欠片④
まだ動揺していた。
泣いていた。涙をぽろぽろ流して泣いていた。
何でこんな事になったんだ。
言っている意味も分からなかったが、イルカは怒っていた。出てけと言って、行かないでと言った。何がイルカをそうさせてるのか。全く思い当たらない。
上手くいっていたと思っていたのに。
(…くそっ)
話せる場所まで移動して、暗部が動きを止めて降り立つ。
「……で、ナニ?」
「先輩のトドメ刺し損ねたくノ一、花隠れの抜け忍でしたよね」
言われて思い出す。確かに額当ては花隠れの抜け忍だった。
「その抜け忍が隠れ家に使ってた村があったんですが、その村落の一部を花隠れが消すみたいです」
そりゃそうなるだろう。抜け忍と言えど1人は血系限界を使っていた。他の里に下手な情報が漏れたらマズイ。後腐れなく処理するのが鉄則だ。
「…で、コッチは動くの?」
「えぇ、先輩の曖昧な記憶の原因がつかめるかもしれないですからね。用心に越した事はないですから。…先輩は行きます?」
「何で、任務デショ?」
「…さっき込み入った雰囲気だったので」
「ハハ…そうなの」
後輩に気遣われるのは情けない話だ。
「……火影様からは先輩が決めるように言われてます」
今日の任務は遠出だったが、大名の護衛だった。体力もある。今からの戦闘に差し支えないだろう。
「……ん~、ソだね。行きますか」
「了解」
その村はいくつか山を越えた山岳地帯にあった。標高は高く、敵から身を守るにはいい地形だ。逆に孤立しやすい事が弱点となる。
「偵察部隊からですが、向こうはこっちが来るとは思ってないのか、少数です。…死体処理班と、護衛の小部隊ってとこですね。お互い無理な削り合いは避けたいはずですから、村に入ったら捜索しながら進みます」
カカシの背後には暗部が2部隊付いていた。
「叩かないんですか?」
若い暗部がカカシの後輩に口を挟む。
「村はそこまで大きく無いけど、牙は剥くだろうね。慎重に行こう」
「…虎穴に入らずんば虎子を得ず。先手必勝ですよ」
その言葉にも後輩は首を振った。
「無茶はしないよ。無利益な忌みは作りたく無い」
臭いが変わった。
カカシが反応を示せば、遅れて察知した暗部も手を挙げて動きを止めた。
暗い山の中で微かに取れる臭い。視覚からは確認出来ないが、間違いない。
「いやーな予感ダネ…」
ため息交じりに頭を掻く。
更に進むと偵察隊がカカシ達を待っていた。
「やられました…」
やっぱり。先を越されたか。
舌打ちして、また頭を掻いた。花隠れは既に焼き討ちを始めている。
村ごと闇に葬るつもりか。無関係の村人がどのくらいいるのだろう。
「…はぁ。ま、取り敢えず行くよ」
自分の合図で村に入る。
横手の木幹に飛び移ると村を眺めた。赤い火の粉が登っている場所まで舞い上がってくる。想像以上に火の手は村を包んでいた。里の失態でもあったのか。それでも不都合なモノだけでなく、全てを焼き払うのはいただけない。
火の中を逃げ惑う村人を尻目に焼き残っている建物の中に入る。
村に入ってから、胸の中に不快感が渦巻いていた。むずむずとする。建物の影に身を潜めながら、カカシは眉を顰め掌を広げた。
(ーー口寄せ?)
さっきよりもその不可思議な感覚が強くなっている。しいて言うならばチャクラが引っ張られるような。誰かに呼ばれている気がしてならない。幻術か。それかただの幻聴か。
別の建物に入った時、感じる気配にカカシは動きを止めた。
眉根を寄せ辺りをゆっくりと、慎重に気配を探る。
曖昧な記憶の中にある任務。そこで最後に仕留めた、否仕留め損ねたくノ一の憎悪のようなものだろうか。気味の悪いチャクラを感じ取る。
いくつかある気配のうちの一つが動いた。同時に現れた花隠れの忍の攻撃を躱して一撃で仕留める。不穏な気配の元ではない。
別の部屋を探す。空気中の酸素濃度の低下に呼吸を止めた。
(にしても。…ここもそろそろヤバイね)
煙がまわる迄には出なくては。
ーーチャクラの元が近い
クナイを手にして気配を伺う。
「……ぐぁっ」
血の臭いと共に発した声。
奥にある部屋を覗く。花隠れの忍の脇に臙脂色の羽織を着た塊を見た。
「…木ノ葉か」
花隠れの忍が返り血を浴びながら目を向ける。バレてるなら仕方がない。
カカシはゆっくりと姿を現し、クナイを前に構えて相手を捉えた。改めて床に突っ伏している存在。自分が感じていた不穏な気配だと分かり、カカシはグッと眉間に皺を寄せた。
「…やってくれるね。アンタらの里の評判堕ちるよ」
カカシの低い声に笑い声が返った。
「こっちの問題だ。他所者には関係がない事だ」
殺気を互いに出しながら距離を取る。
臙脂の羽織を着た塊が呻き声を上げながら動いた。まだ、息がある。
「コッチも関係あるのよ。ソレ、もらっていい?」
「無駄だ、時期死ぬ」
話し合うだけ無駄って訳か。
思ったより相手は冷静で自分と十分に渡り合える力を持っている。その上、下手な駆け引きには応じない。
だが、一戦交える必要がある。
カカシはクナイを握りしめていた指に力を入れた。
その時、蹲っていた臙脂の塊が顔を上げ声を漏らした。
カカシは思わず目を疑った。
(…この女…まさか)
息切れ切れに苦しそうに呻くーー女の顔。
仕留め損ねたあのくノ一と全く同じ顔をしていた。
影分身?いや、違う。アレは本体だった。自分は意識を失ったとは言え、暗部が仕留めたのは間違いない。
じゃあ、この女は誰だ。
あの戦いに何か仕掛けがあったのか。
頭に浮かぶ戦闘は、最後になると霧がかかるように思考を遮る。
「…はたけ…かかし…」
女が這いずり顔を上げこっちを見た。
その動きにカカシは眼を見張る。
隙が生まれていた。
一瞬の隙に花隠れの忍が、女の喉元をクナイで突く。
床に崩れ絶命した女がみるみるうちに黒くなり、灰になる。数秒の内に。
臙脂の羽織だけが残されていた。
「…退け、木ノ葉。村はじき消える」
それだけ残し、花隠れの忍は窓から飛び出す。姿を消した。
灰になった女を見下ろす。
「……クソっ」
思わず舌打ちをしていた。苛立ちに近くにあった椅子を蹴り飛ばす。
これでまた振り出しか。
消されたからには此処にいても仕方がない。悔しいが敵が残した言葉通り、退くしか余地がない。
身体の向きを変え部屋を後にしようとして、視界に入った羽織に足を止めた。
臙脂の羽織の膨らみ。
不審に思い、カカシは屈み込み内ポケットを探る。手に当たった物を取り出した。
黒い小さな瓶。
が、持った途端ヒビが入り手の中で砕け散る。
(……気体?)
黒い空気が一瞬にしてカカシを包む。
瞬間、脳内に感じた事のない衝撃が走り、カカシの身体がビクンと震えた。
視界が真っ白になる。
カカシは身体の力を失い、膝からガクンと床に倒れ込みそうになり、寸前で床に手で支えた。
頭の中で何かが広がる。
それは靄が晴れていくように明るくなる。
ーーまざまざとあの時の自分の戦闘が蘇った。
任務先で待ち伏せされ戦闘になった場所。森を抜けきった荒地で、カカシは最後に残った敵と交戦していた。
空気中に広がる血の匂い。
カカシの左腕は雷切により敵の胸を突き抜いていた。
敵のくノ一は、痙攣しながら自分を睨んだ。
腕を抜くと女は崩れ落ち、口から吐血しながら顔を上げる。ギラギラした気持ちの悪い眼。
カカシは冷たい目で相手を眺め、再度トドメを刺す為に再び雷切を作った。
「……この…ままでは…死なない…」
途切れ途切れに、呟く声。が、上手く聞き取れない。
「…………?」
言葉に眉をひそめた時、女が眼を開いた。禍々しい目は見た事の無い色を放つ。
(……っ幻術!?)
写輪眼を開くと同時に胸に痛みが走る。突き抜けるような寒さが身体を包み、思わず胸を押さえ膝をついた。
「………お前の…一番大切な…記憶をいただく……苦しめ…失い……苦しめ…」
胸の中が抉られていくような痛み。
顔を歪め短く息を吐く。
(……俺の大切な…キオク…?)
こそでカカシの意識は途絶えた。
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泣いていた。涙をぽろぽろ流して泣いていた。
何でこんな事になったんだ。
言っている意味も分からなかったが、イルカは怒っていた。出てけと言って、行かないでと言った。何がイルカをそうさせてるのか。全く思い当たらない。
上手くいっていたと思っていたのに。
(…くそっ)
話せる場所まで移動して、暗部が動きを止めて降り立つ。
「……で、ナニ?」
「先輩のトドメ刺し損ねたくノ一、花隠れの抜け忍でしたよね」
言われて思い出す。確かに額当ては花隠れの抜け忍だった。
「その抜け忍が隠れ家に使ってた村があったんですが、その村落の一部を花隠れが消すみたいです」
そりゃそうなるだろう。抜け忍と言えど1人は血系限界を使っていた。他の里に下手な情報が漏れたらマズイ。後腐れなく処理するのが鉄則だ。
「…で、コッチは動くの?」
「えぇ、先輩の曖昧な記憶の原因がつかめるかもしれないですからね。用心に越した事はないですから。…先輩は行きます?」
「何で、任務デショ?」
「…さっき込み入った雰囲気だったので」
「ハハ…そうなの」
後輩に気遣われるのは情けない話だ。
「……火影様からは先輩が決めるように言われてます」
今日の任務は遠出だったが、大名の護衛だった。体力もある。今からの戦闘に差し支えないだろう。
「……ん~、ソだね。行きますか」
「了解」
その村はいくつか山を越えた山岳地帯にあった。標高は高く、敵から身を守るにはいい地形だ。逆に孤立しやすい事が弱点となる。
「偵察部隊からですが、向こうはこっちが来るとは思ってないのか、少数です。…死体処理班と、護衛の小部隊ってとこですね。お互い無理な削り合いは避けたいはずですから、村に入ったら捜索しながら進みます」
カカシの背後には暗部が2部隊付いていた。
「叩かないんですか?」
若い暗部がカカシの後輩に口を挟む。
「村はそこまで大きく無いけど、牙は剥くだろうね。慎重に行こう」
「…虎穴に入らずんば虎子を得ず。先手必勝ですよ」
その言葉にも後輩は首を振った。
「無茶はしないよ。無利益な忌みは作りたく無い」
臭いが変わった。
カカシが反応を示せば、遅れて察知した暗部も手を挙げて動きを止めた。
暗い山の中で微かに取れる臭い。視覚からは確認出来ないが、間違いない。
「いやーな予感ダネ…」
ため息交じりに頭を掻く。
更に進むと偵察隊がカカシ達を待っていた。
「やられました…」
やっぱり。先を越されたか。
舌打ちして、また頭を掻いた。花隠れは既に焼き討ちを始めている。
村ごと闇に葬るつもりか。無関係の村人がどのくらいいるのだろう。
「…はぁ。ま、取り敢えず行くよ」
自分の合図で村に入る。
横手の木幹に飛び移ると村を眺めた。赤い火の粉が登っている場所まで舞い上がってくる。想像以上に火の手は村を包んでいた。里の失態でもあったのか。それでも不都合なモノだけでなく、全てを焼き払うのはいただけない。
火の中を逃げ惑う村人を尻目に焼き残っている建物の中に入る。
村に入ってから、胸の中に不快感が渦巻いていた。むずむずとする。建物の影に身を潜めながら、カカシは眉を顰め掌を広げた。
(ーー口寄せ?)
さっきよりもその不可思議な感覚が強くなっている。しいて言うならばチャクラが引っ張られるような。誰かに呼ばれている気がしてならない。幻術か。それかただの幻聴か。
別の建物に入った時、感じる気配にカカシは動きを止めた。
眉根を寄せ辺りをゆっくりと、慎重に気配を探る。
曖昧な記憶の中にある任務。そこで最後に仕留めた、否仕留め損ねたくノ一の憎悪のようなものだろうか。気味の悪いチャクラを感じ取る。
いくつかある気配のうちの一つが動いた。同時に現れた花隠れの忍の攻撃を躱して一撃で仕留める。不穏な気配の元ではない。
別の部屋を探す。空気中の酸素濃度の低下に呼吸を止めた。
(にしても。…ここもそろそろヤバイね)
煙がまわる迄には出なくては。
ーーチャクラの元が近い
クナイを手にして気配を伺う。
「……ぐぁっ」
血の臭いと共に発した声。
奥にある部屋を覗く。花隠れの忍の脇に臙脂色の羽織を着た塊を見た。
「…木ノ葉か」
花隠れの忍が返り血を浴びながら目を向ける。バレてるなら仕方がない。
カカシはゆっくりと姿を現し、クナイを前に構えて相手を捉えた。改めて床に突っ伏している存在。自分が感じていた不穏な気配だと分かり、カカシはグッと眉間に皺を寄せた。
「…やってくれるね。アンタらの里の評判堕ちるよ」
カカシの低い声に笑い声が返った。
「こっちの問題だ。他所者には関係がない事だ」
殺気を互いに出しながら距離を取る。
臙脂の羽織を着た塊が呻き声を上げながら動いた。まだ、息がある。
「コッチも関係あるのよ。ソレ、もらっていい?」
「無駄だ、時期死ぬ」
話し合うだけ無駄って訳か。
思ったより相手は冷静で自分と十分に渡り合える力を持っている。その上、下手な駆け引きには応じない。
だが、一戦交える必要がある。
カカシはクナイを握りしめていた指に力を入れた。
その時、蹲っていた臙脂の塊が顔を上げ声を漏らした。
カカシは思わず目を疑った。
(…この女…まさか)
息切れ切れに苦しそうに呻くーー女の顔。
仕留め損ねたあのくノ一と全く同じ顔をしていた。
影分身?いや、違う。アレは本体だった。自分は意識を失ったとは言え、暗部が仕留めたのは間違いない。
じゃあ、この女は誰だ。
あの戦いに何か仕掛けがあったのか。
頭に浮かぶ戦闘は、最後になると霧がかかるように思考を遮る。
「…はたけ…かかし…」
女が這いずり顔を上げこっちを見た。
その動きにカカシは眼を見張る。
隙が生まれていた。
一瞬の隙に花隠れの忍が、女の喉元をクナイで突く。
床に崩れ絶命した女がみるみるうちに黒くなり、灰になる。数秒の内に。
臙脂の羽織だけが残されていた。
「…退け、木ノ葉。村はじき消える」
それだけ残し、花隠れの忍は窓から飛び出す。姿を消した。
灰になった女を見下ろす。
「……クソっ」
思わず舌打ちをしていた。苛立ちに近くにあった椅子を蹴り飛ばす。
これでまた振り出しか。
消されたからには此処にいても仕方がない。悔しいが敵が残した言葉通り、退くしか余地がない。
身体の向きを変え部屋を後にしようとして、視界に入った羽織に足を止めた。
臙脂の羽織の膨らみ。
不審に思い、カカシは屈み込み内ポケットを探る。手に当たった物を取り出した。
黒い小さな瓶。
が、持った途端ヒビが入り手の中で砕け散る。
(……気体?)
黒い空気が一瞬にしてカカシを包む。
瞬間、脳内に感じた事のない衝撃が走り、カカシの身体がビクンと震えた。
視界が真っ白になる。
カカシは身体の力を失い、膝からガクンと床に倒れ込みそうになり、寸前で床に手で支えた。
頭の中で何かが広がる。
それは靄が晴れていくように明るくなる。
ーーまざまざとあの時の自分の戦闘が蘇った。
任務先で待ち伏せされ戦闘になった場所。森を抜けきった荒地で、カカシは最後に残った敵と交戦していた。
空気中に広がる血の匂い。
カカシの左腕は雷切により敵の胸を突き抜いていた。
敵のくノ一は、痙攣しながら自分を睨んだ。
腕を抜くと女は崩れ落ち、口から吐血しながら顔を上げる。ギラギラした気持ちの悪い眼。
カカシは冷たい目で相手を眺め、再度トドメを刺す為に再び雷切を作った。
「……この…ままでは…死なない…」
途切れ途切れに、呟く声。が、上手く聞き取れない。
「…………?」
言葉に眉をひそめた時、女が眼を開いた。禍々しい目は見た事の無い色を放つ。
(……っ幻術!?)
写輪眼を開くと同時に胸に痛みが走る。突き抜けるような寒さが身体を包み、思わず胸を押さえ膝をついた。
「………お前の…一番大切な…記憶をいただく……苦しめ…失い……苦しめ…」
胸の中が抉られていくような痛み。
顔を歪め短く息を吐く。
(……俺の大切な…キオク…?)
こそでカカシの意識は途絶えた。
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