手を繋ごう③

訓練5日目、イルカに一つの疑問が浮上していた。
銀髪の少年は早朝を指定し、イルカ自身は特に支障もない為、必ず早朝に行われた。
そして、どんなに早く行こうと、彼は必ず岩の上にいた。30分、1時間。イルカは家を出る時間を早めていった。最初は負けたくないと、それだけの気持ちで。
しかしいい加減意地になり、就寝時間を早めてでも、彼より早く着きたくなる。
とうとう今日は家を出たのは3時前になった。
しかし、今朝銀髪の少年を岩の上に見た時、イルカは何となく悟った。
イルカはそれを確かめたく、訓練が終わり岩の上で水を飲みながら、同じく横で胡座をかいている少年を見た。涼しげな風貌で見る限り彼からはどこからも暑さは感じない。
初夏になり太陽が昇る頃は気温も上昇し、熱く感じる程なのに。イルカは額に汗を浮かべている。
「お前さ」
イルカの声に無言で仮面がこちらを向いた。
「寝てないだろ」
数秒間を置き、少年は答えた。
「何で」
さも自分の問いが間違っているかのように。淡々とした声色だった。
イルカは川水で冷やしたタオルを首に当てながら口を開いた。
「……そんな気がしたから。暗部って…よく分からないけど、夜でも任務あるだろう。だからさ、そのまま此処に来てるんじゃないかと思って」
じゃなきゃ夜中からこの少年が此処にいる理由がつかない。
今度はしばらく返事が返ってこなかった。
「どうなんだよ」
「どーだろね」
顔を向ければ飄々とした声ではぐらかす。
「名前教えろよ」
これは2度目の質問。以前も聞いたが答えはなかった。
「……ヒミツ」
全く同じ調子。どこまでも自分の身の上に関わる事はのらりくらりと惚ける。
聞いた自分が馬鹿だったと小さく息を吐いた。
「同じ質問をぶつけるのって頓珍漢」
ボソリと呟かれたセリフにムッとして顔を向ければ、彼は岩に置いた手に重心を傾けイルカに顔を近づけた。
「そんな事よりイルカの家行きたい」
ギョッとした顔を出していた。その顔のまま口を開き、指をさした。
「…ちょっと待てよ。…イルカって…俺の名前何で知ってるんだよ」
「情報収集は基本中の基本」
さも当たり前と、感情のこもらないぶっきらぼうな口調だった。イルカは恥ずかしさで軽く顔を顰めた。
何だよ。じゃあコイツの名前も、知りたければ自分が情報収集しろって?
妖狐のような存在の仮面の少年を?
さらに眉をひそめ顔を伺い見た。

名前はさておき、イルカの想像以上にこの銀髪の少年は、自分の訓練に付き合ってくれていた。
片眉を上げながら考える。その礼はしたいと思っていたが。正直、この掴み所のない銀髪の少年に何を礼をすべきか全く思いつかなかった。だが、本人からの希望が口から出るのは好都合だった。来たいと言うならば招いて自分なりにもてなせばいい。
「じゃあ、うち来るか?大した物作れないけどさ」
「食べ物なんて何でもいい」
「なんかあるだろ。好きな食べもん」
「ない」
即答。
興味がないと、言われているみたいだ。それか、困らせて面白がってる…そんな風でもない。
「あ〜…、じゃあ何用意すればいい」
「別に」
イルカは怪訝な眼差しを向けた。
「お前さ、俺んちに何しに来るの」
イルカはそう言い切った瞬間。息を詰め目を見開いた。目前にある獣の面。近すぎて無機質でいて冷たい感触を肌で感じ、思わず喉から息が漏れた。
止まった思考を動かしたのは自分の身体に何かが触れる感触。それは背中から腰骨に移動し、身体がピクリと反応した。銀髪の少年の手だと分かるのに時間がかかった。
なに、…何だ。コイツ、一体…なにを、
「イルカとヤりたい」
少年の耳通りの良い涼しげな声が間近で聞こえた。
「……は…はあ?やるって何を」
間の抜けた声が出た。
聞き返してもまだ、意味を理解出来ない。
触れられた手を退かそうと腕で押し返す。が、もう片方の手で封じ込められる。スルリと前に移動しイルカの股間を撫で上げた。途端背中からゾワリと寒気が走り軽く顔を顰める。
「お前っ、やめろ…っ!」
「やだ」
理解出来ない気色悪さと与えられる刺激に頭が回転しない。視界に入る仮面が異様にイルカを恐怖させた。
「イルカが悪いんだよ。そんな風に誘うから」
仮面の下から笑いが零れた。
「さ、さそ…?」
「無自覚って凄いね。取り敢えずさ、ヤらせて」
やっと理解した。さっきからこいつがやりたいと言っている意味を。
だが、それは余計にイルカを混乱させた。
だって、俺は。
更に強く股間を撫でられビリビリと電流が背中に走るような感覚を感じた。
「…はっ…やっ…」
身を捩らせるが、思ったより力が入らない。
今まで他人に触られた事がない場所への刺激は、イルカにとって余りにも強い快感で、自分の意思とは反しているのにも関わらず、どんどんと熱を持ち始める。
(こんなの、反則だ。…クソッ)
イルカは苦しそうに息を吐きながら唇を噛んだ。
「硬くなった。気持ちいいんだね」
それは初めて聞く、少年の熱っぽい声。その声には明らかに嬉しさがこもっていた。
「なに?やめっ…」
ぐいと肩を押され、気がつけば石の上に背中を付けていた。下半身の熱に力も入らず抵抗もままならない。
涙で滲む視界には青々とした青空が広がっている。ふと意識が空に向けられた時に自分の熱を掴む感触が変わった。
「やめ……あ!?」
ズボンの前を寛ぎイルカ自身を取り出され、思わず大きな声が出た。
外気に触れる熱は少年の手の中で震える。上体を少し起こして自分の掴まれた様を目にして、イルカは気が動転しそうになった。少年は自分の前を器用にくつろげ自分の熱を取り出していた。
「おいっ、待て…っ」
「いーから」
相手の息も少しだけ上がっている。
お互いの熱をひたりと擦り付け、腰を揺らし始めた。
「ひあ!?やっ…やだっ」
お互いの熱を手で包み込み扱きあげる。ぬちゅ、と卑猥な音がし始めイルカはきつく目を閉じた。
「あっ…ぁっ…!」
今まで感じた事のない気持ち良さに、イルカの声も上がる。
「気持ちいーね…」
腰を揺らしながら熱を押し付け擦られる。イルカの頭は真っ白になっていく。
閉じた目のきわから涙がじわと滲み出た。薄っすら目を開けると仮面のの奥から息を漏らす声が聞こえる。
(動けたら殴ってるのに…)
上がった息を吐きながら、イルカは高まる並みに必死に堪えようとした。
激しくなる腰の動きにに背中から腰が震える。
「あっ!…あぁっ!もっ…」
「…っ」
お互いの白濁が手の中で飛び散る。震える身体に力がどっと抜ける。少年も腕を掴んでいた手の力が緩み、離れた。
された事は分かるのに、どう整理したらいいのか分からない。
イルカは息を整えながら視界を遮るように腕を目の上に置いた。
熱を掴んでいた手もぬるりと離れ、イルカは身体がビクと跳ねた。
イルカは目を伏せていた腕をのかし、片手を石に付き起き上がる。
少年はイルカの汗を拭いていたタオルで手を拭い、自身の汚れた箇所を拭く。
人のタオルで…!
「お前っ…、ふざけんなっ!」
「はい」
そのタオルをイルカに投げられ、腹の上に落ちた。
「暫くは来ない?」
さっさと服を整えながら少年の声は涼しさを取り戻していた。
反対にイルカは頭が茹だるように熱くなっている。
「違うだろ!お前っ、何でこんな事をしたんだよ!」
「……大したことしてないよ。じゃあ、明日ね」
「はあ!?おいっ、待て…っ!」
背後に飛んだかと思うと、イルカの声が届く前に少年の姿は消えていた。
爽やかな風がイルカの身体を撫でるようにそよぐ。鳥の飛び立つ音と鳴き声に我に帰り、慌ててタオルで拭いて服を正す。
イルカはギリと歯ぎしりさせ、拳を震わせた。
今度会ったら。必ず殴る。


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