日曜日⑥

取りあえずシャワーを浴びてもらい、血の付いた服を脱いでもらう。衣類には血はその箇所以外にも付いてはいたが服が破れたりしたところはない。どうすべきか悩んだが、その服を簡単に手荒いした後、洗濯機に入れた。
その後飯も適当で申し訳ないが、冷蔵庫にあった食材で有り合わせの夕飯を作った。
大した物は作れなかったが、カカシはそれを食べ、美味しいと言い。綺麗に平らげた後丁寧に手を合わせた。
「ご馳走様でした」
「あ、はい」
思わずイルカも頭を下げて返して。美味かったです、と言われて嫌な気持ちにはならない。人にご飯を作ったのも初めてだったし、それを美味かったと言われるのも初めての事だった。
嬉しいけど恥ずかしさが勝る。
少しだけ熱くなった顔を下に向け、食べかけのご飯を食べようとして動かした箸を、持ったままのその手を取られた。
え、と言う間もなかった。
驚き顔を上げたイルカに、素顔を晒したカカシの青い目が真っ直ぐ当てられて、逸らしたいのに外せない。ゆっくりと顔は近づき唇を軽く重ねられ、そこから再び塞がれた。
ご飯飲み込んだ後で良かったとか、カカシからシャンプーや石鹸の良い匂いがする、とか。どこか関係ない事が頭に浮かぶ。でも、キスされている事実は変わらず、めまぐるしく変わってしまった状況に、入り込む舌に、思わず声を漏らした。
「ま、待って、」
「いいから、黙って」
俺まだ飯食ってる途中だって、分かってんのか。
抵抗するような思考は再会されたキスで中断される。
黙ってって、それは。
命令なんだろうか。
ふとそう思ったら抵抗の力が緩んだ。
男にキスされてるのに、気持ち悪いはずなのに。
舌が絡まる度に頭が真っ白になり、身体が熱くなるのは。あのくノ一が言っていたように、この男がきっと上手いからだろう。
眉を寄せながら身を任せていたら、気が付けば床に押し倒されて。間近で目が合う。熱っぽさを含んだカカシの色違いの目を見ただけで、心臓がどくどくと早く動き始める。
こんな事するつもりじゃなかったし。聞きたい事だってあったのに。
でも、再び唇を塞がれた時は、どうでもよくなっていた。


カカシを受け入れたとは言え、もうこんな行為はごめんだと自分で思っていたはずだった。
それなのに。
頭の中がぐちゃぐちゃになりながら、怖さで身体が強ばる自分にカカシは優しかった。
強引なのは最初だけで。自分に触れるカカシの手は優しくて。大丈夫だから、と優しく言われ、可愛い、なんて甘い声で耳で囁かれた。
受け入れるだけで必死だったから、そんな色々な記憶は後になってやってくる。
痛いはずなのに、途中から擦れる度に声が出ていた。丸で女みたいに。思い出しただけで耳を塞ぎたくなる。
イルカは身体を布団に横たえたまま、ぬぐぐ、と唇を噛んで布団を握りしめた。
カカシは横で静かに寝息を立てている。
身体は痛むが、脳の奥はまだ余韻だろうか。溶ろけているような感覚。
そんなイルカを余所にカカシは。
恨めしそうに見つめる先で、カカシはぐっすりと眠っている。
この男はやりたい事やって寝てしまったに違いないけど。ただ、カカシはランクの高い短期任務から帰ってきたのは事実。
じゃなかったら蹴ってやるのに。
(あー...くそ)
無防備な寝顔を見ていたら、そんな気も失せてくる。
まだ風呂も入ってないし、食卓はそのままで腹も減ってるが。
明日、起きたらやる事にしよう。
イルカもカカシの横で目を閉じた。


先に起きたのはカカシだった。
ぼんやり目を開ければ起きあがったカカシが持ってきていたリュックの中を開ける。短期任務で背負っていたリュックだ。
その中から取り出した服をカカシは着込み、逞しい上半身が隠れた。白く鍛え上げられた筋肉は、同じ忍びとは思えない。自分が鍛錬出来ていないだけなのだが、普段支給服に隠されたカカシの細身の身体からは想像出来なかった。
「起きた?」
ただ見つめている隠さない視線にカカシは気が付き、振り返った。
結局あのまま寝てしまって途中起きることもなかった自分は裸だ。身体を布団で隠すようにしたまま、まだ寝起きの頭はぼーっとする。
素直に頷き、
「あの、まだ服は洗ってなくて、」
言えば、微笑んだ。
「ああ、いいよ別に」
着替えは携帯してるから。
気にするわけでもなく、カカシはリュックかズボンを取り出すとそれも履く。
「洗ってなんて言ってないでしょ」
そりゃそうだが。
「洗濯ぐらい自分でしますよ」
何気なく言っただだろうその言葉に、何故か傷ついた。それが何でかも分からない。
ふとカカシが着込んでいた手を止める。イルカに近づいた。
「どうしたの?」
「え、...何がですか?」
瞬きしながら聞かれた意味が分からず聞き返すと、カカシの手のひらが頭に乗った。結っていない黒い髪を撫でるように触れる。
「アンタのイった時の顔すっごい好き」
「....はっ...」
間を置いて。イルカの顔が一気に赤くなった。
「馬鹿な事言わんでくださいっ」
目を細めてカカシは微笑む。
「ああ、照れる顔もいいね」
こいつ...っ何を言い出すんだ。
聞き慣れない台詞に動揺する。
「ねえ、また来ていい?」
「え?」
「今日俺休みだけど、ちょっと用があるんだよね。アンタは?」
「え、あ、...出勤です」
ふうん、と返事をしてカカシは時計を見た。
「じゃ、また来ます」
「あ、はい」
普通に頷いていた。
にっこり微笑んだカカシは荷物を纏めると出て行った。

おいおい、はいって言っちゃったよ。
カカシが出て行き一人になった部屋で、さっきしていた会話を思いだし、イルカは布団の中で頭を掻いた。
そこで視界に入った時計に、目を見開く。
「やべ...っ」
イルカは布団から全裸で飛び出した。

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