口笛⑤
「前は悪かったな」
居酒屋で、カウンターに座って。呑んでいた猪口から口を離すと、アオシがぽつりと呟いた。
いつもだったらビールか焼酎止まりで日本酒まで呑まないのに。珍しく自分に合わせてくれているのか。
自分からはカカシの話題は避けていた。敢えて何も触れようとしない自分に、気を使わなくていい、と職員室で背中を叩かれたのだが。今は酒が入ったからか、少し寂しそうな顔をするアオシを、イルカはジッと見つめた。
カカシとイルカがどんな繋がりなのか、アオシは分かってるだろうが。何も言えないでいると、小さく笑いを零された。
「仲は順調?」
立て肘をついたアオシがその首を傾けるようにして、イルカを見た。思わず視線を自分の持つ猪口に落とした。やんわりと言われていようが、結局は、知っているのだ。イルカはこくんと頷いた。
「順調」
へえ、と優しくアオシは返す。
「正直さ、意外で驚いた。あ、でもな、それって俺がお前に想定していなかっただけの事だから。そういう意味の意外じゃない」
相変わらず正直で真面目な表現に、イルカは思わず笑った。
「分かってる。まぁ...カカシさんとは...気が付いたらそうなってたって言うか...それは確かに俺らしくないよなぁ」
頭上にある、店のダウンライトを見上げて呟く。
「のろけですね」
「は、ちがっ」
そんなつもりじゃないとアオシを見れば、可笑しそうに微笑んで手酌で酒を注いでいた。
さすがにそこから自分から声をかけたなんて、言えない。ぐっと黙ったイルカに、また笑う。
「でもさ、それが一番いいんじゃないのかね。無理してつき合っても仕方ないし。つまんないし」
つき合うためのつき合いって言うかさ、と言って薄く微笑む。そのアオシの言葉を訊きながら。カカシの顔が頭に浮かんだ。それだけなのに。なんでどきどきするんだろう。
「女に言う言葉なんだろうけど」
「なんだよ」
「お前、何か艶っぽくなったよな」
色っぽいって言うか。
口に付けたお猪口から酒を吹き出しそうになるのを堪える。
「は、はあ?何言ってんの?お前」
嬉しそうなアオシを見て、イルカは顔を顰めた。そんなイルカに気にする訳でもなく、皿から豆腐を割って食べる。その横顔を眺めながら、何となく忘れかけていたのに、蘇った記憶に、イルカは口を開いていた。
「...そう言えばさ」
「うん、何?」
「覚えてるか?アカデミー生だった時の事」
「そりゃ色々覚えてるよ」
「じゃなくて」
そう言われて、アオシは顔を上げイルカを見た。
俺とアオシは、1つクラスが上の、同じ女の子が好きだった。2人して気になっていた。大人しくて、可愛くて。でも笑うと向日葵みたいに明るい笑顔を見せてくれて。
どっちを好きになるとかじゃなく。ただ、2人して好きだった。それだけだった。
でも、その向日葵のように可愛いその子は、アオシに振り向いた。
気が付いたら、一緒に登下校したり、昼休み一緒にいたり。
「お前、クラスの女の子にもモテてたもんなぁ」
イルカがしみじみと言うと、アオシは眉を下げた。
「ばーか、たまたまだよ」
「たまたまぁ?」
と聞き返すと鼻で笑ってイルカを見る。
「そんな昔の事、忘れた」
アオシはあっけらかんと言うと、酒を流し込む。
昔と変わらない、すましたような笑い方。眼差し。
イルカは持っていた猪口の縁を指で擦った。
昔の恋を。恋とは呼べない思い出を。思い出したからだろうか。
なんで、どきどきするんだろう。
それはやっぱり、今も恋をしているからなんだろうか。
あの時と変わらない。
どきどきが。
雨みたいに自分に落ちてくる。
「俺んち来て、飲み直すか?」
店を出て、折角だからとイルカが振り返って言うと、アオシは軽く首を振った。
「いんや、やめとく」
「だってほら、この前言った焼酎。呑みたいって言ってただろ」
雲の合間から見える星空を見上げるように、アオシは視線を上に上げた。
「だってさ、俺カカシさんに嫌われてっから」
イルカは財布を仕舞いながら、アオシを見た。
「...それ、俺とお前の間に関係ある事か?」
たぶんどんな意味でもないかもしれないが。アオシらしくないと、イルカは問いつめるような口調になっていた。それに気が付き、アオシは誤魔化すように笑った。
「ないよな」
「それに、カカシさんは...お前の事嫌いとか、そんなんじゃないだろう...深くは...知らないけど」
イルカの言葉にアオシは一瞬驚いた顔をして、ふっと顔を緩ませた。
「あぁ、そうだな」
そこから言葉が続くと思ったが、アオシはイルカをじっと見た。
「....なに」
「お前、本当にカカシさんが好きなんだな」
顔が少しむずむずした。そんな事ないと、言い訳がが出そうになった、その言葉を飲み込んで。
小さく頷く。
俺の事を知っていてくれるは、嬉しい。
どきどきが、たぶん、アオシに伝わっている。
それが、嬉しいんだ。
どきどきの理由は。色んな場所からやってくるのだ。
「お前さぁ」
受付で、横にいた同僚の声に顔を上げる。
「アオシと仲良いのな」
「あぁ」
「なんか、変。お前とアオシってタイプ全然違うのに。なんか、妙」
「...そうか?」
きょとんとするイルカにうーんと、同僚はペンを指で回した。
「お前も真面目だけど、違う真面目じゃん?アイツ。静かで何か暗いし」
「ま、ばか騒ぎするようなヤツじゃないよな」
イルカが言えば、そう、と同僚にペンで指された。
「でもま、いーじゃん別に」
言いながら、イルカは書類に目を落とし、仕事を再開する。
それでも昔からずっと、一緒だった。間が空いたけど、それが元に戻っただけだ。
友情なんて、そんなものだ。
「イールカ」
「ひゃっ!」
不意の声に身体が竦み上がる。のは、情けないとは思うが。
驚きに振り返ると、カカシに抱きつかれた。
「ただいま」
任務から帰ってすぐ自分に会いにくる事はあまりない。カカシの身体から血の匂いがしない事に胸をなで下ろしながら、イルカもそっとカカシの背中に手をまわした。
「忍者かと思った」
イルカの冗談に、カカシは耳元で笑う。
「忍者だもーん」
その返しにくすくす笑い合いながら。
自分の背中に回された腕も。伝わる体温も。その低い声も、全て心地いい。
自分は単純だと思う。
思うけど、恋ってそんなものかもしれない。
カカシの腕の中が、どの場所よりも安心するのは、事実なんだから。
「外ではあんまりイチャイチャしてくれないのに。珍しい」
抱いていた腕を解いて、カカシは嬉しそうにイルカを見た。
「機嫌いいから?何かあった?」
子供っぽい理由で訊かれてイルカは微笑みながら首を振る。
「いいえ」
本当は。任務で何日も会えないと。不安になる。それなのに、いつもの調子で会いに来てくれる。カカシがとても愛しくなったなんて。秘密だ。
ふふ、と笑いを零すと、カカシは心を覗くように、顔を覗いてくる。
今の俺は、幸せだ。
本当は、何が不安なのか分からない時がある。
それでも、カカシに会えば、それは嘘の様に消えていく。
どきどきは続く。怖いくらいに。
「帰りましょう?」
だからじゃないけど。手を繋ぐ。
「お腹空いた~」
「何作ります?」
「チャーハンと味噌汁」
この前作ったメニューを言われイルカは苦笑する。
「味噌汁は茄子ですよね」
「うん」
料理もずいぶん上手くなってきたと思う。面倒くさくてあまり料理自体好きじゃなかったのに。
カカシに指を絡ませて、どきどきが伝わらないように。笑って誤魔化した。
「誰を探してんの?」
その声に振り返る。上忍待機所の入口にアスマが煙草をくわえて立っていた。イルカは微笑む。
三代目の息子であるアスマは、最近里に戻ってきた。上忍になり、来年からは上忍師となる事も火影から訊いていた。強面で身体も大きいが、優しく頼りになる。男らしいアスマをイルカは慕っていた。
少し前に、カカシからもアスマの名前が出た事があった。以前、同じ任務に就いていた事があるらしい。一匹狼のようなイメージがあったカカシだが、アスマとは仲がいいみたいで、それは自分でも嬉しかった。
勿論、自分たち仲は知らないのだろうが。
「これ、任務表です」
「あぁ、俺?」
悪いな、とイルカの差し出した任務表を受け取る。軽く目を通し、頷く。
「了解」
「はい、お願いします」
頭を下げ背中を見せ扉に手をかけた時、あ~、と訊こえた声にまたイルカはアスマに振り返ると、任務表片手に頭を掻いている。
向き直りながらイルカは頭を傾げた。
「何か、問題でもありましたか」
「あー、いや、そうじゃなくてな」
「はい」
掻いていた手を煙草に戻して、煙を吐き出した。
「この前見たんだけどな」
たまたま、夜中にな、と、煙に目を細めながら、アスマはイルカを見た。
「はい」
「カカシと仲いいんだな」
「...........」
カカシと手を繋いで帰ったあの夜の事だと、直ぐに分かる。
書類を腕に抱えたまま固まるイルカにアスマは掌をひらひらさせた。
「いや、別にいーんだけどよ。アイツは前から知ってるし」
じゃあ、何だろう。と、アスマの言葉の先を待つと、アスマは言い渋ったような顔をする。
「それでさっき、お前一緒に歩いてたよな」
「えっと....」
「ほら、緑色の目の」
直ぐに思い当たり頷く。
「あぁ、アオシですか。おれと同じ教員で、」
確かに、さっきたまたまアオシに会って、外を一緒に歩いていた。
「そう、アレは前の恋人じゃないのか」
日本語なのに、意味が分からなかった。何回か瞬きをする。
「俺の?いや、何言ってるんですか、違いますよ」
イルカが笑うと、アスマも合わせて笑いながら首を振る。
「違う。お前じゃなくって、カカシの」
カカシの
アスマさんは何を言ってるんだろう。
自分の中にいるカカシとアオシが頭の中でぐるぐるとまわる。
「あー、似てたからそう思ったんだけど。違うか。暗部にいたヤツが教員なんてやってるわけないか。悪い、人違いだったか」
アスマの笑い声も頭でまわる。
真顔でただアスマの顔を見つめるイルカに、またアスマは軽く笑った。
「あ、そんな深刻な顔するなって。俺の間違いだったんだからよ。緑の目ってのはあんま見ないし、暗部ではな、結構有名だったから。何年も前の事だし、カカシも忘れてるだろうし、ーー」
待って。
ちょっと、待って。
頭が、追いつかない。
耳鳴りがする。頭がどんどん真っ白になる。真っ白になるのに。アスマの言葉がひたすら自分の頭で、リピートされる。
カカシの笑顔と
アオシの笑顔と
幸せそうな自分の顔が
重なった
NEXT→
居酒屋で、カウンターに座って。呑んでいた猪口から口を離すと、アオシがぽつりと呟いた。
いつもだったらビールか焼酎止まりで日本酒まで呑まないのに。珍しく自分に合わせてくれているのか。
自分からはカカシの話題は避けていた。敢えて何も触れようとしない自分に、気を使わなくていい、と職員室で背中を叩かれたのだが。今は酒が入ったからか、少し寂しそうな顔をするアオシを、イルカはジッと見つめた。
カカシとイルカがどんな繋がりなのか、アオシは分かってるだろうが。何も言えないでいると、小さく笑いを零された。
「仲は順調?」
立て肘をついたアオシがその首を傾けるようにして、イルカを見た。思わず視線を自分の持つ猪口に落とした。やんわりと言われていようが、結局は、知っているのだ。イルカはこくんと頷いた。
「順調」
へえ、と優しくアオシは返す。
「正直さ、意外で驚いた。あ、でもな、それって俺がお前に想定していなかっただけの事だから。そういう意味の意外じゃない」
相変わらず正直で真面目な表現に、イルカは思わず笑った。
「分かってる。まぁ...カカシさんとは...気が付いたらそうなってたって言うか...それは確かに俺らしくないよなぁ」
頭上にある、店のダウンライトを見上げて呟く。
「のろけですね」
「は、ちがっ」
そんなつもりじゃないとアオシを見れば、可笑しそうに微笑んで手酌で酒を注いでいた。
さすがにそこから自分から声をかけたなんて、言えない。ぐっと黙ったイルカに、また笑う。
「でもさ、それが一番いいんじゃないのかね。無理してつき合っても仕方ないし。つまんないし」
つき合うためのつき合いって言うかさ、と言って薄く微笑む。そのアオシの言葉を訊きながら。カカシの顔が頭に浮かんだ。それだけなのに。なんでどきどきするんだろう。
「女に言う言葉なんだろうけど」
「なんだよ」
「お前、何か艶っぽくなったよな」
色っぽいって言うか。
口に付けたお猪口から酒を吹き出しそうになるのを堪える。
「は、はあ?何言ってんの?お前」
嬉しそうなアオシを見て、イルカは顔を顰めた。そんなイルカに気にする訳でもなく、皿から豆腐を割って食べる。その横顔を眺めながら、何となく忘れかけていたのに、蘇った記憶に、イルカは口を開いていた。
「...そう言えばさ」
「うん、何?」
「覚えてるか?アカデミー生だった時の事」
「そりゃ色々覚えてるよ」
「じゃなくて」
そう言われて、アオシは顔を上げイルカを見た。
俺とアオシは、1つクラスが上の、同じ女の子が好きだった。2人して気になっていた。大人しくて、可愛くて。でも笑うと向日葵みたいに明るい笑顔を見せてくれて。
どっちを好きになるとかじゃなく。ただ、2人して好きだった。それだけだった。
でも、その向日葵のように可愛いその子は、アオシに振り向いた。
気が付いたら、一緒に登下校したり、昼休み一緒にいたり。
「お前、クラスの女の子にもモテてたもんなぁ」
イルカがしみじみと言うと、アオシは眉を下げた。
「ばーか、たまたまだよ」
「たまたまぁ?」
と聞き返すと鼻で笑ってイルカを見る。
「そんな昔の事、忘れた」
アオシはあっけらかんと言うと、酒を流し込む。
昔と変わらない、すましたような笑い方。眼差し。
イルカは持っていた猪口の縁を指で擦った。
昔の恋を。恋とは呼べない思い出を。思い出したからだろうか。
なんで、どきどきするんだろう。
それはやっぱり、今も恋をしているからなんだろうか。
あの時と変わらない。
どきどきが。
雨みたいに自分に落ちてくる。
「俺んち来て、飲み直すか?」
店を出て、折角だからとイルカが振り返って言うと、アオシは軽く首を振った。
「いんや、やめとく」
「だってほら、この前言った焼酎。呑みたいって言ってただろ」
雲の合間から見える星空を見上げるように、アオシは視線を上に上げた。
「だってさ、俺カカシさんに嫌われてっから」
イルカは財布を仕舞いながら、アオシを見た。
「...それ、俺とお前の間に関係ある事か?」
たぶんどんな意味でもないかもしれないが。アオシらしくないと、イルカは問いつめるような口調になっていた。それに気が付き、アオシは誤魔化すように笑った。
「ないよな」
「それに、カカシさんは...お前の事嫌いとか、そんなんじゃないだろう...深くは...知らないけど」
イルカの言葉にアオシは一瞬驚いた顔をして、ふっと顔を緩ませた。
「あぁ、そうだな」
そこから言葉が続くと思ったが、アオシはイルカをじっと見た。
「....なに」
「お前、本当にカカシさんが好きなんだな」
顔が少しむずむずした。そんな事ないと、言い訳がが出そうになった、その言葉を飲み込んで。
小さく頷く。
俺の事を知っていてくれるは、嬉しい。
どきどきが、たぶん、アオシに伝わっている。
それが、嬉しいんだ。
どきどきの理由は。色んな場所からやってくるのだ。
「お前さぁ」
受付で、横にいた同僚の声に顔を上げる。
「アオシと仲良いのな」
「あぁ」
「なんか、変。お前とアオシってタイプ全然違うのに。なんか、妙」
「...そうか?」
きょとんとするイルカにうーんと、同僚はペンを指で回した。
「お前も真面目だけど、違う真面目じゃん?アイツ。静かで何か暗いし」
「ま、ばか騒ぎするようなヤツじゃないよな」
イルカが言えば、そう、と同僚にペンで指された。
「でもま、いーじゃん別に」
言いながら、イルカは書類に目を落とし、仕事を再開する。
それでも昔からずっと、一緒だった。間が空いたけど、それが元に戻っただけだ。
友情なんて、そんなものだ。
「イールカ」
「ひゃっ!」
不意の声に身体が竦み上がる。のは、情けないとは思うが。
驚きに振り返ると、カカシに抱きつかれた。
「ただいま」
任務から帰ってすぐ自分に会いにくる事はあまりない。カカシの身体から血の匂いがしない事に胸をなで下ろしながら、イルカもそっとカカシの背中に手をまわした。
「忍者かと思った」
イルカの冗談に、カカシは耳元で笑う。
「忍者だもーん」
その返しにくすくす笑い合いながら。
自分の背中に回された腕も。伝わる体温も。その低い声も、全て心地いい。
自分は単純だと思う。
思うけど、恋ってそんなものかもしれない。
カカシの腕の中が、どの場所よりも安心するのは、事実なんだから。
「外ではあんまりイチャイチャしてくれないのに。珍しい」
抱いていた腕を解いて、カカシは嬉しそうにイルカを見た。
「機嫌いいから?何かあった?」
子供っぽい理由で訊かれてイルカは微笑みながら首を振る。
「いいえ」
本当は。任務で何日も会えないと。不安になる。それなのに、いつもの調子で会いに来てくれる。カカシがとても愛しくなったなんて。秘密だ。
ふふ、と笑いを零すと、カカシは心を覗くように、顔を覗いてくる。
今の俺は、幸せだ。
本当は、何が不安なのか分からない時がある。
それでも、カカシに会えば、それは嘘の様に消えていく。
どきどきは続く。怖いくらいに。
「帰りましょう?」
だからじゃないけど。手を繋ぐ。
「お腹空いた~」
「何作ります?」
「チャーハンと味噌汁」
この前作ったメニューを言われイルカは苦笑する。
「味噌汁は茄子ですよね」
「うん」
料理もずいぶん上手くなってきたと思う。面倒くさくてあまり料理自体好きじゃなかったのに。
カカシに指を絡ませて、どきどきが伝わらないように。笑って誤魔化した。
「誰を探してんの?」
その声に振り返る。上忍待機所の入口にアスマが煙草をくわえて立っていた。イルカは微笑む。
三代目の息子であるアスマは、最近里に戻ってきた。上忍になり、来年からは上忍師となる事も火影から訊いていた。強面で身体も大きいが、優しく頼りになる。男らしいアスマをイルカは慕っていた。
少し前に、カカシからもアスマの名前が出た事があった。以前、同じ任務に就いていた事があるらしい。一匹狼のようなイメージがあったカカシだが、アスマとは仲がいいみたいで、それは自分でも嬉しかった。
勿論、自分たち仲は知らないのだろうが。
「これ、任務表です」
「あぁ、俺?」
悪いな、とイルカの差し出した任務表を受け取る。軽く目を通し、頷く。
「了解」
「はい、お願いします」
頭を下げ背中を見せ扉に手をかけた時、あ~、と訊こえた声にまたイルカはアスマに振り返ると、任務表片手に頭を掻いている。
向き直りながらイルカは頭を傾げた。
「何か、問題でもありましたか」
「あー、いや、そうじゃなくてな」
「はい」
掻いていた手を煙草に戻して、煙を吐き出した。
「この前見たんだけどな」
たまたま、夜中にな、と、煙に目を細めながら、アスマはイルカを見た。
「はい」
「カカシと仲いいんだな」
「...........」
カカシと手を繋いで帰ったあの夜の事だと、直ぐに分かる。
書類を腕に抱えたまま固まるイルカにアスマは掌をひらひらさせた。
「いや、別にいーんだけどよ。アイツは前から知ってるし」
じゃあ、何だろう。と、アスマの言葉の先を待つと、アスマは言い渋ったような顔をする。
「それでさっき、お前一緒に歩いてたよな」
「えっと....」
「ほら、緑色の目の」
直ぐに思い当たり頷く。
「あぁ、アオシですか。おれと同じ教員で、」
確かに、さっきたまたまアオシに会って、外を一緒に歩いていた。
「そう、アレは前の恋人じゃないのか」
日本語なのに、意味が分からなかった。何回か瞬きをする。
「俺の?いや、何言ってるんですか、違いますよ」
イルカが笑うと、アスマも合わせて笑いながら首を振る。
「違う。お前じゃなくって、カカシの」
カカシの
アスマさんは何を言ってるんだろう。
自分の中にいるカカシとアオシが頭の中でぐるぐるとまわる。
「あー、似てたからそう思ったんだけど。違うか。暗部にいたヤツが教員なんてやってるわけないか。悪い、人違いだったか」
アスマの笑い声も頭でまわる。
真顔でただアスマの顔を見つめるイルカに、またアスマは軽く笑った。
「あ、そんな深刻な顔するなって。俺の間違いだったんだからよ。緑の目ってのはあんま見ないし、暗部ではな、結構有名だったから。何年も前の事だし、カカシも忘れてるだろうし、ーー」
待って。
ちょっと、待って。
頭が、追いつかない。
耳鳴りがする。頭がどんどん真っ白になる。真っ白になるのに。アスマの言葉がひたすら自分の頭で、リピートされる。
カカシの笑顔と
アオシの笑顔と
幸せそうな自分の顔が
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