっただろう。
 自分は最低な男だと。
 なのに。
 何だろう、気分が晴れない。
 カカシは煙草を灰皿にもみ消すと、くしゃりと銀色の頭を掻いた。

 ビールをもう一杯飲んで、食べ物もそこそこに店を出る。
 雨が降り出していた。
 降るだろうと分かっていたが、予想以上に早く降り出した事に小さく嘆息する。
 元々雨が降っても傘は差さない。任務では雨でも雪でもフードを被れば十分だ。
 カカシは雨の中をゆっくりと歩き始め、自分の家へを足を向ける。
 商店街から自分の住む上忍専用マンションまでは直ぐだ。雨が強くなり、カカシは足を早めながら、イルカの傷ついた顔が浮かんだ。
 傷つけたのは自分だ。
 そうする事を自分で選んだ。
 女と歩いていた時に会ったあの顔と同じ。何ら変わらない。丸で裏切られたかのような顔。
 苦しそうな黒い目がカカシを映し、そして視界からカカシを外した。
 マンションを目前にしてカカシは足を止めた。
 降り続く雨が、濡れた銀色の髪から顔へ伝う。
 嫌な予感がした。
 でも、その予感は自分には関係のない、どうでもいい事だ。
 気にする必要はない。
 さっさと帰ってシャワーを浴びて。
 そう思うのに、足が自分の部屋へ向かない。
 どうしようかと、迷いたくない。いや、必要ない。
 雨が打ち付けている地面を見つめながら、眉を寄せ目を伏せた。
 カカシは自分の甘さ加減に盛大に溜息を吐き出すと、踵を返し、反対方向へ向かって歩き出した。


 いない。
 絶対にいない。 
 そう強く念じたのに。

 雨が降る公園で一人ベンチに座っているイルカを見つけ、カカシは再び溜息が漏れる。
「ホント、いい加減にしてよ」
 少女チックなそのイルカの行動にあきれ果てる。
 落ち込むなら別に自分の家だっていいじゃない。なのに、何でまた公園なんかで。
 土砂降りの雨だってのに。
 ホント、何なの。もう。
 イルカの横顔は、雨で泣いているのか、分からない。
 苛立ちながら公園にぽつんと座るイルカを見つめながら、カカシは印を切る。
 早足で公園の中で入った。

 腕を掴まれてイルカは驚き顔を上げた。
「え?あ、スケアさん?」
 眉間に皺を寄せて睨むような目を向けているスケアを、イルカは目を丸くして見つめる。
「いつまでこんなところにいるつもりなの?」
苛立ったままの声がカカシから出た。
「えっと・・・・・・どうしたんですか?」
 とぼけたイルカの台詞に、カカシは舌打ちした。イルカを掴んだ手に力を入れ引っ張り立たせる。
「え、ちょっと、なに、どこに、」
 腕を掴んだまま歩き出すと、イルカが慌てる。足を止めずにカカシは肩越しにイルカを見る。
「あんたの家」
 短く答えた。

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