恋と笑って⑥

「二ヶ月」
「ーーーえ?」
聞き返すと、カカシはカレーを口に放り込み暫く咀嚼してから口を開いた。
「葵姫がね、暫く留守にするみたいで。例の任務は二ヶ月くらい後になりました」
そこまで言って、カカシは皿に落としていた視線をイルカに向けた。それをどう受け止め理解したらいいのか。回らない頭で考えていると、カカシがまた口を開いた。
「大名、ーー父親について他の里を回るみたいです。護衛として木の葉にも勿論任務がおりてきてますがね」
「カカシさんは?」
そんな言葉が自分の口から咄嗟に出ていた。カカシはその言葉を訊いて、少し目を開いた後、薄っすら細め微笑んだ。
「いーえ、俺は外れました」
「ぁ、...そう、...そうですか...」
その微笑みが居たたまれなくなり、ぎこちなく目線をずらした。
何訊いてんだ俺は。
恥ずかしさに内心自分を罵る。
大体、カカシに誘われてまたこうして行為に至って、一緒に飯食ってるのってーーーどうなんだ?俺。
何回目かになる誘いに、断ってもいいのかもしれなのに。カカシだったら話の通じない相手ではないのだから、断ってもいいのかもしれない。
でも、気がつけば頷いている自分がいた。頷いて、抱かれて。そう、気がつけばカカシの上で腰を振ってる。先ほどまでの情事が一気に蘇り、顔に熱を持った。
「なに?どうしたの?」
「あ、いや!別に!」
「でも顔が真っ赤」
正直耳まで熱い。って事は耳まで真っ赤なんだろう。カカシの指摘にさらに身体も熱を持った。
カカシに分からないよう、いやきっと彼には、分かるのだろうが。イルカはゆっくり息を吐き出し少した。深呼吸して再びカカシを見ると、やはりこっちをジッと見ていた。只でさえこの端正な顔立ちと青い目で見つめられると恥ずかしいのに。
イルカは勢いよくスプーンでカレーを掬って口に入れた。このカレーも美味い。肉もたぶんすっげいいやつ。牛だし。
口をもごもごさせながら思考を別の方向に持って行きながらカカシの作ったカレーを堪能した。
カカシもまたスプーンを動かし食事を再開した。
不思議だ。
あんなにさっきまで、繋がっていたのに。肉体が絡み合ったのに。今あるこの光景や空気は。まるで何も無かったかのようだ。良い香りを漂わせているカレーも。2人で向き合って食べる食事も。和やかな景色なのに。ーー何も無いって。

泣きたい。

ふと頭に浮かんだ。それに自分でも驚いて。食べる速さを進める。
からっぽだ。
胃は満たされていくのに。
イルカはカカシに見えないよう小さく笑った。



二ヶ月。あの任務が二ヶ月先と言うのであれば。その間、カカシはこの関係を続けたいと、言うことなのだろうか。
正直訊く事が出来なかった。この関係と行為をはっきりと口にしてはいけないような気がしていた。
だって、カカシは何も言わない。
ただ、自分を誘い、抱く。
最初に女に変化した時とは違っていた。自分を荒々しく、野性的に抱く。面と向かって話してる時は物腰柔らかでにこにこしていて。でも行為に及ぶと噛みつかれるような荒々しさがあった。それに溺れているのは事実で。
上忍命令として。彼の任務の為として。
それだけのはずなのに、のめり込んでいる。カカシに名前を呼ばれると興奮する。カカシの快楽に浮かれた顔を見ると気持ちが昂ぶる。抱かれている間だけはセックスに没頭して、ただカカシの名前を呼んで。熱を感じたい。
自分でも驚く。こんな一面があったなんて。淫乱て言われても否定できない。どうかしてる。
カカシも覚えた性行為に溺れているのだろうか。
だったら、もう自分でなくともいいのに。
それなのに、他の女とカカシがセックスするのかと考えただけで不快になった。
こんな感じで女が惚れた男に溺れるのはよく訊く話だが、まさか自分が、男に。しかもあのカカシに溺れるなんて。とんだ好きものだ。
だって、カカシを見かけただけで、身体の芯が熱くなるなんて。
さっきも報告所にカカシが現れた。報告書を受け取るやりとりだけで、目の前にあるその口布を下げて唇を奪いたくなった。口づけしてカカシの唾液やその熱さを感じたくて仕方が無くなる。それに耐えるように必死で表情を固めて冷静さを保つのに精一杯だった。
(なんだろ)
自分でも分からない。イルカは休憩したいと、隣の同僚に声をかけ廊下を歩きながら、掌で口を隠す。深く息を吐き出した。微かにその息さえ震えている。
(禁断症状かっての)
自分を内心あざ笑い、苦笑いを浮かべた。
「先生」
トイレに向かおうとしたその手前に、カカシが立っていた。目を丸くしてカカシがいる事実に驚く。
「カカシさん...」
今、ここで会うのはまずい。
が、距離を縮められ手を引かれカカシと触れ合うくらいの距離に驚き息を詰めた。
「先生...」
また自分を呼ぶカカシの声の熱っぽさに思わず顔を上げる。
「どこかで、させて」
目眩がした。
「でも、まだ俺仕事が」
分かりきっている筈じゃないかと、言い淀むイルカにまた熱い息を吹きかけるように、口布を下げたカカシが頸に唇を押しつけた。
「直ぐ済むから」
嘘だろ?とまだ頭の隅にいる冷静な自分が考える。
今ここでは、まずいだろう。お互いに仕事中で。昼間っから。それなのに、自分の頭の中では普段人が出入りしない場所を探し出していた。
「資料室で」
自分の口からそう、出ていた。
もう滅茶苦茶だ。支離滅裂だ。
カカシのその露わになっている青い右目に見えるのは、欲火が灯った色だけだ。それ以外彼の心は何も読めない。
それは自分を追いつめる。彼の心には何があるのだろうか。自分はどう映っているのだろう。
情欲の吐け口になっている中忍の男を。ナルトの繋がりで時々顔を合わせていたアカデミーの教員でしかない自分を。都合良くカカシを受け入れる、この俺を。
後ろから激しく揺すり上げられる。一番奥までいれられ、突き上げられ、イルカは思わず大きな声を上げた。
「あぁっ...っ!」
抑えようと思っていてもどうしようもなく口元がだらしなく開き、声が漏れる。きっとカカシからは全部見えている。カカシの欲望を受け入れている自分の姿が。頬が燃えるように熱くなる。
自分の腰をがっしりと掴む手甲をつけたままのカカシの手に、力が入った。
内側が擦れる卑猥な音とカカシの熱っぽい息。自然ににじみ出た涙。カカシの突き上げに身体が揺すられ、それはイルカの目から落ちた。スローモーションを見ているかのように、それは資料室のむき出しのコンクリの床に落ち、黒い跡を残す。
そこからぽたぽたと涙がこぼれ落ちた。自分の目から落ちているのに、自分のではないような。
すごく変な光景に、見えた。
「あっ....んっ...ぁっ」
部屋に響く抑えられない自分の声に耳を塞ぎたくなるのに、どうしても抑えられない。
手がイルカの口を軽く覆った。
「先生....声...」
挿入を深くされながら耳ともで囁かれたカカシの声は、喘ぎながら、苦しそうで。またイルカは目に涙を浮かべた。だらしなく開いた口に触れる彼の手と、手甲から微かに鼻に入るカカシの匂いを薄らぎそうになる意識の中に感じながら、その熱を愛おしいと思った。

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