手を繋ごう⑦

「イルカ」
任務帰りに一人で歩いている時に、声をかけられた。
「あ、火影様」
「任務頑張ったようだな」
はあ、とイルカは苦笑いして頭を掻いた。その姿は煤汚れている。ついさっきまで逃げた犬を追い掛け回し、よく分からない筒の中に逃げ込まれ、ようやく捕獲出来たのだが。その筒が昔使われていた銭湯の煙突だった。
服はもちろん、手足も顔も煤だらけで、任務報告所でも、ひどい格好だと笑われたばかりだ。
正直自分のしている任務で、忍びらしい活躍も出来ない自分に、火影から労われるのは複雑な気持ちだった。
「そのまま家に帰って風呂に入って来い」
「うん。そのつもりだよ」
「この暑さでは近くの川で泳いだ方が早いのかもしれんな」
イルカの汚れように言われた火影の冗談めかした言葉に、相槌をし笑いながら川と言われ、ふと先日カカシと水で戯れた事を思い出した。アカデミーを卒業してからは鍛錬や雑用の様な任務の毎日で、あんな事をしたのは久しぶりで、イルカ自身楽しかった。
カカシの驚いた顔が思い浮かぶ。
最初、よく分からないと鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたっけ。
イルカは自然小さく吹き出していた。
「何だ」
「あ、…この前川でカカシが…、」
言ってハタとする。
火影の顔色が変わっていた。
「カカシだと…?」
「あ……、えっと……」
口に出したものは戻せない。イルカは思わず視線を逸らして俯いた。
「イルカ、カカシと関わりを持っているのか」
一歩近づかれ顔をあげれば、険しい面持ちの火影と目が合った。
「少し…だけ、」
「近づくなと言ったろうが!」
強い口調に、イルカの身体がビクと震えた。
嘆息し、火影は軽く目を瞑りながら眉間に手を当てた。
「ならん…断じてならん」
「カカシは、…俺の友達だから、」
「イルカ、よいか」
両肩を掴まれた。覗き込むように火影はイルカの目を見る。
「暗部には立ち入ってはならん。お前のいるのいる世界とは違う」
「…違わない。だって、カカシは俺と同じ位の歳で、」
「そんな事は関係ない」
ハッキリと遮断するような口調だった。
「あやつは6歳から戦場にいる忍びだ。何もかもお前とは違う。暗部に触れてはならぬものが幾つも存在する。立ち入ればお前に危険が迫る。分かるか?」
分からない。
分からないが、火影の鋭い眼光がイルカを頷かせた。
イルカから手を離し、火影は深い溜息をついた。
イルカは下唇を強く噛み締めた。
数年前なら火影に食ってかかっていただろう。だが、自分はもう木の葉の里の忍びで一要員だ。立場もそれなりにわきまえている。暗部は火影直属の特殊部隊。その火影に言われて無理だと言えるはずがない。
イルカの耐えるような眼差しを、火影はただ静かに見つめた。
「…中忍試験…期待しておるぞ」
何も言うまいと、それだけ伝えて火影は歩き出した。

その場に立ち尽くしたまま。虚ろな眼差しで地面を見詰める。
同じ里の同じ忍びなのに。
6歳から戦場にいたら俺と違うのかよ。
指先に力を入れ、握りしめた。
怪我をすれば同じように血を流し、苦しんで。カカシだって辛い事が沢山あって。ーーそれが何で違うと言える?
同じ血の通った木の葉の忍びじゃないか。

執拗に自分の事を明かそうとしないカカシが思い浮かぶ。触れようとすれば不機嫌になり、はぐらかされた。
カカシは何もかもつまらないと言うような顔をして、冷めた態度をしている。
自分とは見ているものが違うと分かっていた。カカシの見る高みは一体どこにあるんだろうか。

でも、カカシは笑った。
あの時俺たちは確かに無心で笑い合ったんだ。


風呂に入り洗濯も済ます。いつもより任務が早めに上がったからか、風呂から出た今もまだ空は少し明るい。
夕涼みついでに、イルカは着替えて買い物へ向かった。
「イールカちゃん」
買い物からの帰り道、声に振り返り、誰もいないのを確認する。
気配を探って近くにある大木を見上げると、幹の上に仮面をつけたカカシがしゃがみ込み、手を振られ、内心驚いたが、顔に出さないよう引き締めた。
「その呼び方はやめろ」
「何で、いいじゃん。可愛くて」
「可愛い言うな!」
音も無く降り立つ。フイと顔を背けてイルカは歩き出した。カカシは少し距離を保ちながらひたひたとついてきた。
カカシとあんな別れ方をしてから何日も経っていた。もう、自分の前には姿を現さないと思っていたのに。
夕闇が辺りを包み始めていた。
話しかけるもんかと無視を決め込み歩き続けるが、無言でついてこられ、いい加減足を止めて振り返った。
少し離れた先でカカシも足を止める。
「なんだよ。何の用だよ」
「別に」
用がないなら来るなよ。
嫌な別れ方をしたのに、普通に現れてイルカは気まずさを隠すように口を尖らせた。
「いい匂い」
言われて首を傾げた。
「は?」
「風呂入った?」
「あ、ああ、出かける前な」
「…触っちゃ駄目?」
ジリと近づかれ、イルカは一歩遠退いた。
「だっ、だったら女のとこ行けばいいだろ」
思わず出た言葉に、カカシの動きがピタと止まる。
「あ、なんだ。嫉妬?かわい〜」
「何だよそれ、違うだろ!」
可愛いと言われてカッとなる。
何でコイツはすぐ変な方向へ持ってくんだ。
「いいじゃん。恥ずかしがらなくたってさ」
「だから違う!」
カカシは再び近くにある木の幹に飛び移った。
「…任務か?」
「うん。ね、終わったら家に行っていい?」
「え?」
「じゃあね」
「はあ?おい!」
少しの風と共に姿を消され、イルカはいなくなった木をただ見詰めていた。

嫉妬?なんだそれは。聞きなれない単語ながらもからかわれている事だけははっきりと分かる。焼きもちとかそんな意味だ。きっと。
大体そんな事あるはずがない。
むむむ、とイルカは顔を顰めた。少しだけ顔も熱い。
釈然としないものがイルカを支配する。
カカシがいなくなった夜道を再び歩き出した。







明け方に音が聞こえ、微睡からイルカは目を擦りながら起き上がった。
「……カカシ?」
「やっぱ寝てた?」
鍵も閉めていた窓は何故か開け放たれ、その前にカカシが立っていた。
「ん、だって…来ないと思ったから」
立ってみたものの、まだ眠い。こしこしと目を擦る。
「行くって言ったでしょ」
「……そうじゃなくて」
半分寝ぼけた頭で、でもふてくされ気味にカカシを見た。
「だって…カカシは…俺の事、面倒臭いっていったじゃん。…そうなんでしょ?」
無意識に拗ねたような言い方をしていた。
すぐに返答がない。不思議に思いカカシを見ると、少し惚けたような顔をしていた。
何か変な事言ったかな。内心不思議に思った。
「……カカシ?」
気がつけば床に押し倒されていた。
「っ、な…ちょ、カカ…んっ!」
直ぐに唇が塞がれる。
頭が追いつかないままにキスをされ、執拗に舌が絡みつく。それだけでイルカの目が涙で潤みとろんとしてきた。
「ぷは、…やだ、…っ」
「イルカ、それ反則」
余裕がない口調でカカシは言った。
「は?、なん…でっ、ふっ…んっ……っ」
再び唇を塞がれ、カカシの手がイルカの閉じている膝に伸びる。いつものようにトランクスしか履いていない。しかも口付けだけで力が抜け、抵抗が弱くなっている脚は、カカシの手によって開かされていく。そのまま手が肌を撫でるように降りてきた。
ビクビクと身体が跳ねるが、舌を甘く舐められ吸い上げられる。口付けにイルカの集中が及ぶと、カカシの手はトランクスの中に忍び込み、ゆるゆるとイルカの熱を扱きだしていた。
「ぁあっ…!やっ、…だめっ!」
「ほら、こっち。集中して」
驚きに身体を起こそうとしたら、再び唇を奪われた。
下着は脱がされ、カカシの手は硬くなったイルカの熱を包み込む。ぬるぬると先走りに扱かれる手に、異様に快感が走る。
ゆると開けた目には、開いた脚から自分の物を扱う様がまざまざと映し出される。恥ずかしさに一気に身体が熱を持ち、その間にも与えられる刺激に背中が震える。
カカシの頭が下にずれ、捲し上げたタンクトップから、胸の突起を吸われた。
「っ……〜〜っ」
ぷるぷる震えながら目を瞑って刺激に耐える。
力が入らない。
もう目が覚めてる筈なのに。
身体も熱くて、頭も熱くて、なんだかよく分からない。
舌の先で転がされた突起は赤みを帯びぷくりと立ち上がっている。
小刻みに震える手にカカシの手が重なった。指を絡め、優しく握られる。
「気持ちいいよね。もっとヨくしてあげる」
その意味を探る前に、カカシが更に下に向かい、赤く腫れた熱を口に含んだ。
「ぁあっ……っ!!」
溶けそうになる刺激に悲鳴をあげていた。
信じられない。何でそんな場所をっ。
涙で潤んだ目でカカシが頭を動かし、口に含むのを見詰める。ゾワゾワと経験のない痺れに飲み込まれそうになり、恐怖が入り混じった。
銀色の髪を退かそうとして伸ばした手は、高まる波に、思わず髪を掴んでいた。
「カカシっ!!だめ!もうだっ……!」
震えるで必死に退かそうとしても、力が入らなくなっている。
波を耐えるように、足のつま先をシーツの上で動かした。
舌で器用に亀頭を刺激され、敢え無くカカシの口の中でイルカは果てた。
「ふっ…っ……ぅん…」
どくどくと心臓が脈打っている。余韻で頭も身体も動かない。
だらしなく開いた口は呼吸を整えていた。
ゆっくりとカカシの口が離れ、身体は自然にビクと反応する。
終わったと思っていた。
カカシはイルカの腰を持ち上げるように、脚を開かせると、更にその奥に舌を這わせた。
「えっ…?なっ、…に?」
イルカの最奧へ、舌に絡みついた唾液と白濁を差し入れる。
混乱しながらイルカは慌てた。
やり方さえ知らないが、まさか、ソコを使うなんて。
熱くなった舌は中に入り込む。やがてそれは指に変わり、解かされ侵入する異物に背中を仰け反った。
「やっ!カカシっ……!やだっ!」
「俺も気持ちよくなりたい。ね、挿れさせてよ」
聞く耳もたずカカシは指を中で動かし続ける。
こんなの。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
はっはっ、と短く息をして頭を振る。
それでも生き物のように動き、ぐちゅぐちゅと水音を立てる様にイルカは硬く目を瞑った。
「お願い…や…だっ……」
ズルリと指が抜かれる。
カカシが覆いかぶさり、指とは比べものにぬらない大きさの熱をあてがわられ、ひっと息を飲んだ。
駄目。嫌だ。
ゆっくりと押し込まれる感覚に筋肉が強張る。
怖い。
こんなの間違ってる。
間違ってる。
嫌だ。
「………嫌だ……」
口から出た声は震えていた。
カカシがふと顔を上げイルカを見詰める。頬は少し上気し、目は熱を帯びている。
押し広げていた熱をぴたりと止め、ただ、イルカをジッと見つめていた。
少しだけ眉を寄せる。
「………泣かないでよ」
「……え?」
言われても分からなかった。瞬きをすれば、するすると暖かいものがこめかみを滑り落ちる。小刻みに震える身体をカカシが抱きしめた。
「やらない。もうやらないから」
だから泣くのやめて
頭を撫でて、カカシは離れる。胡座をかいて座り込み、困ったような顔をしていた。
イルカもゆっくりと起き上がる。まだ少し心臓が高鳴っていた。
「お預けくらった犬じゃないんだからさ」
小さく息を零して頭を掻く。
また面倒臭いとか、言うのだろうか。
様子をジッと伺っていると、その視線に気がついたカカシがふっと笑った。
「汚れてるけど、寝ていい?」
返事を聞く前に、服を直して、寛げる格好になると、カカシは布団に横になった。
「一緒に寝よ」
「……あ、……うん」
頷いて、濡れた目を擦るとイルカも横に転がる。
カカシはもう瞼を閉じていた。
もうすぐ夜が明けるだろう。再び静寂が訪れた部屋で、イルカはカカシの横顔を見詰めた。
「待つから」
「え?」
寝ていたと思っていらカカシが口を開いて、少し驚く。目を閉じたままカカシは続けた。
「イルカがやりたくなるまで待つから」
え?……そんな時がくるのか?
イルカは困り言葉に詰まる。
「そん時は覚悟してよね」
「え!?」
「何その返事。俺が待つって言ってんだからさ」
怪訝な顔をして目を開けた。
青い綺麗な目がイルカを写す。
「分かってんの?」
「え〜、だって…」
眉を寄せると、カカシは溜息を零した。
「……ホントイルカって凄いね」
「何がだよ」
「……もう寝る」
再び目を閉じたカカシに口を尖らせて。
イルカも目を瞑った。
触れるカカシは暖かい。
同じ。
そう、俺と同じ。
イルカは身体の向きを変え、その暖かさに頬をつけ、眠りに落ちた。


夏が近づこうとしていた。


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