真夜中のポルカ③

ナルトから鈴の話題が出たときには驚いた。自分を縛る為だけの鈴では無かったのだ。話しを聞いて察するに3人のチームワーク、仲間としての在り方を自ら見出す為のものだと分かり、結果、ナルト達はカカシから鈴を取ることが出来たと言う。
ナルトが興奮気味に話すのを聞きながら、自分がどうすればあの鈴を取れるのか頭を巡らせた。
ナルトと別れ帰り道、商店街を歩いていた時にふと耳に入る何かに足を止めた。
(あれ、…何だったんだろう)
客や店の話し声、自転車の通る音に先に見えるスーパーから流れる店内放送。きょろきょろしながら辺りを見渡し、何軒か後ろにあるレコード店に目をやった。通り過ぎた道をまた戻り、そのレコード店の前まで来て耳を澄ませた。流れている音楽を聞きながら不思議な感覚に陥っていた。店主に声をかけ流しているレコードのジャケットを見せてもらう。が、やはり知らない曲名で思い当たる物がまるで無い。
しかし最近何処かで耳にしている気がしてならなかった。
(あぁ、なんだろ。気持ち悪いな…)
店主にお礼を言い店を後にする。
再び鈴の事で頭がいっぱいになる。あのナルトが取れたのだ。一部の望みもないわけではないはずだ。鍛錬をしなければと、イルカは決意した。

アカデミーの授業が終わり、職員室へ向かっていた。廊下にカカシがいるのを確認して、イルカは小さく深呼吸をした。そのまま真っ直ぐ歩き、カカシと対峙した。イルカの黒い目が眠そうな目をした相手を映し出す。
「…ナルトから鈴の話を聞きましたよ」
「また教え子の話ですか」
「演出場へ来てください」
カカシがウンザリとした口調に構うことなく続けた。その目は決意で満ちている。
「何でよ」
「鈴を取ります」
「へぇ、…あんなガキ共と一緒にはしないから。手加減しないよ?」
「無論です」
イルカはそう告げると職員室へ戻り鞄を持たずにアカデミーを後にした。職員室から出た時にはカカシの姿は無かった。既に演出場へ向かったのだろう。外は時間には早く暗くなっていた。どんよりとした雨雲が空一面を覆っている。忍ばせたクナイを服の上から押さえる。同じ木の葉の忍の上忍に、しかもあのカカシに通用するとは思っていないが必要とあらば使う。泥沼でもがいているような自分に笑いが込み上げた。カカシからしたらもっと滑稽な事なのだろう。
それでも構わない。
イルカが演出場に足を踏み入れた時、カカシは大きな岩の上に座っていた。両手はポケットに入れたまま、イルカを真っ直ぐ見ている。
「へぇ、本気だったんだ」
「ここでは目立ちます。あちらの林でやりましょう」
イルカが指差す方を見て、カカシは岩から降りる。
「ま、何処でも構わないですけどね」
素直に従うようにイルカの後について歩く。
湿度で覆われている地面を歩き、林の中は木々で更に暗さを増している。イルカは振り向いてカカシを見た。ポケットに入れたままカカシはじっとイルカを見ている。
「じゃ、始める?」
片手を取り出して鈴を腰につけた。チリチリと鳴る鈴をイルカは見つめ、付いたのを確認すると、軽く後ろへ飛んだ。そのまま走り出し土を蹴り木に飛び移りながらカカシへ向かって踏み出す。
カカシは踏み出しもないまま軽く上に飛んだ。イルカの真上の枝に座り、へえ、と目を細めた。
「この間とは違うね。さすが先生、予習復習をしたってところですか」
感心感心、と呟くカカシにチャクラを使い飛び上がる。横から身体を捻り手を伸ばして、鈴を目前に控えカカシは姿を消した。気配をする方をへ顔を向ける。
カカシの言う通り、鍛錬した結果は出ていた。自分の部屋より外の広い空間はより動きを速める事が出来た。
雲が更に黒さを増している。遥か北の方角からはゴロゴロと雷が蠢く音が響いていた。遠のくカカシを見失わないよう追いかけて行くうちに、イルカの息が荒くなってきた。
「この数日じゃ体力はまだまだでしたね」
わざとチャクラを消費させてると分かっていたが、カカシは確かめるようにイルカがいる後ろの木に身を擡げて腕組みをしていた。
ポツリポツリと、地面に雨が落ちてくる。次第に広がりを見せる雨音の中、イルカは飛び上がった。手に持つクナイを緩やかにカカシは避け、背後に回る。瞬間わき腹に重い痛みが走った。その衝撃で身を屈めて膝をついた。
「手加減しないってのは嘘です。でもそこまで痛くないでしょ。もう少し楽しませてくださいよ」
目の前にうずくまるイルカを見下ろしていた。顔を上げると冷たい目をしたカカシと目が合う。大粒の雨がイルカの顔を濡らしていた。クナイを強く握りしめ屈んだまま上に振り上げた。軽く後ろへ飛び退きカカシは溜息をついた。
「なってないね。クナイで仕留めるなら切っ先は確実な場所を狙わなきゃ。・・・こことか、ここ」
系動脈と心臓を指差した。
「真っ直ぐ突きささなきゃダメだけどね」
「五月蝿い!!」
説教染みたセリフにイルカは遮るように声を上げた。先ほどカカシから受けた一発が効いていたのか、足元がフラつき片膝を地面に付く。頭では分かっているが、目的は鈴だ。どこまで本気で言っているのかわからない事に腹立ちを覚えた。途端に自分のしている事が馬鹿げているように見えてくる。
「あれ、大丈夫?」
近づくカカシを見てイルカは慌てて一歩後ろへ下がる。これに負けたら、また組み伏せられるのか。
イルカは唇を噛みカカシを睨みつけた。
「……俺はっ」
カカシを殺しにきたんじゃない。
全身に力が入る。
雨が林を包み込むように降り落ちる。雨音がイルカの声を遮っていた。
真っ黒い目がカカシを見つめる。
「俺はっ、貴方なんか大っ嫌いだ!」
吐き捨てるように叫ぶ。不意にイルカの目に映るカカシの表情に隙を感じ取れた。
イルカは勢いをつけて足を踏み出しカカシの腰に手を伸ばす。
何回か前転を繰り返してイルカは体制を整えた。手の中に感じる異物。ゆっくり手のひらを開くと、濡れた鈴がそこにはあった。
「……取った…」
信じられなく力なく呟いた。
これで解放される。安堵するが、すぐにカカシの背に顔を向けた。
「……約束です。もう、俺に近づかないでください」
背を向けたままのカカシを残してイルカはアカデミーへ足を向けた。視界を遮るほどの雨粒が空から降り落ちる。振り返るとすぐ先さへ見えない中、真っ直ぐ林を見つめた。
カカシはまだあの林にいるのだろうか。いや、考える必要はない。カカシとの関係は断ったのだ。
濡れた顔を袖で拭いイルカは再び歩き出した。



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