真夜中のポルカ②
イルカは職員室にいた。机には答案用紙が置かれ、赤いペンを持ち机に向かっていた。
ペンを持つ手は動いていない。生徒が書いた答えをぼんやりと眺めていた。昨日は最悪だった。その一言では片付けられないが、最悪以外の言葉は当てはまらない。昨日、イルカがベットで目を覚ました時、月が辺りを照らしていた。カカシの姿はなく、カカシによって剥ぎ取られた自分のパジャマが畳の上に散らかっていた。重たい身体を引きずりながらシャワーを浴びた。身体に散らされた赤い跡を見たくなくて鏡をロクに見れない。早く流してしまいたくて身体を擦り続けた。
汚れたパジャマやシーツを洗濯機に放り込みスイッチを押す。
空腹感を覚え、朝から何も口にしていなかった事を思い出した。キッチンに立つ気力もない。イルカは昨夜コンビニで買ったカップラーメンを手にした。
帰り道、公園なんかに足を踏み入れなければよかった。いくら後悔しても今日起きた事は消すことが出来ない。あの男は何故あそこ迄自分に酷いことをしたのだろう。途中からは朦朧としてカカシにされるがままにたなっていた。断片的に記憶が蘇りきつく目を閉じた。
抵抗しないイルカを我が物顔で貪るように無理な体位を強いて支配した。こんなことが許されていいのだろうか。
でも、忘れるしかない。イルカは心に念じた。
「イルカ」
声をかけられ我に帰る。顔を上げると同僚が立っていた。
「あのさ、あの…お前ん家にはたけ上忍、来たか？」
気まずそうにイルカを見ている。どうやらカカシが吊るし上げて自分の住所を吐かせた相手らしい。
イルカは虚ろな目をし相手を見た。
この男もまた、カカシの被害者なのだ。気にかけてくれるのが申し訳なく、心配させないように笑顔を見せた。
「…あぁ、はたけ上忍ね、来たよ。ナルト達の事で相談されてさ。ウチに来たからびっくりしたよ」
「そうか、あーやっぱり、はたけ上忍怖い顔してたからさ。そんな内容ならアカデミーで良かったのにな」
「だよな。でも、ありがとうな」
イルカの顔を見て安心したのか、笑顔を見せて立ち去る。いなくなるのを確認して、イルカは答案用紙に目を移し眉頭を寄せた。
(なにがありがとうなんだよ)
自分に悪態をついてため息をついた。嘘つくのって、面倒臭いし疲れる。
忘れるって決めたのに、こんな陰気な顔をしても仕方がない。イルカは気持ちを入れ替えるようにペンを進めた。
早々に仕事を切り上げてイルカは家に向かう。疲れている上にあの上忍に朝まで翻弄されていた為寝不足が酷い。適当に何かを買って済ませようか。アカデミーから商店街に向かう途中、子どもの声が聞こえた。すぐに誰なのか察してイルカは動揺した。ナルトが嬉しそうに笑い、サクラの声も聞こえた。必然的にカカシがいるのは確実だ。イルカの心臓が高鳴り思わずアカデミーへ戻ろうと背を向けた。
「あー！イルカ先生だってばよ！」
隠れる間も無く名前を呼ばれ、イルカは肩にかけたバックを握りしめた。重い顔で振り向くと同時にナルトに抱きつかれて、下半身に未だ取れていない痛みが走る。悟られないよう無理に笑いナルトを見た。
「何だ、今日はもう終わりか？」
「おう！今日も頑張ったってばよ！なーイルカ先生っ、ラーメン食べようよ！」
「ナルトー、あんたイルカ先生に会うとそればっか。いいかげん先生に嫌われるわよ」
「なっ、そんな事ないってばよ。サクラちゃんもラーメン食べたいからそんな事言うんだろ？」
「あのね！今はダイエットしてるの！ラーメンなんか食べたら激太りよ。本当、分かってないんだから。ねーサスケくん？」
「ほらほら、さっさと帰って明日の準備ー」
カカシの声にイルカは身体が固くなった。カカシの顔を見れない。と言うか見たくない。見たら怒鳴りたくなるし殴りたくなるに決まっている。
「あーもう。カカシ先生厳しいってばよ。いいじゃん明日で」
ナルトがイルカから離れて振り向いた。俯くイルカの足元にカカシの脚が見えても顔を上げなかった。
顔なんて見るものか。
「…イルカ先生、身体は大丈夫？」
なにをぬけぬけと。
耐えるように拳を作り奥歯をグッと噛む。
「今日も行っていい？」
続けて言われた台詞。
囁かれた声がイルカの顔を上げさせた。思わず口が開き、出そうになる言葉をぐっと呑み込んだ。
よくもそんな事が言えたものだ。しかも子供達の前で。
見ないと決めていたカカシの顔を見たら怒りが込み上げてくる。抗議するようにカカシの目を見た。
しかし。
飄々としたような顔をしているはずで、実際にそうなのだが。
カカシの目の奥でゆらぐ何かに、イルカは注視した。
が、すぐにカカシに目を逸らされる。
(…何だ、今の……)
このカカシからは想像も出来ないが、不安で揺らいでいたような目だった。いや、そんな事があるはずがない。人を人だと思っていないような人間だ。
ともかく、早くこの場から立ち去りたい。イルカはナルトを見た。
「悪いな、今日は家に帰るよ。だからお前も帰って明日の準備だ。いいな？」
「あーなんだよ、ちぇー。じゃあな、先生」
ナルトが両手を頭で組んで歩き出す。
「ああ、じゃあなお前ら。しっかりやれよ」
「はーい、先生もね」
サクラが手を振って応え、ナルトやサスケに続いた。
カカシも後に続き背を向けている。
その猫背で丸くなった背中を見ていると嫌みの一つでも言ってやりたくなる。
しかし、言ったところでこの男に嫌みは通じなさそうだ。
昨日の事を忘れようと努力はするが、許すつもりは全くない。思い出すだけで怒りが込み上げイルカはぐっと拳を握った。
相手は上忍で、その中でもカカシは確実に秀でた忍だ。当たり前だが力では到底叶わない。
忘れるんだ。
そう心に念じて無言でカカシに背を向け歩き出した。
＊
イルカはちゃぶ台に料理を並べて座り込んだ。
目の前に2人分の料理が並んでいる。カカシの顔を見たくないし会いたくない。なのに。
(何で俺カカシ先生の分まで作ってるんだろ)
悩みに悩んだ挙句、結局カカシの分を作ってしまった。自分の馬鹿真面目な性格を恨みながらぼんやりと料理を見つめる。本当は今日あの時殴りたかった。教え子がいたから我慢したが、あの男は気にする訳でもなくぬけぬけと。在ろう事かあんな事を聞
くなんて。ナルトに聞こえてなかったから良かったものの、何を考えてるんだ。
「せんせ」
「ひっ」
背後に現れた気配に飛び上がるくらい驚いた。
カカシが窓際に立っている。
「え、なっ、え？」
「ここから入りましたよ。玄関の鍵開けといてくださいよ。オレ行くって言ったでしょ？」
カカシは窓を指さしている。
イルカは立ち上がり、カカシが目の前にいる事にようやく認識し、なんでわざわざ、と怒りが湧き上がる。
「驚かさないでください！ノックすればいいでしょうっ」
「ああ、なんか面倒で。あ、ご飯。オレの分？」
イルカの背後にあるちゃぶ台を覗いた。
「…あなたが来るって言ったので用意しただけです」
「へぇー、真面目だね。相変わらず」
ムッとしてカカシを見ると、カカシは既に素顔を晒していた。ベストを脱ぎ、手甲を外しながら料理の前に座る。自分で用意した手前図々しいとも言えずに、しぶしぶイルカもカカシの前に座った。
カカシは手を合わせると、黙ってご飯を食べ始めた。昨日の今日で、向かい合って食べるのは不思議な光景に感じる。
こうして改めて見ると、左目には縦に傷が入っているものの、カカシは整った顔立ちをしている。はっきり言って美形だ。自分の様なパッとしない顔立ちとは正反対だ。
性格は問題ありそうだが、女には苦労してなさそうに見える。こんな中忍の男の家に来なくても他に当てがありそうなものなのに、変な人だ。少し気まずさも感じてイルカは口を開いた。
「あの、カカシ先生」
「はい？」
ご飯を口に運びイルカを見た。
「…ナルト達はどうですか？」
「はぁ、まーそうですね。忍として考えると色々問題点が山済みですよ」
「そうですか。…今日はどんな訓練を、」
「…ねえ」
カカシが話を遮る。少し怪訝な顔をしていた。
「いいじゃないガキどもの事なんて。家にいる時くらいは先生の顔をやめたら？」
「え…？」
何でそんな事を言うのか。カカシの顔を見る。カカシが箸を置いたかと思うと、イルカの腕を掴んだ。立ち上がったカカシは箸を持ったままのイルカを引っ張っぱり、奥の寝室へ入る。
「あの、カカシ先生？」
イルカの問いには答えず、ベットに突き倒され面を食らった。ようやくカカシの意図に気づき同時に昨日された事がフラッシュバックして顔が強張る。
「…やめてください」
精一杯の言葉だった。
「やだなー、イルカ先生。オレ、ご飯食べに来た訳じゃないよ。分かってたでしょ、アンタも」
薄っすら笑い、再び腕を掴みカカシが馬乗りになりイルカを押さえつけた。
「嫌ですっ！嫌だ！！離せっ！！！」
必死に暴れるイルカの両腕を簡単に片手で制すると、物凄い力で頭の上に捩じ上げた。
「そんな暴れると優しくしてあげれないよ？それとも無理やりヤられるのが好き？」
脅迫じみた言葉を吐いてカカシはイルカを見下ろす。余りにも冷えた目にイルカは動きを止めると、カカシは掴む手を緩めた。
イルカの首元に顔をうずめると、昨日自らつけた赤い痕を再び吸い上げ、イルカは体をビクつかせ息を呑んだ。スルリと撫でられる指が余りにも優しく、イルカは眉を潜めて目を閉じる。嫌だといくら思っていても、カカシに触れられただけで腰が疼いてくる自分がいた。
「っ、…どうして、こんな事を…っ」
「どうして？…だってそういう約束でしょう」
顔を上げてイルカを見た。
「約束なんて…っ」
「じゃあまたチャレンジします？」
ポケットから鈴を取り出し目の前にぶら下げる。イルカは恨めしそうにぶら下がる鈴を眺めた。こんなくだらない事で束縛を受ける謂れはない。が、昨日勝負を受け負けた事実に何も言えなくなる。口を噤んだイルカを見てカカシは満足気に表情を緩める。
重ねられた唇に抵抗する事なく受け入れ、口を開けた。気を良くしたのかカカシは貪るように口づけ、イルカの目に自然と涙が浮かぶ。唇が離れると、イルカは自然にカカシの唇を目で追っていた。
「やっぱりヤラシーね、その顔。そんなに好き？」
「っ、そんな…」
「ほら、ベロ出して」
その言葉に躊躇するが、先ほどの口づけで抵抗する気持ちが萎えていた。イルカは言われるがままに口を開け舌を出す。カカシの顔が近づきイルカの舌を舐め上げた。そのまま激しく絡み合い始め、イルカは自分の身体が急速にカカシを求めているのを感
じていた。自分が自分でなくなりそうな感覚に陥る。
それはカカシが挿入してきた時により一層感じた。背後から腰を持たれ何度も強く打ち付けられる。
「ぁあっ！…はっ、ぁ…」
昨日とは比べられないくらいの刺激が身体中を走る。耐えきれなく口の端から唾液が流れた。水音が淫らに響き、繋がっているソコをカカシが凝視しているのが分かり、不意に我に帰る。
「ねえセンセ、凄いよココ。オレの呑み込むたびに濡れてくるの、分かる？」
カカシは奥まで押し付けグリグリと動かすと、濡れた音と共に根元から液体が溢れ、イルカの腿まで伝い身震いした。
「んっ、…もうっ、ダメ…」
「いいよ、イキなよ。センセ」
顔を布団につけ、高くあげられたイルカの腰を激しい動きで突き上げ、イルカは呆気なく布団に何度目かになる精液を吐き出した。
「ぁっ、ぁっ…んっ」
イルカが中を締め付ける中、動きを止めることなく突き上げ、カカシも中で果てる。擦り込むように動かし、カカシは熱い息を吐いた。
「すご…、イルカ先生の中すごく気持ちいい」
熱っぽく囁かれイルカは身じろぎした。男にいい様に犯され、それに感じているなんて、異常だ。
カカシが背中に覆いかぶさり、ぎゅっとイルカを抱きしめた。触れる肌が熱くて心地良い。
「センセ、…オレの名前呼んで」
イルカの中にあるモノが内膜を押し上げるようにそり立ち形を取り戻す。
何度もキスを落とされ緩やかに腰が律動する。
「っ、…ぁっ、カ、カシ先生っ」
鈍く湧き上がる快楽にイルカは目を閉じた。
ベットに横になっていたカカシが起き上がる気配に、イルカは薄っすら目を開けた。背を向けたままカカシが服を着る気配を感じ取る。窓の開く音が聞こえ直ぐにカカシの気配が消えた。何も変わらないはずなのに、1人になった途端布団の中が急に温度が低くなったように感じた。
あの男は自分を抱く為だけにここに来ているのか。考えただけで無性に腹立たしくなると同時に虚しさを覚える。畜生な相手に何故虚しくなるのか。胸がザワザワとする。
兎に角早く解放されたい。こんな関係にいつまでも関わっていたら頭がおかしくなりそうだ。心も身体も見えない鎖で繋がれてしまいそうだった。
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ペンを持つ手は動いていない。生徒が書いた答えをぼんやりと眺めていた。昨日は最悪だった。その一言では片付けられないが、最悪以外の言葉は当てはまらない。昨日、イルカがベットで目を覚ました時、月が辺りを照らしていた。カカシの姿はなく、カカシによって剥ぎ取られた自分のパジャマが畳の上に散らかっていた。重たい身体を引きずりながらシャワーを浴びた。身体に散らされた赤い跡を見たくなくて鏡をロクに見れない。早く流してしまいたくて身体を擦り続けた。
汚れたパジャマやシーツを洗濯機に放り込みスイッチを押す。
空腹感を覚え、朝から何も口にしていなかった事を思い出した。キッチンに立つ気力もない。イルカは昨夜コンビニで買ったカップラーメンを手にした。
帰り道、公園なんかに足を踏み入れなければよかった。いくら後悔しても今日起きた事は消すことが出来ない。あの男は何故あそこ迄自分に酷いことをしたのだろう。途中からは朦朧としてカカシにされるがままにたなっていた。断片的に記憶が蘇りきつく目を閉じた。
抵抗しないイルカを我が物顔で貪るように無理な体位を強いて支配した。こんなことが許されていいのだろうか。
でも、忘れるしかない。イルカは心に念じた。
「イルカ」
声をかけられ我に帰る。顔を上げると同僚が立っていた。
「あのさ、あの…お前ん家にはたけ上忍、来たか？」
気まずそうにイルカを見ている。どうやらカカシが吊るし上げて自分の住所を吐かせた相手らしい。
イルカは虚ろな目をし相手を見た。
この男もまた、カカシの被害者なのだ。気にかけてくれるのが申し訳なく、心配させないように笑顔を見せた。
「…あぁ、はたけ上忍ね、来たよ。ナルト達の事で相談されてさ。ウチに来たからびっくりしたよ」
「そうか、あーやっぱり、はたけ上忍怖い顔してたからさ。そんな内容ならアカデミーで良かったのにな」
「だよな。でも、ありがとうな」
イルカの顔を見て安心したのか、笑顔を見せて立ち去る。いなくなるのを確認して、イルカは答案用紙に目を移し眉頭を寄せた。
(なにがありがとうなんだよ)
自分に悪態をついてため息をついた。嘘つくのって、面倒臭いし疲れる。
忘れるって決めたのに、こんな陰気な顔をしても仕方がない。イルカは気持ちを入れ替えるようにペンを進めた。
早々に仕事を切り上げてイルカは家に向かう。疲れている上にあの上忍に朝まで翻弄されていた為寝不足が酷い。適当に何かを買って済ませようか。アカデミーから商店街に向かう途中、子どもの声が聞こえた。すぐに誰なのか察してイルカは動揺した。ナルトが嬉しそうに笑い、サクラの声も聞こえた。必然的にカカシがいるのは確実だ。イルカの心臓が高鳴り思わずアカデミーへ戻ろうと背を向けた。
「あー！イルカ先生だってばよ！」
隠れる間も無く名前を呼ばれ、イルカは肩にかけたバックを握りしめた。重い顔で振り向くと同時にナルトに抱きつかれて、下半身に未だ取れていない痛みが走る。悟られないよう無理に笑いナルトを見た。
「何だ、今日はもう終わりか？」
「おう！今日も頑張ったってばよ！なーイルカ先生っ、ラーメン食べようよ！」
「ナルトー、あんたイルカ先生に会うとそればっか。いいかげん先生に嫌われるわよ」
「なっ、そんな事ないってばよ。サクラちゃんもラーメン食べたいからそんな事言うんだろ？」
「あのね！今はダイエットしてるの！ラーメンなんか食べたら激太りよ。本当、分かってないんだから。ねーサスケくん？」
「ほらほら、さっさと帰って明日の準備ー」
カカシの声にイルカは身体が固くなった。カカシの顔を見れない。と言うか見たくない。見たら怒鳴りたくなるし殴りたくなるに決まっている。
「あーもう。カカシ先生厳しいってばよ。いいじゃん明日で」
ナルトがイルカから離れて振り向いた。俯くイルカの足元にカカシの脚が見えても顔を上げなかった。
顔なんて見るものか。
「…イルカ先生、身体は大丈夫？」
なにをぬけぬけと。
耐えるように拳を作り奥歯をグッと噛む。
「今日も行っていい？」
続けて言われた台詞。
囁かれた声がイルカの顔を上げさせた。思わず口が開き、出そうになる言葉をぐっと呑み込んだ。
よくもそんな事が言えたものだ。しかも子供達の前で。
見ないと決めていたカカシの顔を見たら怒りが込み上げてくる。抗議するようにカカシの目を見た。
しかし。
飄々としたような顔をしているはずで、実際にそうなのだが。
カカシの目の奥でゆらぐ何かに、イルカは注視した。
が、すぐにカカシに目を逸らされる。
(…何だ、今の……)
このカカシからは想像も出来ないが、不安で揺らいでいたような目だった。いや、そんな事があるはずがない。人を人だと思っていないような人間だ。
ともかく、早くこの場から立ち去りたい。イルカはナルトを見た。
「悪いな、今日は家に帰るよ。だからお前も帰って明日の準備だ。いいな？」
「あーなんだよ、ちぇー。じゃあな、先生」
ナルトが両手を頭で組んで歩き出す。
「ああ、じゃあなお前ら。しっかりやれよ」
「はーい、先生もね」
サクラが手を振って応え、ナルトやサスケに続いた。
カカシも後に続き背を向けている。
その猫背で丸くなった背中を見ていると嫌みの一つでも言ってやりたくなる。
しかし、言ったところでこの男に嫌みは通じなさそうだ。
昨日の事を忘れようと努力はするが、許すつもりは全くない。思い出すだけで怒りが込み上げイルカはぐっと拳を握った。
相手は上忍で、その中でもカカシは確実に秀でた忍だ。当たり前だが力では到底叶わない。
忘れるんだ。
そう心に念じて無言でカカシに背を向け歩き出した。
＊
イルカはちゃぶ台に料理を並べて座り込んだ。
目の前に2人分の料理が並んでいる。カカシの顔を見たくないし会いたくない。なのに。
(何で俺カカシ先生の分まで作ってるんだろ)
悩みに悩んだ挙句、結局カカシの分を作ってしまった。自分の馬鹿真面目な性格を恨みながらぼんやりと料理を見つめる。本当は今日あの時殴りたかった。教え子がいたから我慢したが、あの男は気にする訳でもなくぬけぬけと。在ろう事かあんな事を聞
くなんて。ナルトに聞こえてなかったから良かったものの、何を考えてるんだ。
「せんせ」
「ひっ」
背後に現れた気配に飛び上がるくらい驚いた。
カカシが窓際に立っている。
「え、なっ、え？」
「ここから入りましたよ。玄関の鍵開けといてくださいよ。オレ行くって言ったでしょ？」
カカシは窓を指さしている。
イルカは立ち上がり、カカシが目の前にいる事にようやく認識し、なんでわざわざ、と怒りが湧き上がる。
「驚かさないでください！ノックすればいいでしょうっ」
「ああ、なんか面倒で。あ、ご飯。オレの分？」
イルカの背後にあるちゃぶ台を覗いた。
「…あなたが来るって言ったので用意しただけです」
「へぇー、真面目だね。相変わらず」
ムッとしてカカシを見ると、カカシは既に素顔を晒していた。ベストを脱ぎ、手甲を外しながら料理の前に座る。自分で用意した手前図々しいとも言えずに、しぶしぶイルカもカカシの前に座った。
カカシは手を合わせると、黙ってご飯を食べ始めた。昨日の今日で、向かい合って食べるのは不思議な光景に感じる。
こうして改めて見ると、左目には縦に傷が入っているものの、カカシは整った顔立ちをしている。はっきり言って美形だ。自分の様なパッとしない顔立ちとは正反対だ。
性格は問題ありそうだが、女には苦労してなさそうに見える。こんな中忍の男の家に来なくても他に当てがありそうなものなのに、変な人だ。少し気まずさも感じてイルカは口を開いた。
「あの、カカシ先生」
「はい？」
ご飯を口に運びイルカを見た。
「…ナルト達はどうですか？」
「はぁ、まーそうですね。忍として考えると色々問題点が山済みですよ」
「そうですか。…今日はどんな訓練を、」
「…ねえ」
カカシが話を遮る。少し怪訝な顔をしていた。
「いいじゃないガキどもの事なんて。家にいる時くらいは先生の顔をやめたら？」
「え…？」
何でそんな事を言うのか。カカシの顔を見る。カカシが箸を置いたかと思うと、イルカの腕を掴んだ。立ち上がったカカシは箸を持ったままのイルカを引っ張っぱり、奥の寝室へ入る。
「あの、カカシ先生？」
イルカの問いには答えず、ベットに突き倒され面を食らった。ようやくカカシの意図に気づき同時に昨日された事がフラッシュバックして顔が強張る。
「…やめてください」
精一杯の言葉だった。
「やだなー、イルカ先生。オレ、ご飯食べに来た訳じゃないよ。分かってたでしょ、アンタも」
薄っすら笑い、再び腕を掴みカカシが馬乗りになりイルカを押さえつけた。
「嫌ですっ！嫌だ！！離せっ！！！」
必死に暴れるイルカの両腕を簡単に片手で制すると、物凄い力で頭の上に捩じ上げた。
「そんな暴れると優しくしてあげれないよ？それとも無理やりヤられるのが好き？」
脅迫じみた言葉を吐いてカカシはイルカを見下ろす。余りにも冷えた目にイルカは動きを止めると、カカシは掴む手を緩めた。
イルカの首元に顔をうずめると、昨日自らつけた赤い痕を再び吸い上げ、イルカは体をビクつかせ息を呑んだ。スルリと撫でられる指が余りにも優しく、イルカは眉を潜めて目を閉じる。嫌だといくら思っていても、カカシに触れられただけで腰が疼いてくる自分がいた。
「っ、…どうして、こんな事を…っ」
「どうして？…だってそういう約束でしょう」
顔を上げてイルカを見た。
「約束なんて…っ」
「じゃあまたチャレンジします？」
ポケットから鈴を取り出し目の前にぶら下げる。イルカは恨めしそうにぶら下がる鈴を眺めた。こんなくだらない事で束縛を受ける謂れはない。が、昨日勝負を受け負けた事実に何も言えなくなる。口を噤んだイルカを見てカカシは満足気に表情を緩める。
重ねられた唇に抵抗する事なく受け入れ、口を開けた。気を良くしたのかカカシは貪るように口づけ、イルカの目に自然と涙が浮かぶ。唇が離れると、イルカは自然にカカシの唇を目で追っていた。
「やっぱりヤラシーね、その顔。そんなに好き？」
「っ、そんな…」
「ほら、ベロ出して」
その言葉に躊躇するが、先ほどの口づけで抵抗する気持ちが萎えていた。イルカは言われるがままに口を開け舌を出す。カカシの顔が近づきイルカの舌を舐め上げた。そのまま激しく絡み合い始め、イルカは自分の身体が急速にカカシを求めているのを感
じていた。自分が自分でなくなりそうな感覚に陥る。
それはカカシが挿入してきた時により一層感じた。背後から腰を持たれ何度も強く打ち付けられる。
「ぁあっ！…はっ、ぁ…」
昨日とは比べられないくらいの刺激が身体中を走る。耐えきれなく口の端から唾液が流れた。水音が淫らに響き、繋がっているソコをカカシが凝視しているのが分かり、不意に我に帰る。
「ねえセンセ、凄いよココ。オレの呑み込むたびに濡れてくるの、分かる？」
カカシは奥まで押し付けグリグリと動かすと、濡れた音と共に根元から液体が溢れ、イルカの腿まで伝い身震いした。
「んっ、…もうっ、ダメ…」
「いいよ、イキなよ。センセ」
顔を布団につけ、高くあげられたイルカの腰を激しい動きで突き上げ、イルカは呆気なく布団に何度目かになる精液を吐き出した。
「ぁっ、ぁっ…んっ」
イルカが中を締め付ける中、動きを止めることなく突き上げ、カカシも中で果てる。擦り込むように動かし、カカシは熱い息を吐いた。
「すご…、イルカ先生の中すごく気持ちいい」
熱っぽく囁かれイルカは身じろぎした。男にいい様に犯され、それに感じているなんて、異常だ。
カカシが背中に覆いかぶさり、ぎゅっとイルカを抱きしめた。触れる肌が熱くて心地良い。
「センセ、…オレの名前呼んで」
イルカの中にあるモノが内膜を押し上げるようにそり立ち形を取り戻す。
何度もキスを落とされ緩やかに腰が律動する。
「っ、…ぁっ、カ、カシ先生っ」
鈍く湧き上がる快楽にイルカは目を閉じた。
ベットに横になっていたカカシが起き上がる気配に、イルカは薄っすら目を開けた。背を向けたままカカシが服を着る気配を感じ取る。窓の開く音が聞こえ直ぐにカカシの気配が消えた。何も変わらないはずなのに、1人になった途端布団の中が急に温度が低くなったように感じた。
あの男は自分を抱く為だけにここに来ているのか。考えただけで無性に腹立たしくなると同時に虚しさを覚える。畜生な相手に何故虚しくなるのか。胸がザワザワとする。
兎に角早く解放されたい。こんな関係にいつまでも関わっていたら頭がおかしくなりそうだ。心も身体も見えない鎖で繋がれてしまいそうだった。
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