きえる⑦
「ご苦労だったね」
淡々と報告を済ませた自分に向けられた労いの言葉に、カカシは軽く頷いた。
「まあ、お前じゃなきゃ出来ない内容だったからな」
報告書に目を通しながら言われる言葉は最もだった。Sランクと言えど失敗は許されなく思った以上に過酷で。
女体化した身体自体に不満があったが、自分が受けて良かったと思った。
綱手の判断は間違っていない。
カカシは綱手の手元をぼんやり眺めていると、その報告書は机に置かれた。
視線を向けられる。
「・・・・・・どうかしたのか」
「は?」
自分を観察するような綱手の眼差しは、カカシのいつもとは違う何かを気にしたのか、じっとカカシを見つめていた。
綱手の言うその意味が薄々自分の中でも分かったが、それをカカシは認めたくなかった。
心の奥にぐっと押し込め、笑った。
「いや、別に。何もありませんよ」
「本当か?問題があったなら、」
「大丈夫です」
遮るようにきっぱりと答えると、綱手は納得したのか、或いは諦めたのか。軽く頷き背もたれに身体を預けた。
「分かった。しばらくは待機しておいてくれるか」
「了解」
短い返答と共にカカシは執務室を後にした。
問題なんて何もない。
任務も無事終わり、全ては隠密に事を進める事が出来た。
そして元の姿に戻れたのだから、万事順調だ。
そう。順調だ。
カカシは自分に言い聞かせるように心で繰り返し呟く。
久しぶりに戻った自分の本当の姿は実に晴れ晴れしい。外に出たカカシはゆっくりと息を吐き出した。肩に手を当て首を回しながら顔を上げる。
目に映る空は薄い青色で、雲が遠くに感じて思わず視線を止めた。
女でいる間に季節もまた夏から秋へ変わってきていたのか。
変わったのは季節だけなはずなのに。他は何も変わっていないのに。虚無感に包まれ、カカシは眉を寄せ、秋らしい風を身体で感じながらゆっくり流れる雲を見つめた。
受付にイルカを見つけた瞬間、カカシの心臓がどきりと鳴った。あの雨の日から遠くでイルカを見かけてはいたものの、顔を合わせることはなかった。
でも今日は受付所にいて、自分もいる。ただそれだけの事なのに。今までもこんな場面はよくあったはずなのに。ただ、戸惑いを覚えた。
受付には誰もおらず、イルカは束ねた書類を確認するように目を通している。
カカシは覆面の下で短く息を吐いた。そこからイルカに向かって歩き出す。
何て声をかけようか、考えている間にイルカが顔を上げ、そこからカカシに微笑んだ。何事もなかったかのように。
そこでカカシは内心はっとする。いや、何事もって。何もなかったのだからとカカシは自分の思った事に嘲笑う。
「お疲れ様」
「はい、お疲れさまです」
イルカを前にしたら、鼓動が駆け足になっていた。
「あの、」
「え?あ、はい」
イルカに手を差し出され、一瞬の間を置いてカカシは持っていた報告書を手渡した。それをしっかりと受け取り、少々お待ちくださいと声をかけたイルカは書類に目を通し始める。
俯いたイルカをじっと見つめた。
あの時、急に姿を消した事にイルカはどう思っているのだろうか。関係を迫ろうとしたあの甘い空気を思い出す。そう、自分は誘った。
その誘いにイルカは流されそうになってーー。
動いていたペンが止まり、不意に顔を上げたイルカにカカシは微かに目を開いていた。
「報告書、問題ありません。お疲れ様でした」
黒い目に自分が映る。当たり前だが、いつもの自分。それは姿は紛い物ではあっても、その時には縮まっていた距離が、この現実に一気に遠くなったような気がした。
いや、遠い。
その現実を受け取るかのようにカカシは曖昧に頷き、黙って背を向けようとした時、不意に目に入ったのは見覚えのある女だった。手に書類を抱え、受付所の奥にある、アカデミーと繋がっている開け放たれたままの扉の奥から、その女は歩いてきている。
任務以外であれば、よっぽどの事がない限り記憶に留める事はないのに。その女だけは、何故か覚えていた。
雨の中、イルカの玄関の扉の前で佇んでいたあの顔。ろくに見もしていなかったが、顔は濡れていた。それは雨なのか涙なのか。どちらでもいいが、その女の顔をを見たイルカは。あの後、どうしたのだろうか。
そう思っただけでよく分からない憤りが胸にじわりと染み出した。
視界に入っていた女は、そのまま真っ直ぐイルカに向かって歩いているのが分かる。
関係ない。そう、関係ない。
あの女がイルカと何を話そうが、どうでもいい。
そう警告するように自分に言い聞かせても、イルカから背を向ける事が出来なかった。
「あの、はたけ上忍?」
イルカの声に反応するかのように視線を戻した。イルカは、どうしたのかと心配するような眼差しをカカシに向けていた。その間にもまたあの女が距離を縮める。
カカシはイルカに向き直ると、イルカを見つめ、にっこり微笑んだ。
「ね、イルカ先生。今夜時間ある?」
ほとんど勢いだった。今までイルカに向けた事のない誘いをしていた。
その黒い目が驚きに丸くなった。上忍で、しかも自分のような忍びから声をかけられれば普通誰でもそうなる。
「俺、ですか」
そう口にしたイルカの机の上に、手を置き少し距離を縮めた。
「うん。先生に相談乗って欲しい事があって。駄目?」
イルカとの共通点は一つしかない。それはイルカも分かっていた。
そう言われれば断れない事も。
「それでしたら」
イルカが戸惑いながらも頷く。
少し後ろで立ち止まったままの女を視界に入れながら、カカシは満足そうに微笑んだ。
「お前何企んでんの?」
アスマの言葉に、カカシは顔を上げた。
短くなった煙草を咥えたまま、アスマが怪訝そうにこっちを見ている。
「何が」
「イルカだよ」
アスマが煙草を灰皿にもみ消しながら低い声で呟いた。
あの日イルカを誘ってから、月に何度もイルカを誘っていた。実際話してみると楽しくて、それにイルカもその誘いに乗ってくる。見せてくれなかった笑顔も見せるようになった。
それが、嬉しかった。
イルカも、自分が上忍だからと言う事があったのだろうが、最初戸惑いはしたものの、今は快く快諾してくれる。勿論、仕事や他の用事で無理なと時は無理と断ってくれる。それも素直なイルカの対応が快かった。
アスマの目をじっと見つめ、そこからカカシは読みかけていた小冊子に目を落とす。
「何で、別にいいでしょ」
覆面の下で口の端を上げながら答えた。
アスマがまだ何か言いたそうにしているのが分かったが、カカシは無視した。
自分が女性に変化したあの一件以来、言動が一転しているのは目に見えているのだろう。言いたいことはよく分かるが。
ただ、アスマの言っているような何かを企んでいる事は何もなかった。イルカを誘って飲んではいるものの、実際自分がどうしたいのか分からなかった。ただ、今の現状に満足している。そして、イルカといると安心している自分がいた。
アスマに言われなくたって、自分でも何をやってるんだろうかって思う。
胡乱な眼差しを感じながら、カカシは密かに笑いを零しながらふと窓に目を向けた。
灰色の雲が空に隙間なく埋め尽くされている。
丸で自分の心の中にある消えない靄みたいに。
「雨」
「あ?」
カカシがぽつりと零した言葉にアスマが新しい煙草に火をつけながら、苛立ちが籠もった声を出した。
「雨、降りそうだね」
今度はアスマは何も答えない。
カカシはただじっとその空を見つめた。
予想通り昼過ぎから雨が降り出していた。そのタイミングで任務に呼ばれたアスマは、多少愚痴を零しながらながら里を出た。
自分は一人、待機所から外へ出た。
雨が降って憂鬱な気分になるのは、勝手に頭の中に思い浮かべてしまうから。あのイルカと部屋にいた時の事を。
この揺れ動く感情は一体何なのだろうか。
たった数日の事なのに、ひどく振り回されているような感覚を覚える。それなのに、消したい記憶のあの時の自分は。イルカを呼んだあの時は、自分が一番素直だった。
ああ、違う。
カカシは頭を降った。
女体化したのは綱手の特殊な力であって、きっとそれは身体だけではなく心も多少ありとも影響があっただけの事だ。
きっとそう。
そんな事に未だ引きずられているのだとしたら、まだまだ自分が未熟って事。それだけの事。
「カカシさん?」
その声に歩いていた足を止め振り返った。
イルカが、傘をさして立っていた。
「・・・・・・なに?」
さっきまで考えていた事が悟られる訳でもないのに、動揺したカカシからはそんな言葉が出ていた。
突っぱねるような口調のカカシに少し目を丸くした。
「急に声をかけてすみません。でも、雨の中傘もささずに歩いていたので」
言われて気がついた。
そんな事を全く気にしていたなかった。カカシはいつもの癖で頭を掻こうとして髪に触れれば、結構濡れている。
「ああ、・・・・・・いや。ホント、そうだね」
笑うと、イルカもそこでようやく微笑んだ。
そこからイルカが傘をカカシに向けるように距離を縮めた。
「俺の家ここから直ぐなんです。よかったら上がっていきませんか」
え、と少し驚く顔をするカカシに、イルカは続ける。
「ほら、だって何回か食事を奢っていただいていますし、お礼ってほどでもないですが、お茶とお茶菓子ぐらいはありますんで」
イルカらしい最もな言葉だった。
迷いはカカシの中にあった。
でも、もう考えてはいけない。あれは自分ではなかった。
今ははたけカカシだ。
カカシはイルカへ目を細め微笑む。
「うん、じゃあお言葉に甘えよっかな」
イルカが差し出した傘に半分入るようにしてイルカと共に歩き出した。
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淡々と報告を済ませた自分に向けられた労いの言葉に、カカシは軽く頷いた。
「まあ、お前じゃなきゃ出来ない内容だったからな」
報告書に目を通しながら言われる言葉は最もだった。Sランクと言えど失敗は許されなく思った以上に過酷で。
女体化した身体自体に不満があったが、自分が受けて良かったと思った。
綱手の判断は間違っていない。
カカシは綱手の手元をぼんやり眺めていると、その報告書は机に置かれた。
視線を向けられる。
「・・・・・・どうかしたのか」
「は?」
自分を観察するような綱手の眼差しは、カカシのいつもとは違う何かを気にしたのか、じっとカカシを見つめていた。
綱手の言うその意味が薄々自分の中でも分かったが、それをカカシは認めたくなかった。
心の奥にぐっと押し込め、笑った。
「いや、別に。何もありませんよ」
「本当か?問題があったなら、」
「大丈夫です」
遮るようにきっぱりと答えると、綱手は納得したのか、或いは諦めたのか。軽く頷き背もたれに身体を預けた。
「分かった。しばらくは待機しておいてくれるか」
「了解」
短い返答と共にカカシは執務室を後にした。
問題なんて何もない。
任務も無事終わり、全ては隠密に事を進める事が出来た。
そして元の姿に戻れたのだから、万事順調だ。
そう。順調だ。
カカシは自分に言い聞かせるように心で繰り返し呟く。
久しぶりに戻った自分の本当の姿は実に晴れ晴れしい。外に出たカカシはゆっくりと息を吐き出した。肩に手を当て首を回しながら顔を上げる。
目に映る空は薄い青色で、雲が遠くに感じて思わず視線を止めた。
女でいる間に季節もまた夏から秋へ変わってきていたのか。
変わったのは季節だけなはずなのに。他は何も変わっていないのに。虚無感に包まれ、カカシは眉を寄せ、秋らしい風を身体で感じながらゆっくり流れる雲を見つめた。
受付にイルカを見つけた瞬間、カカシの心臓がどきりと鳴った。あの雨の日から遠くでイルカを見かけてはいたものの、顔を合わせることはなかった。
でも今日は受付所にいて、自分もいる。ただそれだけの事なのに。今までもこんな場面はよくあったはずなのに。ただ、戸惑いを覚えた。
受付には誰もおらず、イルカは束ねた書類を確認するように目を通している。
カカシは覆面の下で短く息を吐いた。そこからイルカに向かって歩き出す。
何て声をかけようか、考えている間にイルカが顔を上げ、そこからカカシに微笑んだ。何事もなかったかのように。
そこでカカシは内心はっとする。いや、何事もって。何もなかったのだからとカカシは自分の思った事に嘲笑う。
「お疲れ様」
「はい、お疲れさまです」
イルカを前にしたら、鼓動が駆け足になっていた。
「あの、」
「え?あ、はい」
イルカに手を差し出され、一瞬の間を置いてカカシは持っていた報告書を手渡した。それをしっかりと受け取り、少々お待ちくださいと声をかけたイルカは書類に目を通し始める。
俯いたイルカをじっと見つめた。
あの時、急に姿を消した事にイルカはどう思っているのだろうか。関係を迫ろうとしたあの甘い空気を思い出す。そう、自分は誘った。
その誘いにイルカは流されそうになってーー。
動いていたペンが止まり、不意に顔を上げたイルカにカカシは微かに目を開いていた。
「報告書、問題ありません。お疲れ様でした」
黒い目に自分が映る。当たり前だが、いつもの自分。それは姿は紛い物ではあっても、その時には縮まっていた距離が、この現実に一気に遠くなったような気がした。
いや、遠い。
その現実を受け取るかのようにカカシは曖昧に頷き、黙って背を向けようとした時、不意に目に入ったのは見覚えのある女だった。手に書類を抱え、受付所の奥にある、アカデミーと繋がっている開け放たれたままの扉の奥から、その女は歩いてきている。
任務以外であれば、よっぽどの事がない限り記憶に留める事はないのに。その女だけは、何故か覚えていた。
雨の中、イルカの玄関の扉の前で佇んでいたあの顔。ろくに見もしていなかったが、顔は濡れていた。それは雨なのか涙なのか。どちらでもいいが、その女の顔をを見たイルカは。あの後、どうしたのだろうか。
そう思っただけでよく分からない憤りが胸にじわりと染み出した。
視界に入っていた女は、そのまま真っ直ぐイルカに向かって歩いているのが分かる。
関係ない。そう、関係ない。
あの女がイルカと何を話そうが、どうでもいい。
そう警告するように自分に言い聞かせても、イルカから背を向ける事が出来なかった。
「あの、はたけ上忍?」
イルカの声に反応するかのように視線を戻した。イルカは、どうしたのかと心配するような眼差しをカカシに向けていた。その間にもまたあの女が距離を縮める。
カカシはイルカに向き直ると、イルカを見つめ、にっこり微笑んだ。
「ね、イルカ先生。今夜時間ある?」
ほとんど勢いだった。今までイルカに向けた事のない誘いをしていた。
その黒い目が驚きに丸くなった。上忍で、しかも自分のような忍びから声をかけられれば普通誰でもそうなる。
「俺、ですか」
そう口にしたイルカの机の上に、手を置き少し距離を縮めた。
「うん。先生に相談乗って欲しい事があって。駄目?」
イルカとの共通点は一つしかない。それはイルカも分かっていた。
そう言われれば断れない事も。
「それでしたら」
イルカが戸惑いながらも頷く。
少し後ろで立ち止まったままの女を視界に入れながら、カカシは満足そうに微笑んだ。
「お前何企んでんの?」
アスマの言葉に、カカシは顔を上げた。
短くなった煙草を咥えたまま、アスマが怪訝そうにこっちを見ている。
「何が」
「イルカだよ」
アスマが煙草を灰皿にもみ消しながら低い声で呟いた。
あの日イルカを誘ってから、月に何度もイルカを誘っていた。実際話してみると楽しくて、それにイルカもその誘いに乗ってくる。見せてくれなかった笑顔も見せるようになった。
それが、嬉しかった。
イルカも、自分が上忍だからと言う事があったのだろうが、最初戸惑いはしたものの、今は快く快諾してくれる。勿論、仕事や他の用事で無理なと時は無理と断ってくれる。それも素直なイルカの対応が快かった。
アスマの目をじっと見つめ、そこからカカシは読みかけていた小冊子に目を落とす。
「何で、別にいいでしょ」
覆面の下で口の端を上げながら答えた。
アスマがまだ何か言いたそうにしているのが分かったが、カカシは無視した。
自分が女性に変化したあの一件以来、言動が一転しているのは目に見えているのだろう。言いたいことはよく分かるが。
ただ、アスマの言っているような何かを企んでいる事は何もなかった。イルカを誘って飲んではいるものの、実際自分がどうしたいのか分からなかった。ただ、今の現状に満足している。そして、イルカといると安心している自分がいた。
アスマに言われなくたって、自分でも何をやってるんだろうかって思う。
胡乱な眼差しを感じながら、カカシは密かに笑いを零しながらふと窓に目を向けた。
灰色の雲が空に隙間なく埋め尽くされている。
丸で自分の心の中にある消えない靄みたいに。
「雨」
「あ?」
カカシがぽつりと零した言葉にアスマが新しい煙草に火をつけながら、苛立ちが籠もった声を出した。
「雨、降りそうだね」
今度はアスマは何も答えない。
カカシはただじっとその空を見つめた。
予想通り昼過ぎから雨が降り出していた。そのタイミングで任務に呼ばれたアスマは、多少愚痴を零しながらながら里を出た。
自分は一人、待機所から外へ出た。
雨が降って憂鬱な気分になるのは、勝手に頭の中に思い浮かべてしまうから。あのイルカと部屋にいた時の事を。
この揺れ動く感情は一体何なのだろうか。
たった数日の事なのに、ひどく振り回されているような感覚を覚える。それなのに、消したい記憶のあの時の自分は。イルカを呼んだあの時は、自分が一番素直だった。
ああ、違う。
カカシは頭を降った。
女体化したのは綱手の特殊な力であって、きっとそれは身体だけではなく心も多少ありとも影響があっただけの事だ。
きっとそう。
そんな事に未だ引きずられているのだとしたら、まだまだ自分が未熟って事。それだけの事。
「カカシさん?」
その声に歩いていた足を止め振り返った。
イルカが、傘をさして立っていた。
「・・・・・・なに?」
さっきまで考えていた事が悟られる訳でもないのに、動揺したカカシからはそんな言葉が出ていた。
突っぱねるような口調のカカシに少し目を丸くした。
「急に声をかけてすみません。でも、雨の中傘もささずに歩いていたので」
言われて気がついた。
そんな事を全く気にしていたなかった。カカシはいつもの癖で頭を掻こうとして髪に触れれば、結構濡れている。
「ああ、・・・・・・いや。ホント、そうだね」
笑うと、イルカもそこでようやく微笑んだ。
そこからイルカが傘をカカシに向けるように距離を縮めた。
「俺の家ここから直ぐなんです。よかったら上がっていきませんか」
え、と少し驚く顔をするカカシに、イルカは続ける。
「ほら、だって何回か食事を奢っていただいていますし、お礼ってほどでもないですが、お茶とお茶菓子ぐらいはありますんで」
イルカらしい最もな言葉だった。
迷いはカカシの中にあった。
でも、もう考えてはいけない。あれは自分ではなかった。
今ははたけカカシだ。
カカシはイルカへ目を細め微笑む。
「うん、じゃあお言葉に甘えよっかな」
イルカが差し出した傘に半分入るようにしてイルカと共に歩き出した。
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