向日葵と。⑤
「言ったんだ」
夕方、家に戻り大人しく部屋で待っていた向日葵に伝えると、黒い目を丸くし言われた言葉に、イルカは拍子抜けした。言えと言った当の本人のとる態度にしては違うように思えるのは、俺だけか?
あの後、キスだけだからと言われながらも、気がつけばカカシとベットに沈んでいた。あんなに本気のキスをされてやめるのには自制心がいる。しかし今日といい、昨日といい、向日葵が待っているからと気持ちの中で整理かつかないままなのに、カカシに流されるようになっていた。久しぶりに訪れたカカシの家だという雰囲気もそれを促していたのかもしれない。恋人同士ながらも、自分は未だにあの上忍に溺れている。そんな気がしてならない。意識し始めて、付き合い始めて、気持ちが全く色褪せない。
目の前にいる、カカシに恋する少女を前にし複雑な気持ちになりながらも、向日葵に言われた言葉に眉を寄せていた。
「…言ってって、言ったよな?」
「何て?」
「え?」
「カカシさん。何て言ってたの?」
イルカの問いは聞こえていないように、ただ、イルカから先の言葉をジッと待ちわびた顔を向けられた。
「まあ、…いいよって。でもな、ただ里にいる間だけだ、」
間違っても誤解ないよう、と言っている先から向日葵は考え込むように黙り込んで、聞いているようにみえない。
「聞いてるのか?向日葵」
「え?あ、うん。聞いてる」
そんな感じには見えなかったけど。普通から考えて喜ぶとばかり思っていたが。黒い瞳は何かを考え、やがて赤い唇をキュッと閉じてイルカへ視線を向けた。頬は少し赤い。
「じゃあ、明日カカシさんに会っていいのね」
「うん、あま仕事があるから、自分から顔を見せるって言っていたから」
「ああ、そうね。忍びの、しかも上忍だもんね」
わあ、夢見たい。と呟いて卓袱台の上に突っ伏した。その卓袱台には薬学や医学の本が山積みにされている。木の葉の図書館から借りてきたのだろう。
突っ伏した間から見える表情や積まれた資料からサクラに似ていると言ったカカシの言葉がふと浮かんだ。
今や里を出たサスケをいつも心のどこかで想いながらも、綱手の弟子として毎日励んでいる。容姿は似ても似つかないが、向日葵から重なって見えるのはサクラだった。
親戚なのに。今や自分より上に向かっている元生徒と被らせていては駄目だな。もうサクラもアカデミーにいた生徒ではない。階級も自分と同じ。この世界では対等になる。
子供だと、生徒だと、親戚だと、甘いのは大概にしないといけない。
カカシはああ言ってくれたが、やはりきちんと断るべきだったかもしれない。
卓袱台でほのかに笑みを浮かべている向日葵を横目で見ながら自分に軽く叱咤し、溜息をついて、夕飯の支度へ台所へ向かった。
翌日、カカシは昼には現れなかった。夕方家に帰れば、向日葵が着替えを終えて寝室から出てきた。いつもの子供らしい服より少し大人びて見える。そんな服に驚いた。
「見て。昼にね、カカシさんが買ってくれたの」
嬉しそうな顔をして洋服を見せるように身体をクルリと回転させる。
昼間、カカシさんが?
カカシが昼間自分に顔を見せなかった理由を知る。
そうか、時間があったから向日葵に会いに行ってくれたのか。しかもあんな洋服まで。高くなかっただろうか。
服の価値自体よく分からないが、多分お洒落な服なんだろう。
ぼんやり見つめると、向日葵はバックを持ってイルカを見た。
「今から夕飯に連れて行ってくれるの」
「……そうか」
「でね、その後屋台で美味しいアイスがあるからそこでデザート食べて、その後夜景も見せてくれるって!」
少し興奮気味に木の葉の地図を見せられた。指差された場所に、小さく息を飲んだ。
カカシから告白をされた時、いた場所。大切な思い出の丘を、向日葵は指さしている。
どうしようもない嫌な気持ちが湧き上がるのを必死に抑えて、イルカは笑顔を作った。
「そうか、良かったな」
「うん!」
その顔は恋する可愛い少女。来月には16になる。恋をし、結婚を夢見る歳であり淡い表情を見せる向日葵。
どう捉えたらいいのか分からなくなっていた。
だが、それは自分が望んでいた事。
気持ちを切り替えるように向日葵の目を見た。
「楽しんでこいよ!」
「は〜い!」
靴を履いて扉を閉めると、小走りで足音が消えていく。
1人になった部屋で、長い溜息を吐いて。イルカは頭を振って、久しぶりの一人分の夕飯に取り掛かった。
カカシと合わなくなってから3日。向日葵は同じように昼間と夜、カカシとのデートを楽しんでいるらしい。顔を見せる事のないカカシには話も聞けず、向日葵が嬉しそうに言うのをただ聞いていた。
「昨日変わったもんを見たんだけどね、あれはなんだい」
執務室へ書類を届けに顔を出した時、綱手が書類に目を通しながら口を開いた。
「あれ、ですか?」
聞き返せば、綱手は走らせていたペンを止め、顔を上げる。
「カカシとお前のとこの親戚の、」
「向日葵ですか」
「そう、その向日葵が並んで歩いてたよ」
腕を組んでね。
付け加えられた言葉に、イルカは目を泳がせていた。すぐに綱手に戻すが、褐色の目はジッとイルカを写している。
「なんか、向日葵がカカシさんを気に入ってしまったみたいで、…その、」
「へえ、それであれか」
綱手は少し片眉を上げてペンを再び動かし始めた。
「まあね、あの歳だし、カカシをよく知らないからかね。こっちから見たらただの物好きにしか見えないけどね」
鼻で笑うと書き終わった書類を決済棚へ入れ、
「あいつはどうも昔から黒髪の子が好みだからねえ、鼻の下伸ばしてるのも納得だな」
笑みを浮かべられ、イルカは合わせるように笑ったが、その表情は自分ではあやふやだった。綱手の一言が変に胸に突き刺さっていた。
「まあいいさ、本気にならなきゃな」
ご苦労と言われ、イルカは頭を下げる。なるほどねえ、と妙に納得している綱手な独り言が耳に残ったまま、扉から出た。
本気になんてなる訳がない。綱手様も冗談が過ぎる。苦しげに息を吐き出す。
だが、カカシを昔から知ってるだろう綱手の言葉は、真実味を表していた。
向日葵とデートを始めてから一回も自分に会いに来なくなっていた。
昼間さえも。カカシは自分から昼だけはと言っていたのにも関わらず。
それは自分の頼みを真摯に聞き入れてくれている証拠なのに。胸がチクチクと苦味を残している。
意味なく胸を押さえて摩る。
会いたいなんて、都合のいい事は言えない。黒髪が好きだからって、相手は向日葵だ。何を落ち込む必要がある。
「あ、イルカ先生!」
顔を上げればサクラが片手を上げた。白衣を纏い本を抱えている。
久しぶりに見るサクラに生徒の頃の面影は残るが、大人の成長を遂げ始めている姿がイルカの目に映し出されていた。
「久しぶりだな」
「はい。しばらく任務しながら病院にいたので」
時間があると綱手様の御用ばかりなんですよね。と困った顔をしながらも手に持つ薬学の本を見せられた。
「で、先生はどうしたの?」
「いや、俺も綱手様の御用で、」
言えば、そうじゃなくて、とサクラが言った。
「胸を押さえて気分も悪そうだったから。先生、どっか悪いの?」
心配そうな表情を見せられ、イルカは笑った。
「いや?全く健康だ。ちょっと疲れてるかな」
「そんな感じには見えないんだけどな。でも、そうね、何かあったらすぐ私に言ってね」
油断は禁物です。と念を押され、サクラの後ろ姿を見送って、すでに子供らしさが抜けてきている様から、向日葵がダブって見えた。
夜、月が頭上まで登る時間。向日葵が帰ってこない。
イルカは風呂から上がり、居間を見渡す。向日葵がいない部屋を眺めて、軽く顔を顰めた。今までこんな遅くまで帰って来なかった事はない。相手がカカシだから何か事故に巻き込まれる事は、万が一があろうとも向日葵の保証は十分だろう。里で右に出る忍びはいないのだから。
だが。
別の不安が靄となりイルカの胸にかかる。自分から言いだした事とは言え、途中から向日葵の話は聞くのが苦痛になっていた。話を聞きたくなくて、仕事を家に持ち帰り、聞けない体制を取ったりしたが、向日葵は帰ってくればしばらくは何を言おうと、カカシとのデート内容を逐一話す。会いたい恋人との楽しいデート内容。イルカはそれでも楽しそうに聞くのを務めていたが。
遅い。
窓際まで行き、カーテンを開ける。
開けた先に向日葵の着ていた赤いカーディガンが目に入って視線を向けた。
心音が高鳴った。
カカシがいる。
カカシの背中越しに見えていた向日葵の赤いカーディガン。
だけど、向日葵は何で、目を閉じてーー。
思わずカーテンを素早く閉めて自分の視界から追い出していた。
頭がガンガンとするくらいに激しく心音が鳴り続けている。
あれは、キス。
キスをしていた。
パニックに陥っていた。ギュッと胸の辺りを押さえパジャマを上から握る。
違う。
きっと見間違い。そう、見間違いだ。
そうに決まってると、強く言い込めながらも、頭から見た光景が離れない。
『あいつはどうも昔から黒髪の子が好みだからねえ、』
そんな事ない。
向日葵はまだ子供でーー。
昼間会った、サクラの大人びた笑みがふわりと浮かぶ。
だから、違う。
『まあいいさ、本気にならなきゃな』
気がつけば、イルカは指先が白くなるほどパジャマを握りしめていた。
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夕方、家に戻り大人しく部屋で待っていた向日葵に伝えると、黒い目を丸くし言われた言葉に、イルカは拍子抜けした。言えと言った当の本人のとる態度にしては違うように思えるのは、俺だけか?
あの後、キスだけだからと言われながらも、気がつけばカカシとベットに沈んでいた。あんなに本気のキスをされてやめるのには自制心がいる。しかし今日といい、昨日といい、向日葵が待っているからと気持ちの中で整理かつかないままなのに、カカシに流されるようになっていた。久しぶりに訪れたカカシの家だという雰囲気もそれを促していたのかもしれない。恋人同士ながらも、自分は未だにあの上忍に溺れている。そんな気がしてならない。意識し始めて、付き合い始めて、気持ちが全く色褪せない。
目の前にいる、カカシに恋する少女を前にし複雑な気持ちになりながらも、向日葵に言われた言葉に眉を寄せていた。
「…言ってって、言ったよな?」
「何て?」
「え?」
「カカシさん。何て言ってたの?」
イルカの問いは聞こえていないように、ただ、イルカから先の言葉をジッと待ちわびた顔を向けられた。
「まあ、…いいよって。でもな、ただ里にいる間だけだ、」
間違っても誤解ないよう、と言っている先から向日葵は考え込むように黙り込んで、聞いているようにみえない。
「聞いてるのか?向日葵」
「え?あ、うん。聞いてる」
そんな感じには見えなかったけど。普通から考えて喜ぶとばかり思っていたが。黒い瞳は何かを考え、やがて赤い唇をキュッと閉じてイルカへ視線を向けた。頬は少し赤い。
「じゃあ、明日カカシさんに会っていいのね」
「うん、あま仕事があるから、自分から顔を見せるって言っていたから」
「ああ、そうね。忍びの、しかも上忍だもんね」
わあ、夢見たい。と呟いて卓袱台の上に突っ伏した。その卓袱台には薬学や医学の本が山積みにされている。木の葉の図書館から借りてきたのだろう。
突っ伏した間から見える表情や積まれた資料からサクラに似ていると言ったカカシの言葉がふと浮かんだ。
今や里を出たサスケをいつも心のどこかで想いながらも、綱手の弟子として毎日励んでいる。容姿は似ても似つかないが、向日葵から重なって見えるのはサクラだった。
親戚なのに。今や自分より上に向かっている元生徒と被らせていては駄目だな。もうサクラもアカデミーにいた生徒ではない。階級も自分と同じ。この世界では対等になる。
子供だと、生徒だと、親戚だと、甘いのは大概にしないといけない。
カカシはああ言ってくれたが、やはりきちんと断るべきだったかもしれない。
卓袱台でほのかに笑みを浮かべている向日葵を横目で見ながら自分に軽く叱咤し、溜息をついて、夕飯の支度へ台所へ向かった。
翌日、カカシは昼には現れなかった。夕方家に帰れば、向日葵が着替えを終えて寝室から出てきた。いつもの子供らしい服より少し大人びて見える。そんな服に驚いた。
「見て。昼にね、カカシさんが買ってくれたの」
嬉しそうな顔をして洋服を見せるように身体をクルリと回転させる。
昼間、カカシさんが?
カカシが昼間自分に顔を見せなかった理由を知る。
そうか、時間があったから向日葵に会いに行ってくれたのか。しかもあんな洋服まで。高くなかっただろうか。
服の価値自体よく分からないが、多分お洒落な服なんだろう。
ぼんやり見つめると、向日葵はバックを持ってイルカを見た。
「今から夕飯に連れて行ってくれるの」
「……そうか」
「でね、その後屋台で美味しいアイスがあるからそこでデザート食べて、その後夜景も見せてくれるって!」
少し興奮気味に木の葉の地図を見せられた。指差された場所に、小さく息を飲んだ。
カカシから告白をされた時、いた場所。大切な思い出の丘を、向日葵は指さしている。
どうしようもない嫌な気持ちが湧き上がるのを必死に抑えて、イルカは笑顔を作った。
「そうか、良かったな」
「うん!」
その顔は恋する可愛い少女。来月には16になる。恋をし、結婚を夢見る歳であり淡い表情を見せる向日葵。
どう捉えたらいいのか分からなくなっていた。
だが、それは自分が望んでいた事。
気持ちを切り替えるように向日葵の目を見た。
「楽しんでこいよ!」
「は〜い!」
靴を履いて扉を閉めると、小走りで足音が消えていく。
1人になった部屋で、長い溜息を吐いて。イルカは頭を振って、久しぶりの一人分の夕飯に取り掛かった。
カカシと合わなくなってから3日。向日葵は同じように昼間と夜、カカシとのデートを楽しんでいるらしい。顔を見せる事のないカカシには話も聞けず、向日葵が嬉しそうに言うのをただ聞いていた。
「昨日変わったもんを見たんだけどね、あれはなんだい」
執務室へ書類を届けに顔を出した時、綱手が書類に目を通しながら口を開いた。
「あれ、ですか?」
聞き返せば、綱手は走らせていたペンを止め、顔を上げる。
「カカシとお前のとこの親戚の、」
「向日葵ですか」
「そう、その向日葵が並んで歩いてたよ」
腕を組んでね。
付け加えられた言葉に、イルカは目を泳がせていた。すぐに綱手に戻すが、褐色の目はジッとイルカを写している。
「なんか、向日葵がカカシさんを気に入ってしまったみたいで、…その、」
「へえ、それであれか」
綱手は少し片眉を上げてペンを再び動かし始めた。
「まあね、あの歳だし、カカシをよく知らないからかね。こっちから見たらただの物好きにしか見えないけどね」
鼻で笑うと書き終わった書類を決済棚へ入れ、
「あいつはどうも昔から黒髪の子が好みだからねえ、鼻の下伸ばしてるのも納得だな」
笑みを浮かべられ、イルカは合わせるように笑ったが、その表情は自分ではあやふやだった。綱手の一言が変に胸に突き刺さっていた。
「まあいいさ、本気にならなきゃな」
ご苦労と言われ、イルカは頭を下げる。なるほどねえ、と妙に納得している綱手な独り言が耳に残ったまま、扉から出た。
本気になんてなる訳がない。綱手様も冗談が過ぎる。苦しげに息を吐き出す。
だが、カカシを昔から知ってるだろう綱手の言葉は、真実味を表していた。
向日葵とデートを始めてから一回も自分に会いに来なくなっていた。
昼間さえも。カカシは自分から昼だけはと言っていたのにも関わらず。
それは自分の頼みを真摯に聞き入れてくれている証拠なのに。胸がチクチクと苦味を残している。
意味なく胸を押さえて摩る。
会いたいなんて、都合のいい事は言えない。黒髪が好きだからって、相手は向日葵だ。何を落ち込む必要がある。
「あ、イルカ先生!」
顔を上げればサクラが片手を上げた。白衣を纏い本を抱えている。
久しぶりに見るサクラに生徒の頃の面影は残るが、大人の成長を遂げ始めている姿がイルカの目に映し出されていた。
「久しぶりだな」
「はい。しばらく任務しながら病院にいたので」
時間があると綱手様の御用ばかりなんですよね。と困った顔をしながらも手に持つ薬学の本を見せられた。
「で、先生はどうしたの?」
「いや、俺も綱手様の御用で、」
言えば、そうじゃなくて、とサクラが言った。
「胸を押さえて気分も悪そうだったから。先生、どっか悪いの?」
心配そうな表情を見せられ、イルカは笑った。
「いや?全く健康だ。ちょっと疲れてるかな」
「そんな感じには見えないんだけどな。でも、そうね、何かあったらすぐ私に言ってね」
油断は禁物です。と念を押され、サクラの後ろ姿を見送って、すでに子供らしさが抜けてきている様から、向日葵がダブって見えた。
夜、月が頭上まで登る時間。向日葵が帰ってこない。
イルカは風呂から上がり、居間を見渡す。向日葵がいない部屋を眺めて、軽く顔を顰めた。今までこんな遅くまで帰って来なかった事はない。相手がカカシだから何か事故に巻き込まれる事は、万が一があろうとも向日葵の保証は十分だろう。里で右に出る忍びはいないのだから。
だが。
別の不安が靄となりイルカの胸にかかる。自分から言いだした事とは言え、途中から向日葵の話は聞くのが苦痛になっていた。話を聞きたくなくて、仕事を家に持ち帰り、聞けない体制を取ったりしたが、向日葵は帰ってくればしばらくは何を言おうと、カカシとのデート内容を逐一話す。会いたい恋人との楽しいデート内容。イルカはそれでも楽しそうに聞くのを務めていたが。
遅い。
窓際まで行き、カーテンを開ける。
開けた先に向日葵の着ていた赤いカーディガンが目に入って視線を向けた。
心音が高鳴った。
カカシがいる。
カカシの背中越しに見えていた向日葵の赤いカーディガン。
だけど、向日葵は何で、目を閉じてーー。
思わずカーテンを素早く閉めて自分の視界から追い出していた。
頭がガンガンとするくらいに激しく心音が鳴り続けている。
あれは、キス。
キスをしていた。
パニックに陥っていた。ギュッと胸の辺りを押さえパジャマを上から握る。
違う。
きっと見間違い。そう、見間違いだ。
そうに決まってると、強く言い込めながらも、頭から見た光景が離れない。
『あいつはどうも昔から黒髪の子が好みだからねえ、』
そんな事ない。
向日葵はまだ子供でーー。
昼間会った、サクラの大人びた笑みがふわりと浮かぶ。
だから、違う。
『まあいいさ、本気にならなきゃな』
気がつけば、イルカは指先が白くなるほどパジャマを握りしめていた。
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