きえる③
身体を大切にすべきって。なんなの。
ラーメンを啜ったカカシは、昨夜イルカに言われた事を思い出していた。
言われた時には何とも思ってなかったが。
家に帰って一人になってから、イルカの言葉を思い出したら無性に苛立ちを感じた。
階級下の相手に言われたからとかじゃない。
口の悪い奴なんて腐るほどいるし、元々自分はどんな奴に言われても気にならないし聞き流すだタイプだ。
なのにあの言葉がどうしてもカカシの心にひっかかった。イルカのあの表情も。
黒い目。あの人が先生だからかもしれないが、丸で自分が生徒になった気分になった。
いや、生徒って。
自分で思った事に不快になり、箸を咥えたまま微かにカカシは眉を寄せた時、のれんをくぐった客に店主の声が響く。カカシは顔を向けた。
いつものね、と店主から声をかけられたのはイルカだった。
イルカは微笑みながら、
「はい、味噌でお願いします」
そう答えて目の前の椅子に座ろうとして、隣にいるカカシを見つけてぎょっと目を丸くする。
箸を咥えたカカシは口を開いた。
「・・・・・・どーも」
「あ、・・・・・・どうも。昨夜は」
酒が入った勢いもきっとあったのだろう。イルカの表情にはありありと気まずさが溢れていた。
ラーメンを食べる事を再開したものの、注文したものを待つイルカが気になって仕方がない。
普通にしてくれればいいものの。表情と同じくらいに気詰まりした空気をさらけ出されてはたまったもんじゃない。自分が同じように気まずさを抱えるわけでもないが、仕方ないと無言でいるイルカに顔を向けた時、イルカも同時にカカシへ顔を向けていた。
「あの」
距離がそこまでないのに、少し大きな声で言われ、仕方なく譲るように、はい、と返事をする事を選んだ。
「昨日は・・・・・・すみませんでした」
語尾を萎ませるその言葉は少しカカシを驚かせた。
ああ、この人多少は悪いとか思ってるんだ。
へえ、と内心感心気味にイルカを見つめれば、でも、とイルカは続けた。
「俺は間違った事だとは思ってません」
その表情がカカシの何かを刺激した。苛立ちに近い何かが胸の中に渦巻く。カカシは裏腹に笑っていた。
「イルカ先生ってホント真面目ですね」
カカシの言葉に、イルカの頬がかあと赤くなったのが分かった。
正直、昨夜イルカに言われた言葉は、カカシには理解しがたいものだった。
言っている意味が分かるが。今まで生きてきて、女でも男でも写輪眼目当てではない人間がどのくらいいただろうか。でもそれを利用して何が悪いのか。
自分を守るために選んだ方法は間違ってはないと今も思う。決して綺麗とは言えないない過去が浮遊する中、若い頃に裏切られた過去も一緒に浮かんだ。それは忘れていた胸の痛みを思い出させる。
カカシは箸を弄ぶように動かした。
(あー、やなこと思い出しちゃった・・・・・・)
あの頃は馬鹿だった。でも、相手がイルカのような人だったなら、あの時の結果は違っていたのだろう。そう思ったら、カカシはイルカへ顔を向けていた。
「ねえ、聞いていい?」
黒く輝くイルカの目はカカシを見つめ返し、はい、と返事が返ってくる。
「里出ちゃえば何年も帰ってこれないことだって粗で、ずっと会えない事だってあるじゃない。イルカ先生はそれでも綺麗な身体のままで待ち続けられる?」
え、とイルカは言葉を詰まらせた。
「そんな経験ないから、・・・・・・」
詰まらせた理由に、カカシは微笑む。
「例えばです」
そう促せば、そこから少し間があった。自分の質問に真面目に考えてくれているのだろう。
勿論です。
自分勝手な自己救済で。それしかこの人の答えはないと、そう思っていたのに。
「そうですね・・・・・・」
目の前に置かれた味噌ラーメンを前に、イルカは口を開いた。
「・・・・・・待ってたいと思ってますが。ずっと離れてた時に出会いがあったら無理かもしれないですね」
イルカの言葉に耳を疑った。
そこは、違うって言うんだと。ていうか、そう言えばいいのに。
呆然としたままイルカを見つめる。
「・・・・・・なんで」
ぽつりと呟くと、イルカが、え? と不思議そうに聞き返した。
「矛盾してるよね、それ」
「いや、でも、俺は職業柄色々相談受けるんですが、無理なものは無理なんだって、」
「別に生徒の恋バナなんて聞いてないでしょ?」
「ち、違いますっ、俺の考えです」
それは余計にカカシを苛立たせた。自分の期待していた答えじゃないからと、それに腹立たしくなる自分が間違っていると、分かっているのに。
セルフコントロールが出来なくなっていた。
「単純な頭」
言い放ったカカシに、イルカはむっとした顔を見せた。
「悪かったですね単純で」
「それ説得力ないって知ってる?」
「わ、・・・・・・分かってますよ。でも正直に答えて何が悪いんですか。あなたが俺に聞いてきたから。・・・・・・でも、それって・・・・・・あなたがそうだったって事ですか?」
言われてしまったと思った。かあ、と顔が熱くなる。赤面した自分に一気に動揺した。
答えない自分が、丸で肯定しているようで。
「もういいです」
否定するように答えると、イルカはラーメンに手をつけずに、カカシは箸をテーブルに置いた。ポケットからお金を出してそれもテーブルに置く。
カカシは店を出た。
期待して損した。
その言葉がカカシを支配する。カカシは苛立ちを隠しきれずに眉を寄せたまま歩き、そこで歩いていた歩みを止め苛立ちを逃すようにゆっくりと息をした。
でも。勝手に期待したのは自分だ。
何だろうか。イルカに言われただけで、自分の生き方を否定されたような気分になった、と言えばいいのか。
気にしなくてもいいのに。言い争う必要もないはずなのに。
舌打ちして足下の小石を足で転がす。そこから空を見上げた。
自分らしくない。
気分を切り替えるようにに大きく息を吸い込み。口から息を吐き出した。
(ま、・・・・・・結局あの人とは分かりあえないって事なんだろうね)
例え今自分の姿がカカシでなくとも。中身まで変えれるわけじゃない。
何故か中忍選抜試験のイルカを思い出していた。くってかかったイルカのあの顔が浮かぶ。
そうだ。昔からそうだった。
あの時もまた、聞き流してもよかったけど。それが出来ずにあんな事になった。
(・・・・・・あー、なんだろ・・・・・・むしゃくしゃする)
セルフコントロールは得意中の得意なのに。
カカシは頭を掻くと、ゆっくりと歩き出した。
NEXT→
ラーメンを啜ったカカシは、昨夜イルカに言われた事を思い出していた。
言われた時には何とも思ってなかったが。
家に帰って一人になってから、イルカの言葉を思い出したら無性に苛立ちを感じた。
階級下の相手に言われたからとかじゃない。
口の悪い奴なんて腐るほどいるし、元々自分はどんな奴に言われても気にならないし聞き流すだタイプだ。
なのにあの言葉がどうしてもカカシの心にひっかかった。イルカのあの表情も。
黒い目。あの人が先生だからかもしれないが、丸で自分が生徒になった気分になった。
いや、生徒って。
自分で思った事に不快になり、箸を咥えたまま微かにカカシは眉を寄せた時、のれんをくぐった客に店主の声が響く。カカシは顔を向けた。
いつものね、と店主から声をかけられたのはイルカだった。
イルカは微笑みながら、
「はい、味噌でお願いします」
そう答えて目の前の椅子に座ろうとして、隣にいるカカシを見つけてぎょっと目を丸くする。
箸を咥えたカカシは口を開いた。
「・・・・・・どーも」
「あ、・・・・・・どうも。昨夜は」
酒が入った勢いもきっとあったのだろう。イルカの表情にはありありと気まずさが溢れていた。
ラーメンを食べる事を再開したものの、注文したものを待つイルカが気になって仕方がない。
普通にしてくれればいいものの。表情と同じくらいに気詰まりした空気をさらけ出されてはたまったもんじゃない。自分が同じように気まずさを抱えるわけでもないが、仕方ないと無言でいるイルカに顔を向けた時、イルカも同時にカカシへ顔を向けていた。
「あの」
距離がそこまでないのに、少し大きな声で言われ、仕方なく譲るように、はい、と返事をする事を選んだ。
「昨日は・・・・・・すみませんでした」
語尾を萎ませるその言葉は少しカカシを驚かせた。
ああ、この人多少は悪いとか思ってるんだ。
へえ、と内心感心気味にイルカを見つめれば、でも、とイルカは続けた。
「俺は間違った事だとは思ってません」
その表情がカカシの何かを刺激した。苛立ちに近い何かが胸の中に渦巻く。カカシは裏腹に笑っていた。
「イルカ先生ってホント真面目ですね」
カカシの言葉に、イルカの頬がかあと赤くなったのが分かった。
正直、昨夜イルカに言われた言葉は、カカシには理解しがたいものだった。
言っている意味が分かるが。今まで生きてきて、女でも男でも写輪眼目当てではない人間がどのくらいいただろうか。でもそれを利用して何が悪いのか。
自分を守るために選んだ方法は間違ってはないと今も思う。決して綺麗とは言えないない過去が浮遊する中、若い頃に裏切られた過去も一緒に浮かんだ。それは忘れていた胸の痛みを思い出させる。
カカシは箸を弄ぶように動かした。
(あー、やなこと思い出しちゃった・・・・・・)
あの頃は馬鹿だった。でも、相手がイルカのような人だったなら、あの時の結果は違っていたのだろう。そう思ったら、カカシはイルカへ顔を向けていた。
「ねえ、聞いていい?」
黒く輝くイルカの目はカカシを見つめ返し、はい、と返事が返ってくる。
「里出ちゃえば何年も帰ってこれないことだって粗で、ずっと会えない事だってあるじゃない。イルカ先生はそれでも綺麗な身体のままで待ち続けられる?」
え、とイルカは言葉を詰まらせた。
「そんな経験ないから、・・・・・・」
詰まらせた理由に、カカシは微笑む。
「例えばです」
そう促せば、そこから少し間があった。自分の質問に真面目に考えてくれているのだろう。
勿論です。
自分勝手な自己救済で。それしかこの人の答えはないと、そう思っていたのに。
「そうですね・・・・・・」
目の前に置かれた味噌ラーメンを前に、イルカは口を開いた。
「・・・・・・待ってたいと思ってますが。ずっと離れてた時に出会いがあったら無理かもしれないですね」
イルカの言葉に耳を疑った。
そこは、違うって言うんだと。ていうか、そう言えばいいのに。
呆然としたままイルカを見つめる。
「・・・・・・なんで」
ぽつりと呟くと、イルカが、え? と不思議そうに聞き返した。
「矛盾してるよね、それ」
「いや、でも、俺は職業柄色々相談受けるんですが、無理なものは無理なんだって、」
「別に生徒の恋バナなんて聞いてないでしょ?」
「ち、違いますっ、俺の考えです」
それは余計にカカシを苛立たせた。自分の期待していた答えじゃないからと、それに腹立たしくなる自分が間違っていると、分かっているのに。
セルフコントロールが出来なくなっていた。
「単純な頭」
言い放ったカカシに、イルカはむっとした顔を見せた。
「悪かったですね単純で」
「それ説得力ないって知ってる?」
「わ、・・・・・・分かってますよ。でも正直に答えて何が悪いんですか。あなたが俺に聞いてきたから。・・・・・・でも、それって・・・・・・あなたがそうだったって事ですか?」
言われてしまったと思った。かあ、と顔が熱くなる。赤面した自分に一気に動揺した。
答えない自分が、丸で肯定しているようで。
「もういいです」
否定するように答えると、イルカはラーメンに手をつけずに、カカシは箸をテーブルに置いた。ポケットからお金を出してそれもテーブルに置く。
カカシは店を出た。
期待して損した。
その言葉がカカシを支配する。カカシは苛立ちを隠しきれずに眉を寄せたまま歩き、そこで歩いていた歩みを止め苛立ちを逃すようにゆっくりと息をした。
でも。勝手に期待したのは自分だ。
何だろうか。イルカに言われただけで、自分の生き方を否定されたような気分になった、と言えばいいのか。
気にしなくてもいいのに。言い争う必要もないはずなのに。
舌打ちして足下の小石を足で転がす。そこから空を見上げた。
自分らしくない。
気分を切り替えるようにに大きく息を吸い込み。口から息を吐き出した。
(ま、・・・・・・結局あの人とは分かりあえないって事なんだろうね)
例え今自分の姿がカカシでなくとも。中身まで変えれるわけじゃない。
何故か中忍選抜試験のイルカを思い出していた。くってかかったイルカのあの顔が浮かぶ。
そうだ。昔からそうだった。
あの時もまた、聞き流してもよかったけど。それが出来ずにあんな事になった。
(・・・・・・あー、なんだろ・・・・・・むしゃくしゃする)
セルフコントロールは得意中の得意なのに。
カカシは頭を掻くと、ゆっくりと歩き出した。
NEXT→
スポンサードリンク