恋と笑って②
「説明、欲しいんですか?」
どういう意味ですか、と真顔で訊くと、カカシに困った顔をされ言われて。思わずはあ?と聞き返していた。
「だって...そりゃ訊きますよ。それとも冗談ですか?」
「いや、残念ながら」
首を振られ、思わず口を噤んだ。冗談を言う人に見えないし、そんな間柄でもないし。でも内容はかなり強烈だ。
忍びともなれば男であろうとその役は存在する訳で。イルカだってそれは知っていた。だが、この目の前にいるカカシからまさかそんな事を言われるなんて。
戦場なら兎も角、ここは里内で女だって、花街だって彼には沢山の選択の余地がある。なのに、俺?
理由を訊かずにいられなかった。そっちの趣味があるとも思えなかった。
「俺から見れば、たまたま今日会った俺に、たまたま思いついて言っているように思えるんですが」
そこまで言うと、カカシは晒された唇を尖らせ難しい顔をした。
「んー...、たまたま。そう言われればそうなっちゃうけど、そうじゃないって言うか。うん、そう。違うよ?イルカ先生だからお願いしたいの」
駄目?
「.........」
「あ、じゃあ説明、します」
黙ったイルカを見つめると、カカシはあぐらの上に指を組んだ。
忍びとして、男として魅力があると思う。そんなカカシからどんな説明が出るのか。イルカはジッとカカシを見た。
「葵姫って知ってますよね」
「ええ」
その名前が出るなんて思わなかった。内心驚く。
葵姫は木の葉に繋がりの深い、大名の娘。時期関白になると言われている有力な大名だ。他の兄弟とも歳が離れ、女一人と言う事もあり、大事にされている。 年頃と言う事もありどんな相手と縁組をするのか、色々な憶測が飛び交っていると上層部からの噂で耳にしたばかりだ。
「その葵姫が...何か?」
カカシはうん、と呟いて、視線を床に落とした。
「あの姫に言われちゃったのよ」
そこで言葉を切って、嘆息する。
「わらわはそなたの子が欲しい、ってね」
「え、それは」
目を剥いたイルカに薄く笑った。
「ま、要は俺と契りを結べと、逆プロポーズですね」
「それはまた...」
凄い。
大名の娘と縁談はよくある話だ。忍びの、トップクラスとなればその話はいくつも挙がる。だが、相手はあの大名となると。カカシと言えど、逆玉もいいとこだ。しかも母親似の美貌は有名だ。 その姫から想われるなんて。カカシの実力と容姿からしたら納得するが、凄い事だ。
「それで、カカシさんは」
「断った」
イルカは頷いた。
「そう、ですか」
「大名のお姫様を嫁になんて、柄じゃないですしね」
それは同調し難い言葉にイルカは噤んだ。
「そしたらさ、今度は諦めきれないから、一夜限りでいいから契りを交わしたいって」
カカシはそこで深くため息を吐き出した。
「しかもそれ五代目に話が行っちゃってさ。呼び出されて....逃げ出したって訳です」
成る程。ようやく見えた。カカシの言動と状況に理解が出来てきた。あの大名は木の葉にとっては重要な存在だ。無碍に出来ない。それは相手も知っての事なのだろう。任務にして依頼をするとはやる事が凄い。お世辞でも品があるとは言えないが、姫となると常識がまた変わる。しかも五代目はそこは手堅く先を見据えてくるだろう。里の為に、任務として。
「ヤダって言ったら、減るもんじゃないから行ってこい。なんて言うんですよ」
思い出したのか、眉根を寄せて、うんざりしたようにカカシは呟いた。
綱手なら言いそうだ。想像出来る。カカシの表情を見て、同情せずにはいられない。気持ちがない相手となると、自分だったら正直悩む。
しかし。任務で身体を重ねる事は昔より遙かに減ってはいるがなくはない。任務としてでも受け入れたくないなんて。思ってたよりカカシは真面目で身持ちが固い。それはイルカを驚かせた。
どんな想像もしていなかったが、明らかにくノ一からは人気が高かった。自分のようなしがない中忍ならともかく、カカシなら女性との経験も豊富だろうに。
公私混同せず任務を遂行なんて、出来るはずじゃないか。
不思議そうにカカシを見ていると、視線を上げたカカシと目が合った。そこで思い出す。今の話から、なんで俺とセックスしたいなんて言い出したんだ。
「先生、俺ね経験ないの」
持ったばかりの湯飲みを落としそうになったが、もう片方の手で寸前で支えた。両手で湯飲みを持って。カカシへ目を向けた。また青い目と視線が交わる。
「.......」
嘘だ。
「嘘だって思ってるでしょ」
「.......いえ」
小さく否定すればカカシはジッと見つめ返してきた。
「それが本当で。仕事一本で今まで生きてきたらさ。だからさっきの話も任務は任務で受けれるけど、経験ないから自信もなくて。二の足踏むじゃない。だから、先生相手してくれる?」
「だ、...いや、カカシさんだったら相手がいくらでもいると思いますが」
「なんかさ、名前が先行してイメージついちゃってるみたいで、今更そんな事言いにくいって言うか」
俺には?と言いたくなるが、カカシの情けない顔を見せられると言えなくなっていた。カカシに頼られるのは正直嬉しい。でも内容が内容だ。
「こんな事言えるのイルカ先生ぐらいで」
そう言われて。カカシの整った顔を見る。
ただ、イルカの中でどうしても踏ん切りが付かない。それ以前に確認したい事があった。
「カカシさん。それは上忍としての命令、ですか?」
上忍の命令ならば受けざるを得ない。
「え?...命令....うーん」
視線をテーブルに移して、間を置いた後、やがてイルカへ視線を戻した。
「どっちでも、イルカ先生がそう捉えるなら」
曖昧だとは思うが。カカシを助けると思えば。命令なれば。元より里の為にも。イルカはキュッと唇を結んで胡座をかくカカシを見た。
「分かりました。俺で良ければ」
「そっか、良かった」
ホッとした表情を見せて、カカシは微笑んだ。
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どういう意味ですか、と真顔で訊くと、カカシに困った顔をされ言われて。思わずはあ?と聞き返していた。
「だって...そりゃ訊きますよ。それとも冗談ですか?」
「いや、残念ながら」
首を振られ、思わず口を噤んだ。冗談を言う人に見えないし、そんな間柄でもないし。でも内容はかなり強烈だ。
忍びともなれば男であろうとその役は存在する訳で。イルカだってそれは知っていた。だが、この目の前にいるカカシからまさかそんな事を言われるなんて。
戦場なら兎も角、ここは里内で女だって、花街だって彼には沢山の選択の余地がある。なのに、俺?
理由を訊かずにいられなかった。そっちの趣味があるとも思えなかった。
「俺から見れば、たまたま今日会った俺に、たまたま思いついて言っているように思えるんですが」
そこまで言うと、カカシは晒された唇を尖らせ難しい顔をした。
「んー...、たまたま。そう言われればそうなっちゃうけど、そうじゃないって言うか。うん、そう。違うよ?イルカ先生だからお願いしたいの」
駄目?
「.........」
「あ、じゃあ説明、します」
黙ったイルカを見つめると、カカシはあぐらの上に指を組んだ。
忍びとして、男として魅力があると思う。そんなカカシからどんな説明が出るのか。イルカはジッとカカシを見た。
「葵姫って知ってますよね」
「ええ」
その名前が出るなんて思わなかった。内心驚く。
葵姫は木の葉に繋がりの深い、大名の娘。時期関白になると言われている有力な大名だ。他の兄弟とも歳が離れ、女一人と言う事もあり、大事にされている。 年頃と言う事もありどんな相手と縁組をするのか、色々な憶測が飛び交っていると上層部からの噂で耳にしたばかりだ。
「その葵姫が...何か?」
カカシはうん、と呟いて、視線を床に落とした。
「あの姫に言われちゃったのよ」
そこで言葉を切って、嘆息する。
「わらわはそなたの子が欲しい、ってね」
「え、それは」
目を剥いたイルカに薄く笑った。
「ま、要は俺と契りを結べと、逆プロポーズですね」
「それはまた...」
凄い。
大名の娘と縁談はよくある話だ。忍びの、トップクラスとなればその話はいくつも挙がる。だが、相手はあの大名となると。カカシと言えど、逆玉もいいとこだ。しかも母親似の美貌は有名だ。 その姫から想われるなんて。カカシの実力と容姿からしたら納得するが、凄い事だ。
「それで、カカシさんは」
「断った」
イルカは頷いた。
「そう、ですか」
「大名のお姫様を嫁になんて、柄じゃないですしね」
それは同調し難い言葉にイルカは噤んだ。
「そしたらさ、今度は諦めきれないから、一夜限りでいいから契りを交わしたいって」
カカシはそこで深くため息を吐き出した。
「しかもそれ五代目に話が行っちゃってさ。呼び出されて....逃げ出したって訳です」
成る程。ようやく見えた。カカシの言動と状況に理解が出来てきた。あの大名は木の葉にとっては重要な存在だ。無碍に出来ない。それは相手も知っての事なのだろう。任務にして依頼をするとはやる事が凄い。お世辞でも品があるとは言えないが、姫となると常識がまた変わる。しかも五代目はそこは手堅く先を見据えてくるだろう。里の為に、任務として。
「ヤダって言ったら、減るもんじゃないから行ってこい。なんて言うんですよ」
思い出したのか、眉根を寄せて、うんざりしたようにカカシは呟いた。
綱手なら言いそうだ。想像出来る。カカシの表情を見て、同情せずにはいられない。気持ちがない相手となると、自分だったら正直悩む。
しかし。任務で身体を重ねる事は昔より遙かに減ってはいるがなくはない。任務としてでも受け入れたくないなんて。思ってたよりカカシは真面目で身持ちが固い。それはイルカを驚かせた。
どんな想像もしていなかったが、明らかにくノ一からは人気が高かった。自分のようなしがない中忍ならともかく、カカシなら女性との経験も豊富だろうに。
公私混同せず任務を遂行なんて、出来るはずじゃないか。
不思議そうにカカシを見ていると、視線を上げたカカシと目が合った。そこで思い出す。今の話から、なんで俺とセックスしたいなんて言い出したんだ。
「先生、俺ね経験ないの」
持ったばかりの湯飲みを落としそうになったが、もう片方の手で寸前で支えた。両手で湯飲みを持って。カカシへ目を向けた。また青い目と視線が交わる。
「.......」
嘘だ。
「嘘だって思ってるでしょ」
「.......いえ」
小さく否定すればカカシはジッと見つめ返してきた。
「それが本当で。仕事一本で今まで生きてきたらさ。だからさっきの話も任務は任務で受けれるけど、経験ないから自信もなくて。二の足踏むじゃない。だから、先生相手してくれる?」
「だ、...いや、カカシさんだったら相手がいくらでもいると思いますが」
「なんかさ、名前が先行してイメージついちゃってるみたいで、今更そんな事言いにくいって言うか」
俺には?と言いたくなるが、カカシの情けない顔を見せられると言えなくなっていた。カカシに頼られるのは正直嬉しい。でも内容が内容だ。
「こんな事言えるのイルカ先生ぐらいで」
そう言われて。カカシの整った顔を見る。
ただ、イルカの中でどうしても踏ん切りが付かない。それ以前に確認したい事があった。
「カカシさん。それは上忍としての命令、ですか?」
上忍の命令ならば受けざるを得ない。
「え?...命令....うーん」
視線をテーブルに移して、間を置いた後、やがてイルカへ視線を戻した。
「どっちでも、イルカ先生がそう捉えるなら」
曖昧だとは思うが。カカシを助けると思えば。命令なれば。元より里の為にも。イルカはキュッと唇を結んで胡座をかくカカシを見た。
「分かりました。俺で良ければ」
「そっか、良かった」
ホッとした表情を見せて、カカシは微笑んだ。
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